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207年③ 田疇、北方の道を切り開く

 無終を出た【曹操】軍は、北へ向かって進んでいた。


 先頭には【田疇】がいる。

 その少し後ろを【微】が馬で追っていた。


 軍勢は大きい。

 兵だけではない。

 馬も荷車もあり、食料や武具を運ぶ者たちもいる。

 道が広ければ問題はない。


 しばらく進んだところで、【田疇】は馬を止めた。


「ここからです」


 目の前には森が広がっていた。

 木々が密集し、地面には枯れ枝や倒木が重なっている。


「ここが道ですか?」


 後ろから【郭嘉】が尋ねた。


「昔は」


 【田疇】は答えた。


「今は道の跡すら、ほとんど残っていません」


 【郭嘉】は森を見渡した。


「通れるでしょうか?」

「そのままでは無理でしょう」


 【田疇】は馬から降りた。

 森の入口へ歩いていく。

 足元の地面を確かめ、木々の間を見渡す。

 しばらく歩くと、一つの場所で立ち止まった。


「ここです」

「分かるのですか?」

「地面が少し高い」


 【田疇】は足元を指した。


「昔の道は、この辺りを通っていました。雨が降っても水が溜まりにくいようになっている」


 【微】も馬を降りた。


「本当だ」


 【微】が地面に手を触れる。


「土の感じが少し違うね」

「そうだろう」


 【田疇】は頷いた。


「道がなくなっても、土地までは変わらない」


 その言葉を聞いて、【郭嘉】は少しだけ笑った。


「では、ここを拓きましょう」

「はい」


 兵たちが呼ばれた。


 木を切り、倒木を除き、道の上に積もった枝を片付けていく。

 最初はなかなか進まなかった。

 一本の木を倒すだけでも時間がかかる。

 その間にも、後ろには大軍が待っている。


「こちらは残してください!」


 【田疇】が声を上げた。


「その木は切らない方がいい。道の端が崩れます」


 兵が手を止める。


「では、こちらを」

「そこなら大丈夫です」


 別の木が切り倒される。


 【微】は少し離れた場所から、その様子を見ていた。

 【田疇】は昔の道を知っている。

 だが、それだけではない。

 どこなら馬が通れるか。

 どこなら荷車が進めるか。

 どこを切れば道が崩れないか。

 それを一つずつ見極めている。


「あなたは、道がなくても道を見つけるんだね」


 【微】が小さく言った。

 【田疇】は振り返った。


「昔の道を知っていただけだ」


 淡々と答える。

 【微】は拓かれていく森を見た。


「でも、今は誰も道だと思っていなかったよ」


 【田疇】は何も答えず、再び森へ目を向けた。

 しばらくすると、森の中に細い道が現れ始めた。


「まだ狭いですね」


 【田疇】が言う。


「軍勢を通すなら、もう少し広げる必要があります」


 兵たちは再び作業を始めた。

 木を切る。

 枝を払う。

 地面をならす。

 少しずつ道が広がっていく。


 やがて、先頭の兵が荷車を一台、森へ入れてみた。

 車輪が地面の段差を越え、木々の間をゆっくりと進んでいく。

 馬は少し警戒したが、兵に導かれて進んでいく。


「通れます」

「よし」


 【田疇】は短く答えた。

 荷車が通れる。

 それならば、軍の輜重も通せる。

 兵も馬も、ここを越えていける。

 ようやく、軍勢を進める道として使えることが確認できた。


「この幅なら、後続も通せます。ただし、荷車同士が行き違うのは難しいでしょう」


 次々と馬が続く。

 荷車も、慎重に森へ入っていく。

 道幅は決して広くない。

 それでも、軍勢が進めるだけの道にはなっていた。


 【郭嘉】が【田疇】の隣へやってくる。


「見事ですね」

「昔の道を少し戻しただけです」

「それでも、誰にでもできることではありません」


 【田疇】は森の奥を見る。


「この道は、軍が通るためだけのものではありません」

「ほう?」

「北へ出る道として使えます」


 【田疇】は言った。


「戦が終わった後も、道が残れば交易に使えます。人も荷も通れるようになれば、無終から北へ向かうのも今より楽になるでしょう」


 【郭嘉】は少し意外そうな顔をした。


「戦の先まで考えているのですか」

「戦はいつか終わりますから」


 【田疇】は淡々と答えた。


「ですが、道は残ります」


 【微】が笑った。


「あなたらしいね」

「何がだ?」

「戦が始まったばかりなのに、その後のことを考えてる」

「道を作るなら、その方がいいだろう」


 【田疇】はそう答えた。


 森を抜ける頃には、日が少し傾いていた。


 振り返ると、木々の間に新しく拓かれた道が続いている。

 その道を、【曹操】軍の軍勢が次々と進んでいく。


 【微】は馬を並べた。


「ねえ」

「何だ?」

「この道、あとで本当に交易に使えるかな」

「使えるようにする」

「戦が終わっても?」

「ああ」


 【田疇】は前を向いた。


「せっかく拓いたのだからな」


 二人はそのまま進んだ。


 森を抜けると、視界が大きく開けた。

 遠くには山々が連なっている。


 その先に、白狼山へ続く北方の地が広がっていた。


 【田疇】は馬を止めた。

 地形を確かめる。


「ここから先は、道があっても簡単ではありません」


 【郭嘉】が前を見る。


「烏桓の勢力圏ですね」

「ええ」


 【田疇】は頷いた。

 【微】も前方を見つめた。


 ここまで来れば、もう戻ることはできない。

 敵地。

 ここからは、いつ戦争に巻き込まれてもおかしくはない。

 後ろでは、拓いたばかりの道を軍勢が進んでいる。

 前には、まだ人の手がほとんど入っていない北方の大地が広がっている。

 【田疇】は手綱を握り直した。


「行きましょう」


 軍勢が再び動き始めた。


 その先にあるのは、白狼山。

 そして――戦場だった。

白狼山の進軍。

後に【曹操】はこの時の行軍が一番辛かったと振り返っている事からも、

相当な道の整備があったのではないかとも推測できます。

ちなみにここは改編が入っていて、史実では前回書いた、

『山を削り谷を掘り、水を得るために穴を掘った』とあります。


道を整備した事、烏桓が居なくなった事で

この道を使って鮮卑が移住し、部族を作ったが本作の裏解釈になります。

その移動した部族が後の段部鮮卑と慕容部鮮卑と言う扱い。


本人にその意図は無くとも、【田疇】が五胡十六国を早めたと言う解釈です。

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