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パーティを引退したら、勇者様がメイド服を着て玄関に立っていました  作者: 28号
第6章:9日目の襲来

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第2話


 カイリナの冒険者ギルドは商業区の真逆、路面電車で坂を登り切った街の入り口そばにある。

 そもそも冒険者ギルドとは、勇者や冒険者を補佐する組織であり、昨今は職業斡旋所の意味合いが強い。

 国と民からの依頼をとりまとめ、「魔物討伐」「ダンジョン攻略」「街道の警備」「旅客の護衛」など多岐にわたる仕事を、適切な冒険者に割り振るのがギルドの仕事である。

 登録は必要だが、簡単な手続きさえ踏めば誰でもギルドのメンバーになれるため、殆どの冒険者がギルドに所属しており、カイリナのような小さな街にもギルドの支部が存在している。


(しかし、本当に困ったわね……)


 ギルドに近づく中、イザベラはある問題に気がついた。

 仕事をもらうには身分証がいるが、クリードの証を出せば一発で勇者だとバレてしまうのである。

 かといって今から作るとなると、「元冒険者だ」と言ってしまった話と矛盾してしまう。


 そしてその辺りのことを、クリードはたぶん何も考えていない。

 ギルドに向かって歩く道すがらも、カイナの機嫌を取ろうと必死で、他のことを考える余裕もなさそうだ。


(なくしたってことにして、再発行する? でもそれも、お母さんに怪しまれそうだし……)


「イザベラ! リード!」


 そんなとき、突然聞き覚えのある声が二人を呼んだ。

 驚いて振り返れば、そこにいたのはシャルロット……いや、ロットである。


「ど、どうしたの?」

「リードさんの落とし物を拾ったから届けに来たんだ」


 そう言って、彼が差し出したのは小さな財布だ。その角から覗く紙を見て、イザベラは飛び上がる。


「あ、ありがとう! まさにそれが必要だったの!」


 財布に入っているのは、ギルドで使う身分証だ。どうやって作ったのか、写真も名前も“リード”の物になっている。


(……っていうか、どうしてわかったのかしら?)


 などと思っていると、ロットがイザベラの手に財布を握らせる。


「お前たちの準備不足を見かねてきたんだ。嘘をつくなら、色々用意しておけ」

「す、すみません」


 小声で叱責され、イザベラは申し訳なさに小さくなる。


「これ以上、俺に手間をかけさせるなよ」


 舌打ちと共にそういうと、ロットはすぐに少年らしい笑顔を貼り付け「じゃあね~」と手を振り去って行く。


「……落とし物など、しただろうか?」


 状況が飲み込めていないクリードを小突き、財布から取りだした身分証を押しつける。


「コレがないと、お仕事受けられないでしょう?」

「あ、ああ、たしかに」


 そこでようやく、クリードもすべてを理解したようだ。


「大事な財布を落とすなんて、あなたいくつなの?」

「28です」

「あら、意外と上なのね。イザベラとは年の差がありすぎない?」

「あ、愛に年齢は関係ないかと!」


 クリードが必死に言うが、カイナはただただ呆れている。


(……だめだ、とにかく仕事で見返さないとお母さんは絶対認めてくれない)


 とにかくクリードの格好いいところを見せよう、そうしようと決めて、イザベラはギルドまで急ぐ。



 そしてたどり着いたギルドは、 魔王を倒したおかげか、はたまたここが平和な街だからか、のんびりとした雰囲気が漂っていた。

 かつて旅の途中で立ち寄ったギルドは、「手柄を立ててやるぜ!!」と目をぎらつかせる冒険者ばかりだが、ここでは「初めての依頼だねぇ」「がんばろうねぇ」などと話している初心者冒険者の姿しか見えない。


「そこそこ危ない仕事、あるかしら」

「お母さん、発言が物騒だよ」

「だって簡単な任務じゃ実力が測れないじゃない」


 そう言うと、カイナは依頼書が貼られた掲示板の前に立つ。


「この街は、数が少ないわねぇ」

「そりゃあ小さな街だもの」

「うちだって小さい街だけど、この三倍はあるわよ」

「近くに危険なダンジョンもないし、そのせいじゃないかな」

「じゃあ、どうやって実力を見るのよ」


 カイナがため息をこぼすと、そこでクリードが掲示板に近づく。


「なら、時間で示します」


 そして彼は、あろうことかそこに貼られていた張り紙をすべて引っぺがした。

 少ないと言っても13枚。それも簡単な任務ではあるが、どれもこれも絶妙に面倒くさい依頼ばかりである。


『畑を荒らす魔物の討伐』

『牛を病院に連れて行ってほしい』

『逃げた鶏を畑に戻してください(20羽います)』

『ゾンビに奪われたおじいちゃんの形見を取り返してください』

『勇者クリード様のサインをもらってきてほしい』

『服のモデルを探しています(筋肉のある人のみ)』

『街道にでる野盗を退治してください』

『僕が作った薬の実験体になってください(※多分害はありません)』

『荷運びの手伝い求む!』

『船についた化け物フジツボをどうにかしてほしい』

『魔法の練習相手を募集しています』

『森にある薬草を取ってきてほしい』

『大通りのゴミ拾いにご協力ください』


「これをすべて、今日中に片付けたらイザベラさんとの交際を認めてください」

「ちょっとリード、さすがにこの量は多くない?」


 イザベラは慌てて止めるが、話を聞いたカイナはにやりと笑った。


「そうね、さすがにこれだけの数をこなせるなら認めてもいいわ」

「では、イザベラとゆっくり待っていてください」


 クリードは、本気でやる気だった。


(いや、クリードなら出来ちゃう気はするけど……)


 と思った次の瞬間、目の前から忽然とクリードの姿が消える。


「えっ?」


 これにはさすがの母も驚いたようで、きょとんとした顔で辺りを見回していた。


「転移魔法……を使える方なの?」

「ううん、そういうのは苦手だって言ってた。ただその、ものすごく足が速い的な感じ」

「ものすごく、と言うレベルじゃない気がするんだけど」

「生まれつき魔力が豊富で、自然と身体強化されてるらしいわ」


 イザベラの話を聞いても、カイナはまだぽかんとしている。


「と、ともかく、言われたとおりのんびりお茶でもする?」

「……そうね、あなたとは積もる話もあるし」

「それ、お説教じゃないよね」

「あなた次第よ」


 絶対説教だと、イザベラは確信した。

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