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桜の鎮魂歌  作者: きりしお
選別編
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10/11

第十話 守桜の過去①

美桜がその命を散らしてから1時間ほど。狼改守桜まおは人の姿をとり美桜の亡骸を埋葬する場所を探していた。なぜ人型をとっているか?それは遡ることちょうど美桜が亡くなってすぐにあった。


美桜の段々と冷たくなっていく手に触れながら守桜は心の底から湧き上がる激情をそのままに思いっきり吠えた。いわゆる遠吠えというやつである。声が枯れても、脱水を起こしかけても守桜は吠え続けた。


すると、突然声が聞こえた。守桜はまとまらぬ思考のまま美桜の言っていた神がお願いを聴きにきたのだろうかと考えた。

《其方の願いは何だ》

願い、か。そんなものはなからひとつしかない。

〈美桜をもう一度蘇らせてくれ。それが我の望みだ〉

美桜にまた会えたら、また前のように美桜を背に乗せて綺麗な景色を見にいくのだ。


《死者を甦らせることはできん。それ以外の望みはないのか》

全く話にならない神だ。

〈それ以外の望みなど我にあるはずがなかろう〉

所詮は獣、これ以上の複雑な思考を求めるな。人であったなら、あの時のやり取りで美桜のお願いを優先してくれということも出来た。それ以前に看病してやることもできた。礼を言うことも出来た。獣にできることは少ないのだ。


《其方、それならば人にしてやろう。彼岸であの娘も喜ぶだろうしな》

人!人になれると言うのか、この神は。それにいま彼岸であの娘も喜ぶと言ったか。ヒガンなるものが何なのかは理解できなかったが、美桜が喜ぶと言う言葉は守桜を納得させるには充分だった。


〈それは良い考えだと思う。美桜の言っていた『お国を守れる人』というお願い、いやあれは考えだったか?それを実現できるしな〉

《ならばそれを願いとしよう》


美桜を甦らせることは、今は叶わないようだがいつか必ず方法を見つけ出してみせる。そのための一歩として我は人になる!!

〈あぁ、頼む。我を人にしてくれ〉

今はとりあえず、美桜が最期に残してくれたこの好機を存分に活かす。


《其方を人に変えよう。神の祝福を、守桜へ》


きらきらとした光が守桜へ降り注ぎその肉体を変化させていく。

艶やかな毛並みは紺の長髪へと変わり、強靭な肉体は鍛え込まれた体へと変わる。耳と尻尾は消え、そこに居たのは現代風に言うとイケオジよりの精悍なイケメンだった。


「おぉ、本当に人になったぞ。話すことも出来るのだな」

グーパーと手を握ったり開いたりしながら独りごつ。ついでに思考も明瞭になっている気がする。本当はこの喜びを美桜と分かち合えれば良かったのだが。


それからいつのまにか神は居なくなっていたので(そもそも見えていなかったので本当はいたのかもしれないが)美桜の亡骸を埋葬する場所を探すことにした。


美桜は桜が好きだったから、桜の綺麗に咲く場所がいいだろうか。亡骸を背負い、山々を渡り歩いた。半日ほど歩き、夜中になってようやく候補地を見つけた。


その場所は深い渓谷を遡った先にあった。大きな桜の大樹が少し開けた土地の中心に生えて、月光を咲き乱れる花びら達が受け優しい光を纏っている。土地の周囲にも桜が咲き乱れていて美しく夜を彩っていた。


「美桜、我はここが良いと思う。此処ならば獣も大して近づかなそうだからな」

そっと亡骸を横たえ、守桜は穴を掘り始めた。離れにあったスコップでガツガツと掘り進める。


結果。僅か1時間ほどで棺の形をした穴が完成した。


そっと守桜は美桜の亡骸を穴の中に横たえた。暫し合掌し瞑目してから穴を慎重に埋め始めた。だんだんと見えなくなっていく美桜が何故だか滲む。抑えきれなかった嗚咽が、涙が頬を伝う。


「美桜、何故其方だったのだろうな。何故、治し方の分からぬ病だったのだろうな。何故、こんなにも早く逝かねばならなかったのだろうな。何故、今だったのだろうな」

一度ポツリと溢せば次から次へと溢れていく。美桜の方が病に侵されて苦しかったはずなのに、美桜はずっと笑顔を見せてくれた。それに比べて自分はどうだ。美桜の前で涙を見せている。笑顔で送ると決めたはずなのに。


滲んだ視界のまま、空を見上げる。

「あぁ」

桜が滲み、天より降る星の光のように見えた。何故か、包み込まれるような優しさを感じる。


まるで、美桜のようだ。我のような獣にも分け隔てなく接し、誰かの心を癒す。儚げでありながら強い芯をもつ、そんな美桜は私にとって1番大事な、桜のような娘だったのだ。


周囲の桜達が孕む光が凝縮して一つの花を形作る。それは桜だった。守桜の手のひらに落ちてくる。…まるで泣かないで、とでも言うかのように。


守桜はその桜の守り石(なんとなくそうだと思った)を握りしめ、地面に突っ伏したのだった。

今回もそれなりにシリアス。あと二話ぐらい続いてから洞窟攻略に戻ると思います。


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