179話目 燕のバースデー 花火で締め!
今回で燕の誕生日編終了!
「それでは……思う存分食って。飲んで。騒いで。燕の誕生日を祝ってくれ!乾杯!」
剣の音頭で、集った皆が高々と飲み物が注がれたコップやジョッキを掲げて歓声を上げた。僅かな時間であれ、目の前の御馳走や美酒をおあずけされていた事に辛抱堪らず、各々が狙い定めていた料理に手を伸ばし、キンキンに冷やされた泡の出る飲料を勢いよく飲み干した。
魔族達の多くは孤児であったりして誕生日を祝う習慣に馴染みがなく「そんな理由で宴をするのですか?」みたいに戸惑う者ばかりであったのだが、リーダーの身内であり恩人でもある聖家からの頼みであったので快く承諾してくれたのである。
光の、それも彼等にとっては異世界の珍しい食材を使った料理を存分に貪り、遠慮せずに騒げるのだから、断る理由も有る筈が無かったが。
「って、翼!希!それビールだろ!」
パーティーには大人も参加しているので、当然アルコール類も用意されている。そして、翼と希が手にしている中ジョッキには、泡の出る黄金色の液体が並々と。
「はて?これはリア○ゴールドですが」
「そうだよ。泡が多少増しの、甘くない元気になるドリンク」
「甘くない時点でリアル○ールドじゃねえ!」
「……じゃあオロ○ミンC」
「ドデ○ミンだったかも」
どれもほぼほぼ同じ味の黄色くて元気の出るドリンクである。が、その何れもが翼と希が手にしている液体とは絶対的に別物である。
「まあ落ち着いて下さい御兄様。ここは日本ではありませんし、この地は現在無法地帯ではありませんか。程々に楽しむくらい、構わないのではありませんか?」
桜はそう言うと剣の空になったグラスに、ペットボトルのコーラを御酌した。剣は特に気にすることなく、それを一気に飲み干した。
「程々で済むならな……俺にはアイツらが……羽目を外す姿……しか、想像つか……な……」
剣は呂律が回らなくなり、パタンと倒れ。く~……す~……と、寝息を吐て始めた。
「あら……私としたことが、手を滑らせて小匙一杯程のブランデーをコーラに混入させてしまったようですね。この程度で酔って眠ってしまうだなんて、御兄様ったらお可愛いですこと……ふふ」
わざとらしく手違いをアピールしているが、確信犯である。翼と希が剣の意識を自らに誘導しつつ、桜がその隙を衝いてアルコール混入飲料を注ぐ……三人のコンビネーショントラップであった。
「これは大変!おに~ちゃんお酒飲んで酔って寝ちゃったよ~」
「梓ちゃ~ん。おに~ちゃんを介抱してくれる?」
「梓御姉様。二階の奥の部屋をお使い下さい。……ベッドメイクは済ませてあります」
これはなにも、剣に対する妹達の茶目っ気たっぷりな悪戯なだけではなかった。夏休みでありながら毎日二つの世界を忙しなく行き来して疲れ気味なお兄ちゃんをグッスリ眠らせてあげようとゆう心遣い。そして、その剣が大好きなのに受験勉強の為に一緒に過ごす時間が激減しているお姉ちゃんへの労いとしての……メインディッシュの贈呈であった!
