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パーティを引退したら、勇者様がメイド服を着て玄関に立っていました  作者: 28号
第4章:5日目のデート

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第2話


 お酒に飲まれ、うっかりお昼まで寝過ごしたイザベラを目覚めさせたのは、賑やかな話し声だった。


「いや、ぜったいこっちよ! リードさんには絶対黒!」

「だが、少々生地が高級すぎないか?」

「やっすい生地だとあなたの良さを台無しにしちゃうわ! だからぜったいこれ!」


 どうやら居間で誰かが話しているらしいとわかり、イザベラは眠い目を擦りながらベッドを抜け出す。

 そして無意識に、フラフラと声の方へ向かう。


「あっ、おはようイザベラ! あんたの服もあるから試着して!」


 たどり着いた居間で、いきなりそう言ってきたのはチコルである。

 その背後にはたくさんの服が並べられ、まるで露天のような有様だ。


(う、わぁ……)


 そんな服の山の真ん中で、こちらを振り返ったクリードを見てイザベラは息を呑む。

 彼の纏う服は、初めて見るものだった。

 最近流行のロングコート、黒いシャツとズボンは見るからに仕立てがよく、膝丈までのブーツも磨き上げられている。

 剣をつるすための赤いベルトもいいアクセントになり、クリードの凜々しさをいつも以上に感じる装いだった。


「待って、あなた家でそんなだらしのない格好なの?」


 唖然としていたイザベラの肩をつかんだのはチコルだ。

 その声で、イザベラは寝巻きのままフラフラ部屋を出てきてしまった事に気づく。


「あ、まさかチコルが来てると思わなくて……」

「ということは来客が無いときはそれなの? リードさんの前なのに?」

「リードは執事だし、むしろだらしないままでいいって言うから」

「よくない! そんなヨレヨレの寝巻き許せない!」


 確かに、イザベラの装いは褒められた物ではない。

 旅をしていた頃から着ている寝巻きはいくつかボタンが取れているし、伸びてしまってサイズも合っていない。


「でも、まだ着られるし」

「寝巻きは、可愛くないと駄目なの! あとでとっておきのネグリジェ持ってくるから、今晩から着て!」

「寝るだけなのに」

「そう言うなら、可愛いので寝たっていいでしょ!」


 有無を言わさぬ声で言うと、そこでチコルがイザベラの腕を引く。

 そうして連れてこられたのは、服の山の前だ。


「とりあえず、服を選びましょう。あんたのことだから出かける服なんて持ってないだろうし」

「いや、服くらいあるわよ」

「でもデート服はないでしょう?」

「……ん、デート?」


 首をかしげると、「まだ寝ぼけてるのね」とチコルが呆れる。


「リードさんから聞いたわよ、彼氏になる件」

「えっ、昨日の今日なのに!?」


 伝わるのが早くないかと驚きクリードを見つめれば、彼が申し訳なさそうにうなだれる。


「今朝、チコル殿が依頼の品を持ってきたとき、執事服以外の服が欲しいと相談したんだ。そうしたら、根掘り葉掘り聞かれて……」

「喋っちゃったのね、チコルの勢いに負けて」

「そして、早速デートの練習用の服を持ってきてくれた」

「待って、デートの練習?」

「昨日しようと、話しただろう」


 初耳だと言いかけて、ふと、昨晩寝落ちする前の記憶が蘇る。

 酔ってはいたが、イザベラは記憶は失わないタイプだ。


「言った、気がする」

「店が休みだし、早速今日はどうだろうか。服も、こうして持ってきてもらったし」


 クリードの言葉で、彼が纏うのは自分とのデート服なのだとようやく頭が理解する。

 途端に喜びと緊張が胸に広がり、イザベラは頬を真っ赤に染めた。


「きゅ、急すぎない?」

「だが、君のお母さんが来るまで日がないだろう。それに、早めに練習しておかないとぼろが出ると、チコル殿が教えてくれた」

「そうそう! ちゃんと普段から恋人っぽい振る舞いをしておかないと、偽物だってすぐバレちゃうわよ!」


 チコルの言葉は正しいが、それはつまり母が襲来するまで恋人のように過ごすということになる。


(絶対、もっと好きになっちゃう奴だ……)


 ここまで頑張って気持ちを堪えてきたのに、大変マズい。

 そう思うも、イザベラ以外はもうすっかりデートをするつもりになっている。


「リードさんがこの服なら、イザベラはこのドレスね。若草色が、あなたの肌には映えるし」

「ま、まって……ドレスなんて、もう久しく着てないの……」


 普段は動きやすいスカートとシャツ、その上に魔法使いのローブを羽織って生活していたイザベラである。

 なのに差し出されたドレスは肩と首が大きく出ているし、見るからに高い。


「あと、汚しそうで怖い」

「大丈夫、うちはクリーニングも請け負っているから」

「気にしなくていい。もし汚れたら、また新しいのを買おう」


 クリードににっこり微笑まれ、イザベラは戦慄する。


「待って、もしかしてこの服ってあなたが?」

「どれも君に似合いそうだからすべて買った」

「すべてって、ここの全部?」

「サイズが合わなそうなものは除いているが、ここからここまで全部だな」

 

 彼が手で示した範囲は、ほぼ部屋全体だった。


「む、無駄遣いしすぎじゃない!?」

「金ならあると、君も知っているだろう」

「だとしても、他に使い道があるでしょう」

「いや、これ以上無い使い道だ。彼氏なら恋人のために散財するのが普通だろう」

「そこまで本気で彼氏役をしなくていいから!」

「いや、する。妥協は出来ない性格なんだ」


 大真面目にそう言うと、チコルが手にしていたドレスをリードが受け取る。

 そしてそれをそっと、イザベラの身体に押し当てた。


「何より、初めて金を使うのが楽しかったんだ。その上、君の素敵な姿を見られるなんて最高すぎる」


 重ねられたドレスと戸惑うイザベラの顔を見て、クリードが甘く微笑む。


(ああ、もうだめかも)


 こんなに甘い言葉と笑みを向けられて、どうすれば何も感じずにいられるのだろう。

 彼氏の振りなどしなくても、もはや自分の恋心は引き返せないところまできていると、イザベラは実感する。

 


「諦めなさい、イザベラ」


 すべてを察した顔のチコルに肩を叩かれ、イザベラは奪うように掴んだドレスで真っ赤になった顔を隠した。


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