180話目 早朝の兄バカと姉バカ
燕ちゃんの誕生日翌日です。
小鳥がチュンチュン鳴いてます。
早朝の河川敷。柴犬のこだちを連れて散歩をするのは飼い主である剣と、珍しいことに普段は剣の寝床で二度寝をするのが習慣の梓である。
何故、梓が早起きしているかと理由を述べるならば、剣の寝床に侵入して、残り香を堪能する必要が無い程に、直に新鮮な剣成分を長時間に渡り摂取して満足しているから……である!
軽快に小走りするこだちに合わせ、スキップまでしてしまうくらい身も心も満たされていたりする。
一方、剣は少し遅れてゆっくり歩き、浮かない顔で何度も溜め息を吐いていた。そうなっている理由は起床時の出来事。
可愛い末妹の燕の誕生日を、そのパーティーのラストを見納める事なく寝過ごし、気がついた(いつも通り五時前に目が覚めた)ら一切衣服を纏っておらず、隣には剣の腕枕で梓が眠っていたのだ。剣同様に全裸で。やるせなくなるのも当然である。
意識を喪失している間に何があったかは考えるまでもなく、剣はなんとも言えない空虚感と、燕の誕生日を途中退場してなにをしてんだ……?と罪の意識から葛藤し、「うぐあぁぁぁ~~……」と起き抜け直後に魂を口から吐き出しそうな重低音の呻き声を上げたりした。
すると、梓がのそりと起き上がり、蕩けた眼を擦りながら「……昨夜はお楽しませていただきました~」なんてほざきながら、寝惚けて夢現ながらにもう一戦お楽しみしようと這い寄ってきたので、少しイラッとしてプニプニしている頬っぺたを指で摘まんでにゅい~んと延ばしてみたりした。
「いひゃい~、けんちゃんの愛情表現ってば攻撃的過ぎ~」
痛い。とか言いつつも、梓の表情は嬉しそうにニヤケている。
「俺がドSみたいな言い草してんじゃねぇよ。つかお前がドMか?ったく……怒る気も萎えるわ」
それでも剣は釈然としなかったので、梓の頬っぺたを摘まんで伸ばして揉みほぐしたりして、梓が完全に目を覚ますまで弄んだ。
そして、二度寝されるのも何だかムカつくので、こだちの散歩に同行させることにしたのである。
「うん!夏でも朝なら結構涼しいもんだね~。いや、こんな早起きするなんて、小学生のラジオ体操以来かな?」
「いや……今の時期だと稀だからな。毎日早起きしろとは言わねぇけど、いつでも散歩に付き添ってくれてもいいんだからな」
「けんちゃんってば、片時も私から離れたくないとか大胆なんだから!」
「そこまで言ってねぇし。羨ましいわ、そのポジティブ思考……」
「けんちゃんが傍にいて、最近身内に不幸がありません。何かネガティブになる要素ある?」
「……受験勉強」
快活な笑顔をしていた梓であったが、その一言で膨れっ面になると顔を反らした。
「デリカシーが欠けてるぞけんちゃん!楽しい時間につまんない事を思い出させるなんて無粋だよ!」
「無意識の人を性的に襲った奴にデリカシーを問われてもな……」
長年連れ添っている間柄だから事を荒立てずに許せているが、特に親密でもない相手に同じことをされたら、相手が絶世の美女であったとしても、怖いし引く。下手すればトラウマになって女性恐怖症になるんじゃないかと剣は思った。
「だってぇ……受験勉強でストレスは溜まるし。夏休みに入ってから、けんちゃん家に食事と寝る為だけに帰ってくる生活していて擦れ違いだったし……可愛い妹達が用意してくれた据え膳を有り難く戴かないのは姉として失格じゃない!?」
「それは、まぁ……忙しくしていた俺が悪かった。が、兄を据え膳にしちまう妹達って……もうどうにもならねぇけど、曲がりくねった性格に育っちまったもんだよなぁ」
「うんうん。実に愉快な妹達だよね!」
