第2話
手足の自由を奪い、更に感覚をも遮断する魔法をかけられたクリードが、ぐったりと地面に横たわっている。
駆け寄り抱き起こすも、彼に反応はなかった。
「ひどい……」
黒い革のベルトで用いられた拘束具は、大型の魔物を捕らえるときに使われるものだ。
視力や聴覚、さらには触覚をも奪いながらも、痛みだけは与え続けるという物で、クリードの身体も時折苦しげに痙攣している。
それを解きたいのに、呪いではなく魔法相手ではイザベラは余りに無力だった。
拘束具をはずそうとすると魔法で指を弾かれ、激しい痛みが両手を襲う。
それでもなお挑戦するも、拘束具はビクともしない。
「……ザ…ベラ……」
苦しげな声の中、クリードが名を呼ぶ。
「ここにいるわ、側にいる……!」
だがいくら声を上げても、今の彼には伝わらない。
身体に触れても、今のクリードは何も感じられないのだ。
「……あ、グッゥ、ああ……ッ!」
声はすぐ苦しげな物に変わり、彼は身悶えあえぐ。
彼を救えない自分に絶望しつつ、イザベラはせめて彼の呪いを調べようと目をこらす。
(ああ、そんな……)
彼にかかったそれは、確かに変化の呪いだった。
だがそれは本で見たよりも複雑で、禍々しく見える。
もはやそれを、解くのは不可能だろう。
触れば最後、クリードの命さえも奪いかねない物と化している。
「誰が、こんな……」
思わず疑問がこぼれたとき、背後の扉を蹴破ろうとする音が響いた。
先ほどの騎士たちが来たのだと察するも、イザベラに逃げる術はない。
それでもクリードを守りたい気持ちで彼を抱きしめていると、不意に足下が光り輝く。
(これ、シャルロット様の!?)
転移魔法のようだが、以前かけられたものよりも強力だ。
多分、長距離を転移する魔法だろう。
発動させるのに相当の魔力が必要なそれは、人によっては命さえ失いかねない危険なものでもある。
(私たちを逃がすために……?)
シャルロットの安否が気になりながらも、ほとばしる光の中、イザベラはクリードを強く抱きしめる。
そのままふわりと体が浮いた直後、周りの世界が一変する。
「……あの子は、やはり兄の側についたか」
聞こえてきたのは、見知らぬ男の声だった。
低いその声には聞き覚えがあったが、魔法のまぶしさにくらんだ目では相手の姿がはっきりと捉えられない。
「君は、イザベラだな」
男が、低い声で問う。
なぜ知られているのかと戸惑うも、シャルロットがここに来させたということはきっと敵ではないのだろう。
そう思い、イザベラは小さく頷く。
「イザベラ=カイルナージ。解呪の魔法使いとして名高い君に頼みがあるのだ」
言葉と共に、男がゆっくりと近づいてくる。
イザベラの目も慣れ始め、ようやく側にいる男の姿を捉えることが出来た。
「余の呪いを、どうか解いてくれまいか」
そう言ってイザベラの前に跪いたのは、この国の国王『レジャール=ラムダ』その人だった。




