184話目 冒険者になろう!
異世界での日常話です。特に刺激はありません。
エルヴィアス各国の動向調査・及び現地行動拠点の候補地選びの為に、剣は今日もエルヴィアスを訪れていた。
ここは大陸の南に位置する四頂守護国が一つ、多種族共生を国策として掲げる〝マルデア人族連合国〟。熱帯性気候で国土の大半が熱帯雨林のジャングルで占められている。
「おお~……まるでアマゾンの様な気候に植生でありますな!リーイースの森林とは別世界であります!」
「私も見覚えがない植物ばかりです……エルヴィアスも広いんですねぇ……」
本日の同行者は桜とネフェ。二人とも、こちらの世界での一般的な旅人用の、丈夫な獣皮製軽装鎧を纏っている。本日はある目的の為、違和感なく街に溶け込む必要があるのだ。
「二人とも、あっちにある街が当面の目的地だ。見てみろ」
「おお!これは絶景かな!」
「大きな街ですね……当然、人も多いんでしょうねぇ……」
人目を避ける為、剣は〝アーネンの街〟から少し離れた小高い丘の上にゲートを設置していた。そこからの見晴らしを桜は純粋に感嘆し、ネフェは人里に出ることに躊躇いを覚えていた。
「地球なら竜人の存在自体が架空だと思われているから平気なんですけど……」
「そう不安になるなって。多くの種族が普通に暮らしている街だ。全身を覆うような格好さえしてなければ、正体を勘繰られたりしないって」
「そうでありますぞネフェたん。もし不安に思っているような事態になったとしても、その時は容赦なく実力行使してやればいいだけなのでありますから!」
見も蓋もない御意見ではあるが、角が折れて力の大半を失ってしまったネフェであっても、常人よりは遥かに強い。地球の動物で例えると、熊と比べて遜色がないほどである。
「それに、もしもの時は俺がなんとかすっからさ」
「……剣お兄さんになんとかされる側に、同情を禁じ得ません」
たった一人で大国の王都を壊滅させた経験のある男のするなんとか……それが平和的な解決法であるとは、ネフェにはどうしても思えなかった。
「さて、それでは早速参りましょうか!とっても楽しみであります~!」
街までの道中、桜はテンション上がりっぱなしであった。それもその筈、この後街で待ち構えているイベントは、ヲタの大好物である異世界もの定番の、冒険者ギルド訪問及び冒険者登録なのだから!
しかし、その前の街への検問で、桜はちょっと萎えた。
「うむ。三人分の通行税確かに。通っていいぞ」
「はいよ。ごくろうさん」
特に疑われたりもせず、するっと街に入れてしまったからだ。
「くっ!やはり学校の制服とか世界観の異なる姿で来るべきだったか!?もっと怪しまれてドキドキするのを楽しみたかったのです!」
「……桜お姉さんは何を言っているのですか?」
「理解に苦しむ病気なだけだ。死には至らないし感染力も……多分弱いから気にしなくていい」
剣は葛藤する妹を無下にスルーし、下調べしておいた冒険者ギルドへの道を先導した。街中の大通りはそこそこに歩行者が行き交い、一見で多くの種族が混在していることが判り、ネフェは物珍しそうにしながらも安堵した様子を見せ、桜はファンタジーな光景に瞳を輝かせるのであった。
途中、通りすがりのケモミミお姉さんに吸い寄せられそうになる桜の首根っこを掴んで引き摺りながら、剣達はギルドに到着した。
正面の巨大な看板に〝マルデア冒険者ギルド アーネン支部〟と刻まれている三階建ての頑強そうな石造りの建造物。そこがこの街の冒険者ギルドであった。
一階はロビーと各種受付カウンター。食堂兼酒場に武器防具や冒険必需品の雑貨を取り扱う店もある。二階、三階は冒険者やギルド職員の宿泊部屋として利用されている。
「これぞ……正に!数多の異世界ファンタジーで描かれた冒険者ギルドのイメージそのもの!トレビアンなのです!」
