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188話目 獲物を狩ろう!

今回でギルド登録編はオシマイです。

剣達三人はティーグルに同行され、冒険者ギルドの常設依頼である〝薬草採集〟に出発した。


街から東に徒歩で三十分程の距離にある森。道中野生の獣や魔獣と遭遇することもなく、目的地であるそこへと到着していた。


「さて、ここからは危険な生物も多く生息しているからな。素人は大きな魔獣なんかに気を取られがちだが、猛毒を持っている小さな虫や蛙なんかは触るだけでも皮膚が爛れるだけじゃあ済まないから、綺麗だからと迂闊に触れたりしないようにな!」


ティーグルは冒険者の先達として、剣達に注意を促した。


「兄様見て下さい!メタリックブルーなアトラスっぽいカブトを発見しました!グレートかっけぇのであります!」


促した途端にこれである。未知なる異世界の森林に、桜のテンションは天井知らずに上昇するばかりであった。


「……君の妹、あれで大丈夫なのか?」


「まあ、毒にだけは注意するよう言ってありますので。ああ見えて、油断している訳でもありませんから……多分」


あまり自信なさげに剣は答えた。桜が趣味に没頭しがちな性格であることは百も承知。それでも好きにさせているのは、妹が本心から楽しんでいる姿を見ることが、剣にとって最高の娯楽だからである。


「そうか……それはネフェもか?」


「ここ最近、家の事情で運動不足でしたからね。久々に全力で身体を動かせるんで、野生(ドラゴン)の血が騒いではしゃぐのも仕方無し……って感じです。ま、ネフェは皮膚も胃腸も丈夫なんで毒の心配とかはする必要ありませんから」


ネフェは森に到着すると、待ってましたと手近な木に飛び付き、スルスルと木登りして上からの見晴らしを楽しんでいる。ギルドの武具屋で剣に買って貰ったドラゴンの頭部をモチーフにデザインされた鉤爪付きのアームガードを装着しているので、楽々に木を登れるのも楽しさを助長しているようだ。一応、斥候の役目も果たしてはいるが、樹上の枝から枝へ飛び移る姿はドラゴンよりも、まるでモンキーみたいな浮かれようだ。


「ネフェの野性が解放されるのです!食っちゃ寝生活も悪くありませんが、ネフェの本能はやはり、獲って喰らう事を求めているのです!」


自然界の食物連鎖の頂点、生粋の捕食者たる竜人にとって、自然界は全て狩猟場で遊び場。ネフェにとって初めて足を踏み入れる森は、子供が新しく公園を見付けたのと同義である。そんな遊び盛りの子供が親の制止を聞き入れるだろうか?断じてない!


「……もう、何処に行ったか判らないのだが?」


「気にしないで下さい。大型の魔獣でもなければ、ネフェを殺せる野生の生き物なんていませんから」


「全く……君達は何者なんだ……?自分で言うのも恥ずかしい限りだが、ネフェは私より確実に強いし、サクラも新人としては破格の実力だと思う。ツルギの魔法に至っては……正直、既にランキング上位一桁クラスのパーティ以上の戦力を保有していると思うのだが……」


「そうですね。否定はしません」


「否定してくれないのか……」


ティーグルさん、突発的にとても激しい胃痛に襲われているようである。この後、ベテランの自分よりも確実に強い新人達について、ギルドに報告しなければならないと考えると、自分の実力を疑われそうでお腹がキュ~っとしてしまうのである。しかし、虚偽の報告をして後日問題化する方が立場を危うくしてしまう。ティーグルさんは、頭痛にも襲われ始めていた。


「さて、さっさと薬草集めちゃいますか。十本一束で、三人分で三束必要でしたよね?そして、規定の大きさに育っていない物は対象外……と」


ティーグルの悩みなんて我関せず。剣は大自然にはしゃぐ桜とネフェを自由気ままに遊ばせながら、片手間に薬草を引っこ抜いて集めるのであった。


「へぇ、案外簡単に見つけられるもんだな。てっきり森の奥まで入らないと必要数が揃わないかと思っていたが」


十分もしない内に、剣は一人で薬草三束を収集し終えていた。


「いや……普通は森の中に幾つかある群生地に行かなければ集まらないんだが。本来、その場所まで案内するのも私の仕事だったんだが……逆に聞きたい、どうしてそんな簡単に見つけられる?」


