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第五話 でんでん虫を撫でる手は⑤

 異頭さんをベッドの上から見送りながら、俺は彼女とのやりとりを思い返していた。


 異頭さんが相手だと、自分の内面を吐露したくなるから不思議だ。

 こんなの俺らしくない。

 でも、嫌な気持ちはしない。


 もっと会いたい。

 もっと聞きたい。

 もっと知りたい。


 誰彼構わずじゃない。

 異頭さんだからこそ、俺は――。


「異頭さんは、俺の特別なんだ」


 すとん、と胸に言葉が落ちる。

 晴れやかな気持ちで頷いていると、扉の端で何かが動いた。


 異頭さんがいた。


「……お菓子を、忘れて」

「お菓子?」


 机を見れば、焼き菓子が入ったポリ袋が、頭を抱えるようにして机上に残されていた。


 もう一度異頭さんを見る。被り物から覗く首が、燃えそうなほど赤い。

 全身に冷や汗が噴き出る。


「……」

「……聞こえ、ました?」

「……」


 彼女は無言のまま俯くと、まるで流れ星のように迷いなく廊下を駆けだした。


「ちょっ、待って!」


 慌ててベッドから降りようと体を捻った瞬間、脇腹に電撃が走った。痛みに体を硬直させたまま、小さくなる後ろ姿へ手を伸ばす。


 椋鳥の声と雨音が、この世の終わりみたいに病室に響いていた。



本作に登場する既存作品への言及および解釈は、作者個人のものです。原作者・権利者の公式見解を示すものではありません。


気になる作品がございましたら、ぜひ参考文献を直接お読みください。参考文献はエピソードタイトル「参考文献」にまとめて記載しています。

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