182話目 プールには着いたけど
余計な描写を削れなかったので、今回でも終われず。
プールへと向かうバスの車中。実鳥と星和が目を見張る事態が起きていた。
「うわ……浜乃さん凄いです。とっても上手……」
「まだまだやで綺羅ちゃん。こんなんで満足しとったら、島から離島して壁には辿り着けんのや!」
バス乗り場での合流時、面識の無かった者同士での自己紹介で夏彩は堂々と「ウチの漫画の為に、水着姿を惜しまず晒しておくれやす!」なんて宣言したのである。
当然小町と南子はドン引きしたのであるが、綺羅は強く興味を示したのであった。それはバスへの乗車時、自ら進んで夏彩の隣に座るぐらいに。
そして今、夏彩は綺羅をモデルにスケッチブックに凄まじい速度で鉛筆を走らせ、少年漫画・少女漫画・ギャグ漫画等、様々な画風でキャラクター化した綺羅を描いていた。
「やっぱモデルがええと捗るわ~。着とる服も中性的やから、美少年キャラとしても使えそうや~」
「男子っぽく、見えます……?」
綺羅の服装は水兵風マリンルック。白と青を基調としたセーラー服とハーフパンツのボーイッシュなスタイルである。
「とても健康的に見えるからええんちゃう?ウチなんて全く健全に見えへんやろ?」
「あははっ。その返し反則ですよ!」
実鳥と星和が、それ以上に小町と南子が、夏彩と綺羅が驚異的な速さで打ち解けているのを刮目していた。小町はその様子を見て、やるせない表情をしだしていた。
「私、もっと息抜きできるような話題を振ってあげるべきだったかしら?綺羅を必要以上に緊張させてたかも……」
「大丈夫ですよ会長!綺羅も私も会長のことを尊敬していますから!真面目で責任感に溢れているのが会長の素敵なところですから!」
気落ちしそうな小町を南子は懸命にフォローした。因みに、南子がバスの乗車待ちの際、小町の直前の順番で乗車し、小町の隣に不自然な挙動をせずに座ったりしている。誰にも疑問を抱かれないほど自然なタイミングで、である。
「でも、普段控えめな綺羅が、あんなに元気な姿を見ちゃうとね……私ってつくづく余裕が無いんだなぁって思い知らされるわ」
「ど…どうしたんですか会長!いつもの自信に満ち溢れた姿はどうしたのですか!?」
「……ちょっと、現実の酷しさを知ったの」
南子もまさか、小町がファンタジー異世界で無力を痛感して兄と姉達への劣等感を更新してしまい、精神的な弱さを認識していたなど思う筈がなかった。
「なぁみっちゃん。小町ちゃん大丈夫なんか?」
「あれでも、帰ってきた直後と比べれば随分マシなんだよ」
更に小町達から離れた後方の席で、やさぐれ気味な小町を心配している星和に、実鳥が気遣うように受け応えしていた。
「……まぁ、私だって話聞いただけでもショッキングだったからなぁ。現場にいたって事を考えれば、普通に日常生活しているだけでも小学生としちゃ半端じゃない胆力だよなぁ」
「小町ちゃん自己評価低いからなぁ……一般的な同世代と比べれば抜きん出たスペックと根性を持ち合わせてると思うんだけど」
「比較対象が化物だらけだもんな~。よくもまぁ自分を卑下しながらも腐らずにいられるもんだ。私は小町ちゃんを尊敬するね、マジで」
「私もだよ。小学生の頃、どれだけ小町ちゃんに救われてたか……弱キャラだったからなぁ私……」
それが今や、前世の記憶と姿を取り戻した変身魔法少女である。あらゆる属性の広域殲滅魔法を使いこなして、地形だって変えちゃうぞ!
