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4.ある従軍騎士の回想

 王国が保有する軍事力の一つ、荒鷲騎士団は、2年に渡って続いた東部戦役の実質上の主戦力である。この荒鷲騎士団の中にあって10人隊隊長を務めるベック・サルモンは、聖女ファリィという少女について格別な思い入れがあった。

 散発的な戦闘行為が続いた2年の東部戦役の中で、ベックと聖女の間に特別な関係があったわけではない。それどころか2年間の間にベックが彼女と言葉を交わしたのは僅か数回程度しかない。

 それでもベックにとって、聖女ファリィという少女は特別なのである。




 折からの天候不順のあおりを受けてここ数年の麦は不作が続いている。なかでも特に被害の大きかった東の国境沿いで東部諸国連合の武装勢力が活発化してきているという話はベックの耳にも入ってきていた。山あいの貧相な土地に囲まれた東部諸国は冷害の影響も大きく、彼らはいつにも増して飢えているということで、蛮族を装って村々を襲う集団が、実際には正規の訓練を受けた東部諸国の軍隊であろうことは公然の秘密であった。


 もともと妙に手癖が悪いのが東側諸国の連中である。騎士団内部では東部の奴らの鼻っ面を叩くべしという意見は昔から根強かったが、政治的な理由から今までは見過ごされてきていた。

 ところが今回は少々おいたが過ぎた。いくら凶作が続いたからといって、彼らの無法は目に余るものがあった。東を治めるマルタ侯爵の領都アムラの目と鼻の先の町まで奴らが荒らしにきたという一報が届くにあたり、これで一挙に戦争の機運が高まったのである。

 むろん、マルタ侯爵は優れた領軍を持ってはいるが、領の防衛だけでなく東部諸国への逆侵攻まで視野に入れると国軍を動かす必要がある。

 なにより侯爵には国境線を書き換える権限はない。奴らの土地を蹂躙し、奪い取るには国の許可がいる。

 積年の恨みもあるマルタ侯爵は改めて正式に王国へ救援の報を送り、呼応した軍閥貴族が王へ直談判する一幕もあり、2年前、ついに出兵の命が下された。



 そんな中、ここ最近王族に取り入るのが熱心な教会勢力が一枚噛ませてほしいと話を持ち掛けてきた。

 それが聖女の随行である。


 当時すでに聖女はそれなりに評判ではあったが、彼女の力は王侯貴族のみなのなかでは、例えば婦女の美容健康だとか、幼子のけがや病気だとか、老人のくたびれた身体の癒しだとか、こういったものに使われるものだと認識されていた。

 まつりごとを取り仕切る働き盛りの貴族どもからは軽んじられていたのである。これは教会勢力にとっては大きな誤算であった。女子供や老人はあくまで政治の中枢には立てぬ。だからいくら教会が聖女を貴族街に派遣してもどうしても決め手に欠ける。

 王国の権力へ食い込めない教会上層部が目をつけたのが軍閥貴族どもであったようである。

 彼らは戦争を有利に働かせることが出来ると聖女を熱心に売り込み、何度か騎士団の鍛錬所に聖女を連れてきて、怪我をしたもの等に癒しの奇跡を施すデモンストレーションなどをしてみせたから、乗り気になった騎士団上層部はこれを受け入れた。



 さて、一方でベック・サルモンを始めとする現場の騎士たちの間では、聖女に対しては懐疑的なものが多かった。騎士団にはお抱えの治療術師がすでに大勢いる。今さら教会紐付きの聖女などを押し付けられても困る。

 反発するものが大勢いる中、聖女の素晴らしさを皆にアピールしたのが、ほかならぬベック・サルモンであった。

 ベックは個人的な伝手から聖女の事をよく知っていたからである。


 これにはちょっとした経緯がある。

 もともとベックは伯爵家の三男坊であった。自身は爵位とは無縁の立場にあったが、好きな剣で身を立てる事となったベックは一代限りの騎士爵を拝命し、裕福な商家の娘を嫁にもらい市民街にてそれなりの暮らしをしている。すっかり庶民的な暮らしが板についたベックではあるものの、とはいえ騎士団の駐屯所と実家はそれほど離れていないから伯爵家の屋敷に寄る機会も多い。騎士団内の政治が門閥貴族どもの事情と重なるところも多いため、十人隊隊長となったベックはそのあたりの情報を仕入れる必要が出てきたため、最近は実家に顔を出すようになったのだ。