ギルドに入るなり感動を口走ってしまった桜に注目が集まる。その多くが強面なお兄さんやおっちゃんである。
「……早速目立った……」
剣兄さん、額を押さえながら大きく溜め息を吐く。今回、桜には目立たぬように言い聞かせ、地味な革鎧を着せて、眼鏡をコンタクトレンズにさせていた(眼鏡はエルヴィアスにも存在するが、フレーム等に使用されているプラスチックやカーボンといった素材は開発されていない)のに……ほぼ意味がなくなってしまったようであった。
桜は黙ってさえいれば美少女にカテゴライズされる見栄えである。そして、ネフェも大人しくしていれば野生も残念も感じさせない超☆美少女である。そして、剣も殺気を放っていなければ見目麗しい美青年である。商売柄荒くれ者が多い冒険者にとっては、かなり場違いな闖入者であるといえた。
だから、世間知らずを教えようとする、井の中の蛙たる愚かにして哀れなる被害者が出てしまうのだった。
「よう綺麗な顔したあんちゃん。ここは女子供を連れて遊びに来る場所じゃあないぜ?まあ、女の子達だけなら遊んでやっても、へぶまっ!?」
止せばいいものの剣の肩に手を置いた瞬間に、無礼な髭面の大男は腕を跳ね退けられ、その勢いのまま頬に裏拳を叩き込まれて吹っ飛ばされた。上手く開放されている扉から外に飛ばされたのでギルドの建物に被害はない。大男は外で馬車かなんかに轢かれたかもしれないが。
「……やっちゃいました」
「兄様。自重!」
「……女じゃないから問題ない」
妹のこととなると沸点が低すぎる剣さんであった。場の雰囲気は水を打ったような静けさに……
「あ~あ。これだから初見を馬鹿にするなって言われてんのに」
「いい気味だろ。アイツに絡まれた新人がどんだけ田舎に帰っちまったか」
「依頼者かもしれねえのに。ギルドの評判下がっちまうよな」
どうやら、先程の髭面は中々の人格者であったらしい。目撃していた冒険者からは剣を非難するような言葉はなく、それどころか爆笑すら巻き起こっていた。
「……どうやら、腕っぷしだけは立つオッサン冒険者でしたか。嫌われ者なんですなぁ……」
「……満足したか?テンプレ展開に」
「はい!〝ベテランに絡まれる新人〟イベントを堪能させて頂きました!次はメインイベントの冒険者登録でありますな!」
憧れのシチュエーションを経験して、桜はホクホク笑顔である。そして遂に、異世界もの主人公の大半が通る道へと……
「冒険者ギルドアーネン支部へようこそ!本日はどういった御用件でしょうか?」
「三人分、冒険者登録を頼めるか?」
ギルドの受付カウンター。そこにいるべきは、受付嬢。それも、若く美しい女性であるべきである。何故なら受付嬢とはギルドの顔であるからだ。若く未熟な新人冒険者を見送り、依頼に成功しようと失敗しようと生還を言祝ぎ、次への活力を与える一輪の花。それがギルドの受付嬢!無気力で愛想もない受付嬢では、冒険者だって頑張れないのだから!
そういった意味から言えば、剣達に対応してくれた受付嬢は素晴らしかった。先ず、年齢は二十代前半であろう若さで清潔感のある肌艶をしていて、爛々とした大きな瞳がチャームポイントであった。半袖から覗く腕の、甲側をびっしりと覆う青い鱗なんてトルコ石みたいに艶やかでとても美しい。
「ふむ。蜥蜴人の女性……想定を上回る美しさでありますな!お姉さん、モテるでありましょう?」
「ありがとうお嬢さん。社交辞令でも嬉しいわ。冒険者登録をお望みですね?それでは此方の書類に必要事項の記入をお願い致します。後程契約に関する説明等を別室にて行わせて戴きますので、当館一階にてお待ちください」
大人の対応で桜のナンパ会話を流す蜥蜴のお姉さん。とても大人な対応。そして受付嬢のプロである!とても丁寧な説明と麗しい微笑みであった!鋼鉄の営業スマイルだ!