「え?いいの?美味しくいただいちゃうよ!?私の妹達は、なんて出来た娘達なの!?」
妹達が用意した据え膳を喰わぬは姉の恥!梓は一瞬の躊躇もなくゴチになる事を決め、メイド魂を爆熱させた桜がメイティングしたベッドルームへと、剣を抱えてダッシュで突撃したのであった。
翼と希と桜。三人は不敵な笑みを浮かべ会わせると、親指を立てた拳を小突きあった。
「上手くいきましたね。それでは後程覗きに行きましょう。家政婦だけに」
「うむ。梓ちゃんの攻め方を勉強させていただく」
「欲を言えば、おに~ちゃんの攻め方も拝見したくもあるけど」
兄と姉の情事を出歯亀する気満々である。そんな彼女等を、なんて娘達だと辟易した目で遥は眺めていた。
「……剣って、つくづく妹にダダ甘。あんなのありがた迷惑の度を越えた悪ふざけだろうに」
「心の底から羨ましい……ママもあのくらい娘に優しくしてくれていいと思う」
遥にピッタリ寄り添い翼達三人に羨望の眼差しを向けるガルミア。実鳥に叱られお仕置きされたガルミアは、それが終わってから友達であり叔母である遥に慰めて貰っていたのであった。
「だってよー実鳥」
「お姉ちゃんこそガルミアを甘やかさないで!叱るべき時に叱らなきゃ躾にならないんだから!大事な娘だからこそ、時には厳しくしなきゃいけないんだから!」
お母さんモードな思考状態に入っている実鳥(身体は中学生モード)。かつて死に別れした頃よりも幼さを感じさせる娘の行動や言動に頭痛がいていそうである。
「妹のママみが急上昇してる……いや、だからこそ叱られて泣いている子のケアは必要なんじゃないかと」
「ブーメランだよ。お姉ちゃんこそ姉みが増してるから」
遥にとってガルミアは実鳥の精神世界で命すら預ける程に信頼した相手であり、実鳥に寄せる愛情に疑いを抱く余地すら無いほど信用している相手でもある。加えて、精神世界で見た少女姿のガルミアの姿が強く印象に残っている為、多分に庇護欲が擽られていたりもするのであった。
「ガルミアも……ママもう怒ってないから、お姉ちゃんにベッタリしてないで……正直恥ずかしいから……」
いい歳した娘が、自分の姉に人前でベタベタ甘えている状況とゆうのは、中々精神的にくるものがあるのであった。
「ママ……本当に怒ってない?それなら、前の身体でぎゅ~してくれないかなぁ」
「それは駄目。エルヴィアスであの姿になるのは可能な限り避けなきゃ駄目なの。貴女達の為にも、ね?」
ヴェルティエの身体に実鳥の魂を戻せば、それは紛れもなくエルヴィアスの勇者なのである。それは、本来この世界から永遠に失われた筈の存在であり血脈。もし、その存在が復活している事を人族サイドや、エルヴィアスの〝神〟に知られたら、面倒や厄介に巻き込まれるのは容易に想像がつく(剣談)ので、やむを得ない場合を除き、実鳥はエルヴィアスでのヴェルティエへの転身をしないと決めていたのである。
「……まぁ、その内。こっちの準備が整ったら地球に招いてあげるから、その時には……ね」
人前では恥ずかしくとも、娘に甘えられるのは嫌ではない。とゆうか、理不尽に奪われた幸せな時間を取り戻したいのは、母も娘に負けず劣らず同様なのであった。実鳥が背伸びしてガルミアの頭を撫でると、ガルミアは今日一番の、だらしなく弛みきった笑顔になった。
「ママ……大好き!遥も好きっ!みんな……大好きだー!」
リーダーさんの果てしなく上機嫌な叫びに、魔族の皆さんのテンションも最高潮。歓声を上げ、呑めや食えや歌えや踊れの大騒ぎである。実際、翼と希が激しく歌って踊っているので、男連中は種族の垣根を飛び越え悩殺される者も多々。女性陣も翼と希を見よう見まねし歌って踊り、パーティーの盛り上がりは最高潮。
そんな騒がしい輪に加わらず、バルテは少し離れて一団を見守るようにチビチビと一人呑みしていた。そこに、小町が串焼き肉を二本載せた皿を持ってきた。
「ありがとうコマチ。とても美味そうだな」
「うん。味は保証するよ。何たって、光姉さん直伝の味付けだからね!……味付けは、だけど」
僅かに自信なさげな小町。その理由は、串焼きの肉が、剣とネフェが狩ってきたばかりの猪っぽいUMAの肉だからである。現地の皆さんが平然と口にしているので危険な成分が含まれてはいなさそうだが……小町自身は、まだ口にする勇気がなかったりした。
「そうだな。新鮮なのも悪くはないが、数日置いたほうが肉が柔らかくなったり、味にも深みが出たりするらしいからな」