 そうすると社交界の面白話も耳にする事になる。爵位を継いだ兄貴の嫁さんは話好きの人で、この義姉が数年前から社交界で可愛らしい小さな聖女が人気である話をペラペラと喋るものだから、なんとなく覚えてしまった。


 曰く、感情の起伏に乏しく能面のような表情ながら見目は愛くるしい顔立ちで、社交界でもあまり目にすることがないダボッとした聖職者の白いローブを引きずるようにしてやってきて、ちょっとびっくりするくらい効果の高い癒しの術を皆に振りまいてゆくのだとか。

 愛想は悪いし喋り口調もぶっきらぼうだが、意外と気遣いの出来る子供で、手足のしびれにはこれがいいとか、腰を傷めないようにするちょっとした運動だとか、そんな事をあれこれ教えてくれるらしい。


 それで、ある御婦人が王国では珍しい桔梗の花を摘んでこの娘の頭に差してやったところ、可愛らしい少女の銀髪に青い花弁がよく生えて愛らしい見目となったため、桔梗の聖女などとあだ名され一躍時の人となったそうである。


 まあこのあたりの話はベックにはどうでもよい事ではあったが、そんなベックでも生涯忘れられない思い出となっているのが、嫁さんの最初の子供が難産した時の一件である。


 生まれてくる子供が逆子である事が分かり、破瓜が始まってから半日以上もベッドの上でのたうち回るばかりの妻の様子に動揺するばかりのベック。そんな頼りないベックに代わり聖女ファリィを遣わしてくれたのが伯爵夫人である義姉であり、教会への莫大な寄付金を用意してくれたのが妻の実家の商家であった。


 そうして押っ取り刀で駆けつけてくれた救世主こそが、かの聖女ファリィであった。

 聖女は、嫁さんの容態を目にするなりテキパキと動き、ベックの見ている前で彼女の腹を掻っ捌いて子供を取り上げると、そのまま聖句とともに唯一無二といってもいい強力な癒しの術を施し、母子ともに万全な状態にしてみせてくれた。

 その上ついでとばかりに、半狂乱の妻に掴まれおかしな方向に折れ曲がってしまっていたベックの指まで直してくれた。

 その荒っぽいやり口に産婆が怒鳴り声を上げて非難していたが、涼しい顔の聖女がにっこりと微笑みながら「素人は黙ってろ」と言ってのけた瞬間に、思わずベックは彼女の足元に跪いた。


 こうしてベックは聖女の熱心な信奉者となり、義姉の聞きつけてくる社交界の聖女伝説を楽しみにするようになっていた。



 だからベックは、東部戦役に聖女が同行する話を聞きつけるに我が事のように喜び、同僚たちに熱心に説いて回ったのだ。

 彼女は素晴らしい聖女だ。みなの助けになる優秀な少女だ。


 ベックの熱心な布教活動が功を奏したか、出立の折には多くのものが聖女に何かを期待する雰囲気が出来上がっていた。

 だがそんなベックの熱心な草の根的ファン活動は、最悪に近い形で裏切られることになった。


 最初の小規模戦闘が起こり、重傷を負ったベックの部下が陣地に担ぎ込まれる折に、ベックは彼に「大丈夫だ! 聖女が必ず助けてくれるぞ!」と強い口調で励ました。

 若い部下は涙目ながらも何度もうなずき、痛みをこらえ彼女を待ち続けて、そして聖女は結局やってこなかった。

 部下は一命をとりとめたが戦闘に影響をきたす後遺症が残り、そのまま傷病による除隊処分を受け王都へと帰っていった。


 どういうことだとベックは上官に怒鳴りこみにいった。俺が知るかと怒鳴り返された。


 ベックの部下が利き手を失いうめき声を押し殺していたあの夜、彼女はどこで何をしていたか? 

 後から事情を聴いたベックは愕然となった。

 なんと彼女は後方に設置された幕僚どもの作戦会議室で、将軍の肩をもみほぐしていたそうである。それも無駄に優れた癒しの術を用いて。すっかり方が軽くなった将軍閣下はいたくご満悦だったそうだ。死んでしまえ!


