178話目 燕のバースデー 夕食は異世界バーベキュー
サブタイトルで展開バレバレ……
「うわあぁぁぁッ!はぁ……はぁ……はぁ……?あれ?ここ……家か?何時の間に帰ってきたんだ?……マジで、記憶にない……」
何か良くない夢でも見たのか、遥は叫びを上げて飛び起きた。しかし、夢の内容はおぼろ気で、幸か不幸か思い出せない。それどころか、何故眠っていたのか。どうやって帰宅したのか。そもそも……何処から覚えていないのかすら覚束無い。
身なりもメイド服ではなく、Tシャツにショートパンツとラフな姿で、普段家で過ごしている時と大して変わらない格好であったが、当然着替えた記憶なんて無い。そして……何故かブラジャーを着けていなかった。
「なんか身体もサッパリしているけど……シャワーを浴びた覚えもねぇな……てか、どっから記憶が翔んでんだ?」
遥は真剣に、目覚める前の記憶を手繰ってみようとした。が、その前に部屋の扉が開いた。
「あ……お姉ちゃん……起きてた?」
そこにはいたのは見間違える訳もない、実の妹の実鳥であった。しかし、その表情は起こしてしまって申し訳ないといった感じではなく、そこはかとなく気まずそうな雰囲気があった。
「あぁ、起きたとこ……だと思う。なんか……起きる前に何をしてたか判らねぇ……気付いたらここに。今日って……燕の誕生日でいいんだよな?」
「う、うん……何も、覚えてない?」
「ん~……アタシ、今日バイト行ったよな?」
夢か現か区別がつかない様子で、遥はバイト中の出来事を一から並べ始めた。
「そうだよ。私達が着いたら、なっちゃん達もお店に来てて……」
「だよな。色々あったから相当ストレス溜まって……メイド長がいらんことすっから思わずブチギレして……そっから全然記憶がねぇ……どうなったんだ?」
「大変だったんだよ?お姉ちゃん、獣化魔法を暴走させて全身猫っぽくなっちゃって……メイド長さんの首を絞めちゃったりして」
「マジか……我ながら、よくも投げ飛ばされなかったもんだ。その所為か?やけにスッキリした気分なのは」
「あ~、うん。そうかもね。それで……お姉ちゃん完全に正気を失ってたから、剣さんが睡眠魔法で強制的に眠らせて、そのまま連れて帰って来ちゃったんだよ」
帰宅後、変身が解けて体毛がごっそり抜け落ちた遥を浴室に運んで抜け毛を洗い流し、ついでに姉妹全員でバスタイムを楽しんだ――とゆう次第であった。
「そりゃなんとも……皆に世話かけちまったな。つか……湯を浴びせられても起きねぇなんて、凄いな睡眠魔法」
「まあ……お姉ちゃん疲れてたから効果覿面だったんだよ。それより!これから丁度夕食なんだけど、立てる?」
「ああ。よっ……と。あれ?そういや連れて帰られたって事はアタシのバイクって」
「大丈夫。ゲートで一緒に持って帰って来たから」
「便利だな~……てか、見せたんかよアレを」
「うん。とても微妙な反応だったよ……」
とっても便利で誰もが一度は欲しいと思う。そんなどこで○ドアではあるが、外見がファンシープリティミラクルキュートで、メインカラーがストロベリィミルクでは……?
