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191話目 両親の驚愕

少しマジメなお話だったり……

「お母さん……驚かせちゃって、ごめんね。その……そんなに心配してくれていたなんて思ってなくて」


「ええ……私の方こそ失神なんてしちゃってごめんなさい。でも、渡航前の実鳥とあまりにもギャップがあったものだから……その、異世界?とかで、どんな人生観変わっちゃう経験したのかと……」


美鈴は顔に手を添えて不安そうに憂いている。実鳥はかつて、美鈴と遥以外に心を閉ざしていたこともあったり、未だ義理の父親である敏郎にも余所余所しい態度で接しているぐらい、大人の男性が苦手なのである。そう認識していた美鈴にとって、日本最大のサブカルチャーイベントに参加……しかもコスプレでとあれば、メインの参加層である大勢の濃い目の紳士の視線に晒されるのは必定。心配で気が遠くなるのは無理からぬことであった。


「うん……ちゃんと説明しないとだよね。お母さん……それに、お義父さん……先ずは説明の前に……ごめんなさい!異世界召喚の原因、殆ど私なんです!皆を、とんでもない危険に巻き込んでしまいました!」


実鳥は床に正座して、手を着き、敏郎と美鈴に深々と頭を下げた。当然、両親は困惑する。目立ちたがりの姉妹が多い中、引っ込み思案で大人しいごく普通の少女である筈の実鳥が、空想的異常事態の原因だなどと言われても、とても理解が追い付かないのが道理である。


それからの実鳥の説明にも、両親は戸惑うばかりであった。


やれ、異世界の勇者の生まれ変わりであったり。


その前世で義娘を人質にされてリンチされた挙げ句に自殺したり。


その遺体を召喚術式の媒体とされてしまったり。


その為、偶々近くにいた姉妹全員が強制的な召喚に巻き込まれてしまった……等々。


事件の発端を説明され、敏郎は歯を食い縛るように黙考し、美鈴は尚も困惑していた。


「まるで、桜ちゃんが好きそうな物語の導入を聞いたような気分なんだけど……実鳥の口から説明されると、絵空事だとは思えないのよねぇ……でも、それが真実だろうとなんであろうと……」


美鈴は膝枕で眠っている燕を優しくソファーに寝かせると、実鳥を包み込むように抱き締めた。


「大変な思いをしたのだけは、確かよね。ごめんなさい実鳥。お母さん、また、貴女が辛い思いをしているときに、傍にいなくって……」


美鈴は前夫の暴力によって実鳥が生死の境をさ迷う程の大怪我を負い、一生消えない痣を額に刻まれた事をとても後悔していた。だから、二度と実鳥を不幸な目に遭わせないように守らないとと思っていた。なのに、またしても肝心な時に何も出来ず知らずにいたので、申し訳無く、情けなく、自分を責めずにいられなかった。


「そんなこと……あんなの、誰にだって予想も想像もつかない事だったよ。だから、謝ったりしなくっていいんだよ。私もね、皆にもう、自分を責めるなって沢山言われちゃったんだ」


美鈴に抱かれ、実鳥は目に僅かな涙を滲ませながら苦笑いで美鈴の背中に腕をまわした。美鈴が自分を心配してくれているのが嬉しくて。エルヴィアスに召喚された件も含め、謝りがちな事を姉妹に嗜められているのに、そんな自分が母親に対して姉妹達と同じように嗜めてしまったことが可笑しくも烏滸がましく感じられて、自嘲してしまったのであった。


「まあ、実鳥義姉さんは必要以上に責任感強すぎなのよね。実際に悪いことをした連中を糾弾するよりも、巻き添えになっちゃった私達への罪悪感が先にきちゃうとか、本当に必要以上よ」


