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190話目 両親の帰宅

少し更新遅れてしまった……待ってくださっていた方々、申し訳ありません。

「自分の家のドアノブを捻る事に躊躇するだなんて、人生初めてだよ……」


空港から自宅迄の車中、言葉足らずで抽象的な説明になってしまう燕と「本当に大切な事は本人から聞くべき」だと主張して肝心な説明をはぐらかす光から聞かされたのは、娘達と息子に降りかかった常識はずれの奇想天外・驚天動地の不思議体験であった。


全員無事に、五体満足で帰ってきたとは聞かされても、光と燕の言葉の端々に物騒な単語が並んでいたのもまた事実。そんな体験をして、身体が無事でも心に深い傷を負っていないか心配するのは親心として当然である。


更に意味不明なのが、異世界からドラゴン少女が居候しに来ているのを平然と受け入れてしまっている光と燕の態度。


果たして、聖家の家庭環境がどうなってしまっているのか……


「お父さん?玄関前で立ち止まらないでほしいのだけれど」


「ああ……うん。すぐ開けるよ……でも一寸、心の準備をね?」


敏郎の全身から滲み出る脂汗。そして真夏日の熱気で普通に湧き出る汗もプラスされて、もう全身がゲリラ豪雨を浴びたみたいになっている。それでも扉を開く勇気を出せないでいると、掴んでいたドアノブが力を込めていないのに突然回転し、扉が開いた。


「……おかえりなさい。暑いのに、何やってんの?」


扉を内側から開いたのは小町であった。車が帰ってきた音がしたのに、誰も家の中に入って来る気配がなかったので、気になって見に来たのである。


極めて思春期的な、無愛想で不機嫌そうな出迎えではあったが、その反応こそ、敏郎にとっては出国前と変わらぬ姿の小町であった!


「ただいま~!愛してるよ小町ちゅわ~ん!」


なので、自分のよく知る愛娘との再会に、敏郎パパは感極まって抱き着いたのである!


「そーゆーのは恥ずかしいからヤメ……臭っ!めっちゃ汗臭っ!加齢臭ドギツイ!しかもなに!なんなの!?べっちゃべちゃじゃないの!不潔っ!放してっ!気持ち悪い!この変態!」


「小町ちゃんだぁ!これこそ私の小町ちゃん!その悪態すら愛らしい!」


心底嫌がって暴れる小町と、それでも振りほどかれない敏郎さん。頭突きを喰らっても足を踏まれても、嬉しそうに笑いながらガッチリ抱き締め離さない!


……完全に、年頃の娘に父親がやってはいけないコミュニケーションを敏郎さんはやってしまったのでした。


断っておくが、小町ちゃんは非常に理性的であり、暴力は野蛮であると毛嫌いしている。それでも言葉と物理の暴力で敏郎の抱擁から逃れようとしているのは、その行為がどれだけ好意的な行動であったとしても、実の父親だとしても、加齢臭+汗だくのおっさんが抱き着いてくるのは、多感な少女にとっては赦さざるぺき犯罪行為でしかないのだ。


故に、これは正当防衛なのである!決して、小町ちゃんが聖家で一番、キレやすい最近の若者に近い精神構造をしているからではない!


プチン。


「離せって……言ってんのよ!」


「ごふぅっ!?……お、ぼぉ……」


小町は敏郎のしつこい腕から容易くは逃れられないと悟ると、敏郎の胸に右腕と右肩を少しずつ押し付けるように身体をずらし、敏郎の脇腹と自身の左拳の間に、僅か数㎝の隙間を作り出し……抉り撃ったのである!