 結局のところ、聖女に付随した教会の司祭どもがくせ者であった。彼らはとかく一部のものに取り入る事に熱心で、将軍や参謀官であったりとか、あるいは督戦部隊や諜報部員など、より権力に近しいものばかりに聖女を宛がおうとしたのである。


 他の隊でも似たようなことが続けて起き、最初のうちベックは彼らに恨まれた。なにせ聖女を皆に押したのはベックだったのだ。ベックは恥ずかしくなり、義憤に駆られ聖女に直談判をしに行った。


 聖女ファリィはベックの事を覚えてくれていた。

「お久しぶりです。」ぺこりと小さく頭を下げるファリィに、ベックは疑問をぶつけた。

「なぜあなたは傷ついたみなをその力で癒そうとしないのか。」

 問われた聖女は所在なさげにこうべを垂れると、伏し目がちにこう返答する。

「わたしの力は本当に特別なものですから、個人の勝手な判断で自由にふるまってはならないものです。

 責任のある方々がよく考えて使い道を決めなければなりません。

 もしこれが守られなくなってしまえば、統制の取れない身勝手な力が客観性のないまま野放図に振舞われ、善悪の判断がつかなくなってしまいます。

 例えばそう、わたしがただ可哀想だからという理由で敵兵まで癒して回ったとしたらどうでしょう? わたしにはそれだけの力がありますし、敵であるはずの彼らが苦しむ姿を目にすることも心苦しいのです。

 けれどもそれを為しては聖女の在り様は変わってしまい、わたしは稀代の悪女に成り下がるでしょう。

 わたしはこの力を勝手に使う訳には行かないのです。それは聖女が聖女であるために必要な大切な決まり事なのです。

 どうか理解頂けないでしょうか。とても強い力は然るべき立場のものが使い道を考えねばならないのです。そして私には立場がないのです。

 申し訳ありません。」


 ベックは返す言葉がなかった。

 何故なら聖女の語る内容は、ベックにとってとても耳の痛い話だったからだ。ベックの所属する荒鷲騎士団は王都ではそれなりに規律の取れた優秀な軍団だと高く評価されていたが、それでも東部戦役ではみな略奪をほしいままにした。

 講和も視野に入れてなるべく無用な諍いを増やしてほしくない上層部の言う事を無視して、騎士も従士も勝手に奪い、犯し、殺そうとするのだ。

 ベック達騎士団員は団からかなりの俸禄をもらっている。昔と違って今は兵站も含め全て軍が持ってくれている。持参金などなくとも戦争が出来るのに、大昔からのしきたりが当り前になってしまっている団員達が暴走するのだ。


 奪って当然。だって親父や爺さんの代にはみんなそうしてたんだろ?


 いつの時代の話だ! ベックは怒りに脳味噌が沸騰しそうになったが、けれども反論は出来なかった。

 ベックも一介の平騎士であった最初は同じように考えていたのだ。

 それが十人隊隊長に収まってからは上の命令の重要性を痛いほど理解させられるようになったが、現場の和を乱したくないベックはついつい部下の不正を見逃してしまう。


 聖女の心持ちはとても正しい。軍隊は規律があるから正当性を主張できるのだ。それが野放図に勝手をしまくっていてはどちらが蛮族だか分からないではないか。

 翻って見て他の隊や自分の部下たちのふがいなさには胸が痛む。上官たちの身勝手さにも憤りを覚える。

 けれどもこの問題を何とかするには自分が聖女にお願いをすべきではない。

 正規の手順を踏み上申する必要があるのに、ベックは上司には何も言えなかった。それでみっともなくも聖女に直接お願いなどしに来ているのだ。

 一番情けないのは自分自身ではないか!

 それでベックは聖女に対しても何も言えなくなってしまい、それでこの話はうやむやになってしまった。


 それでベックしばらくの間、騎士団の皆の中にあって肩身の狭い思いをしたのだが、それもいつしかなくなってしまった。立場の悪いベックは人一倍働いたため、次第にみなも悪くは言わなくなっていったのだった。

 死と隣り合わせの危険な職場で、粉骨砕身働く男を悪く思う同僚などいない。ベックは彼らに許されたのだ。

 それにそもそも通常のいくさであれば聖女などいないから、いつも通りの戦争なのだと割り切ってしまえばそれでお終いだった。


 戦場には不釣り合いな美しい容姿の可憐な少女。あれは将軍たちが連れまわしている高級娼婦の類なのだ。ただの飾りなのだから放っておけばよい。

 聖女はみなの嘲笑の的となった。


 ベックは聖女が馬鹿にされるのを見聞きするにつれ、どういう訳だかとても心が痛んだ。けれども面と向かってみなと争うことはなかった。毎日肩を並べて戦う同僚たちと心を違えるわけにはいかないと自分自身に言い訳をして、ベックは彼らに日寄ったのだった。


 そんなベックだが、一つだけ胸のすくことがあった。

 聖女の取り巻きみたいないけ好かないえらそうな司祭どもが、何を思ったか最前線の様子が見たいなどと世迷言をのたまい、のこのことベック達のもとにやってきた。

 聖職者という人種にとって戦場とは物見遊山の観光地に見えるらしい。


 丁度同じタイミングで敵の騎士団が小規模な戦闘行為を仕掛けてきたので、ベックはこれ幸いとばかりにこの司祭共の手足を切りつけて動けなくさせてから、奴らの前に置き去りにしてやった。


 貴様らがふがいないからオレたちが聖女の恩恵を得られないではないか!