「どうしてもなにも、出発前にギルドで貰った薬草の絵と説明文を参考に探しただけだが?稼ぐ為に数を集める訳でもなければ、日当たりと他の植物の植生、地面の感触なんかを少し気にしていれば普通に見つかるだろう?」


前世ではヴェルティエとサバイバルな生活を共にし、今世では農業スローライフを将来の目標としているので、剣は植物の見分けが他人より得意なのであった。一種類にだけ気を配ればいいのだから、見つけるのは容易かった。


「……何が普通なのか、もう、よく解らん……私が採集に向いていないだけなのか?」


勿論、剣が特殊なだけである。が、ティーグルさんが間違っていないことを諭してあげられる者は誰もいなかった。


ティーグルが自信を喪失して俯いていると、頭上からバサバサと木の葉が舞い散り、ネフェが樹上から飛び降りてきた。体操選手顔負けの高速宙返りをして、シュタッと両手を広げたY字ポーズを決めての着地を披露して。


「剣お兄さん、肉です!食べごたえありそうな大きな獣がいました!狩りましょう!お土産にして、今夜は焼肉パーティーです!」


どうやら手頃な獲物を見付けたらしく、ネフェは鼻息荒く興奮している。


「あのなネフェ、獲れたて絞めたての血抜きをした肉は臭みが薄くて食べやすくはあるが、焼いて食べるなら腐らないよう冷やして、しばらく保存した方が熟成して美味しくなるんだぞ」


「論点がズレてるぞツルギ。薬草を採り終えたのなら、余計な事はせずにギルドに戻ってほしいのだが……」


ティーグルからすれば、新人が〝薬草採集〟を完遂できるようサポートし、それだけの実力があるかを見極めギルドに報告するまでが仕事である。もし、ネフェが見付けた獲物が五級冒険者に相当しない高ランク肉食獣であった場合〝新人に無茶な獲物を狩るようけしかけた質の悪い指導官〟なんてレッテルを貼られかねない。そう思うと更に胃痛が……


「そうは言っても、ネフェは狩る気満々なんだよなぁ。姉さんからも、ネフェに運動させるよう言われてるし……」


実はネフェ、運動不足に加えて、聖家に来るまで摂取していなかった砂糖や塩等の調味料を利用したり、油で揚げた料理を思うままに食した結果、ほんの一週間で体重が2㎏増量していたのである。ネフェを目一杯運動させることは、光から与えられた厳命なのであった。


「ま、手早く終わらせますから。ネフェ、誘き出せるか?」


「ありがとうです剣お兄さん!任せて下さい!」


剣の了承を得て、ネフェは言うが早いか飛びたった。


……翼を生やして。


「……ツルギ、あれ、何の翼?」


身体を小刻みに震わせるティーグル。変身魔法で翼を得られる種族は存在しているが、それは両腕を翼に変形させるのが一般的である。背中に翼を生やせる種族なんて、魔族以外に存在しない……それが、エルヴィアスの常識なのである。


剣は翼をはためかせ飛び去ってゆくネフェを「あの馬鹿……嬉し楽しいからって羽根伸ばしやがって……」と、呆れた顔で見送り……「まぁいっか」と結論付けた。


「え~と……ネフェはとある山奥に暮らす小数民族の出身で……あれは、竜の翼ですね」


「ドッ……?ま、待て!私の聞き間違い……だよな?」


「そう思うのならそうすればいいんじゃないですか?ネフェのギルドカードには変身関連のスキルは記入させていませんし。実際見なけりゃ誰も信じないでしょうから」


「……ヤバイ。熱出てきたかも」


ティーグルさんの心労、既に極限状態。未知の人種の実在なんて、冒険者ギルド地方支部の一冒険者に抱えきれるような問題ではない……


「兄様~!見てください!なんと!紅に輝くヒラタさん迄発見してしまいましたぞ!……と、指導官殿の具合が悪そうですが、どうされましたか?」


夢の甲虫天国に、思わず童心に帰って虫捕りをしていた桜が両手に足をジタバタさせている20㎝越えのカブトとクワガタを掴んだまま剣に合流すると、ティーグルは膝を抱えて蹲っていた。