翼と希と桜がそうなった原因は、大体剣と梓が甘やかしたのが理由の大半である。剣にとって翼と希は亡き母から託された形見であり、初めての妹達であった。故に守り育てる事に大きく重い使命感を抱いていた上に、前世の記憶を持つ双子は実に要領よく〝可愛い赤ん坊〟を演じて自らの待遇を良くしようと努力していたのである。
天性の愛らしさをもって生まれた上に、0歳にして計算された可愛さで甘える双子。剣が過保護者となる原因を作ったのは間違いなく翼と希であった。
一方で、元々は家族を自分達に都合良く誘導する為に良い子を演じていた双子であったが、高い知能を有していたが故に、剣が地球人としては規格外な能力の持ち主であることに気付いてからは嫌われないように必死にご機嫌取りをするようにした。隷属させるより寄生する方針にシフトしたのである。
現在ではそれが素となり、剣を激怒させない程度の絶妙な匙加減での悪戯を仕掛けたりして、適度に叱られるのを楽しむとゆう甘え方までしているのである。
梓にとっても翼と希は初めての義妹であり、ごく普通の女の子であった梓はごく普通に可愛いモノが大好きであったので、母親の結婚で双子の義姉となってから、それはもう双子を可愛がったのである。双子からしても、当時三歳でありながら剣に対して積極的な求愛行動に出る梓は興味深い観察対象であり、現在も変わらず飽きない存在なのであった。
そして、桜も半端であるとはいえ前世の記憶を持っていた為、実に手の懸からない幼児であったのだが……
「ま~……今ならあの子達と比較しちゃうと、こまたんには悪いことしちゃったなぁって思うよねぇ?」
「かもな……今、アタリがキツいのも当然か……」
場所を公園の木陰のベンチに移して一休み。剣と梓は自販機で買った冷たい缶飲料を手に、子育てに悩む夫婦さながらの会話を続けている。
小町も当然、兄と姉達からの愛情を一身に受けて育ったのだが、要領の悪い子だった。正確に表現すれば、ごく普通の子ではあった。しかし、剣以下幾人もの妹を世話してきた光にとって、母親の夕樹にとっても、ごく普通に我儘だったり年相応の知識しかない小町は、とても手の懸かる子に感じられてしまったのである。
「……幼心に、どうして自分ばっかり怒られるんだろうって、思ってただろうなぁ」
「ちっちゃい頃のこまたん、よくお姉ちゃんやママに叱られてたもんねぇ~。だからこそ、真面目な堅物ちゃんに育ったのかもしんないけど」
「小町がマトモに育ってくれたのが奇跡だとしか思えない……燕は、今後どうなるんかなぁ?」
「ん~……鈴ママの子だし、はるるんとどりりん見てれば間違いなく美少女には育つと思えるよね!それより、けんちゃんはばめたんの事、そーゆー意味以外で不安に思ってるんだよね?」
「……俺、その事梓に相談したっけ?」
梓は「やれやれだぜ!」といった風に溜め息を吐くと、飲料を一口飲み込んだ。
「どりりんから聞きました!もう!相談してもどうにもならない事でも、悩みを共有ぐらいさせてくれてもいいんじゃないかな?秘密にしておきたい事なら私も無理には訊かないけど……〝仕方ない〟〝無駄〟とか思って相談しないのはイクナイよ!そーゆーのがズルズル続くと倦怠期になっちゃうんだからね!」
「倦怠期って……まあ、世間一般的にはなってもおかしくないぐらいの付き合いか。もう、出会って十五年だもんなぁ」
「言うまでもないけど、私は十五年変わらずどころか、年々ラブラブ度増し増しだからね!言うまでもないけど、大事な事だからもう一回、ラブラブだからね!」
「いや、言いたくて仕方なかったろ、それ」
人通りの少ない早朝の公園ではあるが、剣達同様朝の散歩やジョギングをしている人はいる。大型犬を散歩させている老夫婦が微笑ましそうに見ていたり。ジョギングしている中年男性が妬ましそうに睨んでいたりするが……剣は自ら鍛えた。梓は天然のスルースキルで見事に流した!
