185話目 講習を受けよう!
集中力がた落ち。筆が進まない……
呼び出しを受け別室へ通された剣達。
他に新規登録者は居らず、三人は横並びに剣を中心に左に桜、右にネフェが着席した。
三人が部屋に入って一分も待たぬ内に、軽装の金属鎧を纏った戦士な出で立ちの、凛々しい表情をした虎柄頭髪の女性が入室してきた。勿論、ケモミミで虎柄の尻尾もある。
「始めまして新人諸君。私は今回君達の担当指導官を任された三級冒険者のティーグルだ。それでは、人数も少ない事だし自己紹介でもしてもらおうか?この後実技も見せてもらうので、得意な武器や戦闘スタイルなんかも教えてくれると有り難い」
ティーグルは中心に座っている剣に目を向けた。即ち、お前からやれと言外に意味を込めて。
「ツルギだ。得意な武器は斬撃系全般。それに魔法も色々使える」
「妹のサクラです!速度重視の体術が基本スタイルであります!」
「ネフェです。え~と、殴ったり蹴ったり……魔法は風と炎属性を少々……です」
三人の自己紹介に、ティーグルは思わず疑念を抱いて表情に出してしまっていた。何故なら、剣が武器を持ち込んでいなかったから。少なくとも、マントに隠せる程度の大きさの武器しか持っているように見えなかったから。そして、小柄な女子二人が共に体術メインであったから……
「一応言っておくが、冒険者稼業は危険と隣り合わせだぞ?新人初年度の再起不能・死亡率は合わせて五割以上だ。登録に資格が必要ないとはいえ、子供に務まるような仕事では……」
「あ、そうゆう見た目や若さで判断するのはいいのです。ご忠告は有り難く受け止めさせて頂きますが、それより説明を進めてほしいのであります」
心配したのを無下に返され、ティーグルは表情を若干強張らせた。しかし、感情を表に出して当たり散らすほど未熟ではない。自分の歳の半分程度の小娘の戯言だと、寛大な心で聞き流すのであった。
「では、等級について説明しよう。基本的には五段階あり、上から一級、五級が最下級だ。講習終了後、君達には五級資格が与えられる。等級は実力・実積によって昇級され、等級が上がる程受注可能な依頼も増える。三級以上になれば国外のギルドからの依頼も受けられるようになる。精進してくれたまえ」
「質問、依頼書にない魔獣を討伐した場合、評価の対象になるのか?」
「依頼が出ていないなら報酬は出ないが、骨や革は武具の素材になるし肉も食材としてギルドが買い取ってくれる。依頼の達成に比べれば微々たるものだが、昇級査定の対象にはなるな」
ギルドとしても、素材の持ち込みをギルドへの貢献として評価さない訳にはゆかず、かといって実際には討伐してもいないのに他所から購入した素材を持ち込むことで評価を上げようとするなんちゃって冒険者の増加を望んではいない。その為、依頼達成回数が少なくとも貢献度が高い冒険者には昇級試験の受験資格が与えられるのだ。
「成る程……財力で上級冒険者資格を得られないようにする措置と言うわけか。過去に実際、金の力で上級冒険者になった奴でもいたんだろうな」
「ま、そんな事が過去にあったらしくてな。それに、新人でも稀に天才的な実力やスキルを持っている者もいる。そんな優秀な人材を下級で燻らせるのもギルドにとって不利益なんでな。昇級に必要な依頼の半数を短期間でこなせば昇級試験を受けられるようにもなっている。詳しくは職員に訊いてくれ」
「指導官殿!先程、基本的には五段階と仰いましたが、他にどんな等級があるのでしょうか?」
「〝特級〟と〝限定級〟だな。前者は〝勇者〟にのみ用意されている等級だ。限定級は……実際に依頼書を見せて説明した方が早いな」
ティーグルが取り出したサンプルの依頼書には受注資格の欄に〝三級以上・討伐限定三級以上〟と記されている。
