193話目 両親と晩餐
両親帰国編、今話で終了!
妻と娘達が仲睦まじく料理をしている光景を見ながら、敏郎はふと、疑問を口にした。
「とても立派な肉だったけど……あれって、何の肉なんだろう?」
「何だろうねぇ?ま、どんなモンスターの肉だとしても、おね~ちゃんが料理すれば美味しくなるし、安全だから大丈夫だってば。もしかしてパパりん、爬虫類とかだったら嫌な人?」
「い、いや?ソンナコトナイヨ?梓ちゃんこそどうなのさ?」
「私は全然平気だけど?実際あっちで色々食べちゃってるし……こないだ食べたティラノさんの尻尾肉のお刺身なんて極上だったよ!」
「ティラノ……え!?恐竜!?恐竜なんている世界なの?とんでもなく危険な世界じゃない!」
大事な娘達を、そんな危険な世界になんて行かせられないよ!とでも言わんばかりに取り乱す敏郎を横目にしながら、梓はキッチンで実鳥にじゃれながら料理を手伝うガルミアを指差した。
「ガルみぃちゃん。ティラノさん級の肉食獣を素手で屠れちゃったりするんだけど?」
続けてネフェを指差し。
「ネフェちゃんも大猪を一人で仕留めちゃったりするんだよね。強いよ~二人とも。パパりんじゃあ、千人束になっても敵わないよ~」
「い、家の中の方がデンジャラス!?……よく、皆平気で一緒にいられるなぁ……」
そこで梓は得意気に自慢げに語った。
「そりゃまあ、あの二人が万人単位で束になっても、けんちゃんには勝てませんので!」
「息子の戦闘力が計り知れない!え?私の千人分の二倍……そこから万倍……私は剣の二千万分の一以下なのか!?」
「パパりんが戦闘力5のゴミだとして、軽く見積もって一億かな?戦闘力二万もあれば地球を破壊できる世界観じゃなくて、本当に良かったよね~」
「……その内、夜空から月が消えたら犯人は剣だと疑わざるを得ない……」
「まあ、けんちゃんなら不可能じゃないかもね~。でも、気紛れでそんな自然破壊したりはしないわよぉ~。もしそんなことがあったら、月に悪い宇宙人が地球侵略の前線基地を築いていたりした場合だけだよきっと!」
「梓ちゃん、フラグっぽいからヤメテ……」
一方、そんな会話が流れ聞こえてくるキッチンでは、美鈴の顔から血の気が引いていた。
「光さん……梓さんが言ってるのって……」
「美味しいですよね尻尾の肉って。高名な美食家の先生も、鯨の刺身は尻尾が一番美味いって言ってましたし。やっぱり、頻繁に運動する部分って肉質が良くなるんですよね~」
「ろ、論点そこじゃありません~!恐竜肉なんて、地球上全部探しても食べる文化圏存在しませんから!私達が食べて、本当に体質的に問題無いって言えるの~?」
「大丈夫ですよ。異世界に行ったことで目覚めちゃった料理スキルの恩恵なのか、食材を見ただけで人体に有害な成分がどの程度含まれているか大体判るようになっちゃいましたし、料理と食べる人を同時に見ることでアレルギーがあるかもなんとなく。だから問題ありません!」
「そ、そうなの……?でも、ビジュアル的にね。食欲沸かないのだけれど。ねえ、実鳥は平気なの?」
馴染みの無い食文化に挑戦する勇気が出ない美鈴は実の娘に同意を求めた。しかし、それは大間違いであった!
