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パーティを引退したら、勇者様がメイド服を着て玄関に立っていました  作者: 28号
第3章:4日目のビキニアーマー

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第2話


 最後の客が名残惜しそうに店を出る頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。


「じゃあね、イザベラ」

「ロット、今日はありがとう! またお願いね!」

「うん! それじゃあリードさんもバイバイ! ゆっくり休んでね」

「ああ……」


 出ていくロットを見送るクリードは疲れ果てているが、イザベラはほくほく顔である。


「こんなにたくさん呪いを解けたの、久々だったなぁ」

「君は疲れていないのか?」

「全然。だって前は、これと同じくらいの量をあなたが持って帰ってきたじゃない」


 イザベラは黙々とパズルを解くのが好きだ。だからクリードが持ち帰る大量の品々を見るたび、心を躍らせた物である。


「ただ、やっぱり自前の呪いが多くて解呪が簡単だったのがおしいなぁ」

「あれは、自前だったのか?」

「そりゃそうでしょう。いわゆる口実よ、誰かさんに会うための」

「……な、なるほど」

 

 重い息を吐き出しながら、クリードはイザベラに恨めしそうな目を向けてくる。

 やはり女の子たちの相手をさせたことを怒っているようだ。

 

「でも、次はちゃんと断るわ」

「大量の呪いを前にして、そう言えるか?」

「わ、私だって、時にはちゃんと断れるわよ」


 押しに弱いイザベラだが、クリードが嫌なら頑張ると拳を握る。


「というか、君は嫌じゃないのか?」

「ん、なにが?」

「自分の執事が、他の女性にちやほやされていてもいいのかなと」

「ちやほやしたくなる気持ちはわかるもの。こんな素敵な人がいたら、誰だってお近づきになりたいと思うわ」

「それは、君もか?」


 急に身を乗り出され、イザベラは距離の近さに固まる。


「ま、まあ、私もあなたを素敵だとは思うけど」

「けど、ということは近づきたくないのか?」

「素敵な人を前にすると、どうすればいいかわからなくなるの。遠くから眺めるくらいがいいかなって思うし」

「だとしても、俺には近づいてほしい」


 更に距離は縮まり、イザベラはビクッと身体を震わせる。

 でもクリードは離れる気配がなく、それどころかイザベラの手まで握ってくる。


「君が遠くに行ってしまうのは嫌だ」

「い、いかないから、手を……」

「約束するまで離さない。素敵でいるのが問題なら、またあのメイド服を着たっていい」

「そ、それは、とっても困るわ」


 すでにクリードは注目の的になっている。そんな中メイド服姿で表に出たら、とんでもない騒ぎになってしまうだろう。


「遠くには行かないから、そのままでいて」

「約束だぞ」

「や、約束する」


 掴んだ手を持ち上げ、クリードは自分とイザベラの薬指を絡める。

 それは古くからナムザ王国でよく行われる、約束のまじないだ。


「絶対に、絶対だ」

「わ、わかったわよ! はい! 約束!」


 絡めた指に一瞬だけ力を入れて、イザベラは手を放す。

 ひとまず満足したのか、彼は約束の薬指を持ち上げ、満足そうに頷いていた。

 

(クリードって、実は結構寂しがり屋なのかしら)


 今までの話から想像するに、多分親しい人間が離れていくことが苦手なのだろう。

 彼の過去をすべて知るわけではないが、前に親に捨てられたと話していたこともあるし、表に出さないだけで孤独を抱えているのかもしれない。

 なのに仲間から化け物呼ばわりされ離れて行かれたら、古参であるイザベラに固執するのもわかる。


(まあ、彼が望むなら下手に距離を取るのはやめよう)


 抱えた恋心を大きくしたくない気持ちはあるが、クリードが寂しいなら離れるようなことはしたくなかった。


「とりあえず、今日はもう店じまいにしましょう。下手したら、また新しい呪いを持ってくる子が来そうだし」

「すぐに閉めよう」


 真顔で言うのがおかしくて、イザベラは笑いながら扉へと向かう。


「そういえばクリードって、女の子にちやほやされるのは好きじゃないの?」

「正直、グイグイ来られるのが苦手なんだ。好ましく思ってもらえるのはありがたいが、同じ好意を返せないことも申し訳なくなる」

「なるほど」

「あと女性が少し苦手だというのもある。小さくて華奢で、少し力を入れただけで壊れてしまいそうで怖い」

「確かに、クリードは力が強いものね」

「優しく扱えばいいと前にミゲルに言われたが、加減がわからないし、不安を抱いてまで触れたいと思えなかった」


 ただ……と、そこで彼は先ほどイザベラと繋いだ手を見る。


「君は別だ。不思議だが、イザベラに触れるときは自然と力加減もわかる」

「何でかしら?」

「絶対に傷つけないと約束したことが、無意識に働いているのかもしれないな。だから君には触れられるし、触れたいとも思う」

「……っ!?」


 一体何を言い出すんだとイザベラは慌てるが、クリードは自分がとんでもないことを言っている自覚がないらしい。


「執事として、エスコートも完璧にこなしてみせるから心配しないでくれ」


 にこやかに言い切るクリードを直視できず、イザベラは慌てて閉めようとした扉まで歩く。


(執事的な意味で触れたいって、そういうことよね)


 そうに違いないと言い聞かせながら、イザベラは扉の鍵に手を伸ばす。

 だがそのとき、突然店の扉が開いた。


「すまない、まだ店はやっているだろうか!」


 驚いて身をすくませたイザベラの前に現れたのは、旅装束に身を包んだ若い男だった。

 クリードには見劣りするが、かなりの美丈夫で身なりがいい。

 

「イザベラ=カイルナージ殿の店と聞いてはるばるやってきたのだが……」

「あ、そうですけど……」

「急で申し訳ないが、どうか解呪を頼めないだろうか?」


 イザベラの名を呼ぶその声は、ひどく恭しかった。

 多分彼は、イザベラが魔王を討伐したパーティにいたことを知っているのだろう。

 だとしたらクリードを見られるのはマズいのではと思った瞬間、イザベラの前に広い背中がそそり立つ。


「今日はもう閉店だ」

「えっ、クリード様!?」


 そして秒で、バレていた。


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