207年④白狼山の戦い
田疇と微、二人が戦争に巻き込まれる話です。
白狼山。
北方の山々を抜けた先で、【曹操】軍と【烏桓】軍がついにぶつかった。
戦場は広かった。
騎兵が駆け、馬蹄が大地を揺らす。
弓矢が飛び交い、怒号が響き渡る。
【田疇】は少し高い場所から戦場を見渡していた。
「思ったより多いな……」
【微】が呟く。
「【烏桓】の主力でしょう」
【田疇】は答えた。
「ここまで来るまでに、かなり集めたようです」
しかし、【烏桓】軍は広範囲に散っている印象を受けた。
急いで集めたのか指揮系統が混乱しているようにも見えた。
統率の取れた【曹操】軍は、その隙を突いて各所で【烏桓】軍を押し崩していった。
しかし、烏桓側にも戦況を見て動く者はいる。
「下がりましょう」
「え?」
「こちらへ来ます」
【微】の腕を取り、馬を動かす。
だが、遅かった。
烏桓騎兵の一団が、二人のいる場所へ向きを変えた。
「【田疇】殿!」
兵の声が飛ぶ。
「囲まれます!」
【田疇】は周囲を見渡した。
前にも騎兵。
左右にも騎兵。
逃げ道がない。
「【微】、私の後ろへ」
「分かってる!」
二人は馬を寄せた。
騎兵の先頭に、一人の大男がいた。
鎧をまとい、手には長い武器を持っている。
その姿を見ただけで、周囲の兵たちの顔色が変わった。
「……あれは」
【田疇】が呟く。
「【蹋頓】です」
近くの兵が答えた。
【烏桓】の大人が、自ら兵を率いている。
【蹋頓】は二人を見つけると、馬を進めた。
「おまえがあの徐無の隠居人か!
【曹操】をここまで導いたのはおまえだな!」
大声が響く。
「道を知る者から先に殺せ!」
「【微】!」
【田疇】が叫んだ。
「逃げるぞ!」
二人は馬首を返した。
だが、前方にも騎兵が回り込んでくる。
矢が飛んだ。
一本が【田疇】のすぐ横をかすめる。
「くっ……!」
【微】の馬が驚いて跳ねた。
「【微】!」
「大丈夫!」
【微】は手綱を握り直す。
しかし、次の瞬間には騎兵が目の前まで迫っていた。
【田疇】は剣を抜いた。
「ここまでか……」
その時だった。
遠くから、別の騎兵の一団が突っ込んできた。
「何だ?」
【蹋頓】が振り返る。
土煙の向こうから、曹操軍の騎兵が迫っていた。
「道を開けろ!」
先頭の将が叫ぶ。
その声とともに、騎兵隊が【烏桓】の側面へ突入した。
衝撃で隊列が崩れる。
「今だ!引くぞ!」
「ええ!」
二人は開いた隙間へ馬を走らせた。
【烏桓】騎兵が追おうとする。
だが、その前に一人の将が立ちはだかった。
長い武器を構え、馬上から敵を睨みつけている。
「【張遼】が、【張遼】が来たぞー!」
誰かが叫んだ。
【田疇】は振り返った。
「あの男が……」
「知ってるの?」
【微】が尋ねる。
「かつて天下無双と評された【呂布】に従っていた将です。今は【曹操】に従っている」
【張遼】は敵の中へ馬を進めた。
「【蹋頓】!我が軍に手を出したからには、ただでは帰さんぞ!」
その声が戦場に響く。
【蹋頓】が馬を向ける。
「ならば、お前から倒してやる!」
二人の距離が一気に縮まった。
【蹋頓】が武器を振り下ろす。
張遼はそれを受け流した。
馬がすれ違う。
すぐに張遼が馬首を返した。
【蹋頓】も振り返る。
再び二人が向き合った。
「強い……」
【微】が息を呑む。
【田疇】も黙って見ていた。
張遼の動きには迷いがない。
敵の勢いを正面から受けず、馬の動きに合わせて攻撃をかわしていく。
一方の【蹋頓】も、並の将ではなかった。
巨大な体を馬上で自在に操り、力任せに武器を振るう。
二人の戦いの周囲から、兵たちが離れていく。
誰も割って入れない。
やがて、【張遼】が一歩踏み込んだ。
「終わりだ!」
鋭い一撃が走った。
【蹋頓】の身体が大きく揺れる。
次の瞬間。
その巨体が馬上から崩れ落ちた。
【烏桓】兵の間に動揺が走った。
「【蹋頓】様が……!」
張遼は倒れた【蹋頓】を一瞥すると、すぐに周囲へ目を向けた。
「まだ終わっていない!」
張遼隊が一斉に進む。
【烏桓】の騎兵が押し返されていく。
【田疇】はその光景を見つめていた。
自分たちを追っていた敵の総大将が、目の前で討たれた。
戦場の流れが変わっていく。
「……助けてもらったね」
「そうだな」
【田疇】は前を向いた。
戦場では、まだ兵たちが激しくぶつかり合っている。
だが、【烏桓】軍の勢いは明らかに崩れ始めていた。
白狼山の戦いは、決着へ向かっている。
【微】は前を見つめた。
北へ向かうために拓いた道。
その道を越えた先で、二人は初めて本当の戦場に立った。
そして今日、命が奪われる戦というものを知った。
【田疇】は手綱を握る。
戦はまだ終わっていない。
それでも――
少なくとも二人は、生きている。
今は、それだけで十分だった。
【張遼】
白狼山の戦いに参戦した元【呂布】傘下の猛将。実は出したかったのは彼ではなく敵役。
敵役を倒すのに都合が良かったので出しただけ。
遼来来。張遼が来たぞーがやりたかっただけ。『邪魔だ(やまだ)』はやりません。
【蹋頓】
烏桓の大人。敵役。袁尚兄弟に与して、【鮮于輔】を包囲するなど敵対した。某漫画では烏人間に・・・。




