187話目 所持スキルを調べよう!
予定を変更、チュートリアル前にスキルの確認をします。
「それじゃあ、今からギルド会員の証しである〝ギルドカード〟を配ります……身分証としても使えて、国内の街を出入りするのに通行両も払わなくていいが、再発行には手数料がかかるので、可能な限り無くさないよう努めること……」
憔悴したかのように覇気ゼロな声で差し出されたのは鈍い鉄色をした片手に納まるサイズの長方形のプレート。その角の一つにはパンチングされたような小さな穴が空いている。
「これは……紐や鎖を通す為の穴でありましょうか?しかし、名前しか刻まれておりませんな。余白が在り過ぎでは?」
「それは、等級でカードの材質と色が代わるからな。見ての通り五級では鉄。四級は黒鋼。三級で白銀。二級になると黄金。そして一級になると冒険者ごとに異なる特殊加工をされたミスリル……といった具合だ。余白が多いのは限定等級やパーティー等級、所有スキルなんかを刻む為だ」
「等級は兎も角、スキルもか?自己申告で?」
剣は自身が持つスキルの全てをを正確に把握している訳ではない。しかし、各属性魔法に身体強化、睡眠等の精神干渉系や覚えたばかりの治癒魔法に多種同時発動や合成魔法等、魔法に係わるであろうスキルだけでも多種多様なのである。それは実技試験でのティーグルの反応から推測するに、現代のエルヴィアスにおいて異常としかいえないだろう事は明らか。どうしたことかと悩むのであった。
「いや、スキルについては必ずしも申告する必要はない。ないが……スキルの開示は冒険者にとって仕事の幅が広がるものだからな。スキル所持者優先や限定の依頼もあるし、開示しておいて損は無いと思うが……」
「ま、普通はそうなんだろうな。ところで、持っているスキルって調べる方法はあるのか?」
「はぁ?」
剣の質問に、ティーグルは思わず目を白黒させて驚いた。
「あんな桁外れな魔法を使えるのに……とんだ常識知らずだな?ギルドにステータス鑑定用の魔法道具があるのは全世界共通の常識なんだが」
「……世間知らずなのは家庭の事情だ。深く追求するな。知らない方が円滑に済む世界もある」
ヴェルティエとの旅では人里に最低限しか立ち寄らず、その前は洞窟で百年近く過ごしていた剣さん。そんな便利な魔法道具が発明されていただなんて思いもよらなかったのだ。
「そうだな。……アレを見てしまっては、知らない方が幸せだったと実感してるよ。それじゃ取り敢えず、鑑定装置がある部屋へ案内しようか」
案内されたのは、まるでネットカフェの個室席のような小さな部屋。中には椅子と、その前のテーブルにはモニターを思わせる横長長方形の黒いプレート。その横にはまるでデスクトップパソコンみたいな……箱があり、ネズミを転がす為に使うようなパッドらしき物まであった。
「一から説明した方がいいな?先ずはこの箱型の装置を見てくれ。ここに隙間があるだろう。ギルドカードを差し込んでみてくれ」
言われるがまま、剣は自分のカードを入れてみた。すると、黒いプレートが淡い光を発し始めた。
「次は、テーブルの上にある小さな板だ。素手で直接触れるんだ」
「こうか?」
マウスパッド的な板に手を置くと、プレートに白い文字列が現れた。エルヴィアスの文字であるが、日本語に訳すと「ギルドカードに所有者情報を登録しました」とある。
「これでギルドへの正規登録完了だ。今後、君のカードは君にしか使えない。どんな仕組みで出来ているかは私もよく解らんのだが……カードに所有者固有の魔力波長や生体情報を記録させてるんだそうだ」
「これだけでデータがギルドのデータベースに登録されたのでありますか?まさか世界中のギルドにまで?」