「とか?いやはや、小学生時代陰キャだったのに、人は変われば変わるもんだよねぇ~」
「もう!地形なんて変えないよ!そんなのが必要な事態なんてあったら大変だよ!」
端から見れば冗談の応酬(実鳥はマジ)をする女子友である。親しげで仲の良い元気な様子を、ふと後ろを振り向いた南子は不思議そうな顔で小町に訊ねた。
「実鳥さん……なんか変わりましたね。去年はもっと……大人しいとゆうか儚げだったような。時々、会長の方がお姉さんに見えちゃうぐらいだったのに」
「そう……そんなこともあったかしらね。なんだか、遠い昔のことのように思えるわ。過去を乗り越えた人って、とても眩しく見えるわよね」
「なんか黄昏てる!?一体、夏休みに入ってから何があったのですか……?でも、物憂げな会長も素敵です!」
キャラ崩れしかけている小町に対しても、南子の敬愛の眼差しは衰えを知らず。
「……なぁ綺羅ちゃん。南子ちゃんって、いっつもああなん?」
「生徒会室だと大体……ああです。南子さん、やっぱり……百合、なんでしょうか?」
「……まだ結論付けるのは性急やな。これから要注目せな!」
「生徒会の人間関係がおかしくならないといいんですけど……」
かくして、純粋な敬愛だったり邪な興味本意だったりな想いが水面下で交錯しつつ、六人を乗せたバスはプールへ到着したのであった。
太陽がギラギラに輝き、光を遮る雲もまばらな快晴の猛暑日。プールは中々の混み具合であった。運良く待ち時間無しで入場は出来たものの、着替え用ロッカーの位置はバラバラとなり、六人はプールサイドで待ち合わせる事にした。
「ん……私が一番だったかな?さて、なっちゃんはどんなネタ水着で出てくんのか……」
初めに姿を現したのは星和。スカイブルーのビキニであるが、上半身部分はスポーツウェアな形状で胸元は主張されず、肩紐も幅広である。まだ中学一年生であるし、男性の目を引くつもりは無いとゆう心情も表れている格好なようである。
「あ!藤間さ~ん。良かった、私一人じゃなくて」
「待ち合わせで最初の一人って、不安になったりするよなあ。手持ち無沙汰になるしなぁ…」
続いてやって来たのは綺羅。そして、その水着は……
「可愛いは可愛いんだけど……」
「やっぱり、子供っぽい……ですよね」
赤と白のチェック柄のワンピースに、肩口と腰にフリルが着いている水着であった。
「これ、小一の頃に買って貰ったんですよね……少しキツいけど、今年で着納めかなと思って……」
「物持ち良いのは素晴らしいけど、犯罪を招きそうだから本当にこれっきりにしようね!」
「せやな~。小柄とはいえ童女から少女へ変わりつつある身体に、そのロリ水着は爆発力あるなぁ。お尻のラインがピッチリこう……」
「ひゃんっ!?」
音も気配も無く綺羅の背後に忍び寄り、夏彩は綺羅の水着の縁(右股側)を指でなぞったのだった。
「なっちゃんいつの間に!?つか、今の行動完全にアウトだぞ!そしてその水着もアウトだ!」
夏彩の水着は白スク水。しかも昭和の遺物である旧バージョンであった。
「せっちゃん。スク水が如何わしく見えるんは情報に踊らされとる結果に過ぎんのや。布面積でゆうたら、せっちゃんの方が余程ふしだら思わへんと」
「世間がどう見てるか承知で着用してるからアウトなんだよ!それと、今日会ったばかりの小学生にいきなりセクハラしてんじゃねぇし!」
「リアリティある画にしたいんよ!この手で質感を確かめずにはいられへんかった~」
「もう逮捕されておけ。アンタが男だったら確実に通報している案件だからな!綺羅ちゃんどうする?訴えれば絶対勝てるけど」
不意にお尻をなぞられたので、綺羅は当然驚いて困惑して赤面していた。星和が言う通り夏彩は性犯罪者であり、綺羅は被害者である。さあ、今こそ欲望に忠実な愚か者に正義の鉄槌を遠慮せずに下してやってくれたまえ!……みたいなノリで、星和は綺羅に公共の場で不埒な真似をした恥知らずへの断罪を委ねたのだった。
「え、と……女の子同士だし、別に訴えたりなんて……アレですよね?漫画とかでよくある……緊張感を解そうとして!…とか?」
綺羅は夏彩の趣味の悪い悪戯に怒るでも泣くでもなく、夏彩の行為を極めて好意的に解釈して返答したのであった。
「……ヤバイ。穢れが無さすぎてこっちが死ねる」
「アカン。ホンマもんの聖女様に手ぇ出してもた……」
「お、大袈裟ですよぉ!」
邪気を感じさせない態度の綺羅に、俗世に染まりきっている中学生二人は自戒の念から居たたまれなくなってしまった。一方綺羅も、本心そのもので受け応えした訳でもないので(尊敬する生徒会長のお姉さんの友達と気不味くなりたくないなぁ…程度の気配りをしただけ)、持ち上げられ過ぎて却って恥ずかしくなったのであった。
それを、物陰から南子が見ていた。
「非常に……出辛い」
何故なら、南子の水着はスク水(紺色)だから。小学校指定(4話目参照)の水着だから!
