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パーティを引退したら、勇者様がメイド服を着て玄関に立っていました  作者: 28号
第5章:8日目の告白

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閑話:勇者と王子


 シャルロット=ディルカ=ナムザ。


 この国の第一王子に初めて会ったとき、クリードは彼を完璧な男だと思っていた。

 魔法使いとしても名を馳せた彼は、幼い頃から魔王討伐の任に就き、クリードが現れるまで国民の期待を一手に背負っていた。

 もしも自分が手を下さなければ、いずれシャルロットが魔王を倒していたのではないかとクリードはときどき思う。

 そんな男と自分に血のつながりがあることが、今もまだ信じられないが、周囲は二人を似ているとよく言う。


「とりあえずこれで顔を拭け」


 こんな時でも完璧な弟は用意もよく、血だらけの兄に濡れたタオルを差し出した。


(やはり、似ていないと思うがな)


 タオルを受け取りつつ弟の顔を眺めていると、もの言いたげな視線と目が合った。 


「僕が何を言いたいか、わからぬお前ではないだろう」


 正直、わからなかった。

 だからクリードは、汚れを拭くついでに彼の視線をタオルで遮る。


「な、なんとなく」

「は?」

「いや、見当はつくのだが、言いたいことの種類が多そうで……」

「は?」


 同じ言葉をくり返しながらも、その声はどんどん冷たくなっていく。

 これはマズいと思ったクリードは、昔仲間から教わった「正座」という反省のポーズをとり、弟を仰ぎ見る。


「えっと、注意を怠るな……か?」

「それもあるが、兄上の弟としてどうしても言わねばならないことがある」


 彼は大きなため息を吐き、クリードを睨めつけた。


「メイド服は今後一切着るな」

「そ、そこか?」

「何よりも重大なことだろう!」


 シャルロットはこの世の終わりでも見たかのような顔で、額を押さえる。


「暗殺者のことよりも、そっちだとは思わなかった」

「それも、あとで怒る」

「怒るのか」

「でも何よりも、あの服が一番許せない!」


 そういうシャルロットの怒りは、かなりのものだ。


「兄上を尊敬し、陰ながら見守ろうとしていた僕が、あの情けない姿にどれだけ驚き失望したかわかるか!?」

「な、なんだかすまない」

「兄上は強くて、かっこよくて、僕よりも王にふさわしい人なのにメイド服だぞ!」


 憤慨するシャルロットを見て、クリードは今更のように彼が「ブラコン」であることを思い出す。


 多くの人々がクリードを王族としてふさわしくないと思う中、共に戦ったシャルロットだけは「誰よりもふさわしい」と言ってくれたのだ。

 下の弟から得た情報によると、シャルロットは長いこと『兄』に憧れていたそうだ。そしてクリードのパーティに入ったとき、彼は理想の兄の姿をクリードに重ねた。


『俺はずっと、あなたのような兄が欲しかった』


 もしかしたら彼は、本能的に血のつながりを感じていたのかもしれない。

 まるで告白でもするかのように、魔王討伐前夜にそう言われたことを今でもよく覚えている。

 そしてクリードも自分を慕ってくる彼に、親しみを覚えていた。

 ただちょっと、距離の詰め方が急なので戸惑ったりはしたが、それでも好意は抱いていたのだ。


「まあ執事服は……かっこよかったから許そう。だがもう二度と、変な服は着るんじゃない!」


 ならば今まさに、服の下にビキニアーマーを着ているのはマズいだろうか。

 後ろめたさから顔を背けると、そこでぎろりと睨まれる。


「もしや、もう何か着たのか?」

「だ、大丈夫だ。もうすぐ脱げるから」

「……その服を脱げ」

「いや、見ないほうがいいと思う」

「弟なのだから見る権利がある!」


 謎の主張をし、詰め寄ってきたシャルロットにシャツを思い切り引っ張られる。

 武闘派ではないものの、成人男性の力にシャツは容易く負けた。


「う、うそだ……」


 裂かれたシャツの下で、ビキニアーマーの金属がシャランと揺れた。

 途端に、この世の終わりのような顔で、シャルロットがよろける。


「あの女のせいで、兄上がどんどんおかしくなる……」

「別に、イザベラのせいではない」

「だがあの女のために着たのでは?」


 さすが、見抜かれていた。


「あの女はやはり危険だ」

「いや待て、イザベラは無害だぞ」

「だが兄上は、あの女に気に入られるためになんでもするだろう」

「まあ、するかもしれない」

「あの女のどこにそんな魅力があるんだ。確かにちょっと可愛くて、抜けているところには愛らしさを感じるが……」

「おい、シャルロット……」