「桜……鱗も有りなんだな?」
ロビーのテーブルで書類に記入をしながら、種族(と性別)の壁をパルクールでもするかの様に鮮やかに飛び越えようとした妹の性的嗜好に不安を覚えた剣は桜に訊ねた。
「美しい方は美しいのです!ボクは人の形状と心さえ為していれば、外見に鱗があろうと羽毛があろうと、甲虫的な外骨格だろうとスライムみたいな粘体だろうと……粘体は寧ろ天然のローションプレイが可能なのでウェルカムであります!」
「……さいですか」
剣は改めて、桜の性的守備範囲の広さと多様性を再教育する事を諦めた!もう、思う存分突き抜けてしまえと思った。でも、近親相姦だけはしてやらねぇと決意を固めたのだった。
「それにしてもでありますが……」
「ん?どうしたよ桜」
「先程の蜥蜴お姉さんだけでなく、道すがら見た様々な種族の方々。様々な動物の特徴がありながらも、人間的なスタイルなのが不思議なのですよね。受付嬢のお姉さんも胸が大きかったでありますし……生物学的に分類するとどうなるのか気になります!」
「その辺りは俺も詳しくないからな……前世じゃ不思議にも思わなかったし。でも、地球の生物種分類とか知った後だと確かになぁ。まるで、人間に他の生物の要素を取って着けたみたいに感じるよなぁ。ま、神様とかが何かしたんじゃねぇの?それに、見た目がほぼ動物のままで、胎生でなく卵生だけど人族にカウントされてる種族だっているからな~」
「例えば?」
「人鳥族とか。外見完全にペンギン。この国の更に南の海の島国にいるらしい。燕には内緒な」
「それは……教えると大変な事になりそうな……知ってて教えなかった事がバレるのも恐ろしくありますが……」
心を通わせリア友になれるペンギンが存在している事を燕が知ったら、それは狂喜乱舞するだろうと剣も桜も容易に想像出来た。そう、燕にとっての楽園であり天国であり理想郷はエルヴィアスに実在しているのである!
しかし……友情である内は、まだいい。だが……愛情になってしまったらと思うと……
「何処の鳥の骨に妹を嫁にやれるか!」
「断固阻止!燕たまが欲しくば兄様を殺される覚悟で来いなのであります!」
全く、気の早い兄と姉である。
「燕、まだあんなにちっこいのに……成る程、これが兄バカに姉バカですか。燕は将来、苦労しそうです……」
地球で仲良しになった小さな友達を想い、ネフェは過保護兄姉を遠い目で見つめたのであった。
その頃の地球。
「はくしゅん!」
「あら?生鮮売り場に長居しちゃったかしら?燕、寒い?」
光は買い物カートに乗せた燕が大きなくしゃみをしたので心配そうに訊ねた。聖家は大所帯なので、食材の鮮度にも拘って目利きをすると、どうしても時間が経ってしまうのだが、燕がくしゃみをするのは、光にとっても珍しい事だったのである。
「さ……ぜんぜんさむくないの!このていどでねをあげたら、なんきょくにすむなんてゆめのまたゆめなので!」
「燕……もう少し暖かい場所に住んでいるペンギンさんもいるからね?ケープタウンとか?」
「こーてーさんは、なんきょくざいじゅーだから!ばめはしょーらい、なんきょくでこーてーぺんぺんさんとくらすのです!ゆめはでっかくなので!」
「が……頑張ってね?」
果して、この意思の強さが何処から来るのか……壮大な夢を語り、瞳を煌めかせる末妹を大成させる為にも、やはり、容易に夢を叶えてしまおうとする父親を厳しく諌めなければならないと再確認した引き攣り笑顔の光お姉ちゃんであった。
次回はよくあるギルドの説明回です。依頼のシステムとかランクの上げかたとか……どっかで読んだことあるかのような話を恥ずかしげもなくやります!