「私?前世で食べてたの思い出したから全然平気……どころか、剣にぶっ刺して焼いて味付けせずに食べてただけだったから、その頃に比べれば平気どころの話じゃないかな……いい意味で」
「前世が戦闘民族ばりに豪快だわ!……小町ちゃんはどうなの?」
「料理された状態での見た目と味に問題なければ別に。でもまあ、気持ちは判ります。初めて恐竜肉を持ち帰られた時には私だって面食らいましたから……。ジビエにしたって鹿や熊と同列に扱うべきか判断に迷いますし」
「……鹿や熊なら平気と言ってのける日本人小学生、そうはいないと思うのだけど。……食べず嫌いするのも燕の教育によくないし、食べてみるしかないみたいね……」
暗~い顔で悲壮な決意を固める美鈴。恐竜肉を平然と受け入れてしまっている娘達のワイルドさが、無性に羨ましかった……。
その日、ガルミアを招いての聖家の夕食は、光が本気を出して調理に勤しんだ結果……質も量も種類も豊富になってしまったので立食形式となった。
唐揚げ・串カツ・煮込みハンバーグシチュー・青椒肉絲・焼売・ミートソースグラタン・マリネ・たたき・肉じゃが……等が食卓を彩っていた。全て、恐竜肉料理である。そして、
「はい!本日のメインはこれ!」
光が宅の中心に置いたのは、香ばしく焼き上げられた、表面に塩と胡椒を纏った肉塊。ホテルのディナーブッフェなんかでシェフが客の目の前で切り分けてくれそうなアレであった。
豪勢にして豪快な肉料理の定番であるソレの登場に、姉妹達は揃って歓声を上げて拍手で迎えたのだった。
「立食形式のメインといったらコレよね!ロースト……ロースト……ザウルス?ダイナソー?……剣、これ、なんて恐竜かしら?」
光の料理スキルでは、食材の安全性や鮮度・質までは解っても、食材の名前は判別不能なのであった。
「えっと……地球だとトリケラトプスになるかな?角が三本あったし。今日の肉、全部それだから」
本日のメインは、ローストトリケラだった!トリケラフルコースだ!早速皆で声を揃えて「いただきます!」した。
「光お姉さん、早く!早く取り分けて欲しいのです!先ずはシンプルな味付けで楽しみたいのです!厚めでお願いします!」
「ネフェちゃん慌てないの!たっぷりある……わよね?」
食い気味なネフェに、料理が足りるかどうか不安になってしまう光。沢山用意したつもりではあるが、ネフェは本日狩りをしてきて、聖夫妻に初対面もしてハイテンションになっている。その勢いが食欲に転化されたらと考え、光は少し自信がなくなったりしていた。
「労働の後の食事、格別!」
「自分で狩った獲物だから余計に」
「……翼ちゃんと希ちゃんが狩ったの?トリケラトプスを!?」
高校生として(胸以外)小柄な双子が、巨大なイメージのあるトリケラトプスを狩ったと聞いて、パパは思わず箸を落とした。それを見て、引率していた剣が苦笑した。
「お前らな、派手にやり過ぎだっての。十頭以上の群れを歌唱魔法で一斉に眠らせちまうんだから。そして昏倒させた隙に首とか足の付け根の血管切り裂いて……ティーグルさん笑いながら泣いてたぞ?」
双子の指導官も担当してのはティーグルであった。本来睡眠魔法等の神経作用系の魔法は警戒心が強い相手には効果が薄い。食用として狩られる事が多い野生の草食動物等には特に。しかし、双子には天性の〝動物に好かれる〟特性持ちであるが為、トリケラさん達は警戒心を一切抱かなかった。故に、ティーグルは見てしまったのだ……双子の子守唄を聴いて、バタバタと倒れてゆくトリケラトプスの群れを……。
「それ言ったら、おに~ちゃん達が付き添ってた時点で胃が痛そうな顔してた」
「しっかり下地を作っておいて白々しい」
「いや、だから控え目にやれって言ったんじゃんかよ……」
「……そのティーグルさんとやらに、パパはとても同情を禁じ得ないよ……でも、トリケラの唐揚げビールに合うなあ……」
今日はもう酔ってしまって、考えるのは明日に先送りしようと、敏郎は逃避行動に走るのであった……。
「ティラノは鶏肉に近い感じだったけど……トリケラは牛肉寄りかな?やっぱり草食だからなのかな?……こんな感想言ってる自分が恐いわ……」
すっかり非日常に染まってしまった自分の思考に自虐するしかない小町。それでも、〝全ての食材に罪は無し〟の家訓(光が制定)に従い、しっかり味わっていた。
「小町たま。恐竜肉の料理にも慣れたものでありますな!」