「いや、この装置と物理的に繋がっているこの支部のデータベースにだけだ。接続されていない遠距離の装置にまでデータを転送する技術は開発されていないそうだ。なので、他のギルド支部や本部にデータを反映させるには〝ギルドマスターカード〟のコピーを直接届けなければならなかったりする。毎月末になるとデータ輸送の護衛依頼もあったりする。なので、他の街に今回の登録データが届く迄は、他の街で依頼を受けたり出来ないからな」
「便利なのか不便なのか、判断に迷うな」
「全く。認証システムはハイテクなのに、通信技術はローテクですな。しかし、それでも思っていた以上にハイマギテクノロジーなのであります」
「よく解りませんが、妙な物を作る人がいるものですねぇ」
狭いブースの中に四人もいるので、かなりギュウ詰めである。
「でだ。スキルやステータスなんか表示したい項目を念じるとプレートに表示されるからな。まあ、操作中には逐一丁寧な説明が表示されるから習うより慣れろ、だな!それでは他人のスキルは個人情報なので許可なく見るのはマナー違反だ。私は外で待機しているので、解らんことがあったら呼んでくれ」
澄ました顔でブースから出ていくティーグルに、剣と桜はポカンとした表情となり、ネフェはそんな二人を不思議そうに見ている。
「どうしたんです?オバサンが出てくの、そんなにおかしいでしたか?」
「まあ……案外、個人情報保護がしっかりしてんのが意外で」
「あんな事があった後、ボク達がどんなスキルを持っているか気になってしょうがないと思うのですが……興味よりも恐怖が勝ってしまったのでしょうか?」
「取り敢えず、気にしても仕方がないから操作を続けてみるか……念じるだけで作動するとか……ん?念じるだけで動く?」
「どうしたのですか兄様?」
「いや、ちょっとした思い付きが……ま、兎も角スキルを表示してみっか」
剣が念じると、手を置いたパッドが青白く淡く光り、プレートモニターに文字列が表示された。……され過ぎた。
「うわ……凄いだろうとは思っていましたが、既に画面一杯なのに高速タイピングされてスクロールしまくってるのです。これを律儀に表記したら一話分の文字数いってしまいそうなのです」
「桜お姉さんが何言ってるか意味不明ですけど……剣お兄さんが数えきれない種類の魔法が使えるってことは解りました。やっぱりバケモノです」
「……使う機会の多いスキルだけ刻印しとくかっ……て、思い浮かべたスキルだけ並び変わった?なんて便利で高性能なんだ……」
更に、刻印しようと思ったスキルの文字だけ点滅している。更に更に〝選択中のスキルをカードに刻印して宜しいですか?〟と選択ミス防止と再確認を喚起するセーフティメッセージまで表示された。
「至れり尽くせりだな。うっかり防止機能まであるとか、なんて親切設計か」
「二十世紀ごろのパソコンよりもユーザーに優しく易しい出来なのであります。これ、一般販売されていないでしょうか?」
想定していなかった高性能端末機器の登場に、剣は呆れ半分感心半分な微笑を浮かべ。桜は興味津々で物欲センサーをフル回転させたのであった。
「とりま、魔法は火・水・地・風・冷・雷・光・闇に……重力と、使ってみせちまった治癒に身体強化だけ公開しとくか。武器スキルは……片手剣だけにしとこう」
選択を終え、その意思を強く念じると、カードを差した機器からカタカタと内部で駆動する音が聞こえ、その音が止まると「ピピッ」と小鳥の囀ずりのような短いブザーが。するとギルドカードが僅かに排出された。剣がカードを取り出して裏面を確認すると、先程選択したスキル名称が確かに刻印されていた。
「全く、人族は訳の解らない複雑な物を作りますね……次、ネフェがやってみます!」
ネフェは椅子に座る剣の膝の上に当然のようにちょこんと座ると、見倣った通りに操作を開始した。