「見ての通り、三級以上の冒険者が受注可能な依頼なのだが、討伐限定三級を持っていれば四級以下の冒険者でも受注が可能だ。限定等級は基本等級とは別扱いで、実積によって与えられる資格だ。まあ……魔獣と戦うのが得意でも、薬草の採取なんかが苦手な脳筋の為に設けられた制度だとでも思ってくれ」
「依頼が幅広いとはいえ、見も蓋もねぇな」
「適材適所大事!であります」
「因みに、私も討伐限定は二級だ!ハハハッ!」
ティーグルさんのドヤ顔に、剣は「あれ?ハズレ引いた?」とばかりに虚ろな表情を浮かべて突っ込んだ。
「自虐かよ」
「指導官様はノリが良いですなあ」
「……難しくてネフェにはよく解りませんが……魔獣ブッ殺してるだけじゃあ偉くなれないんですか?」
「可愛い顔して過激なお嬢ちゃんだな……そう言えば、三人一緒に来たと聞いているが、パーティを組む前提で話していいか?」
「ああ、それで問題ない。申請が必要か?」
「絶対必要ではないが、申請しておくと色々とお得だぞ。例えばパーティ名義で受けた依頼に成功すると通常の報酬だけでなくパーティに貢献度ポイントが与えられる。それで四半期毎にランキング上位に入ると賞金や賞品が貰えたりするからな」
他には新規パーティ登録で一ヶ月間ギルド施設使用料が割引されたり。素材の買い取り査定で割増されたり。パーティホームの購入費用を低金利で貸してくれたり。新人冒険者を紹介してパーティに登録すると新規紹介祝金が支給されたり。
「……変に福利厚生が多様化しておりますな。下手なハケンよりよっぽどホワイトであります」
「まあ、命懸けの仕事もあるんだから見返りも大きくないとって事だろ。怪我や死亡が前提のお仕事だからか、治療費負担はあっても死亡手当がないのはブラックだけど仕方ねぇよな」
世界が変われど、世間が世知辛いのは変わらない。そして、目の前にぶら下げられた餌に食い付くのは生き物の性である。
「……ギルドも経営に苦労してそうだな」
「裕福な人間が冒険者を職に選ぶイメージはありませんからな。こうして講習をしてくれるのも、新人の生存率を高める目的があるのでしょうが……学のない無頼の輩には伝わらないのでしょうなぁ」
「……zzz」
いつの間にか、話を聞くのに飽きたのかネフェは舟を漕いでいた。ネフェにとっては不慣れな小難しい理屈ばかりであったのて、脳がお疲れになってしまったようである。
「くぁ……そろそろ実技に移るか……」
ティーグルも欠伸を漏らして眠そうになっていた。討伐に秀でているだけあって口より身体を動かす方が性に合っているらしい。
剣達はティーグルに案内されギルドの裏にある修練場へと向かった。名義上修練場と呼ばれているが、ただの砂埃が舞い散る更地である。特に目立つものもないが百メートル四方はあり、ちょっとした学校のグラウンド並みの広さであった。
「どうだ広いだろう?ギルドのメンバーならここに出入り自由だ。新しく手に入れた装備や技を試す時なんかに使ってくれ。そっちの隅っこにある物置小屋には訓練用の模造武具なんかもあるからな。それも自由に使っていいぞ」
剣が木造の倉庫を覗いてみると、様々な大きさや形状の木製武具が無造作に壁に立て掛けられたり、傘立てに突っ込まれているみたいに乱雑に籠に突き立てられていた。
「あまり、保存状態はよくなさそうだな」
「消耗品感が滲み出ておりますなぁ。管理はどうなっているのです?」
「ふあ~ぁ……噛んだら割れちゃいそんな程、ぼろっちいのです」
「……無料のレンタル品だからと無茶な扱いをする奴が多くてな。それでは実技の内容だが、私と戦ってもらう!私に勝てなければ冒険者になれん訳ではないが、あまりに実力不足だと判断したら、見習いとして暫く修行してもらうことになるので、真剣にやるように!」
緊張の欠片もない新人の気を引き締めようと発破をかけたティーグルだったが、続いてのネフェの言葉に予想を裏切られる事となった。