「……まあ、美味しいから。野生な天然食材だし、光姉さんが安全性を確約してくれてるしね。こんなの、ワニだと思えばなんでもないわよ。結局グロいかどうかなんて、慣れでしかないんだし」
「そうでありますな!食文化の否定こそ野蛮でありますから!」
「ただ……コレの値段、いや価値を考えると、正直食べちゃっていいのかな?とも思ったりする」
「新鮮な恐竜のDNAですからな。百グラムに億単位の金を出してでも欲しがる生物学者とか……いるのでありましょうなあ……」
「今日の夕食って、人によっては金銀財宝の山……なのかもしれないと思うと、贅沢してるよね」
「生きた恐竜なんて持って帰って来たら、幾らになってしまうのやら……で、あります」
「だからフラグはやめようって……野良恐竜の子供とか、可愛くっても拾っちゃ駄目だからね!」
「それこそ……フリですな?」
「違うよ!ガチな方だよ!心底フラグを叩き折りたいんだよ!平穏な生活をさせてってば!」
「見事にボケとツッコミしてんなぁ……でも、確かに値段なんて付けらんねぇメシだよな。多分、アタシの一生分の稼ぎでも足らねぇだろうと思うと……おっかねぇわ」
桜と小町の姉妹漫才を眺めつつ遥が嘯く。
「桜ちゃんが言うところの〝異世界あるある〟かな?生態系の違いや文明の方向性の違いによって生じた価値観の格差を商売に利用する……みたいな?恐竜なんて絶滅動物だし……魔獣なんてもっと……」
「実鳥……お母さん、娘が目先の欲に目が眩んじゃうように育って欲しくはないわ……」
「や、やらないってば!ただ……ガルミア達が活動するのに役に立つものを考えてみただけで……」
「ママ!それなら私、プラスチックの道具が欲しいな!軽くて堅くて落としても割れない!こんな材質、エルヴィアスじゃ見たこともない!」
美鈴とその実子三人。そしてガルミアを含めた五人はリビングのカーペットの上で寛ぎながら談笑していた。
「ルミねぇ、てれびは?」
「う~ん……凄い道具ではあるのだけど、電気がなぁ……それにテレビ局?とやらもあっちには無いから……電気を魔法でどうにかできても、何も写らない板でしかない……」
「なら、のーとぱそこんにだうんろーどしてけばいいの!」
「エルヴィアスにんなモン持ち込んだら、マジでオーパーツだな」
「まあ、ガルミア達が仲間内で使うだけなら問題無い?それよりも実用的な物の方が……医薬品とかどうかな?こっちの包帯とかガーゼなんて質がいいし」
「そういや、治癒魔法使える奴って少ないんだよな?あまり無茶すんじゃねぇぞ?」
「それなら大丈夫!今は慌てなきゃならない理由が無いからな!ただ……他の国から傭兵や冒険者が流入し始めている情報もあるから警戒はしてなきゃならないが」
「それって、どういった事情なのかしら?」
話題に着いていけない美鈴が口を挟んだ。
「グランマ。その話は長くなるけど……いい?」
美鈴が頷くと、ガルミアは話した。これまでの半生を。
ヴェルティエに拾われて幸福だった幼女時代。
突然全てを失って、一人荒野に放り出されてからの孤独な数年間。
復讐の為に訪れたリーイース王国で奴隷となっていた魔族を解放して反抗組織を結成。
そして、保存されていたヴェルティエの遺体が魔術儀式の触媒として使われる情報を掴み、奪還すべく作戦を決行し――
「結局、最後は聖剣さんの世話になってしまったのですが……グランマ!?」
「ご、ごめんなさい……そんな苦労をしていたなんて知らなかったから……」
美鈴は涙ぐんでいた。実鳥と遥が、そして義娘達がガルミアを受け入れている理由を知り、何より自分が、不可思議な縁で結ばれた〝孫〟を、本当に不憫に想い、向けてくれる真っ直ぐな愛情に応えたいと、愛おしいと感じてしまったから。
「ガルミアさん……娘共々、末長くよろしくお願いします」
「?えっと……はい!よろしくグランマ!」
まるで、プロポーズの返答みたいな美鈴の挨拶であったが、誰も茶化すことはなかった。
聖家にまた一つ、かけがえの無い絆が生まれたのであった。
この後、敏郎を除く全員で残りのトリケラ肉をチタタプしました。
輪切り尻尾肉の剣刺し焼きは憧れ。お坊ちゃんが野生で逞しく成長した証しですね!
月消滅も含めてDBが元ネタです。じっちゃんが月を吹っ飛ばした時の戦闘力っどんくらいだったんだろうか?
さあ、次回からはコスプレ祭だ!