そうゆう意味じゃないんだけどな~……小町はとても神妙で微妙な顔をした。
バルテは肉を口にすると、驚愕に瞳を大きく見開いた。
「これは……確かに驚きの味付けだ。甘味と酸味が混ざりあって……肉の臭みも薄く、なんとも食べやすい……一寸、私には表現する言葉が思い付かないんだが……とにかく美味い!」
「……こっちの人が大袈裟なのか、日本の食文化が先進的過ぎるのか……まあ、生産性より味を優先して発展させるには、平和じゃないと無理な話だよね」
「コマチは子供なのに、とても思慮が深い喋りをするな。ああ、そうか……コマチ達は、正人族と同じ成長速度だったのだな?他種族と語る事などなかったから、どうにも勝手が違う筈だ」
魔族は人族よりも肉体的な成長が2~3倍は早く、成人してからの老化がとても遅い。故に、バルテから見れば小町は魔族の常識では三、四歳程度。もっとお馬鹿な子供である方が普通な感覚であったのだ。
「……でも、ガルミアさんって聞いた話だと……二十近くな筈だよね?地球とエルヴィアスに時間のズレがあったとしても……兄さんと実鳥義姉さんの転生した時期的にそんなズレてないかと……」
「それは、言わないでくれ……私だって、動転しているんだ……」
笑顔すら見せた事のない堅物が、張り詰めていたものが一気に緩んで落ち着きのない幼児と化してしまった現状。相対していた敵が壊滅していなければ、組織としてとても看過出来ない状況に陥っていると、バルテは思っているのだった。
「だが、組織の一員としてではなく、友人としては歓迎すべき変化でもあるのだろうね。ガルミアに限らず……皆がこんなに笑顔を見せる日が来るだなんて……とても嬉しく、愉快ではあるんだが……」
「バルテさん?」
「いや、こんな宴席で口にする事ではなかった。誕生を祝うとゆう習慣。いいものだな。この先私が子を為したら、こうして祝ってやりたいものだと思うよ」
「お相手は?」
「……いればいいんだがな~いないんだよな~……本当、馬鹿ばっかで……」
「……お酒、程々にね」
妙に気の合う二人は、宴席の喧騒を余所に、静かに仲を深めてゆくのであった。
「それでわ!ふぁいなるいべんとです!」
本日の主役がメイド姉に肩車され、大きく両手を広げた。その両手に掴まれているのは、カラフルな二本の棒。
「るみねぇ、よろしく!」
「えっと……先端に火を着ければ……いいんだよね?」
ガルミアの魔法によって、棒の先端に小さな灯火が着火された。すると、棒から激しく火花が燃え上がり、煙を上げながら炎が次々と色を変えて行く……エルヴィアスの住人が初めて目撃する〝花火〟であった。
「うわぁ~……火を見て綺麗と思うなんて初めて!」
「凄い!色が変わるの、魔法じゃないの?」
「ん~……綺麗だけど、くっさい!」
「私にも!私にもやらせて!」
子供達の食いつきは凄まじく、大人達も噴き出すように燃え、彩り豊かに変色する炎が物珍しく興味津々。
「みんな~花火を人に向けてはいけませんからね~。それと、燃え尽きたらちゃんと、水の入ったバケツに捨てるんですよ~」
光お姉ちゃんの説明を受け、大人も子供も元気よく「は~い」と返事をして、各々花火を受け取った。
そして、魔族の皆さんが手持ち花火に夢中になっている間に、聖家姉妹によって横並びに配置された噴き出し型、所謂ドラゴン花火10個が一気に着火された。それは闇夜に火の花を咲かせる並木のようで、それはもう、大いに盛り上がったのであった。
こうして、燕の誕生日は大盛り上がりの内に幕を閉じたのであった。
今年の燕の誕生日は、燕を祝うだけでなく、姉妹にとっても特別な一日となった。
ある者は友人との理解を深めあい。
ある者は意外な者と新たな絆を紡ぎ。
ある者は取り戻した絆を更に強固に。
燕にとっても兄と姉妹をはじめ、多くの人から祝福され、笑顔を交わし、幸福に満ちた素晴らしい誕生日であった。本当に、パーティーの参加者誰にとっても最高の一日であった。
……このフィナーレに不在であった兄一名が、翌日少々いじける事を除けば。
燕の誕生日でありながら、遥と実鳥にばっかりスポット当ててしまった~……
最終的に一番美味しい思いをしてたのは梓でしたが。末妹の誕生日になにしてんだか……
苦労人コンビは、これからもっと仲良くなりそう。
花火のシーンは、一応派手な音が鳴るのや、打ち上げは目立つのでNGにしたので案外地味になっちゃったかなあ……反省。
次回は、いじけ剣とツヤツヤ梓二人で後日談。




