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パーティを引退したら、勇者様がメイド服を着て玄関に立っていました  作者: 28号
第9章:17日目の戦い

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幕間:勇者の涙


 ぐったりと力を失っていくイザベラを見て、クリードは彼女の首から腕を引き剥がす。

 そして小さな体をベッドに横たえ、その体を優しく揺すった。


「ああくそっ、イザベラ!」


 彼女の首には、クリードの手の痣がくっきりと残っている。

 そして手には、彼女を苦しめた感触も生々しく残っていた。


【絶…望……が……】


 頭の中で、魔王の嘆きが響く。

 だがそれを、クリードは強い意志ではね除けた。


 恨みを封じられた魔王は、もはや貧弱な意志しか持たない。それを抑え込むことなど、クリードには造作がなかった。


【ああ……、僕は……ただ……】


 そしてついに声は消え去り、イザベラを抱き寄せる腕も人のものへと戻る。


 だがイザベラだけが、目を閉じたまま動かない。

 呼吸はあるのに、何かが抜け落ちてしまったかのように目を覚ましてくれないのだ。


「イザベラ!」


 強く名を呼ぶと、そこで慌ただしい足音が近づいてくる。


「……ッ、兄上!」


 現れたのはシャルロットとミゲル、そしてレジャールだった。


 父の姿を見て、クリードは今さらのように王城にいることに気づく。

 ならば医者がいるはずだと察し、クリードは父たちに目を向ける。


「イザベラが目を覚まさないんだ」

「……シャルロット、医者を! それまでは、わしが見よう」


 医術の心得のあるミゲルが近づき、イザベラの脈を測る。


「脈も呼吸も、正常だ」

「なら、なぜ起きない」

「彼女は呪いに触ったか?」

「ああ、でも失敗はしていない」


 少なくともクリードの意識がある間、彼女は呪いをすべて解ききっていた。


「ならば、あるいは……」

「――――ん……」


 ミゲルが何か言いかけたとき、腕の中でイザベラがわずかに動いた。


「イザベラ!?」


 慌てて顔をのぞき込めば、彼女がゆっくりと瞼を押し開ける。

 気絶していただけらしいとわかり、ほっとするも、目が合った瞬間、彼女がビクッと怯えた顔になる。


「イザベラ?」


 そして顔を真っ赤にする彼女は愛らしい。

 でも何かが、いつもと違った。


「イザベラ、どうした? どこか痛むのか?」


 物言わぬ彼女に戸惑い尋ねると、怯えた顔のまま彼女がぎゅっと胸の前で手を組んだ。


「……あ、あなたは……誰……ですか?」


 その目には、クリードが映っていた。

 でも彼女は、クリード自身を見てはくれなかった。


「あの、私はどうして……それにここは……」


 怯えた視線の先で、イザベラが捉えたのはミゲルだった。


「ミゲル老師、一体何があったんですか!?」


 クリードの腕を払い、イザベラがミゲルに縋り付く。

 去ってしまったぬくもりに愕然としながら、クリードは足下に落ちていた小箱を見た。


 ――その呪いは、一番大事な記憶を奪う。


 自分を救った呪いがイザベラにもかかっていると、クリードは気がついた。

 そして救いを求めるようにミゲルを見れば、彼は静かに首を横に振った。


「この呪いは、一度かかれば二度と解けぬ。だからこそお主を救うため、イザベラは呪いを放ったのだ」

「こうなることを、予見していたのですか?」

「可能性はあった。何を失うかはわからなかったが、それでもやると決めたのは彼女だ」


 そうして失ったのが自分の記憶だと気づいたとき、クリードの目から涙がこぼれる。


(愛していると、そう言ってくれたのは本当だった……)


 だからこそ、その愛は欠片も残らず消えてしまったのだ。

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