第八話 地下洞窟攻略①
最近暑いですね。暑すぎてパソコンのスペックが下がっている気がします。滝の下からの脱出を決意した氷塚と狐狼月。決意したものの…?
威勢よく右手を突き上げた、のだが。
「どうやって滝から出るの?」
という氷塚の問いて一気に青ざめた。いや、分かってはいるんだ。でもなんというかこう、言葉にすると直視するしかなくなるじゃん。
「あ...、知らん。ワカラナイ」
「朗報と悲報どっちもあるんだけどっちから聞く?」
どうした突然。まさか脱出方法があるのか?!
「悲報から頼むよ。脱出方法があるのか?」
氷塚はしゃがみ込むと囁くようにポツポツと語った。
*
彼によると、この学校の噂の中に洞窟の話があるんだそうだ。その話によると、この学園の前身、江井大学附属高校・中学校(通称F学園)はとある新興宗教の経営する教育グループに属していた学校らしい。しかしその教育グループの母体たる宗教団体が崩壊。この学園も1度は廃校となった。しかしできたばかりの新校舎をつぶしてしまうのはもったいないということで新たに建設する予定だった県立中高一貫校に再利用することでできたのが、この高波県立江船高校・中学校なのである。そしてその教育グループの母体である宗教団体が潰れた理由は、非公式に人体実験や動物実験をしていた際に被験体が暴走し宗教団体の重役が軒並み、死んでしまったかららしい。そしてその被験体たちは、この学園の様々なところに隠されているらしい。その一つが、洞窟なのだそうだ。洞窟に封印されているのは実験により理性を失ってしまった狼で様々な動物の遺伝子を持つらしい。つまりは、その被験体の中でも最強クラスと言うことである。狼は、今も洞窟の奥に封印されているらしい。
*
「てのが悲報、朗報はこの洞窟の壁面に空洞がありそうな箇所があること」
氷塚にしては珍しく根拠の薄い噂話をしてきたということはコイツの勘がそうだと言っているということ。コイツの勘おかしい程当たるからな。
「了解。狼の件は心配だけど進まないと飢え死ぬだけた。行こう」
どうせ死ぬか生き延びられるかの二択だ。俺は出来れば飢え死ぬのだけは嫌だ。
氷塚の案内で空洞のある辺りまで来た俺は、壁面に触れて本当に空洞があるのか確かめた。どうやら本当に空洞がありそうだ。問題はこの空洞が通路状になっていて、外へ繋がっているかどうか。
「壁面かち割るから何かいて攻撃してきたら頼むよ」
頷いた氷塚は俺の背後に立つと刀を構え臨戦態勢を取った。氷塚に任せておけば大体何が出て来ても大丈夫だろう。俺は足を軽く肩幅に開き、拳を握って空手の構えを取った。左腕を引き、その後全力で左拳を突き出す。壁面はまだ割れない。ヒビが思い切り入っただけだ。
「やっぱり一撃じゃ割れないかぁ」
もう一度構えを取ると左脚を後ろに引いて腰の回転で遠心力のかかった膝蹴りを放つ。割れた。全部が割れた訳ではないが、俺たちが余裕で通り抜けられるだけの穴が開いたのでまあよしとしよう。ちなみに何も穴の向こうにはいなかった。そして、穴は通路状になっていた!!思わずその場で軽く飛び跳ねてしまった。この通路状の道が地上まで繋がっていれば俺たちは出ることができる。
「おおおおお、道だ。道がある!」
氷塚も珍しく見たまんまのことを口に出すという馬鹿っぽいことをしている。道を見てこんなにテンションが上がる日が来るなんて思っても見なかったよ。
「行こうぜ!!!あ、荷物をまとめてからな」
浮かれすぎて荷物を置いたまま洞窟攻略しそうになっていた。危ない危ない。平常心が大事だ。急がば回れ。こんな時こそいつもよりも慎重に事を進めなければ。
荷物を手早くまとめ、忘れ物がないかどうか確認してから俺たちはさっき開けた穴の前に立った。ちなみに俺は罠製の寝床もまとめて持っている。設計にこだわったのでコンパクトになる最強設計だ。持ち運びできるとか便利な事この上ない。リュックの上にその辺の雑草から編んだ紐(罠集めた時についでに作った)で固定している。氷塚はそもそもリュックじゃなくてナップサックだ。羨ましい。俺なんて登山用だからな。重い事この上ない。ついでに水筒一杯の水。水筒は2リットル入るモデルだからそれもそれで重い。
今度こそ洞窟へと足を踏み入れ、俺たちは感嘆の声を漏らした。穴の向こうからは分からなかったがこちらの岩は蒼く光っている。きっと地面に横たわって仰ぎ見ればまるで浮いているかのような錯覚をもたらすだろう。よく見れば夜光虫のような羽虫も飛んでいて幻想的な風景に深みを与えている。
呑気に歩いていた俺は、ふと何かに呼ばれたような気がした。何というかこう、魂が引き寄せられるような何かを感じるのだ。
「氷塚、お前は何か今聞こえたか?」
氷塚は聴こえているのだろうか。聴こえていたならば実体ある何か、というか人がいることになるのだが。
「いや、何も。何か聞こえたの?」
氷塚は聴こえているのだろうか。聴こえていたならば実体ある何か、というか人がいることになるのだが。
「いや、何も。何か聞こえたの?」
ということは、実体なき何か。もしかしたらさっき氷塚が話してくれた狼だろうか。俺を呼んでいるのか。でも、さっき聞いた声は深い悲しみに満ちていたように思えた。自分を、責めているのだろうか。ならば、何故?何を?考えれば考えるほど思考が散りじりになっていく。気づけば一歩足を踏み出していた。二歩、三歩。迷子のような足取りから、小走りへ。氷塚の静止の声も、俺には聞こえない。声の先にあったのは、小さな空間だった。夜光虫も、岩の輝きもないその空間の中心に。紺の毛並みを持つ、傷付き鎖に縛められた狼がいた。その傍らには岩のようになった一輪の桜の花。その二つだけがあった。
お読みいただきありがとうございます。
脱出口を見い出しましたね。ここでこの作品のキー、桜の登場です。狼さんは次回にお預け。
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