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パーティを引退したら、勇者様がメイド服を着て玄関に立っていました  作者: 28号
第9章:17日目の戦い

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第3話


 時間は、まだあったはずだった。

 だが目の前にはもう、クリードはいない。


【その集中力も、解呪の腕もすさまじいな。――だがその腕が、この男に未来を抱かせたのは敗因だ】


 魔王はイザベラに称賛と微笑みを向けた。

 同時に彼が腕を払えば、目の前の呪いが一気にかき消える。


【我は呪われた血の“未来”を喰らう。お前が抱かせた希望が、絶望を早めたのだ】


 立ち尽くすイザベラの前に、魔王は悠然と立っていた。

 その顔はクリードのものだが、心は既に魔王の手中にあるのだろう。

 イザベラを見つめる眼差しは憎悪にたぎり、その鋭い爪がこちらの首を狙う。


 でもイザベラは、悪を目の前にして欠片も怯えていなかった。

 むしろ呪いが消えたことにほっとし、肩の力さえ抜く。


【なぜ、そうも余裕でいられる】


 それを怪訝に思ったのだろう、魔王はわずかに首をかしげ、イザベラをまじまじと見つめる。


「呪いを、無事解いたから」

【呪いは解けていない。むしろ成熟し、我は目覚めた】

「そうね。でも、失敗しなかったことに変わりはないわ」


 そこでイザベラは、あえて魔王に向かって一歩踏み出す。


「私は生きている。だから勝ち」

【それはまるで、この男がどうなってもよかったと聞こえるが】

「その通りよ」


 だってこの呪いは、はなから解呪できるものではなかった。

 それはどうやっても、不可能なのだ。


「だって倒したいのはあなただもの」


 次の瞬間、イザベラは魔王の胸に勢いよく飛び込む。

 そしてその腕に、ある物を握らせた。


【……何だ、これは】


 魔王の手の中で開いたのは、彼の遺物だ。

 引き換えの呪いがかかったそれは、解呪せず開ければ大事な「記憶」を奪うものである。


「今のあなたにはもう、恨みしかない。それを奪ったらどうなるかしら?」

【……ッ、貴様、まさか……】

「空っぽになった魔王に、クリードは絶対に負けない」


 宣言した直後、魔王は箱を弾き飛ばしイザベラの喉を締め上げる。

 だがそれこそ、イザベラの狙いだ。


(彼は絶対に、約束を守る。私を助けてくれる)


「……起きて、クリード」


 今こそ約束を果たしてと、イザベラは愛おしい男に願いを託す。


【ああッ、我は……ッ、僕は……ッ!】


 呪いは無事発動したのか、憎悪に満ちていた瞳が揺らいだ。

 そして儚く弱々しい、マーラ国王の表情が顔を出す。


 王を捉えていた憎しみが呪いによってそぎ落とされ、悲しみと戸惑いが彼の身体を震わせていた。


【俺はッ、お前にはならない――!」


 そして響いた声にイザベラは微笑んだ。


(やっぱり、クリードは約束を守ってくれる)


 目の前にいた魔王が少しずつ消えていくのを見ながら、イザベラはゆっくりと目を閉じる。


(ああ、しまった……。私……やらかしちゃったみたい……)


 たったひとつ、もっとも危険な呪いをイザベラは解除し忘れていた。

 それを悔やみつつも失われていく意識を止められず、イザベラはぐったりと力を失った。



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