「えっと……〝火属性魔法〟〝風属性魔法〟あ、〝聖属性魔法〟なんてのもネフェは使えるみたいですね。それに〝人化変身〟〝竜化変身〟〝人竜部分変身〟あれ?〝巨竜化変身〟だけ文字が暗くなっていますが……どうしてでしょうか?」
「これ……所持していても使用条件を満たしていないスキルはこうなるんじゃないのか?」
「確かに、ネフェは今〝巨竜化変身〟は角が折れてるので使えませんが……主に剣お兄さんが原因で」
「現在の身体状態から勝手に判断しているのですか?これ……病気とかも簡単に調べられるのでは……?やはり、一家に一台欲しいのでありますぅ!」
エルヴィアス驚異の魔法道具開発技術。剣は「やっべ……エルヴィアスを完全に舐めてたわ」と自責の念が絶えなかった。
そして、ネフェは変身関連のスキルを除いてカードへの記入を済ませると、剣の膝から降りて、桜と交替したのであった。
「……桜さんや、何故、お兄ちゃんの膝の上に座ったのですか?」
「まだまだ甘えたいお年頃なので!それに、最近スキンシップが少なかったでありますしぃ、ここらで露骨に媚びて可愛さをアピールしておいた方が、ポイント高いかと思いまして!」
「何のポイントだよ?まぁ、いいけどさ……」
「何のかんのしなくても、妹に甘い兄様が大好きなのです!」
「だからって、腰をくねらせて尻を擦り付けんじゃねぇよ。ったく、これで中身がオッサンなんだから信じらんねぇわ」
呆れる剣を余所に、桜はドキドキしながらギルドカードをスロットに差した。なにしろ、正真正銘のバケモノと稀少種なドラゴンの後である。しょぼいスキルしかなくて当然。それでも………何か一個でいいからワンチャンお願いと期待を込めて!
「頼みます……どうかボクにチートスキルを!神様!!どりゃあ~~ぶっ!」
バアァァァーン!桜は目蓋を強く閉じながら、闘魂を注入するかのように、パッドに平手を叩きつけた。
「机割れたらどうすんだっての……お、表示されたぞ。へえ、ちゃんと〝格闘〟あるじゃないか。それに〝身体強化〟も適性あったみたいだな。これなら一端に前衛……ん?何だコレ?こんなスキル、エルヴィアスに在ったのか?こんなの使う奴、覚えがないぞ……?」
「そうなのですか?えっと……〝武装亜空間収納×3〟と読むのですか?亜空間って何ですか?」
ネフェが桜のスキルを読み上げた瞬間、桜がクワッと目を見開き、自分の目でそれを確認すると、不敵な笑みを浮かべた。
「……く、くくく……クックックッ……くぁ~かっかっかっ!きた!きました!きやがったあユニークスキル!これがボクの思い通りのスキルであるならばあ!」
高笑いが止まらない。ユニークスキルを持っている事実が発覚し、桜は嬉しさを隠しきれない。それも、桜にとって喉から手を出せるものなら出してでも欲しかったスキルだったから!
「ひゃふぅー!感無量なのです!このスキルを活かす為にも、早速新しい武器を購入するのです!行きましょう兄様!」
「お、おう?まぁ、これから依頼の実施試験だし。一応店には寄るつもりだったからな」
桜はギルドカードへのスキル記入すら待ちきれず、カードを引っこ抜くと一目散に武器・防具屋へと駆け込んだのであった。
「舞い上がってるな……実戦で危機感無くさなきゃいいんだけど」
「……ネフェは二度と無くしません。油断は後悔でしかないのです……」
剣のスキルは、必要に応じて明かしていきます。桜の台詞は大袈裟ですが、現状でも思い付きノートに百種類は纏めてあります。
ネフェの馬鹿力は素です。身体強化を使わずに熊レベルの筋力があります。
桜のユニークスキルの元ネタは以前書いた通りですが、その当時よりも少しパワーアップさせました。演出的に。
次回こそ街の外でチュートリアルクエストします。




