189話目 両親の帰国
久々にご両親登場です。
八月某日。千葉の国際空港にて。
「お父さ~ん。美鈴さ~ん。お帰りなさ~い」
海外での仕事を一段落させた敏郎と美鈴を迎えに空港を訪れたのは長女の光と末っ子九女の燕。母と娘に見える仲良し姉妹が二人、手を繋いで両親のお出迎えしていた。
「おお!愛する我が愛娘達よ!たっだいま~♪」
感激した敏郎パパ、両手を広げて娘達を抱き締めようと、ウキウキしながら近付いてゆく。それに合わせるかのように、燕もニコニコ笑顔で敏郎に駆け寄る。
「つっばめ~。一緒に来てくれなかったから、パパ寂しかったんだぞ~」
久々に可愛い末っ子を抱き締められる!そう、一片の疑いもなく屈んだ敏郎であった……が、そこは悪戯大好きな姉~ズに英才教育を施されている燕ちゃん。パパの目前で緊急停止、真横に跳ぶと敏郎に見向きもせずにその横を通り過ぎ、その先にいた美鈴ママの胸へとダイブしたのであった!
「ママ~!おかえりなさ~い!」
「えっと、ただいま?」
娘に熱烈なお迎えをされて、確かな嬉しさは在るのだが……振り向いた敏郎のえもいわれぬような愕然とした表情に、喜びを出すのを憚られ、困ったように泣きそうな表情をするしかない美鈴ママであった。
「今のはデビルバット……それとも太陽王子かしら?どちらにしろ、桜の仕込みよね……グッジョブ!」
光お姉さんは、テンプレなコメディが割りとお好きである。
「グッジョブじゃないでしょ光ちゃ~ん!感動の再会を全力フェイントされて、パパとっても涙目なんだけど!?」
いい笑顔の長女に、全力で訴えるお父さん。
「あらお父さん。逆に問いたいのだけれど、どうして日頃面倒を見ていない父親が、母親よりも優先されると思ったのかしら?我が家のにゃんこ達だって、私を一番頼りにしてるでしょ?」
聖家の実質的支柱の正論を前に、お父さんは更に涙目に……
「あの、光さん……敏郎さんを虐めるのは程々に……今回は、皆の事が心配で、本当に頑張ったのだから……」
久々にママに甘える燕を抱っこしながら、困った顔をして光にとりなす美鈴ママ。美鈴も燕と数週間も離れるのは初めての経験だったので、とても心配していたのである。
おまけに、海外どころか世界外にまで離れていたと聞かされていたのだから尚更であった。
「そうよね……心配させてごめんなさい美鈴さん。お父さんも。まあ、リアルに異世界召喚されるなんて経験、私も初めてだったから言葉は相当選んで説明したつもりだったんだけど……信じられなかったわよね?」
異世界召喚されていたのは丸一日にも満たない時間であったのだが、心配性な敏郎の元に光からの一日の報告&おやすみメールが届かないのは敏郎にとっては異常事態であった。光達の帰還がもう少し遅く連絡が着かなかったら、仕事を放棄して帰国する寸前だったというのだから、さもありなん。
そんな慌てぶりだったのだから、光は異世界で体験した事知り得た事を、オブラートで三重以上に包み、極力低刺激にして説明したのである。その結果、光自身がリアリティに乏しいと思ってしまう程、説得力も乏しい言い訳みたいな説明になってしまったのである。
「そりゃねえ、異世界だなんて突然言われてもと思ったよ。ただ、驚きはしたけれども、頭脳明晰な光ちゃんが頭の弱そうな言い訳をするかと考えたら、リアリティの低さが逆に真実っぽいとパパは思ったのだよ!」
パパは娘を全面的に信じているよ!みたいなドヤ顔を敏郎はキメたのだった!
