第3話
王が、自分に跪いている。
それを、イザベラは信じられない思いで見つめていた。
「そなたに――クリードの恋人である君にどうしても話しておきたいことがあるのだ」
「わ、私は恋人ではありません」
「だが、クリードを守るため、こうして側にいるのだろう」
そう言うと、王はクリードに手をかざす。
すると、あれほどきつく巻かれていた拘束具が外れる。
しかしクリードは、ぐったりとしたまま動かない。
「クリード、ねえ起きてっ、クリード!」
頬に手を触れ、何度も名を呼ぶも、彼の反応はない。
「もはや、心が呑まれかけているのか……」
「それは、どういう意味ですか?」
「……言えぬのだ」
すまぬという顔を見て、イザベラは言えずの呪いのことを思い出す。
(きっと、陛下も同じ……。でも呪いなら、私は解ける)
国王にまで及ぶ呪いならば、きっとイザベラのような者が知ることは許されない。
だけどその解呪がクリードの救いに繋がる気がして、イザベラは腕を持ち上げる。
「どうか無礼をお許しください。クリードを救ったら、どんな罰でも受けますから」
そしてのぞき込んだ『呪い』は、クリードのものほどではないが複雑だった。
解き方に失敗すれば待っているのは解呪者の『死』。その上呪いは幾重にも重ねがけされており、解呪の方法も百通りはあるだろう。
でもイザベラは、それを見た瞬間、呪いに魔力を流し込んでいた。
持ち得る知識のすべてを使い、ミスなく完璧に解呪を重ねていく。
その速さに王が息を呑む間に、イザベラはすべての呪いを見事解ききった。
「これで、お話していただけますか?」
イザベラの言葉に、王が戸惑いながら頬に手を当てる。
「ああ、これならしゃべれそうだ。しかしこの五百年解けなかった呪いをこんな短時間で解くとは」
「そんなにも長い呪いだったのですか?」
「これは代々続くもの。我が王族と、王族の秘密を知る者たちの言葉を封じるのだ。特に王の呪いはその起点となるものだから、未だ誰も解けたことがなかった」
まさかそこまでのものとは思わず、解いてしまったことを今さら焦る。
だが王はすべてを察した顔で「よいのだ」と笑った。
そしてレジャールはぐったりと倒れるクリードに近づき、痛ましそうな顔で額を撫でる。
それから王は息子をベッドに寝かせ、優しく毛布を掛けた。
(本当に、クリードのお父さんなんだ)
動きの一つ一つに滲む愛情から、イザベラは改めて実感する。
そして、彼の行動からクリードを傷つける気が無いとわかり、ほっとする。
「陛下!」
そのとき、部屋に光が瞬きまた一人誰かが転移してきた。
そこにいたのは、老師ミゲルだ。
「まったく、余の部屋に安易に転移しおって……」
ここは魔法障壁の中だぞと、レジャールは呆れる。
(障壁の中ってことは、一歩間違えたら塵となって消えてたってことよね……)
それを無傷でここまで通したシャルロットの凄さを感じていると、当人もまた転移で目の前に現れる。
「……兄上は?」
だがその顔色はひどく悪い。カリストの森から王都まではかなりの距離がある。
それを一瞬で移動する魔法は、やはり身体に負担が大きいのだろう。
「ご無事ですか?」
イザベラが声をかけると、シャルロットは頷く。
「これくらい、兄上の苦しみに比べれば些細なものだ。それよりも父上、今……呪いが……!」
父に詰め寄るシャルロットに、レジャールがイザベラを指し示した。
「彼女が解いてくれたのだ」
「ならば、彼女に事情を――」
「もちろん話そう。この呪いを解いた者ならば、希望を見いだせるやも知れぬ」
王が言うと、そこでミゲルが前へと進み出た。
「でしたら私がお話ししましょう。王家の罪を語るのは、気が重いでしょうから」
そして自分ならば公平に話せると、ミゲルは言った。
「この国は、大きな罪の上に成り立っている。それこそ、クリードを苦しめるすべての元凶。その発端は、五百年前のとある戦だ」
「五百年前というと、魔界から魔王が現れた時代ですよね」
「そうだ。しかしその認識は間違っておる」
痛ましそうな顔をしながら、ミゲルはイザベラを見た。
「魔王や魔物は人の悪意が生み出したモノ。そう言われているが真実は違う。魔王は人の手で生まれ、そして魔王自身も元々は人なのだ」