「ネフェの阿呆が……翼を出した」


「……それはなんとも。まあ、遅かれ早かれな気はしておりましたが……そうですか。ネフェたんが既にやらかしたなら……」


「ヲイ。何を不敵に笑ってやがる?」


「いえ。折角なのでボクもついでにやらかそうなんて考えておりませんよ?」


「目がトルネードしている鰯みたいに泳いでるんだが?」


「いえいえそんな……ん?なんだか地響きしていませんか?」


「どうやら、ネフェは上手く囮になってるみたいだな。さて……何が来るのか……気を引き締めろ!」


「折角捕まえたのに勿体無いですが……仕方ありませんな!狩りこそ冒険者たる職業の醍醐味でありますから!」


桜は物惜し気に手にしていた甲虫を近くの樹にリリースすると、出発前に購入した鋼の双剣を腰にホルダーした鞘から抜きはなち逆手に持って構えた。


「そういや、買い物にやたらと時間を掛けてたが、ソレ(双剣)を選ぶのにそんなに悩んだのか?」


「兄様、乙女の買い物時間の長さに口出しするのはデリカシー欠如でありますぞ?」


「お前は都合よく乙女になるな。まあ、どうせなんか下らない事を企んでるんだろうが……お喋りはここまでだ。来るぞ!」


「全く……こんなハチャメチャな新人だと判っていれば指導官なんて引き受けなかったのだが。特別手当……請求したいけど、貰えないだろうなぁ……」


ティーグルはブラック勤め社畜さんみたいに呟きながら立ち上がり、長剣を抜いて戦闘態勢に入った。疲れていても、そこはやはりベテランの冒険者だ。


間もなく、ネフェが剣達の頭上を旋回し滞空すると、叫ぶように呼び掛けた。


「すいません!一頭のつもりが、二頭ついてきちゃいました!」


すると、森の奥からバキバキと枝をへし折り踏み砕く足音と、興奮し怒りに満ちた咆哮が轟いた。


「GRWOOOOON!!」


樹木の間からヌウッと頭部を覗かせたそれは、人を丸飲みに出来そうな巨大な口に、容易く肉を引き裂きそうな鋭い刃と呼ぶべき歯を並べ生やしていた。


「キ……キング・ディザードぉぉぁ!?」


驚きの叫びを上げ、顔面蒼白となるティーグル。それもその筈、相手はギルドで一級討伐対象に指定されている獰猛にして凶暴な、狂獣王とも呼ばれる……全長10メートルはある巨大な危険生物であったのだから。


「……兄様、多少モフモフ感がありますが……あの方々T‐REXさんみたいではありませんか!?」


「あ~、そういやこっちじゃ恐竜っぽいの普通に生きてたな。つか、ネフェの奴最初から俺をあてにしてたな。今のネフェじゃ手に余る獲物だし……そんなに肉を食いたかったか」


ガチで竦んでいるティーグルを余所に、桜と剣は呑気に会話を交わしていた。荒れ狂う野生の王者を前に、全く緊張していない二人を見て、ティーグルは頼もしく思うよりも、寧ろ更なる恐怖を感じるのであった。


「じゃ、動きは俺が止めてやっから、トドメはお前とネフェでやってみろ。可哀想だから、あまりいたぶってやんなよ?」


それだけ伝えると、剣はニメートル程度の比較的真っ直ぐな枝を拾い上げた。そして、二頭のキング・ディザードへ、真っ向から立ち向かった。


その時の様子を、ティーグルは後にこう語る。


「無謀だとしか思えなかったよ……だってそうだろう?魔法の力を秘めた伝説級の武具や、名工が鍛えた業物どころか、金属製の武器ですらない単なる枝だぞ?あんなのじゃキング・ディザードの体表に傷を付けるどころか、鱗の一片を剥がしたり、羽毛の一本を散らすのが関の山だと思うじゃないか……」


しかし、実際にはそうならなかった。


剣は身体強化魔法によって二頭のキング・ディザードの足下を瞬時に駆け抜けると、水属性魔法で発生させた大量の水を手持ちの枝を芯に纏わせ、冷属性魔法により凍結・凝固。刃渡り五メートルの大刀を即興で生成したのである。