「庇護欲をそそられるし、笑顔は多少魅力的ではあるが……」

「お前も、イザベラのこと結構好きだろう」


 思わず突っ込んだ途端、弟の顔がぶわっと赤くなる。


「そ、そんなわけないだろう!」

「そんなわけある顔だ」

「だって、イザベラだぞ! ビスケットばかり食べて、仕事に夢中になると周りが見えなくなって、ふにゃって笑う女だぞ!」

「そこが好きなんだな」


 クリードもそこが好きなので、嫌でもわかってしまった。


「と言うかお前、いつからイザベラのそばにいたんだ?」

「……あの女が、パーティーを抜けてすぐだ」

「ずるいぞ」

「あのころはまだよくわからない女だと思っていたし、兄上にふさわしいか見てやろうと思って!!」


 そして見事、沼落ちしたのは想像に難くない。


(なるほど、確かに俺たちは似ているかもしれない……)


 今更のように納得していると、おずおずとシャルロットが顔をのぞき込んでくる。


「兄上の女を取ろうとか、そういうつもりはない」

「女では……」

「だがいい雰囲気だ」

「それがよいこととは、思えないがな」


 クリードは己の手を見つめ、今も残る人を斬った感触に眉をひそめる。


「……イザベラがいないと気がついて、自分でもあれほど取り乱すとは思わなかった」

「そのとき“あれ”は?」

「確実に目覚めていたと思う」


 ため息をこぼしながら、クリードはシャルロットの瞳をじっと見つめる。


「さっきの男たちは、王子ではなく“あれ”を殺しに来たのでは?」

「気づいていたのか……」

「少し前、俺の中で何かが目覚める気配がした。それを察知したのだと、今はわかるよ」

「……言っておくが、父上や弟たちの手のものではない。ただ古くから、王家を守護し――王家の罪を隠す者たちがいると聞いた」

「そいつらだと?」

「俺はそう思っているし、これから調査をさせる」

「それで、お前の立場が悪くはならないか?」

「いいんだ、全部兄上のためだ」

「……イザベラのためでも、ちょっとはあるだろう」

「そ、そんなことはない、ありえない」


 わかりやすく身体をこわばらせる弟が可愛くて、クリードは声を上げて笑った。


「と、ともかくだ! イザベラは聡いから、兄上の隠し事にいずれ気づくぞ」

「わかってる」

「それにいつか、時が来れば……」

「すべてを受け入れる覚悟は出来ている」


――呪いがこの身を“悪しき魔”に変えた時、必ず命を絶つ。


 かつて弟や父に告げた言葉に嘘はない。


 断言すれば、シャルロットの顔がくしゃりと歪む。

 彼はそれを隠すように顔を背けたけれど、クリードはすべてを察して弟の身体をそっと抱き寄せた。


「なあ、イザベラにも兄上の呪いは解けないのだろうか? あの子ならば、救ってくれる未来はないのだろうか?」

「この呪いは人が扱うにはあまりに危険なものだ。このまま、俺と共に滅びたほうがいい」

「だとしても、俺は……」


 何か言いかけながら、シャルロットがおずおずとクリードの背中に腕を回す。

 すがるように巻き付いた腕を、クリードは振り払えない。

 そしてクリードは、弟の背を優しく撫でた。


 何か言ってやりたいが、上手い言葉が浮かばない。

 ただただ申し訳ないという気持ちでいると、不意にシャルロットが身体をこわばらせた。


「……待て、誰か来る」


 遅れて、クリードも人の近づく気配に気がついた。

 どうやら感傷に浸りすぎて、感覚が鈍っていたらしい。

 イザベラだったらと思い慌てて黙り込んだとき、戸口に見えたのは見覚えのない女の顔だった。


 相手は抱き合う二人を見て目を見開き、固まっている。


「あの女、また鍵をかけ忘れたな……」


 シャルロットの言葉に慌てて距離を置くが、そこで事態は悪化した。


「な、何なのその格好は……!?」


 女性の眼が捕らえていたのは、ビキニアーマーだ。

 そういえばシャツは破り捨てられていて、抱擁もひどい光景になっていただろう。

 今更気づいてもどうすることもできず、クリードは慌てて両手で胸を隠す。


「お、お客様……ですか?」

「母、です」


 誰のと問わなくても、クリードはその正体がわかってしまった。


「お、お母さん……!?」

「あなたみたいな息子を持った覚えはありません!!!!」


 そんな絶叫に驚いたイザベラが飛んできたのは、五秒後のことだった。


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― 新着の感想 ―
すごい虐殺やシリアスシーンを「でもこいつ、中にビキニアーマー着てんだよな…」って思ってたけど、最悪なところで地雷が爆睡してる(笑)緩急が最高です!
お母さん?マジ可哀想!
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