第1話
クリード=グレイシアは、いつもひとりぼっちだった。
生まれた時から親はなく、孤児院では有り余る魔力と怪力のせいで化け物と呼ばれ、誰もが自分を遠巻きにした。
それでも誰かに必要とされたくて冒険者として身を立てたけれど、心の底から仲間と呼べる者は現れない。
その強さと外見から旅の同志は集まるが、共に戦えば皆クリードを恐れ、最後は離れていってしまう。
でもそんなひとりぼっちの化け物の前に、ある日一人の少女が現れた。
『イザベラ=カイルナージです』
初めて会った時、彼女はフードで顔を半分隠し、緊張でとても小さくなっていた。
小動物を思わせる仕草を見て、この小さな魔法使いも、いずれ自分を恐れて去ってしまうにちがいないとクリードは思った。
『よかったら、次もお願いできないだろうか』
だからそう頼んだ時も、まさか受け入れてもらえるとは思わなかった。
『私でよければ、喜んで』
二度目の旅に誘った時、彼女は頷いてくれた。
その拍子にフードが落ち、初めてはっきりと顔が見えた時のことを、クリードは今でも忘れられない。
『また、いっぱい呪いを解きますね』
ふわりと柔らかな微笑みを浮かべ、イザベラはそう言った。
――今思えば、一目惚れだったのかもしれない。
でもイザベラは、すぐにまたフードをかぶってしまった。
それがひどく残念で、どうにか顔を見て話したいとクリードは思ったのだ。
会話の機会を増やすため、必要もないのに呪いの装備をかき集めたのは一度や二度ではない。
イザベラはすぐ呪いを解いてしまうから、少しでも長く側にいるために必死でダンジョンを巡った。
そうして少しずつ打ち解けながらも、内心ではいつ彼女がいなくなるかと怯えてもいた。
でもイザベラは、次の旅に誘うたび『いいよ』と笑ってくれた。
クリードの戦う姿を見ても『すごいね』と驚くだけで怯えることもなく、むしろ『守ってくれてありがとう』とふわりと笑う。
そんな表情の一つ一つに、クリードは恋をしていた。
でもクリードは、自分の感情に疎すぎた。
ずっと側にいたかったのに、クリードは一度イザベラを手放してしまった。
『静かな暮らしがしたいんです』
と言われた時、離れる理由が自分ではないと知って安心までしていた。
深い喪失感に気づいたのも、彼女が去ってしばらくしてからだ。
さらに本当の願いをようやく理解したのは、その身に変化の呪いが発動してからだった。
『お前には死んでもらわねばならん』
父と名乗ったばかりの男にそう言われた時、クリードは絶望を抱くより先に「イザベラに会いたい」と思った。
知りたくもなかった生い立ちのせいで存在を疎まれ、死を望まれ、クリードは疲れ果てていた。
でも彼女だけは、こんな自分にも笑いかけてくれる気がしたのだ。
死ぬことを望まれるなら死んでもいい。
そして死ぬのなら、最後は好きなように生きよう。イザベラの側で暮らそうと、クリードは決意していた。
だが思えば、それは間違いだったかもしれない。
共に暮らし、距離を詰める中で、クリードは今更のように気づいてしまったのだ。
――イザベラと、ずっと一緒にいたかった。
その願いは叶わないとわかっていたのに、彼女を求める気持ちは止められなかった。
そしてそれが恋だとようやく気づいたのに、すべては遅すぎた。
「愛してる」
その一言を伝えるより先に、イザベラはクリードのことを忘れてしまったのだ。