南子ちゃんは真面目ないい子なので、生徒会役員として生徒の模範となる行動を心掛けているのである。故に、小学生として着ていて当然なスクール水着姿をしているのである。
そう、真面目で純真な小学生であるが故に、スク水がとある業界でジャンルとして確立されているだなんて認識は持ち合わせていなかった。だから心に迷いが生じていた。スクール水着をディスるお姉さんと、熱くスク水を語り自らも着用しているお姉さんの前に、姿を晒すのは危険なのではないかと本能が警鐘を鳴らしていたのだった。
「……何してるの南子ちゃん?」
「ひっ!?」
注意が夏彩達に向いていた為、南子は背後からの声に過剰に反応して悲鳴を上げて振り返った。そこには、南子が驚いた事に驚かされた実鳥が、ビーチボールを抱えて立ち尽くしていた。
「驚かせちゃった……かな?ボールを膨らませるのに手間取っちゃって……ねぇ、何で皆から隠れてるの?」
何か事情が有るのかと、実鳥も南子と共に友人達の視界に入らないように物陰に姿を隠すと、南子に事情を訊ねた。
「えっと……あ…実鳥さんの水着、可愛らしくて、素敵ですね……」
「あ、ありがとう。うん。自分でもけっこう気に入ってるんだ。南子ちゃんのは学校指定のだよね?模範的な小学生だなあ」
実鳥の水着は、先日海に行った際と同じ黄緑色のフレアビキニである。セパレートの水着ではあるが、ハイネックで胸元は隠れているので清楚な感じを醸し出していた。
「で、ですよね!小学生なんだからスクール水着でいても普通……いえ!自然な事ですよね!……なんですけど、実鳥さんのお友達が、何やら不穏なことを口走っていて……その、スクール水着って、世間的には変な目で見られるものなんでしょうか?」
「……ん!?」
南子からの質問に、実鳥は笑顔で首を傾げた。そして炎天下の最中、健康的な普通の汗に比べ、三倍近くの冷や汗を流し始めていた。
(どう説明すればいいの!?南子ちゃん、本当に解ってないよね?これ、説明しちゃったら自分の首を絞めるよね!?)
雑多で豊富な性知識を持つ複数の義姉と、薄い本の作製を目指す友人がいるだけあって、実鳥は世の中に〝特定の服装に対して強く性的興奮を示す人々がいる〟事を、その中でも〝スク水〟が上位に入るカテゴリーであることを(不可抗力的に)知っているのである。しかし、それを説明することは……南子にエッチなお姉さん扱いされてしまう可能性を考慮して、覚悟しなければならないので……
(うん!とぼけよう!)
かつて勇者であった実鳥ちゃんだが、変態扱いされる勇気は持ち合わせていなかった。
「私が思うにだけど……小学生が着ている分には問題無いんじゃないかな?えっと……いい年した大人が、学生服着て高校生のフリをしてたらみっともないと思わない?……みたいな?」
「な、成る程……それはその通りですね!安心しました……そうですよね!小学生がビキニとか、大人っぽい水着を着たりする方が、無理して背伸びしているみたいでみっともないし破廉恥ですよね!」
「……んん!?」
実鳥ちゃんの冷や汗、五割増量!最後の一人が合流するまで、加速度的に笑顔が強張ってゆく!
「会長、まだでしょうか?」
「みっちゃん。小町ちゃんはどんな水着なの?」
「せっちゃん、焦ったらアカン。小町ちゃんは格上の美少女なんやから、生で拝むまで楽しみにしとかんと」
「会長の事ですから、私達小学生のお手本となるような清廉でエッチなのとは無縁な姿だと思いますよ?」
「……………………早く、来て……」
その時、ロッカー室の出口付近がザワついた。全員がそれに気付いて注視すると……情熱的な真紅のビキニを纏いながらも、対照的な気怠そうな瞳に憂いを含んだ表情の美少女が、周囲の反応に興味を示さずにこちらに飄々と歩いてくる姿が確かめられた。
「……暑いね。待たせてごめんなさい」
「ううん。……やっぱり、そのビキニだったんだ」
「他に、スク水しかないし。これ好きだし」
小町の水着も、先日海で着ていたビキニであった。アンダーは中々のローライズで、両サイド紐付きの……かなり攻めているデザインの三角紐ビキニであった!
「私は判ってたからいいんだけど……皆ショックで固まっちゃったね」
「たかが水着で大袈裟よ。光姉さんは半端なく綺麗だし、翼姉さんと希姉さんなんて、生きてるだけで男を魅了しちゃうんだから。私なんてその劣化版でしかないってのに」
本当に、比較対象がアレ(以下略)。
「いやいや!小町ちゃんはもっと自分の魅力に気付くべきだよ!凡人のこっちが惨めになるから!」
「こんなん女神様降臨やん。感謝しかないわ。ありがとうございます!」
「はわわ……会長素敵過ぎます!とても綺麗でビックリしました!」
「そう?ありがとう綺羅。……みなみな?」
「………………………………………」
「……アカンわ。南子ちゃんショックで完全にフリーズしてもうたわ。刺激が強かったんなぁ」
小学校では清楚で品行方正な生徒会長が、大人顔負けな大胆な水着姿を披露しているのである。真面目な優等生である南子にとって、現実として受け入れるにはハードルが高かったようである。
「……校則でビキニ禁止とかなってないのに。公序良俗には反してない筈なんだけど?」
「そうゆう問題じゃないよ小町ちゃん……」
この後、晃馬くんも合流するんじゃなかったっけ?小町ちゃんに自分の魅力を自覚させて自信を取り戻させないと、もっと被害が大きくなる……実鳥は、もうどうするべきか解らなくなった……
男子合流までもいけなかった……
晃馬くんには、次回玩具?になって貰います。
小町の水着でオチにするのは見え見えだったかなぁ……?




