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パーティを引退したら、勇者様がメイド服を着て玄関に立っていました  作者: 28号
第1章:1日目のメイド服

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閑話:勇者の残り時間

「じゃあ、今日からこの部屋を使って。天井が少し低いけど、広さはあるし物も置けるから」 


 見下ろさなければ視界に入らない、小柄な少女が屋根裏部屋をせわしなく歩き回っている。


「足りないものがあったら言って。また明日、買いに行くから」

「わかった」

「あともし夜にお腹がすいたら、台所のものを好きに食べて」

「いいのか?」

「あなたよく、夜にこっそりものを食べてたでしょ? 食料庫にはお菓子なんかも入ってるから、好きにして良いよ」

「ありがとう」


 その姿を思う存分目で追える幸せを噛みしめながら、クリードは投げかけられた言葉一つ一つに返事をする。


「じゃあ、あの、おやすみ」

「ああ、おやすみ」


 少し恥ずかしそうに言って、部屋を出て行くイザベラの姿を最後まで目で追う。

 本当はもう少し話していたかったけど、さすがに夜遅くまで彼女を引き留めるのはまずいと言い聞かせた。


(それに、邪魔も入りそうだしな)


 無意識に懐に触れれば、タイミングよく隠し持っていた小さな鏡が震える。

 指先でつまんで取り出したそれは、遠距離にいる人と会話ができる連絡ツールだ。


『おや、ずいぶん締まりの無い顔をしているな』


 鏡をのぞき込めば、老いた顔がにやけ顔でこちらをのぞき込んでいる。


『順調にことが運んだか?』

「ああ、順調だ」


 イザベラが調えてくれた寝台に寝転がりながら、鏡の向こうにいるかつての仲間――賢者ミゲルに微笑みかけた。


「イザベラが、ここに置いてくれると言ってくれた」

『彼女に呪いのことは話したのか?』

「軽くな。それよりも見てくれ、俺だけの部屋だ」


 そう言って鏡で部屋を見せびらかしていると「クリード」とたしなめる声がする。


『イザベラに呪いを見てもらうように言っただろう』

「見てもらった。とても複雑なようだ」

『解けそうか?』

「難しいだろうな。あんなに困り果てたイザベラの顔は始めて見た」


 言葉を切り、クリードは鏡を顔の前に戻す。


「だから、詳しいことを話すのはやめた。下手に解呪すると言い出したら、あの子が危険だ」

『だが、それだとお主が……』

「いいんだ。元々呪いを解くため来たわけじゃない」


 クリードの望みはただひとつだけ。

 もう一度――そして最期に、イザベラと話したい。

 本当にただ、それだけだった。


『クリード、残された時間は短いぞ』

「わかってる。だから、メイド服だって着たんだ』

『メイド……服?』

「ともかく、俺は平気だし上手くやってる。それに約束通り、ひと月後には帰るよ」

『ならいいが、何かあったらすぐに連絡するんだぞ、いいな?」

「わかってる。それじゃあ寝るよ」


 イザベラの側で過ごす夜をこれ以上邪魔されたくなくて、クリードは鏡を手で擦る。


 するとミゲルの姿が消え、代わりに見慣れた自分の顔が鏡に映った。

 今のところ、その顔に変化はない。


 だがクリードにかかった呪いは、いずれ彼を“変える”だろう。


(この呪いは解けない。だからせめて、後悔しないようにしよう)


 愛おしい少女と過ごす明日を思いながら、クリードはベッドの上でゆっくりと目を閉じた。

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