幕間:勇者の最期
【ああ、こんなにも馴染む体は久しぶりだ】
かつては自分の内側から聞こえていた声が、今はもう外から聞こえている。
身体の主導権を奪われたクリードの心は、深い闇の中に捕らわれていた。
そこから出ようとあがくも、自分を保つことさえ今は難しい。
【さすが我を倒しただけあり、お前はしぶといな】
薄れていくクリードの魂の前に、突然立ちはだかったのは、淡い光を帯びた男だった。
目は赤く、長い黒髪の間からは魔物の角が見える。
でもその容姿は、どちらかと言えば人間に近い。
(最後に刃を交えたときとは、まるで違う姿だ)
そんなことを思えば、彼はふっと笑った。
【前の身体は私に上手くなじめなかったのだ。その上、元の性根が腐っていたから、獣じみた姿だったのだよ。だがお前なら、美しく変貌するだろうな】
どうやら相手は、クリードの考えさえ手中に収めているらしい。
こちらの考えを読んで笑う姿を不気味に思いつつも、同時に哀れにも思えたのは、呪いが発動したときに見た“真実”のせいだろう。
【私を哀れむとは、貴様はずいぶんと暢気だ】
「呪いが見せたお前の過去は、哀れだとしか言いようがなかったからな」
魔王の身に起きたことを思えば、その気持ちも理解はできる。
自分だってもしもイザベラが目の前で同じ目に遭ったら、この世のすべてを恨み破壊したいと願うだろう。
【なるほど、貴様と私はよく似ている】
「だが俺は、お前になるつもりはない」
【願わなくても、もうなっている。それに貴様の大事な者が、私の復活を成すだろう】
それが誰のことか理解した直後、魔王は高らかに笑った。
【お前の心は、我が恨みで満たされる。そしてこの世に争いと混乱をもたらすのだ】
高笑いが響いた刹那、クリードの目の前に光があふれる。
救いのような光に導かれて目を開ければ、二度と見られないと思ったイザベラの顔が、そこにあった。




