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パーティを引退したら、勇者様がメイド服を着て玄関に立っていました  作者: 28号
第9章:17日目の戦い

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第2話

【イざ…ベラ……】


 もはや人のものではなくなってしまった声で、クリードがイザベラを呼んでいた。

 ベッドの上に寝かされた彼は、もう体の殆どが魔物になってしまっている。

 全身を禍々しい黒い皮膚に覆われ、唯一面影を残すのは顔立ちだけ。


 それでも彼はまだ、クリードだった。


「よかった、まだ間に合った」


 伸ばされた魔物の腕を優しく握りしめながら、イザベラは微笑む。

 魔物の瞳の中には、まだクリードの愛と優しさが滲んでいる。

 それにほっとしながら、イザベラは目に浮かべた涙を強引に拭った。


【俺は、シね…なかったの……か?】

「ええ、魔物の体が刃を阻んだの」

【ならバ、もう一度……】

「あんなこと、二度とさせないわ」


 クリードが心臓を貫いた時の恐怖を思い出し、イザベラは強く言い放った。

 姿が魔物に変わりゆくことよりも、クリードが自らの手で命を絶とうとしたことがイザベラは怖かった。

 そして事情がわかった今は、憤りも感じている。


「あなたは私が救う。絶対に」

【まさか、呪い…ヲ……?】

「ええ、あなたを元に戻してみせる」


 次の瞬間、クリードは目を見開く。

 そして彼は勢いよく身体を起こし、イザベラを突き飛ばした。

 彼はわかっているのだ、呪いに触れればイザベラがどうなるかを。


【君ヲ、失うくらい、なら……】

「私は死なない」

【だが、こノ呪いは……!】

「私の手では解けないわ。でもそれでも、私はあなたとの未来を諦めない」


 そしてイザベラは、今までで一番の勇気を振り絞る。


「クリード、私はあなたを愛してる」


 立ち上がりながら、イザベラははっきりと自分の気持ちを口にした。

 途端にクリードの顔が、泣きそうにゆがんだ。


【望まセ…ないで……くれ】

「望んでほしいの、あなたに」

【望めば、魔王…が……】


 そこで、彼は苦しげに頭を押さえる。


「それでいい。未来を望んでくれるなら、今度は私が魔王を倒すから」

【倒すこと……ナど……】

「倒してみせる」


 そしてイザベラは、呪いに手をかける。


「私を信じて」


 ありったけの魔力を呪いに込めれば、呪いは加速し最後の時が動き出す。

 残された時間は五分、一手でも間違えればイザベラの命はない。


(でも大丈夫、私は解呪を失敗したことはない)


 禍々しい呪いが放たれると、肌が刺すような痛みが全身を襲う。

 到底さばききれないその数に臆しながらも、イザベラは禍々しい紋章のひとつに触れた。


(一つ一つ、こなせばいいだけ……)


 だって今まで、イザベラは数え切れないほどの呪いを解いてきたのだ。

 クリードが持ってきてくれた装備品の呪いを解きながら、磨き上げたスキルをイザベラはすべて解放する。


 欠けた紋章を直し――

 絡まった魔力の糸をほどき――

 古代語で紡がれる謎解きに答え――

 ねじ曲がった魔力の回路を正しい形に組み合わせる――


 ひとたび間違えれば命を奪う数々の呪いに、イザベラは一瞬たりとも臆さなかった。


 そして迷いなく、すさまじい速さで、イザベラは呪いに触れ続けた。

 そのたび魔力を奪われ、身体は重くなっていく。

 指先が震え、思考がかすむ瞬間もあったが、それでもイザベラは諦めなかった。


「よし、これで――」

【まさかこの時間で、半分をこなしたか】


 思わず手を止めたイザベラを、クリードが笑う。

 でもその声で、イザベラは気づいてしまった。


(クリードじゃない……)


 イザベラを見つめ、あざ笑うその相手は魔王だった。


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