そしてキング・ディザードの背後から振り向き様に、横一文字の一閃。四本の轟脚をいとも容易く切断し、ついでとばかりに返す刀を半月の軌跡を描いて振り下ろし、二本の尻尾まで切り落としてしまったのである。


「……いや、気付いたら崩れ落ちるキング・ディザードの背後に、巨大な氷の剣を肩に担いで悠然と佇むツルギがいたんだ。信じられなかったよ。戦闘中に鋼以上の鋭利な刃を氷で造り上げてしまう魔法の腕もさることながら、あんな巨大な武器を振り回せる膂力も……そして……何と言うか……キング・ディザードの傷口から吹き出る血液が……空中で凍らされて降り注ぐ様が、夢であってくれと思うほどに幻想的で……恐ろしかった……」


この時、剣がどうして血の雪を降らせるような真似をしたかと説明すると「血抜きしないと肉が臭くなるし、血飛沫浴びるのも臭くなるじゃん?」であった。


「それで……まだ終わってなかったんだ。信じられないことが。まあ、ツルギに比べれば可愛いものだったんだが……」


後ろ足を奪われ、立ち上がれずに苦痛に藻掻くキング・ディザードの上空に、ネフェに両手を掴んでもらって、空中ぶら下がりする桜の姿があった。


「んしょ……んしょ……桜お姉さん、この辺りでいいですか?」


「オッケーなのです!それでは、手を離してくだされネフェたん!」


ティーグルが目にしたのは、桜がキング・ディザードの首を目掛けて自由落下する姿。足を失ったとはいえ、まだ生きている凶暴な獣に、である。まるで自殺にしか見えない行動である。桜の武器は切れ味鋭くとも小さな剣が二本。とても、キング・ディザードの牙に歯が立つ物ではない。


「セットアップ1!チェ~ンジ・グレートソォードォ!」


桜の全身が光に包まれ、次の瞬間、桜の装備が全くの別物へと変わっていた。軽装の革鎧姿から、腕と脚を完全に覆う漆黒のメタルアーマーに、お腹と胸の上部が露出していて胸元と腰しか覆っていないビキニアーマーとゆう、守りたいのか守る気がないのか判断に惑うちぐはぐな装いへと。


「メテオ・スラストォー!」


そして、無骨で、剣と呼ぶより鉄塊と表現すべき大剣の切っ先をキング・ディザードの脊椎に向け、隕石のように落下した!


「もう、見事に一撃で息の音を止めましたよ。後で聞いた話ですけどね、サクラは自分で設定した装備一式を、ここではない何処かの空間に保存して、瞬時に取り替えるスキルを持っているらしいんですよ……何だその都合のいいスキルはって思いました。思いますよね!?」


もう一頭のキング・ディザードは、ネフェの急降下踵落としで頸椎を粉砕された後、鉤爪で喉を切り裂かれて絶命した。肉は血抜きすべし!の教えを守って。全ては、美味しいお肉を食べる為!


「恐ろしかったよ……戦闘開始から終了まで、多分、一分もかかっていなかったんだ……普通、討伐一級のパーティでも、一頭を倒すのに入念な準備をして挑む筈だろう……?それを、赤子の手を捻るよりも軽い調子で……あれで勇者でないのだから、全くもって意味が解らない……他にも姉妹がいるらしいし、もし、新人講習に来たらと思うと……もう、指導官やりたくない……冒険者……やめるかも」


※剣達が持ち帰れなかったキング・ディザードのお肉はその場で冷凍保存され、後日ギルドによって回収されました。その為、ティーグルはギルド上層部に偽りなく報告せざるを得ませんでした。




地球で(わりと)自粛しているぶん、地球外では箍が外れてしまうとゆうお話でした。

桜のスキルは当初武器だけ交換可能なつもりでいましたが、装備全てに変更しました。ネフェも加入して、パワーインフレがね……

技名、スラストじゃなくてザッパーにすべきか葛藤した。このネタわかる人、多分三十代以上ですね。

次回は地球メインの話。そろそろご両親を帰宅させたいと思います。

久々に帰ってきたら家が異世界化……

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