186話目 実技試験を受けよう!
PVが十五万を突破してました。読み続けてくれる方、ふらりと立ち寄って下さった皆様に感謝!
「さて、それでは胸を貸して戴くのです!」
木製の大剣を両手持ちで構える桜。その姿は正に、ロマン溢れる雄々しき鋼鉄の巨神の如し!
「いやちょっと待て。速度重視とか言っていたのに大剣とか矛盾している……それよりも、まだダメージが抜けきって……ごふっ!」
ティーグルさんマジで吐血。そりゃそうだ。金属の鎧がベコッてしまうほどの打撃てハートブレイクショットされてしまったばかりである。胸周りの骨はひび割れているだろうし、内臓も圧迫されて内出血が半端でないだろう。もし鎧を着込んでもいない、身体を鍛えていない一般人であったら十中八九破裂したトマトみたいに爆散していたことだろう。
「……手加減って難しいですね。拳が痛いです」
「ま、そんだけ相手を見くびらなかったって事だろ。しかし、面倒な事になりそうだな……」
重傷なティーグルよりも自分の手を心配するネフェに。新人がギルド入団試験で試験官をメッコメコにして注目を浴びる、みたいなありきたり展開を懸念する剣。基本的に関わりの薄い他人がどうなろうと気にしない二人。荒く息を吐きながら血も吐き出すティーグルを放置していても痛む良心なんて持っちゃいない。
なので、これから剣が行う行為にティーグルへの優しさは一切含まれていない。
剣が両の掌をティーグルに向けると、そこからホワホワとした光が放たれ、ティーグルの全身を包み込んだ。
「これは……治癒魔法?ありがとう。痛みが、引いていく……」
「ちゃんと効き目があるようで良かった。負傷を理由に審査を適当にされるのは本意じゃないんでな」
そう、剣はティーグルに感謝されたい訳でも心配したから治癒魔法を使ったのではなく、ギルド入団イベントを楽しみにしてきた桜の為にティーグルを治療したのである。全く、バファ○ン一粒程度の優しさも含まれていない。
「なんと奥ゆかしい奴だ!人の善意に対して礼を言うのは当然だぞ!照れずに素直に受け取っておけ!」
はっきり言って、善意なんて四○の欠片一つ分も無い。なので、剣は大変不本意である。しかし、訂正しようとすると益々誤解を深めそうな気がしたのでスルーした。
「待たせたなサクラ!さあ!どこからでもかかってこい!」
「では、いざ尋常に!」
待ってましたとばかりに、桜は大剣を振り上げ右肩に担ぐような構えをとった。まるで、額にドラゴンの紋章を輝かせるダンディなオジサマが渾身の力を込めて放つ必殺技のように――
「どっせーい!」
かと思いきや、突撃せずにその場で大剣を降り下ろし……投げた。大剣は回転しながら放物線を描き、ティーグルに向かって翔んだ。
「んなっ?なんて無茶苦茶な!」
あまりの出来事にティーグルは一瞬呆けてしまった。まさか、初手で武器を放り投げるような馬鹿がいるとは思っていなかったものだから。
放物線を描きティーグルに迫る大剣。木製とはいえ直撃すれば骨折しても不思議ではない質量はあるそれを、意表を突かれたとはいえティーグルは危なげなく自身の剣で打ち払い迎撃した。
「隙あり、ですっ!」
「なっ?くっ!」
ティーグルが大剣に意識を移した一瞬の内に、桜はベルトに差して背中に隠していた二振りの木製ショートソードを抜剣して低姿勢で駆け抜け間合いを詰めていた。そして、大剣を打ち払う為にがら空きになっていたティーグルの右脇腹目掛け、踏み込んだ右足を軸に二連回転剣撃を放った!
