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桜の鎮魂歌  作者: きりしお
選別編
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9/11

第九話 地下洞窟攻略② 狼と桜

ちょっと今回はシリアス回かもしれないです。

更新遅くなってすみません。

俺はその小さな空間に足を踏み入れた。ふと、空気が揺れた。狼が目を開けたのだ。銀の澄んだ瞳だった。立ちあがろうとして鎖に引っ張られ、体勢を崩してしまう。

「其方は我の声を聴いたのか」

あの直接魂に語りかけられているかのような声だ。間違いなく俺に対して言っている。

「そうです。貴方が私を呼んだのですか?」

明らかにこの狼は格上だ。戦闘になったら即負けるだろうと思ったので敬語を使った。

「我は、ずっと前から我の声を聴ける者を探す為に呼びかけてきた」

「それは、何故ですか。貴方ほどの力を有していれば鎖に縛められていたとしても脱出は容易な筈ですよね?」

「それは我の願いを継いでくれる者を、桜の魂を守ることの出来る者を探す為だ。我の全てを継承し、この国に息づく警察や自衛隊などと呼ばれる者達をずっと見守り共に生きる者を見出せば我の役目は終わり、遥か昔に先に逝った者達と会えるからだ」

要するに守りたいものがあるけれどもう、早く死んで先に逝った者達のところに行きたいということだ。もう耐えられないから想いを繋いでくれる者を探しているとも言えるだろう。

「其方は我の継承者となることを望んでくれるか?継げば、大切な者達を守る力を得られるが」

大切な者達を守る力、か。どんな力か分からないと受け入れようがないな。

「その力はどんな力ですか?」

狼はもう申し訳なさそうに言った。

「それは継承する者の願いに起因するのでわからぬ」

継承したところで、得られる力がわからないのでは話にならない。しかし、ないよりはあったほうがいいだろう。それにこの国を守る者たちを桜と称した狼が適当なことを言っているようには思えない。それに今の俺は氷よりも弱い。俺は誰にも負けない強さが欲しい。大事なものを守るための強さを。

「俺は継承者となることを望みます。大事な者達を守れる者になりたい」

狼が笑った気がした。安堵でか、嘲笑か。どっちでもいい。俺は得た力を生かして生き延びるだけだ。

「ならば与えよう、我の全てを」

狼の言葉に呼応するように、散りかかって萎れていた桜が輝きを取り戻し蕾に戻っていく。俺の肩辺りまで浮かび上がった桜は明滅し始めた。まるで触れろとでも言うかのように。

…でも、触れてしまえば今度こそ後戻りはできなくなる。けど!俺は決めたんだ。大事なものを守る為の力を、生きる為の術を手に入れると!

一瞬の迷いから逃れるように桜にそっと触れると桜は石のようになり、蕾のまま固まってしまった。同時に俺の手の平へふわりと落ちてきた。触れた時凍えるような孤独と共に狼のものだと思われる記憶が流れ込んできた。

           *

それは、長い長い時を孤独に過ごした狼の記憶。ずっとずっと昔に生まれた狼は何者とも群れず、暮らしていた。そんな生活に心の奥で虚しさを抱えつつも、所詮は獣。本能のままに生きていた。

しかし、そんな生活に転機が訪れる。とある春の日、少女を猪から助けたのだ。少女は美桜と言い、周囲の反対を振りきって狼を集落へと迎え入れた。


美桜は様々なことを狼に教えてくれた。与えてくれた。人の理、様々なものの名前、感情。狼は満ち足りていた。…けれど、幸せほど早く失うものだった。美桜が病になったのだ。それは流行病で治し方が分かっていなかったために離れに隔離された。狼はずっとそばにいた。死にゆく美桜に何のお礼も言えぬまま。死の直前、美桜は狼に言った。

「私が神様に会ったら、貴方のお願いが一つ叶うようにいうね」

狼は首を振った。『美桜のお願いを優先して欲しい』という想いが伝わればいいと願いながら。いつしか狼にとって美桜は、なくてはならない存在になっていたから。ふさふさの狼の毛並みをそっと漉きながら美桜はいつも通りの笑顔を浮かべて言った。

「貴方に名前をあげる。私にはこれくらいしか出来ないから」

考え込みながら美桜は呟いた。

「もしも人だったら、きっと誰かやこのお国を守れる優しい人だったと思うの。んぅ〜、私とお揃いの字も欲しいわね」

『お国を守れる人』、その言葉が狼の心の深くに刻み込まれた。狼は美桜がいつだって1番だ。だからいつか人になれたならそのお願いを叶えよう。それに美桜とお揃いの字が入った名前だってきっと素晴らしいものだ。そんな狼の悲壮な決意を知ってか知らずか、

「決めた。貴方の名前は守桜まお、ふふ。守れる桜で守桜よ。良い名前でしょ?」

狼ーーー守桜に紙に書いた名前をひらりと見せて美桜は得意げに笑った。守桜は字をじっと見つめ脳裏に叩きつけた。唯一の友がくれた名を忘れない為に。


そんな穏やかな会話(守桜は一切喋っていないので会話と言って良いのか)を交わしてからしばらくして、美桜は穏やかにその短すぎる九つという生涯を閉じた。

お読みいただきありがとうございました。

しばらくは狼こと守桜さんの過去回が続くと思います。

応援よろしくお願いします。

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