 戦場で傷ついてみろ! 本来なら聖女が助けてくれるはずなのだろ?

 聖女はどこにいる? ほら! 聖女に助けを求めてみろ!

 聖女は決してここには来ないぞ! 貴様らがこうなるように仕向けたのだ!


 ざまあ見ろ!


 聖職者共はのたうち回り、敵の兵どもに囲まれ、めった刺しにされむごたらしく死んでいった。

 ベック達はすこし離れた場所からその様子を最後まで面白おかしく眺めつつ、みんなで彼らにヤジを贈った。


「オレ達には聖女がついているぞ! 聖女が助けてくれるぞ! そら頑張れ! もっと頑張れ!」


 おかげさまでウザい司祭どもはいなくなったものの、けれどもその後の聖女の扱いが変わることはなかった。

 このころには聖女の力に味を占めた将軍たちが彼女を自分のそばに置きたがったからである。

 それでもまあ、ベック達の心は晴れたから聖職者共も多少なりとも使い道があったということだ。

 けれども本当にそれくらい。


 後は無駄に長い2年が終わり、対して旨味もない山岳地帯の一部地域が王国の領土に組み込まれ、戦争は無事に終結、ベック達荒鷲騎士団の多くのものは生きて王都に戻ることが出来た。


 帰るころには聖女の事など末端の兵士たちはみな忘れていた。




 その後の聖女の解任劇や王宮内のちょっとしたごたごたも、王都に住まう多くの人間にとっては所詮他人事だ。

 聖女のいなくなった王都は、実のところ以前とそれほど大きな変わりはない。


 噂好きの義姉の話では、社交界の新たな流行は愚かな第二王子とその婚約者マリア嬢の醜聞劇だそうだ。マリア嬢は教会に聖女認定されて随分と偉そうにふるまっていたそうなのだが、本物の聖女であったファリィという娘に比べれば彼女の癒しの力はほとんどないに等しく、みんなから大いに馬鹿にされまくっているそうである。

 教会は更に続けて第二、第三の聖女認定を金で貴族婦女にばらまこうなどと画策していたそうだが、マリア嬢のあまりの醜態にこれは頓挫し、今や王国内では教会勢力を排除する動きすら芽生え始めている。


 彼らは失敗したのだ。


 教会は商人ではない。だから『聖女』という素材をいかに高く売りつけるかを失敗したのだとベックは思う。ベックの嫁さんの実家はそれなりに名の知れた商家だから、教会の連中のやり口については笑い話の種となった。

 義父の見立てでは、最初の聖女、あの不愛想だが可愛らしいファリィという娘を出し惜しみするのではなかったのだそうだ。彼らはもっと安価に癒しを振舞い、大々的に宣伝するべきであったのだと言う。

 教会は聖女の奇跡の値段を高くしすぎたため、殆どのものはその恩恵にあずかることが出来なかった。だからそのありがたみもほとんど伝わらなかった。彼女がいなくなってもそれほど大きな騒ぎにならなかったのは、王都に住まう貴族のほとんどにとっては関係のない出来事だったからである。

 聖女ファリィはあっという間に忘れ去られ、今では思い返す人もほとんどいない。



 けれどもベックにとっては聖女は未だに特別な少女だ。むしろ2年の従軍を経てより高まったといっても過言ではない。


 ベックが思うにファリィという少女は所詮は教会に所属する一人の俗人であり、与えられた立場の中で職務を全うしようと努力しただけのただの人であった。


 しかしてベックは思うのだ。

 ベックの妻と子供は聖女がいなければ今頃はもうこの世にはいなかった可能性が高い。

 彼女は本物の聖女で、名高い産婆すらも匙を投げた母子を見事な奇跡で救ってみせてくれたのだ。あの素晴らしい力は本物だった。

 そしてそれほどの奇跡を、あの少女はまるで片手間であるかのように事も無げに簡単に為してみせた。


 であれば、本来聖女というものはもっと別種の扱いを受けるべき人物であったのではないか?

 怪我や病に苦しむ大勢の人々を救い、人々を導き、世界に安寧をもたらす。

 本来はそういった特別な存在であるべき人物なのではなかろうか?