修練場に木剣と金属がぶつかりあった打撃音が響き渡る。
桜の双剣は、ティーグルの脇腹を抉る寸前、ティーグルの長剣によって二本とも防がれていた。
「流石は指導官殿であります。この程度では対応されてしまいますか」
「……双剣が本命とはな。危うく騙されるところだったぞ」
体格差による地力の違いにより、桜はじりじりと圧され始め片膝を着く。苦しそうな表情をするも――一転。不敵な笑みを浮かべた。
「早とちりですな。手札はまだまだありますぞ!」
桜は自ら双剣を手放し、ティーグルの体勢を一瞬揺らがせた。その瞬間に素早く両手を地に着いて極力低姿勢にし水面蹴りを放ち足払いを狙う。
「な……めるな!」
寸でのところでティーグルはバックステップで足払いを避けた。しかし、桜は蹴りを避けられたことで驚きや悔しさで表情を歪ませることもなく次の行動に移っていた。
空を引き裂く風切りの鳴動、地面から巻き起こされる砂塵。双剣の回転剣撃・水面蹴りに続く連続三回転攻撃。その三撃目は、鞭による高速の打撃。後方へ避けたにも関わらず容赦なく襲いくるそれを、ティーグルは剣を地面に突き立てわざと絡ませることで自身への直撃を防いだ。
「まさか、鞭まで隠し持っていたか!」
「さて、後幾つあるでしょうかな!?」
先程、倉庫を覗いた際に桜はマントと衣服に隠せるだけの武器を動きの邪魔にならない程度に可能な限り仕込んでおいたのである。そもそも腕力に特別優れている訳でもなく、使い馴れている訳でもない大剣をチョイスして模擬戦に臨んだのは軽量武器を隠し持っているように思わせない為のフェイクであった。
鞭が剣にしっかりと絡まったことを察した瞬間、桜は鞭を思いっきり引っ張り、反動を利用して跳躍した。全体重を乗せたドロップキックがティーグルの顔面を強襲する!
「くっ!間に合わ……」
自由の利かなくなった剣を手離す判断が遅れ、ドロップキックを完全に回避する機会を逸したティーグルは、腕を交差して顔面を護った。防御されたとはいえ、プロの冒険者を相手に桜は先制の一撃を入れたのであった。
ティーグルはキックの威力を殺しきれずに後退り、桜も防御に押し返される形で、着地と同時に地面を滑って砂煙を巻き上げた。
「なんて日だ……よし、もうい、うわっ!?」
三級冒険者である自身の肩書きを恐れずに、萎縮せずに挑んでくる新人に、既にティーグルの方が畏れを抱いていた。正直、桜の攻撃自体は体格相応の重さしか感じてはいなかったのだが、いまだ幼さを残す少女とは思えない豪胆な攻めの姿勢と用意周到さに末恐ろしさを覚えたのである。
故に、将来性も見越し実技の判定は充分だと判断し終了を告げようとしたのだが……
「ひゃっふぅー!これが本物の冒険者!通じる!ボクの攻撃が通じる!そして的確に避けて防いでくれる!今迄の鍛練の成果が試せるのです!こんなに充実感を感じる楽しい戦いは初めてなのです!」
「ちょ、ま!待てぇー!」
全く聞く耳持たず。桜は怒濤の連撃をティーグルに浴びせ続ける。隠し持っていた武器を投げつけ、拾い上げては斬りかかり、かと思いきや拾う素振りをフェイクに徒手空拳でも果敢に撃ち込む!間断なき連続攻撃に、熟練の冒険者であるティーグルをして防戦一方にならざるを得ない!
笑い声を漏らしながら攻め立てる桜に、表情を引き攣らせながら攻撃を捌き続けるティーグル。その様子を剣は微笑ましそうに、ネフェは暇そうにギルドに来る途中で買って貰った干し肉をかじりながら眺めていた。
「桜お姉さん楽しそうですねぇ。普通の人族なのに、虎のオバサン相手によくやってるのです。筋力の低さを技術で補ってますねぇ。ネフェが力任せだったのがよく解ります」
「師匠が俺と翼と希だからな。翼と希から習った技を俺を相手に散々試してきたからなぁ。ま、それでも俺から一本取るのもままならなかったから、成長を実感できる相手と戦えるのは楽しいだろうさ」
「剣お兄さんも楽しいですか?」
「まぁな。妹が楽しそうにしている姿を眺める。これ以上ないといえる娯楽の一つだな」
「そうですか……あ、オバサンの足が止まりましたね。桜お姉さんの方が派手に動いていたのに……若さでしょうかね?」
ティーグルに聞こえていたら激昂しそうな暴言であるが、当のティーグルに聞き耳を立てる余裕はない。
「魔獣との戦闘経験こそないが、対人戦は俺と数えきれないほどやってるからな。それ以外にダンスやらで体力向上させてるし、血生臭い死線も経験済みだ。それでも冒険者をやろうってんだから、そこらのルーキーとは覚悟が違うだろう。ただ……」
「何が心配です?」
「いや、あんまり楽しそうなのもどうかってな……姉さんみたいにバーサクしないか……不安要素はあるなと」