「……取り敢えず、立ち話もなんだし、家に帰りましょうか?」
敏郎がウザかったので、光は容赦なくスルーして踵を返した。
「は~い!ママ、いこっ!」
燕は美鈴の首に腕を回して、しっかりと抱き着いて離さない。抱っこされてまま自家用車に乗るまで美鈴から降りないつもり満々である。
「えっと……敏郎さん、荷物お願いしますね?」
美鈴は燕で両手が塞がっているので、当然スーツケースを押して歩く事も出来ない。当然、荷物を運ぶのはお父さんの役目となる。愛娘達へのお土産がギッシリ詰まったスーツケース(×2)は、キャスターが付いていても、貧弱な敏郎にはとっても重たいのであった。
「ちょ、待ってよ光ちゃん!美鈴~!パパ一人には荷が重いってば~」
両手でスーツケースを握って歩く敏郎だったが、あまりの重さにスーツケースを進行方向に対して平行に出来ず、あっちへこっちへフラフラと蛇行して進むしかなかった。
それを美鈴の肩越しに見ていた燕のキョト~ンとした感じの視線が「にぃたんなららくちんにはこぶのに……パパ、たよりがいがないの……」と、無言で訴えているようで、敏郎は一人勝手に泣きっ面に蜂な気分に陥るのであった……。
空港からの帰り道、光の運転する聖家マイカー車内では出発早々、両親の不在時に経験したアレやコレやを、燕が興奮しながら捲し立てていた。
「にぃたんすっごくつよいの!まほーでバーン!ドッカーン!ギュオーン!して、わるものみんなやっつけてばめたちをまもってくれたの!ちまみれになってもたちあがって、ヒーローみたいにかっこよかったの!」
異世界召喚された直後の、リーイース王国騎士との死闘。劣勢に陥り、満身創痍になりながらも、決して怯まず諦めずに闘った剣の姿は、燕にとって正しく英雄であった。語る内に当時の光景をまざまざと思いだし、どれだけ剣が頼もしかったかを語り尽くしたくて仕方がない様子である。
だがしかし、両親にとってはそれどころではなかった。言葉足らずな燕の言葉の端々に、聞き捨てならない不穏なワードが散見されたのだから。
「ま……まぁ、異世界召喚なんてのが現実にあったのだから、魔法ぐらい有って然りよね?ねぇ敏郎さん?」
「そ、そうだな?それよりどうゆう事だい光ちゃん!今の燕の話を要約すると、剣が魔法使いみたいじゃ……いや、そこは問題じゃないね。いや、問題ではあるけど……それよりも!剣が大怪我しているように聞こえたんだけどね?そんなの聞いてないよ!?」
「うん。言っても無駄に心配させるだけだと思ったから言わなかったわ。実際、誰一人欠けずに帰ってこれたんだもの」
「で、でも……剣くんが大怪我したのは事実なんじゃ……」
「大丈夫よ美鈴さん。治癒魔法で治しちゃって外見上は何も問題ありませんでしたから。まぁ、数日は血が足りないとか言ってしんどそうにもしてましたけど……すぐ普通に戻りましたし、剣以外は誰も怪我なんてしませんでしたから安心して」
「……不安にさせないよう配慮したくれたのだろうけど、詳しく聞くのが恐くなってきたわ……」
「そうだよね。光ちゃん、パパ達への説明相当端ょってたよね?確か……「皆で異世界に無理矢理召喚されたけど、全員無事に帰ってきたから気にしないで」なんて、完全に過程をすっとばしてたよね?正直、剣がいつどうやって魔法使いになってたのかは疑問ではあるけどまぁ置いておくとして……置いていいのだろうか?兎も角!響からも連絡貰ってたけど、一番の問題はその異世界から女の子を連れてきて同居させてるって事だよね?」
「ああネフェちゃんの事ね。文化や文明の違いに戸惑う事も多いけど、元々の学習能力は高いし素直だから問題ないわ。少し食べ過ぎなのが気になるところだけど」