 それがどういう訳だか教会やら王侯貴族やらの政治に利用され、不当に小さく扱われ、本来あるべき力を制限されていたのであれば、それはとても悲しい話である。



――あたし! 聖女辞めます!



 聖なる言葉を用いて世界的に鳴り響いたよく知る少女のハキハキとした語り口にベックは胸のすくような思いがした。

 あの日のベックは長い遠征から戻ってきたばかりで、久々の再開となった最愛の妻と可愛らしい子供を前に、生きて帰ってこれた喜びをかみしめている最中であった。

 上官たちが王城に呼ばれて面倒な報告につき合わされている話は聞いていたが、下士官であるベックには関係のない事であった。


 それが唐突に脳に響く特別な言葉が届けられ、目の前にいる嫁さんがぽかんと口を開けて呆けた表情になるなか、ベックは彼女に喝采を送った。



 おめでとう!



 彼女は俗世の下らぬ欲望の道具から自ら解放されることを選んだのだ。

 本来はそれだけの力も地位もあったはずの女性が、ようやっと己が身上に見合う立場を選んだのだ。


 かつての聖女は聖女であろうとするがゆえに、愚かな教会勢力や強欲な王侯貴族に利用されるままとなり、結果として悪評を一身に受ける立場に落とし込まれた。

 そんな彼女がすべてを捨てて逃げ出したのはとても良い事なのだ。

 彼女は王国には勿体ない人材であった。そんな彼女が逃げた先で新しい人生を生きることが出来るのならばこんなに喜ばしい事はない。

 世界のいずことも知らぬ土地で、あの不愛想だが心優しい美しい少女が自由に羽ばたいている様を想像するにつれ、ベックは心優しい気持ちになるのである。



 ベックはすっかり大きくなった子供の寝顔を前にときおり聖女の事を思い返す。

 そしてそんな夜には妻と二人で聖女についての話をする。妻もベックと同じく聖女には特別な思いを抱く一人で、夫婦は揃って彼女の思い出話に花を咲かせるのだ。


 そんなサルモン夫妻の日常も包みこみ、今日も王都はいつもと変わらぬ時を刻み続けている。



 どうか願わくば、あの素晴らしい少女の未来に幸多からんことを!



とりあえず事前に準備していた分はここまでなので、毎日投稿は終わりです。

それにしてもここまでで3万字以上あるのだが、最近の「なろう」の流行りではこれを一話2000~4000字くらいにして10話以上に分けて投稿するのが主流になってて「うーん……」と思ったりもする。

ユニークは稼げなくともアクセス数自体は増えるし、読み手側はショートショートを連続して読むほうがストレスが少なく感じるんでその方が★を稼げる……とか、まあなんかあるんでしょうね。

皆さん涙ぐましい努力ですごいなーと他人事のように思ったりして。


私はよく分かんないので切りのいいとこで分けて4話分にしかならないわけですが、これだと活字慣れしてない読者さんには読みづれぇんだろうなとは思ったりもします。


あ、そうだ。

せっかくなんで今まで一度も書いた事のないアレ、試しに最後入れてみたいと思います。


ここまで読んで少しでも面白いと思ってくれた方おりましたら評価の★マーク一個でもつけてくれると励みになりますんでよろしくお願いしますー。


ポイントクレクレってみっともないって言ってる人の気持ちもよく分かるし、いやいや書き手の努力の一つでしょと言っている人の意見もよく分かる。そもそも不自然なポイント操作につながる発言は控えるべきでは? というスタンスは大切だと思うけど、承認欲求が満たされることが執筆意欲と直結しがちな人間心理ってどうしてもあるので、★を欲しがるのもまあ当然のことだとも理解しております。


そんな中、私は基本的には「オレは好きで書いているだけの自分勝手でわがままな書き手なんだからポイント欲しがるのはちょっとちげぇ立場だろ」と思ってますけど、「この話、続き書くかどうか微妙だなぁ、読みたいって人がもうちょっといるんだったら書いてみようかなー」って感じの時に「★つけてくれたら続き書きまっせ―」というスタンスを表明するのはアリかなぁと思いました。


まあ軽い気持ちで一回書いてみて、めっちゃ嫌な顔されたら平謝りしつつこの後書きそっこーで消してお茶を濁す予定であります。


なんか後書き部分だけでちょっとしたエッセイのノリで長々書いちゃってますけど、そんなわけでよければ★一つでもつけてってくださいまーしー。


ではでは。

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[一言] やさぐれてても、すけさん作品の中ではトップクラスに聖女なのでは?
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