「確かに。ネフェも光お姉さんには底知れぬ恐ろしさを感じてます。本能的に」
その頃の地球。
「くしゅんっ!……私の方が身体を冷やしちゃったかしら?早く買い物終わらせないと」
「ひかねぇだいじょぶ?にんぷさんなんだからきをつけないとだめだよ?」
「燕に心配させちゃうとは我ながら情けない……でも、ありがとね」
「れいなんていらないの!ばめはひかねぇのこのおばちゃんだから、ひびきちゃんみたいなたよれるおばちゃんになるので!」
「うわぁ……なんて頼もしい三歳児かしら」
なんて、やりとりをしていたり。
「ま……まいった……もう、終わりにさせてくれ……」
疲労困憊で剣を頼りに片膝を着いて降参したティーグル。結局桜の攻撃は一撃も有効打にはならなかったものの、終始ペースを握られ続けたティーグルは体力的にも精神的にも根負けしてしまったのである。
「もう、終わりなのですか?ボクにはまだまだ試してみたい技があったのですが!?」
つまらなそうにシャドーボクシングをする桜。輝く汗を大量に撒き散らしているが、まだ体力に余裕を残しているようである。
「一体……君達は、何なんだ?先程のネフェといい……質は全く違うが、そこらの新人とは比べ物に……ならない……」
息も絶え絶えなティーグルを再び包み込む暖かな治癒魔法の光。当然この光を構成する成分に優しさは1%も含まれていない。剣が話をスムーズに進めたかっただけである。
「そこは個人的事情ってことで追求しないでくれ。あまり騒がれるのも好きじゃないんでな。俺達について、あまり吹聴しないで貰いたいんだが……」
「いや、しかし……ギルドにとって有益な人材を適正に評価しない訳にもいかなくてな……」
「いや、普通に依頼の成果だけで評価してくれればいいんだが」
三級冒険者であるティーグルを圧倒してしまったネフェに、ごり押しの体力勝負で勝利を納めてしまった桜。それを単純に評価しても、五級からのスタートは有り得るのだろうかと剣は考えた。もし無名の新人が四級以上からスタートとなればギルド内で目立つのは避けがたい。それは、剣にとって全く本意ではない。実力があるとなれば面倒臭い依頼を押し付けられる機会も増えるだろうし、等級が上がる毎に得られる権利も増えるが、その逆に断れなくなる高難度の緊急依頼も増える。
剣としてはエルヴィアスでの生活基盤さえ築ければいいので、等級を上げて得られるメリットよりも被るデメリットの方が大きく思えて仕方ないのだった。
「ま、後でどうとでもするか……で、次は俺の試験か?」
「ああ。正直……こうも規格外が続くと、試すのが怖いのだがな……ツルギは、魔法が得意なのだったな?取り敢えず……どの程度の威力があるかを見せてくれるか?」
「どの程度、と言われてもなぁ……そうだなぁ、こんなもんでどうだ?」
剣は地面に置き去りにされたままの木の大剣を指差した。すると、その指先に指先大の小さな火の玉が生じ、ゆっくりと大剣に向かって浮遊していった。
「何だ?無詠唱とはいえ随分と頼りないファイアボールだな……」
拍子抜けしているティーグルであったが、直ぐに異様に気付いた。ネフェがそそくさと火の玉と逆方向に逃げ去り、桜がやたら興奮していたから。
「それは……メ○ゾーマだ!」
火の玉は大剣に着弾した瞬間、激しい光と高熱、そして衝撃を一瞬放った。その余波でティーグルは吹き飛ばされてもんどり打って倒れる羽目となり……次の瞬間、大剣は真っ白な灰となっていて……そよ風が吹くと跡形もなく舞い散ったのであった……
「あ、ヤベ……魔力を収束し過ぎた?黒炭程度にするつもりだったんだが……あまり火属性って使わないからなぁ……」
ティーグルは驚きのあまり腰を抜かしていた。そして、大声で叫んだ。叫ばずにはいられなかった。止めどなく涙を溢れさせながら。
「こんなの……一級魔法使いにだって……できんわぁ~!!」
彼女の座っている地面が少し湿っているようであったが、剣達は見なかったことにした。その行為には、ほんの少しだけ優しさが含まれていた。
最後の方、元ネタは本日より新アニメが始まった作品の大魔王サマの「○ラゾーマではない。メ○だ」を使わして頂きました。
アニメ開始冒頭での勇者と魔王の決着シーン、原作後半で明かされたカウンター奥義もちゃんと使っていて胸熱でした!製作陣の本気が見える一話目だったと思います!未見の方は是非原作を読んでみて下さい!ステマじゃないよ!ただのファンだよ!
○魂の欠片は犬○叉から。こちらも続編アニメが始まりましたが……一話見て、もう嬉しさしかねぇよ……
次回はチュートリアルクエストに出発します!




