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パーティを引退したら、勇者様がメイド服を着て玄関に立っていました  作者: 28号
第9章:17日目の戦い

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第1話

 イザベラはいつも、安全な場所から世界を見てきた。

 クリードという強力な守護の元、危険な旅の中でも命の危機とは遠い場所にいた。


(でも今度こそ、私も危険の中に飛び込む時だ)


 手元に戻ってきた呪いの本を開きながら、イザベラはぼんやりとそんなことを思う。


 彼女は今、王城の地下に移されたクリードの側にいた。

 万が一、彼が魔王として目覚めた時、その封印のために作られた地下の間は豪華な王城からは想像がつかないほど狭くて冷たい。

 唯一置かれているのはベッドだけ。それも手足を縛る拘束具がついている。


 王の計らいでクリードの手足は自由のままだが、多分歴代の王族たちもここで身柄を拘束され、命を奪われてきたのだろう。


 でもクリードだけはそうさせないと、イザベラは決めていた。

 自分の命を危機にさらしても、絶対に彼は死なせない。


 そんな覚悟と共に、イザベラは眠るクリードの横に腰を下ろす。


(そういえば、昔こうして、彼の寝顔を盗み見たことがあったっけ)


 いつからか、彼は体調を崩すとイザベラの側で眠るようになった。

 イザベラの側が一番落ち着くという彼の言葉に、自分にも出来ることがあるとわかってほっとしたのを覚えている。

 そして彼の看病をしながら、イザベラはいつもその寝顔を盗み見ていた。

 よくないことだと思いつつ、彼の方も「寝るまで側にいてくれ」などと言うから、つい目が離せなくなってしまったのだ。


 イザベラが側にいる時、クリードはいつになく穏やかな顔をしていた。

 パーティのリーダーとしていつも気を張り、寝ている時でさえ警戒を崩さない彼が、自分にだけ柔らかな寝顔を晒すのだ。

 それを愛おしく思うと同時に、いつまでこの寝顔を独占できるのかと寂しさも覚えた。


 クリードには家族も恋人もなく、だからイザベラが側にいることを許されている。

 でもいつか彼にも、大切な人が出来るだろう。

 そうなれば、イザベラは二度とクリードの寝顔を見ることは出来ない。


 その日が来るのが、イザベラは怖かった。

 だから別の誰かが自分の場所に座る前に、遠くに行こうと決めたのだ。


(でもクリードは、追いかけてくれた)


 側にいたいと願ってくれたのは、きっとただの友情からくる気持ちではない。

 決して察しがいい方ではないけれど、彼が絡めた指や、交わしたキスを思えば、そこに好意があったことはよくわかる。

 でもイザベラは、その好意にまだ何も返せていない。

 言葉も、気持ちも、何一つ彼に渡せなかった。


(だからこのまま、お別れなんて出来ない)


 イザベラが決意を固めていると、背後から「イザベラ」と呼ぶ声が聞こえた。

 振り返れば、そこにいるのはシャルロットだった。


「ミゲル老師から、例のものを預かってきた」

「ありがとう、これがあればきっと……」


 一縷の望みを託したとある遺物を、イザベラはシャルロットから受け取る。


「しかし、本当に一人でやるのか?」

「その方が集中出来るし、シャルロット様と老師には万が一の時に控えていて欲しいので」

「だがもし、君に……」

「何かあったとしても、計画通りにすればクリードは必ず戻ってきます」


 断言すれば、シャルロットは小さく頷く。


「クリードのことは任せてください。私が絶対に、彼を目覚めさせてみせますから」


 シャルロットはまだ、何か言いたげだった。

 でもイザベラは笑顔でそれを封じ、部屋の外へと彼を送り出す。


(さあ、そろそろ始めよう)


 そんな覚悟に呼応するかのように、そこでクリードの目がゆっくりと開く。


【イざ…ベラ……】


 しかしイザベラを呼ぶ声は、もう、人のものではなくなっていた。



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