白目を剥いて悶絶する敏郎を小町は冷ややかに一瞥し、


「気持ち悪いから、シャワー浴びる……」


謝罪の言葉一つなく、肩を落として家の中へと消えたのであった。


「……今のはお父さんが悪いわよ。普通に父親と距離を置きたくなる年頃なのに」


「敏郎さん、デリカシーが無さすぎですよ……小町ちゃんがあんなことされて喜ぶ筈がないと解っていたでしょう?」


光も美鈴も、呆れて大きく溜め息を吐いた。敏郎に憐れみこそすれ、全く同情していない。


「うぅ……誰も味方してくれない……でも、小町ちゃんが小町ちゃんのままで安心したぁ……」


起き上がれない程の激痛に苦しみながらも、なんだか幸せそうな敏郎を玄関に放置する事にして、光達はリビングで寛ぐ事にしたのであった。光と美鈴がソファーに腰を降ろすと、燕も美鈴の隣に座り、直ぐ様美鈴の膝枕でお昼寝したのであった。


「敏郎さんが親バカなのはいつものことですけど……小町ちゃんが元気そうで良かったわ。あれが薬になって反省してくれれば……しないわよねぇ……」


「あれは、逆に喜んじゃってますからね。お父さんは基本的に優しさや愛情の方向性がズレちゃってるから、小町みたいな普通の子には、厄介この上ないでしょうねえ」


光を始め、翼も希も桜も、敏郎の実の娘である小町の姉達は、敏郎の愛情表現に対して、あれは一生変わらないと、既に達観の境地に至っているのである。そこまで達していない辺り、小町は精神的に余裕がなく、まだまだ子供だなぁと光は思ってしまうのであった。


「でも、お父さんが相変わらずお父さんだったのは、小町の方が内心安心してたのかも。異世界召喚を一番受け入れられなかったの小町だったから。お父さんが全然変わらないってだけで、これが日常だったなあって私も思ってるもの」


「……え?」


光の言に、美鈴は思わず驚きの声を漏らした。美鈴にとって敏郎の連れ子達は、とても強い子であったから。当然連れ子の中でも一番年下の小町が精神的に未成熟であるとは思っていつつも、普段の生活の中で一つ年上である実鳥に対して面倒見が良いのを、直に目にしていたのである。


なので、既に元気が有り余っている姿を見せている燕を除けば、美鈴が一番心配していたのは実鳥だったのである。光が全然深刻そうな表情を見せていなかったので、然程心配していた訳でもなかったが。


「そう……それにしても、留守番していたのは小町ちゃんだけかしら?他の子は?」


「梓は例のイベント準備の追い込み中だとかで部屋に籠っているわ。確か、実鳥も手伝ってるんじゃなかったかしら?遥はバイトだし。他は……出掛けているわね」


例のイベント。夏と冬にあるそれは、みなまで言わなくても聖家では通じてしまう。再婚してから約四年。染まったものだと美鈴は苦笑いを浮かべるのであった。


「私はテレビのニュースなんかで見るだけだけど……桜ちゃんは毎回毎日よく行くわよねぇ……」


「まぁ、私もモデルなんてやってたから人に観られたい、魅せたいって気持ちは判らなくもないかな?本気で楽しんでいることなんだから好きにすればいいと思っているけど……」


「けど?」


「燕の教育上望ましくないR18な薄い本を持って帰ってきたりしたら、罰として没収……いえ、目の前で焼却処分して、次回参加禁止の刑は確実ね」


「……光さんが素敵な笑顔をし過ぎていて怖いわ。まあ、剣くんと梓さんが付き添うんだから入手する隙を与えないでしょうけど……二人もよく、毎回付き合ってるわよねぇ」


「桜が二人になつき過ぎてるのか、二人が桜に甘いのか……どう判断すべきか微妙なところだけど……そう言えば、今年は実鳥も行くらしいわよ?中学の友達と一緒に」


「え!?初耳よ!?だ、大丈夫なの?だって……一日に十万人とか集まるのよね?人混み苦手な子なのに……」


少し取り乱す美鈴であったが、最近の実鳥を知る光にとっては、憂慮する必要すらない問題であった。


「全然大丈夫よ美鈴さん。友達と一緒なんだし、別行動でも会場には剣達だっているんだから。それに……会ったらビックリすると思うわよ?異世界ビフォーアフターが著しいから」


