第十一話 守桜の過去② 約束の桜
美桜を看取ってから三日が経った。私は遂に山の麓へ降りることを決意した。
何故か?それは美桜が今際の際に言い残した「もしも人だったら誰かやお国を守れるやさしい人だったと思うという言葉を現実のものにするためだ。どう守るかは皆目見当もつかないがやれることをやるまでである。
しかし現実はそう甘くなかった。
一時間ほどさかのぼったところに訳がある。意気揚々と麓に降りた私は困っている人を助けて回った。田を耕すのに困っている女子供がいれば手伝い、荷物を抱えてふらふらと歩いている人がいれば荷物を代りに持つなどしていた。
時々お礼に干し芋のかけらなどを貰いつつ闊歩していたのだが、見たことのない紺の髪の男が歩いていれば当然警戒される訳で。
「お前はどこの集落のものだ”!!名を名乗れ!!」
「集落の名?知らん。我は守桜」
近くのものに捕えられた我は村方三役というらしいものたちの前に突き出された。近くにいた小姓らしきものが我の名を聞いた途端走り出した。
暫くして戻ってきた奴は村方三役たちに向かって
「この者の戸籍はありませぬ!!どこぞの集落の隠し子でしょうか」
「ええい、この色の髪を見よ!疫病神の化身に相違ない。縄で戒めて座敷牢に放っておけ。集落のために働かせるのだ!」
「はっ!!」
なる少々阿呆なやりとりの末、我はこの麓の集落の牢に捕えられている。もちろん戒め付きで。かなり暇だ。近くに落ちていた小枝で己の名を地面に書き始める。…忘れたくないからな。
「おいお前、水呑百姓のいなくなった田を三つ耕せ。これは村方三役様の命令である」
「我の名は守桜だと言っておろう、承知した。その田は何処だ。連れて行け」
腕を前に縛られたまま我は集落を裸足で歩いていた。草履は村方三役の小姓に取られた。
きっとあの少々頭の足りない役人どもに命令されたのだろう、可哀想に。
つらつらと考え事をしながら歩く我の前に現れたのは広大な田だ。視界の端から端までほどある。
まさか、この田ではあるまいな。あったとしてもこれで三枚に相違ない。きっとそうに違いない。現実逃避をする我に現実が突きつけられる。
「この田とその横の二つだ。夜は草履の作成、昼間は田の他にあそこの畑で何かを作れとのことだ。種や苗は近くのやつにもらえ。俺は仕事に戻る。せいぜい頑張れよ、守桜」
最悪の想定が当たってしまった。ついでに畑も耕せだと?死ねと申すか役人ども。
そして数ヶ月、守桜の目の前には黄金の稲穂が揺れていた。普通なら多少喰われたり雨が降らず枯れたりするがそこは元狼。なんかオーラでも無意識に放たれていたのか一匹も寄ってこず、雨は雨乞いをして降らせた。もちろん集落全てに。助け合い、大事。
そんなこんなでウキウキ収穫Timeを迎えた守桜なのだった。そして忘れてはならないのが、これで喜ぶのが誰かということ。それはもちろん土地の持ち主!
「おお、守桜殿!ありがてぇ、これで娘を嫁に行かせてやれる」
「それは良かった。脚はどうです?」
「そらぁ、守桜殿が全部やってくれたおかげでバッチリだ」
にっと笑いぽんと脚を叩いた土地の持ち主。この本百姓、守桜は知らなかったのだが娘がいたようだ。
...つい、美桜がどこかに嫁入りすることが出来ていたらさぞかし綺麗な姿だっただろうな。
どこか遠くを見る様なセンチメンタルな表情で微かな笑みを浮かべる守桜に何か感じたのか、首を傾げながら本百姓は守桜に小さな巾着袋を渡した。
「守桜殿の首から掛けてる飾り、村方三役さまに取られねぇ様に飾りの部分をこれで覆っときな」
「あぁ、ありがとうございます」
守桜は肌身離さずあの桜の守り石を首から下げていた。それを知っていた本百姓は取られないようにとカバーをくれたのだ。
そして数年後、守桜は晴れてお役御免の追放になり、集落を出た。
その集落にいる間に『ばくふ』(守桜にはどんなものか分からなかった。なんかすごいらしい)が潰れて新しく出来たすごいらしいものが警察なるものを作ったらしい。
それはお国やみんなを守ろうという者達が集まったものらしいので守桜はそこに入ろうと決意したのだ。
余談だが守桜の髪色は現在黒である。優しい村人が町で髪色を変えるものが売っていたからお土産に買ったと言って守桜にくれたのだ。
早速東京なる土地に辿り着いた守桜は警察にさらっと普通に入ると働き続けた。
どうやら死んでもまた若返るらしく何度も何度も生まれ変わって働いた。
そしてたまに戦後出来た自衛隊に入ったり、医師になったり消防に入ったりした。
ついでに毎年墓参りと称してあの桜の広場に行っていた。行くたびに美桜に現状報告をして御供えをするのが習慣になっていた。おすすめは桜餅である。
中々に充実した生活を送っていた守桜はある日、墓参りに行った。今年の報告をしに行ったのだ。
「ーーーーこんな感じだ。楽しいよ働くのは。部下も育ったし、今世もそろそろ終わりそうだ」
「楽しそうなところ悪いが、我は引退することにしての。来世は無理そうじゃ、お主の記憶はどうするのか?」
どうやら神のおかげだったらしい。薄々勘づいてはいた。いつか終わりが来ると、永遠などないと。
私は記憶を繋いでくれる継ぐものを見つけるまで、あの桜の広場の地下に封印されることになった。
永遠とも言える長い時間の末、辿りついた少女はよく守桜に似ていた。
希釈していく意識の中で流狼月と名乗った少女に全ての知識と記憶を与えたことを感じた守桜は、ただ消えるのを待っていた。
『守桜。まったくもう、あと100年くらいは余裕があると思ってのんびり待ってたのに、せっかちね』
「美桜、なの、か。私をずっと待ってくれていたのか?」
『もちろん、ずっと待ってたよ。ねぇ、守り石を受け継がない?あれが有れば、私たちも見守れるわよ?』
「それは良い考えだ」
私は基本的になんだって美桜の考えることには賛成だ。...だって、美桜が全てをくれたのだから。
「流狼月よ、後のことは頼んだ。」
その言葉と共に守桜は現世での長い長い生を閉じた。
守桜の過去編終了!次から久しぶりの流狼月ターン
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