「こまたんがそれ言っちゃう?(笑)事を深刻に考えすぎなとこあるの、こまたんだって同じようなもんなのに~」


「楽天家が過ぎる梓姉さんに言われたくない」


「あらあら、むくれないの小町。梓も茶化さないで……って、お父さんもそんなに不機嫌な顔しちゃって……あまりに非現実的な話で納得出来なかったかしら?」


「いや、そりゃあ不機嫌にもなるでしょ!自分の命よりも大事な娘が拉致されてたんだよ!それも全員!全員無事に帰って来たとはいえ、それでよかっためでたし!……なんて済ませられる気分じゃないでしょうが!?怒ってるんだよ!皆を拉致した犯人に!ぶっ殺さなきゃ気が済まないよ!」


敏郎は怒りも露に、仮想犯人を相手にシャドーボクシングを始めた。娘達を溺愛している敏郎にとって、誘拐犯なんてどんな理由があろうと許すことなど有り得ないのである。だが、ボクシングは勿論、ありとあらゆる格闘技経験のない素人である。そして、年齢は既に五十代。闇雲にパンチを繰り返して、直ぐに息を切らしてへたばってしまったのであった。


「ぜぇ……はぁ……ぜぇ……はぁ……もし、また私の娘を召喚なんてしてみろ……顔面に百発でもぶちこんでやる!」


威勢は大変よろしいが、ヘロヘロである。そんな頼りなくも勇ましい父親の姿を見て、娘達は嬉しくありながらも苦笑いするしかない気分であった。


「え~……パパりんのお怒りごもっともなところ恐縮なのですが……()()は無いかな?少なくとも同じ相手には100パー無いと断言しちゃえる」


「だよね。兄さんに全身氷漬けにされちゃったもの。あれで生きてるとか絶対ないよね」


「王様を一晩の宿代として反社会的グループに譲っちゃったり、腹いせでお城と都を壊滅させちゃったり……召喚の儀式って大掛かりみたいだったから、人材的にも資材的にも、再度試みる余裕なんてないでしょうね~」


娘達が口々に語る驚愕の事実。既に拉致実行犯(ネウグル)は正当に報復されて他界しており、主犯(国王)余所様(魔族)に拉致されていて、王都は瓦礫となっている……。


それをやったのが息子だと聞かされて、流石にそれは冗談だろうと乾いた笑いを漏らしたのだが……。


娘達は目を合わせず愛想笑いを浮かべるばかりで、誰一人敏郎に頷いてはくれなかった!


「え?何?光ちゃんが剣の事を魔法使いだって言ってたけど……そんな、国を滅ぼせちゃうクラスの強さなの!?てゆうか、異世界とはいえ人を殺しているのかい!?」


「……いや、パパりんだって「ぶっ殺さなきゃ気が済まない」って言ったでしょ?実際、その場にいた私だって自分で殺せる力があったら殺ってたと思うし……そこは驚かないで欲しかったなぁ」


「いやいや梓ちゃん!そこは言葉のあやだって!言うのと実際やるのとじゃ……」


「お父さん。殺人に忌避感持つのは大事だし当然だと思うけど……兄さんにそこまでの力があって、そうしてくれたから誰も死なずに済んだんだよ。私だって兄さんがしたことの全部を正しいなんて擁護は出来ないけど……もし兄さんを非難する気なら、私はお父さんを……許さないからね!」


「小町ちゃん……」


小町に凄まれ、敏郎は黙るしかなかった。普段、剣に対して意地っ張りな小町ですら剣が人殺しをしたり、都市を壊滅させる程の破壊行動をしたことを咎めていないのである。そうなると他の姉妹がどう思っているか……想像するに容易い。もし、剣を殺人者だと拒絶でもしたりしたら……愛する娘達から精神的にリンチされる事は確実である。そうなったら、生きていけない……。