「眠いのでネフェからでいいですか?オバサンをブッ飛ばせば合格なのですよね?」
あまりにも……無礼で失礼で不躾であった。寝惚けているとはいえ、あまりに酷い。ティーグルとネフェの年齢差は十五はあるだろうし、竜人のネフェから見ればそれ以上の年齢差に思えてしまうだろうが……そんな事情を知らない三十路前の女性にとって〝オバサン〟と呼ばれる事がどれだけショックであるか……
「……そうか……やる気があるのはなによりだ。いいだろう。お前から相手をしてやろう。私も殺る気を出すから……その覚悟でな?」
言葉は流暢で表情もにこやかであったが、目は暗く笑っていなかった。ネフェも大概だが、子供の言うことに腹を立て、公私混同しようとしているティーグルも大人気ない。
「……見事にフラグが」
「手加減……言うだけ無駄か」
数分後、修練場にて青天井しているティーグルの姿があった。歴戦を思わせる彼女の細かな傷や打痕のある金属鎧、その胸プレートの中心には、小さな拳型の凹みがくっきりと穿たれている。
「ちょっと……痛かったです。お陰で目が覚めました」
ベテランの三級冒険者が呆然としている傍ら、それを為した本人の方は涙目でヒリヒリする自分のお手てにフーフーと息を吹きかけていた。
「やはりと言うかなんと言うか……」
「基本スペックが段違いでありましたな」
ティーグルの持つ討伐二級の資格とは、目安として四名前後のパーティで10メートル級の魔獣を倒せる実力を持つ冒険者に与えられる資格である。そこまでに至れる冒険者は百人に一人とすら言われる強者なのである、が……ネフェはエルヴィアスの人型種族として最強の竜人族である。角を折られて制御可能な魔力量が激減し巨竜化不能になってしまっているが、特殊な武具を装備している訳でもない普通の人族相手に負ける道理は無かったのである。
「な……何が?私は油断などしていなかった……なのに、何故?」
「……隙だらけだったので、ドンッ!といってガツン!とやっただけですけど?」
「ネフェたん。ザックリ過ぎて天才にしか理解不能な説明になっているのです。それでは指導官殿も評価に苦しんでしまうでありますよ」
「端的に説明すると、火属性魔法と風属性魔法の混合によって発生した噴射力で突撃したんだ」
「な!……魔法の合成?別属性の魔法を同時に使用することすら高度技術なのに、それを一人でだと?ま、待て!それ以前に詠唱している素振りすら見えなかったぞ!?」
慌てふためくティーグルを前に、ネフェはキョトンと不思議そうに返答した。
「火が風で強くなるのは当然だし、魔法は感覚で使う物ではないのですか?詠唱なんて教わったことありませんけど、本当に必要なのですか?」
ティーグルの空いた口が塞がらない。ネフェの返答は常識の埓外、それは正に、天空を飛ぶ竜が地を這う虫に気付けないような、隔絶した者が放つ言葉だったから……
「それで、ネフェは合格てすか?」
「そ、そうだな。戦闘力については文句の付けようがない……次は……」
「ボクがやります!宜しくお願いするのであります!」
「はは……それは、こちらこそ、だ……」
後二人、為す術もなく自分を倒したネフェが大人しく言うことを聞いている相手と模擬戦をしなければならない事実に、ティーグルは指導官を引き受けたことを酷く後悔したのであった。
ネフェ強すぎない?一人で集落に帰れたんじゃない?とか思われるかもしれませんが、未開の森林や山岳には大型の魔獣が多数生息しているので、巨竜になれないネフェでは丸呑みにされてしまいます。空からの地形しか覚えていなかったので、身を隠しながら帰るのは困難だった……ま、言い訳ですが。
因みに、ネフェがティーグルに使った技は餓狼兄さんのバーンナックルをリスぺしました。
次回は初クエストに出発!