「……ま、本当に話してどうなるモンでもないから……いっか。実鳥から聞いて、梓はどう思った?」
「そうだね……ばめたんの魂が天使なのは確実なんじゃない?逆に訊くけどけんちゃん。女神ちゃんがばめたんの可愛さを他の何かで例えた事って在った?」
「いや……少なくとも印象に残ってるのはねぇな」
「なら、女神ちゃんが「天使なんだよ!」って思わせたいか、本当にそうなんだと気付いて欲しいのか、はたまた天使的な可愛さだと心底思っているかの三択……いや、三つ目は必要ないか」
「その心は?」
「ばめたんの可愛さを、見たこともない天使なんかと比べられても納得できません!」
「成る程。確かに議論する意味が見出だせないな」
兄バカと姉バカが極まっているバカップルであった。
「まあ、考えておくべきは最悪なケースだよね。天使が私達にとって敵であるなら、その上にいる……神様?も、敵だって事になるよね?もし、そうだったら?」
「俺でも瞬殺されるな。勝ち目ほぼ無し」
「……そんなに?」
「ああ。女神様なら俺を小指の先でチョン!する程度の力で粉々に出来ると仮定して……地球を統べる神ならば、指毛の毛先が掠める程度の力で消滅させられるだろうなぁ」
「無理ゲーじゃん!?」
「そうだな。俺達の物語がゲームで、クリア条件が神殺しなら完全に糞ゲーだな。こっちの最大HPが999なのに対し、ラスボスのHPが億とか兆で、二段変身に完全回復まで実装されてるようなもんだ。ま、これが最悪なケースじゃねぇかな?」
「神様って、そんななんだ……考えるだけで滅入るね。うん。神様をどうこうってのは先送りにしよう!」
「な?どうにもならない話だろ?」
「そ~だね。でも……私は不毛な無駄話するのも好きだから。それに案外、こーゆー話をしていることで、全く別の問題の解決策を思い付いたりする場合もあったりしない?」
「本当に、見習うべきポジティブさだよなぁ」
「まぁ……単なる逃避行動だけどね!そんな訳で、ばめたんの〝天使モード〟を想像して創造してみようのコーナー!」
「変なコーナー始まった!?」
「はい。全く意味のないコーナーです。天使になったばめたんの姿を考えてみるだけの、とびきり可愛いばめたんを妄想して萌え死にたい人に媚びるだけの話題です」
「誰に言ってんだ?……まぁ、燕の可愛さ語りすんのに文句は無いけどさ」
斯くして、兄バカと姉バカが妹の魅力を持ち上げるだけの会話が始まった。
「外見の設定年齢は十七歳ね!手足の細長さはお姉ちゃん。はるるんのボディラインのバランスも受け継いでる筈!」
「桜と毎日踊っているから体力あるし筋肉の柔軟性もかなりだろうな……顔は、実鳥に似るかなあ?」
「髪質は今のところこまたんが一番近いかな?もっとこうふわ~っと伸びて……名前の通り、燕尾みたいに二つに割れたロングになったり?」
「天使なら翼も生えるよな?……なんか、ペンギンの翼が生えたイメージが……」
「ペンギン翼の天使なんて斬新!一生懸命パタパタして飛ぶの!ヤバ!なんか必死な顔が弄らしくてキュン死しそう……」
「梓!まだ死ぬな!まだ髪のカラーリングの変更や、設定年齢の変更を楽しみきっていないぞ!」
「そ、そうね……それに、服装チェンジも考えないと……つばぞみ並に、色気を振り撒く、絶妙に清楚とエロスを兼ね備えたコスチュームを……私は……作る!」
「いや、燕をエロスのモデルにすんなや。後、小町もな」
「どりりんは有りですか?」
「……もう、色々手遅れだからなぁ……」
楽しく白熱する、実質仲良し夫婦な二人の会話。それは、その足下で伏せたこだちちゃんが、お腹を空かして「くうぅ~ん」と哀しそうな鳴き声を漏らすまで続いたのであった。
久々に、仲良し夫婦のイチャイチャでした。
燕ちゃんは天使です。間違いなく。
今話でも書きましたが、この作品内での神は絶対的です。1ターンに10回ぐらい平気で行動します。全体攻撃します。ベホマします。凍てつく波動します。バフもガンガンします。そんぐらい理不尽な存在です。
なので、この作品では女神はちょくちょく登場しますが、神殺しは主人公達にとって目的にも手段にもならないので悪しからず……そっち系の世直し的な展開は期待しないで下さい。寧ろ、無責任に引っ掻き回していってますから。
次回は実鳥メインの話です。