「あの……いいですかお義父さん?」


「ん?なんだい実鳥ちゃん」


「私も、人を殺しています。前世でですけど。そして……断言します。今の私は、必要に迫られたら躊躇わずに殺すと思います。そうしなければ、大切な人を守れないなら……」


実鳥の覚悟に、敏郎は息を呑み戸惑った。あまりの意思の強さに。


敏郎から見て今迄の実鳥は、状況に流されがちな弱気な女の子であり、それが悲惨な過去が原因であることも知っていたから、守らねばならない対象だと思っていたのだ。それなのに、今の実鳥は別人のように、瞳に強い意思を宿している。


「実鳥……」


美鈴の驚きは敏郎以上であった。少し見ない間の実鳥の成長を頼もしく感じながらも、弱気でありながらも優しかった娘が、人を殺すと言葉にしたのがショックだった。相反する感情がぶつかりあって、どうしていいか判らず、涙を流し、手で顔を覆ってしまったのであった。


「お母さん……えと、驚かせちゃっただろうけど、あくまでも人を殺すのは最終手段の話だからね?趣味とか快楽目的での殺人は絶対否定しているから!私が言ったのは……そう!野生の獣が縄張りや子供を守る為に、みたいな意味でだから!無闇やたらに手当たり次第になんては絶対しないから!」


母親に泣かれる……そんな稀有な事態に、実鳥は慌てて理屈と屁理屈を捏ねたのであった。美鈴も実鳥の言い分は理解しているのだが……暴発した感情の抑えどころが解らず、涙が止めどなく溢れ、気持ちを上手く言葉にすることが出来なかったのだった。


「……まあ、命の価値とかを論じるのが、我が家の今後の課題でしょうねぇ~。それはそれとして、自分の言葉をすぐに裏返しちゃうのは、格好悪いわよお父さん」


「だよねぇ~。ちょこ~っとだけど、頼もしく見えたのになぁ。もしもの時に、頼りにしていいのかなあ?」


「期待薄だよね。気持ちばかりが先走ってる感じだし」


「本当に父親の味方してくれない娘達だよね!パパ、いじけちゃうぞ!」


弄られながら泣き笑いして抗議する敏郎の姿に、泣いていた美鈴も思わず笑ってしまったのであった。重い雰囲気は、誰か(大体桜)が道化を演じて吹き飛ばすのが、聖家のお約束である。敏郎の場合、ほぼほぼ本気でやっているが。


そうしてリビングが明るい空気に包まれる中、突然誰もいない筈の上階から、幾人もの足音やら物音が聞こえてきたので、敏郎と美鈴が警戒心を露に険しい顔をしたが、姉妹達にとっては既に慣れたものである。落ち着き払って敏郎が買ってきたお土産のお菓子にかじりついていた。


「あ、剣達が帰って来たわね」


「屋上から帰って来るの、すっかり日常化しましたよねぇ」


「今日はつばぞみも行ったんだよね。けんちゃん疲れたろうなぁ。後で癒やしてあげないと!」


「……余計、疲れそうじゃない?」


本日は翼と希の冒険者活動初日なのである。帰国する両親の為に、立派な獲物を狩って土産を持ち帰ると張り切って出掛けていったのであった。


と、階段をバタバタ駆け降りてくる足音が一つ。それを追ってもう一つ。


「待てっ!この家の中じゃ靴を脱ぐのが決まりなんだよ!」


剣の声である。だが、先を行く足音は止まらない。そして、勢いよくリビングの扉が開け放たれ……そこに現れたのは現実離れした美女であった。しかし、顔見知りであった為に光達は僅かに驚くのみであった。だが、敏郎と美鈴は……驚愕で固まった。


何故なら、その美女には額に立派な角があって、肌が鮮やかな青だったから。


「あ!いた!ママー!!」


「え?ガルミア?ええっ!?」


そして例の如く、勢いよく実鳥の胸に飛び込んだのだった!


だらしない笑顔で実鳥に全力で甘える、長身の角付き青肌美女。その口から放たれた一つの単語に反応し、両親の硬直は驚愕と共に解き放たれた!


「「ママー!?」」








両親、孫(義理)との初対面でした。次回に引きます。

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