第4話
五百年前――まだナムザという国ができたばかりの時代。
この世界では、多くの国々が領土を巡って争っていた。
そんな中、平和を願い停戦を呼びかける『マーラ』という国があったという。
優しい王は戦いを好まず、戦争で故郷を失った難民たちを受け入れた。
だがその動きには裏があると、ナムザの初代国王は思っていた。
マーラ国は難民を兵に変え、いずれ他国に打って出ると信じていたのである。
ナムザの王は、マーラの王を廃そうと考えた。
「和平の話をしたい」と申し出れば、優しく、無垢な王と妃はそれを信じ、そして罠にかかった。
二人は捕らえられ、あるはずもない企みを話せと脅され、激しい尋問を受けた。
もちろん二人は答えない。
彼らはただ純粋に、国々の平和を願っていただけだったのだ。
結果ナムザの王は、禁忌とされる呪いを脅しに使うことにした。
それは、人を人でないものに変える呪いだ。
ナムザ王はマーラ王の目の前で、その呪いを妃にかけた。
もがき苦しみ、化け物になっていく様を見せつけられても、マーラの王は何も言わなかった。
そこでようやく、ナムザ王は間違いに気がついた。
けれどナムザ王は間違いを正せず、悪しき考えに取り憑かれたのだ。
敵でないなら、敵にしてしまえばよい――と。
そしてナムザ王はマーラの妃を呪いの媒介とし、マーラ国に変化の呪いを振りまいた。
平和を望み、救いを求めてきた者たちは次々化け物となり、欲望のまま互いを食い合うひどい有様となったという。
それを見せつけられ、マーラ国の王は、悲しみと憎しみの中で心を壊した。
そしてそんな王にも、変化の呪いはかけられたのだ。
だがマーラ国の王は、優れた魔法使いでもあった。
かけられた呪いを書き換え、その身を特別な化け物に変化させた。
『貴様らが敵となれと言うなら、我はこの世界を蹂躙し尽くそう』
それが五百年ものあいだ人々を苦しめることになる、魔王が生まれた瞬間であった。
そして魔王は、そのときナムザの王に呪いをかけた。
『たとえこの身が滅ぼされようとも、“敵”は生まれ続ける。それはナムザ王――お前の血の中からだ』
その言葉の意味をナムザ王が理解したのは、十年後――魔王と化したマーラの王が討たれたときだった。
変化の呪いが、突如ナムザ王の子供に現れたのだ。
呪いはひと月で完成し、まだ七つだった幼子は化け物に変化した。
『久しいな、我が仇敵よ』
そしてその意識は、マーラ王――魔王のものとなっていた。
新たな魔王は以前より強力で、ナムザだけでなく周辺の国々にも牙を向けた。
多くの国が滅び、結果残された国々が手を取り合うことになったのは、あまりにも皮肉である。
だが国同士が絆を結んでもなお、魔王の勢いはそがれない。
地獄のような日々が続く中、そうした状況を変えたいと立ち上がった人々がいた。
のちに冒険者と呼ばれる者たちである。
そしてその中に、魔王をも凌駕する特別な力を持つ者がいた。
その力がどういうもので、どこから生まれたのかはいまだ解明されていない。
だが魔王に対抗できる者たちは集い、ついに二代目の魔王を討ち果たしたのだ。
後に勇者と呼ばれるその者たちのおかげで世界には平和が訪れた。
――だがそれも、つかの間だ。
国々は少しずつ復興をはじめたが、魔王が倒れればまた次の魔王が生まれてしまう。
その魔王は、皆ナムザ国の王族だ。
中には魔王の意志に抵抗した者もいるが、結局最後は人を傷つける道を歩むのだ。
呪いが発動した者を殺すことで少しの猶予はできるが、それでも平和が続くのは十年ほど。またすぐ次の呪いが発動し、その兆候を見逃せば、最後には魔王が再び蘇ってしまう。
この五百年の間、悪しき輪廻を止めようと手を尽くしたが敵わなかった。
それどころか、魔王誕生の原因となったことを隠そうとした王が“言えずの呪い”を使ったことによって、魔王の正体は闇に葬られてしまった。
こうして負は巡り、その先頭にクリードは立たされていた。