「ど……どんな匠に出会ったのかしら……?」


「そうねぇ……欲深い王様とか、邪悪性悪魔導師とか、人類の敵な種族のレジスタンスと仲良くなったり、人をからかうのが大好きな適当女神様にも会ったわね」


「不安要素だけしかないわよ!?」


努めて明るく異世界の情報を語る光であったが、核心に触れない説明なってしまうので、美鈴は嫌な想像ばかりが膨らんでしまうのであった。


「あれ?光姉さんとお義母さんだけ?」


小町がシャワーを浴び終え、半乾きの髪をタオルで拭いながらリビングを訪れた。夏で自宅で来客もないこともあり、タンクトップシャツにショートパンツと、とても気軽な格好である。


「……てか、お父さんまだ玄関で蹲ってるの?ひょっとして……拗ねてる?誰かに起こしてもらえるの待ってる?」


お父さんは娘の優しさを欲していた。誰かが助け起こしてくれるまで待っているのである!永遠に!


「……ま、甘えた中年なんてどうでもいいや。ごめんねお義母さん。あんなガキんちょみたいなダメ父さんで」


「こ……小町ちゃん?なんだか……言葉に棘が」


「……ま、色々やさぐれたくなる事がありましたもので。一寸、お父さんは世の中の厳しさに甘えた根性を叩き直された方がいいと思った次第です。それより、梓姉さんと実鳥義姉さん呼んで来るね。根を詰めて熱中症にでもなったら大変だし」


「……口調が少し……あれだったけど、小町ちゃんは相変わらずかしら?ちゃんと優しいとこもあるし……」


「礼儀に関しては、私がしっかり教育してましたから。どれだけ打ちのめされたって、芯がしっかりしてれば立ち直れる……そんな見本みたいな子になってくれて、姉冥利に尽きるわぁ」


数分後、小町の後に続いて梓と実鳥もリビングにやって来た。


「鈴ママおかえりなさ~い。ごめんね、マジ追い込み中で、帰ってきたの気付かなかったよ~」


「お母さんお帰りなさい。私も、すっかり集中しちゃってて……」


「いや、私の事は気にしなくていいんだけど……二人とも、凄くやつれてない?」


「あはは……予定より作るコスが増えちゃったから……でも大丈夫。どりりんも手伝ってくれてるしぃ~……」


「私なんて大して役に立ってないよ……梓さんの作業スピードが速すぎて、ボタンとか小物の縫い付けが全然追い付かないし……」


「いやいや、細い作業してくれるだけでどんだけ助かるか……本当、丁寧な仕事してくれるし……」


「いやいや、梓さんなんてミシンよりも綺麗で速く縫えちゃうんだから、本当に天才ですよ……」


互いに良いところを誉め会う梓と実鳥であったが、お互い目に隈が出来ていてフラフラであった。


「……二人とも、無茶し過ぎてない?実鳥まで、どうしてそんなに……?」


「いや、その……せっちゃん……友達がね?「ウチらもイベントでコスプレしよか?」って言ったのを、梓さんが本気にしちゃって……私達の衣装を作ってもらうのに、何もしないでいるのは気が引けるし……」


「……え?実鳥が……コスプレ?日本で一番大きな……あれで?あんなに、人だらけの会場で?……うっ……」


人混みが苦手で、男性に対しては恐怖症すら抱いていた実鳥が、その坩堝であるイベントに、コスプレなんて目立つ格好で行こうとしている事に、その、あまりの心情の変化に、美鈴の思考回路はショートして……停止した。


「お、お母さん!?」


「ええっ!?こまたん!タオルと洗面器と氷嚢用意して!」


「わ、わかった!光姉さんはタオルケット持ってきて!」


「ええ!任せて小町!」


母親の窮地(?)に、娘達は一致団結して迅速に看護にあたるのであった。


「母親と父親で、こうも待遇が変わるのか……ぐすっ」


誰かが恨み言を呟いていたようだが、当然娘達の誰にも聞こえてはいなかった。





女系家族では、お父さんなんてそんなもの……みたいなお話でした。勿論次回も散々?な目に遭う敏郎さんをお楽しみ下さい。

そして、遂に異世界召喚一番の当事者の口から両親に真実が語られる?さあ、その時両親はどんな反応をみせるのでしょうか?

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