第5話
「自業自得だと、言われても仕方のない過去だ」
ミゲルが話し終えると、レジャールが大きくうなだれる。
そんな王に寄りそい、肩を抱いたのはシャルロットだ。
「父も、そして先王たちも、魔王が生まれぬよう改善は試みたのだ。だが呪いは消すことができず、さらに言えずの呪いが年を重ねるごとに力を増した。王家の中でも、罪は隠すべきと言う一派が強くなり、クリードを襲ったのもそいつらだ」
魔王になる前に殺してしまえば、少なくとも十年は平和が続く。
それ故呪いが出て以来、クリードは命を狙われ続けていたのだとシャルロットは告げた。
「だが兄上はすべてに抗わなかった。呪いを受け入れ、自ら命を絶つと約束をした。だから完全に魔王と化すまで猶予を与えられたのだ」
「そして、私の所に……?」
「会いたい人がいるのだと、あの子は言っていた」
イザベラの疑問に、答えたのはレジャールだった。
「側にいたいと言えず、離ればなれになってしまった友に会いたいと、それは熱心に話していた。そして呪いのことで気に病む私たちに『むしろいい機会をもらった』とさえ言った」
『俺はずっと、誰かに求められることばかりしてきた。だから死ぬ前に、誰のためでもなく自分のために生きてみたい』
そう言って、彼は最期の時をイザベラと過ごそうと決めたのだ。
(素直になったのは呪いのせいじゃなくて、クリード自身が自分を変えたからなのね)
だからこそ、彼の行動はどこかおかしかったのだろう。
自分の欲望のまま動くのが下手で、それでもイザベラの側にどうしてもいたくて、彼はメイド服まで着たのだ。
その後の行動もすべて、きっとイザベラの側にいるためだった。
そしてその願いの奥には、自分への特別な思いがあったのだと今はわかる。
「あの子にとって、君は救いだったのだな」
わかりやすいクリードだから、その思いは父であるレジャールにも伝わっていたようだ。
だからこそ、彼は悲しそうにイザベラを見つめる。
「あの子が君の側にいられるように、できるかぎりの猶予を与えたかった。けれど呪いの進行があまりにも早く、これ以上の先延ばしはできないだろう」
「残り時間は、あとどれくらいでしょうか?」
尋ねると、そこでミゲルがクリードの側に近づく。
そして手を掲げ、彼は浮かない顔になった。
「数日ともたないだろう。魔剣の傷が体の変化を抑えてはいるが、心は……もう……」
「でも、呪いを消せば彼は元に戻りますよね?」
最後の望みを言葉にするも、ミゲルの表情は浮かないままだ。
「残念だが、不可能なのはお主が一番わかっているだろう。それにこの呪いは、解こうとすれば魔王の意志を呼び起こす。解呪に猶予がないのも、そのためだ」
「たしか、前は五分と……」
「この状態では、さらに少ないだろう。あやつが目覚めれば、呪いは一気に加速し変化は免れない」
何をどうやっても、もはやクリードを救う手立てはないのだ。
重い沈黙が流れ、イザベラの目に涙が浮かぶ。
(解呪は、できない……)
いくつもの呪いを扱ってきたからこそ、イザベラにはわかってしまう。
そしてこの状況で彼を救うには、呪いからの解放――死のほかに道はないだろう。
それが一番いいことだとわかっていても、これまでに交わした会話が、笑顔が、心にこびりついて離れない。
(やっぱり、諦められない……)
イザベラはどうしても、クリードの笑顔がもう一度見たかった。
こんな苦しみの中で、死んでほしくなかった。
だから彼の側に立ち、呪いに目をこらす。
「イザベラ、無理だ」
呪いに目を向けたイザベラに、声をかけたのはシャルロットだった。
「でも何か、糸口があるかもしれません」
「この五百年、多くの魔法使いが成そうとしたが、解呪は不可能だった。それほど魔王の恨みと意志は深い」
「だけどこのまま、何もしないわけにはいきません」
「だが兄上はそれを望まない。もし解呪に失敗して君が死ねば、彼は死んでも死にきれないだろう」
だからやめろというシャルロットの声に、イザベラはハッとする。
「……そうか、私が死ぬ……」
「おい、物騒なことを言うな」
「それに呪いが消せないなら……あるいは……」
「しっかりしろ、正気に戻れ!」
「私はこれ以上ないほど正気です」
だって、正気でなければクリードは救えない。
「イザベラ、考えがあるのなら聞かせておくれ」
優しく声をかけたのはミゲルだった。
その隣では王もまた祈るように手を組んでいた。
この人たちもクリードを救いたい思いは同じ。
ならば希望もあると信じ、イザベラは口を開く。
「至急、用意してほしいものがあります」