「問題にしたいのそこじゃないんだけど!?うう……家長に一切相談無しでホームステイさせちゃうんだもの……威厳ないどころか存在を蔑ろにされてるよぉ……」
自分の居ぬ間に家庭内環境が激変していて、口を挟む権利も与えられずに、気づいたら事後承諾するしかない状況になっている……敏郎パパは自身の発言力の弱さに……シクシク泣いた。
そんな夫の様子にオロオロするしかない美鈴ママは、どう慰めるべきかと思案して、抱くべき当然の疑問を光に問うことで問題の突破口を模索しようと試みた。
「えっと……そのネフェちゃん?って、小町ちゃんより幼いって聞いているのだけど……その、そんな小さな娘を預からせて頂いているのだから、彼女の親御さんに御挨拶すべきだと思うのだけれど……」
子を持つ親が真っ当な責任感を持っていれば、当然至るべき至極当然な御意見である。そう考えると、ホストファミリー全員の了承を得る前にホームステイさせちゃっている相手側の御家族ってマトモじゃないんじゃ……光に問い掛けながら、美鈴はどんどん不安を抱くのであった。そして、それはそう的外れでもない。
「ん~……挨拶は必要無いわよ?便宜上、ネフェちゃん一族から追放されちゃってるから。ぶっちゃけ捨て子みたいな感じなのよ」
「……うん。思考が追い付かないから一寸待ってね?日常的な会話に含まれない単語が多くてリアルに混乱してるから……」
追放なんて、現代日本で凡そ使われる言葉でもなく、刑罰でもない。精々似たような例を挙げても、外国人の強制帰国程度である。捨て子だなんて、それこそ一般家庭ではなく児童相談所や保護施設の出番であろう。美鈴には、どうしてそんな子を家で面倒をみているのか、全く訳が解らなかった。
「燕はネフェちゃんと仲良しなのよね~」
「うん!ネフェねぇだいすきっ!いっぱいあそんでくれるし、おべんきょうもいっしょにしてるの!それにね、ドラゴンさんだからとってもつよいの!」
更に両親のメンタルを追い詰める強烈ワードが登場した。
「そうそう、ネフェちゃんはドラゴンに変身しちゃえる竜人さんだから。たまにドラゴンの姿で寛いだりするの見たら驚くだろうけど、恐くないから安心してね?」
「それ、本当に大丈夫なのかしら?光さんと話している筈なのに、会話が完全に異次元なんだけど……?」
「美鈴もそう思うよね?しばらく家を留守にしていたら、ドラゴンが住み着いているだなんて……一体何がどうしてそうなったのか、家に着いたら詳しく説明して貰わないと……それでも納得出来るか自信がないなぁ……」
十時間以上のフライトで貯めた肉体的疲労よりも、帰国してからの一時間足らずの精神的疲労の方が余程、聖夫妻のSAN値をゴリゴリ削ったのであった。しかも、まだ序ノ口なのである!
「そうね、詳しく説明するとなると……あ、……私の口から言うべきじゃないわよね。燕、ガルミアさんの事は、実鳥が話す迄お口にチャックだからね?」
「ん!りょーかい!ルミねぇのことはないしょにする!」
「実鳥?実鳥が何か関係あるの!?あの娘は至って普通な娘よ?」
「オイオイ……家で一番マトモな良心の権化みたいな娘が、何をやらかしたって言うんだよぉ……?」
実はその娘が、異世界召喚事件の原因であるのだとは両親も思わない。そして、その実鳥には前世で育てていた義理の娘がいて、今でもママと呼ばれている現実がある。
(流石に、私の子供が産まれるより先にお祖父ちゃんお祖母ちゃんになってるとは……想像するのも不可能でしょうね……)
帰宅したら、両親が次々と襲い来る衝撃の事実にどんな反応を示すのか……何も企まなくても面白いことしか起きない気がして、光は静かにほくそ笑むのであった。
相当SAN値を削られた両親ですが、まだ全然説明が足りていない……最後まで耐えられるかなぁ?
次回のサブタイトルは〝両親の帰宅〟何の捻りも致しません。