「なっちゃんとせっちゃんが、見た瞬間に「「チェンジで」」って声を揃えたよ……」
「そりゃマトモな感性なこって」
「まぁ……これからそのゲートを使って移動するんだけどね」
「なんだかなぁ……機能美だけは認めざるを得ないのが、悔しいとゆうか勿体ないとゆうか……」
遥がなんとも残念な気分で苦笑いを浮かべると、実鳥も曖昧な愛想笑いを浮かべたのであった。
「どりねぇー!るかねぇー!おそいー!」
実鳥と遥が屋上に出ると、待ちかねていたのか燕が元気よく腕をバタバタさせ、少々ご立腹な様子であった。
当然、そんな仕草も可愛くて仕方がないので、悪いとは思いつつも、お兄ちゃんとお姉ちゃんズは表情を綻ばせてしまうのだった。
「あー、悪ぃな燕。つか、遅くなったのは剣がアタシを魔法で眠らせたからだ。怒るなら剣に怒ってくれ」
遥は燕を抱っこすると、そう言って嫌味を込めて剣を指差した。しかし、あからさまに非難されながら、剣は安堵したかのような落ち着きを見せていた。
「その様子なら……心配なさそうだな?」
「心配?……アタシ、剣が心配するほどの状態だったのか?魔法で眠らせただけなんじゃ」
「いや……その、魔法が効きすぎて頭がボンヤリしてんじゃないかとな?かなり深く眠るように、ちょこっと消費魔力を多めに設定したもんだから」
「おっとろしいこと言ってんよな?然り気無く。下手すりゃ年単位で目が覚めなさそうじゃねぇか……」
ムスッと苦みばしった遥であったが、そうさせた剣の言葉は、大半が嘘である。遥にかけた睡眠魔法は数時間、余程の激痛を与えられない限りは目覚めないもので、その魔力コントロールには一切ミスなどなかった。剣が心配していたのは別の事で、咄嗟に誤魔化したのである。
剣が心配していたのは、遥を眠らせる直前の出来事であった。
「遥義姉さん、アレ覚えてなかったんだ。そりゃまあ、覚えてたら兄さんと顔なんて会わせられないよね……」
「いやはやショッキングな光景だったよねぇ。ゆ~みんなんて、絶叫して頭沸騰させて卒倒しちゃったからねぇ」
「叫び自体は、みどりんの方が大きかったけれども」
「おに~ちゃんにしてみれば、猫に舐められただけ、なんだけれど」
「剣ったらニブチンな上に、そういったの梓が基準だからねえ。同じ年頃のマトモな男子だったら、逆に遥の顔を正視出来なくなりそうなものだけれど」
「本音……本能的には信頼されている。御兄様的にはその程度の認識でしかないのでしょう。我々にとって遥義姉様の御兄様に対する好意は聞くまでもなく明らかですのに……もどかしい限りです」
何があったのかは、シスターズのひそひそ話から推して知るべし。
「ん?何内緒話してんの皆で」
「「「「「「なんでもないよ~」」」」」」
姉妹達の思いやりによって、〝ハルにゃんが剣にベロちゅーでファーストキッス事件〟は黒歴史として、本人が自発的に思い出さない限り封印される事が姉妹会議にて全会一致で可決されているのであった。
「なんか白々しい……」
「そんなことよりもね遥。貴女もこれ持ってくれる?」
「あ、はい。つか、凄ぇ量っすね?」
屋上に持ち込まれている尋常ではない量の鍋にクーラーボックス、パンパンに膨らんだエコバック。そして、アウトドア用のコンロや鉄板等々……つまり、これからゲートで転移した先でバーベキューパーティーだ!
「さ~行くぞ~」
ほぼ毎日ゲートを使用している為か、異世界転移なんて大それた真似をしていながら、剣の声には全く緊張感が無く、普通にドアを開けるような感覚でゲートを出現させて扉を開いた。
開かれた扉の先に広がる景色は、深い森の中の寂れた屋敷。実鳥の義娘であるガルミア達、魔族の一団が住まう隠れ家である。
魔族の彼等にとっても、この大抵の状況でシリアスをぶち壊すスウィートなデザインのゲートが突然現れるのには慣れたものである。警戒する様子もなく、屋敷の中から続々と来客を歓迎しに姿を見せる。
そして、誰よりも逸速く駆け付ける影!
「ママー!お帰りなさーい!」
「きゃっ?ちょ、ガルミア落ち着いてぇ~」
魔族のリーダーさん、他人の目を一切気にせず義母に抱き着き、ダンスみたいにクルクル回るの図。実鳥が肩掛けしていたクーラーボックスがフレイルの如くブンブン唸りを上げているので大変危険である。
「ガルミア……威厳が……」
補佐役立場のバルテさんが、片手で半顔を隠して渋い顔をしていらっしゃる。
「あらあら、実鳥ってば母娘仲好くて微笑ましいわね~。私も自分の子供とあんな関係築きたいわ~」
接近する何もかもを破砕しそうなサイクロンと化している義母娘を前にしながら呑気に宣う光さんに、魔族の子供達が群がってくる。
「ヒカリお姉ちゃんいらっしゃい!」
「ねえ!また美味しいもの作ってくれる?」
「お姉ちゃんに言われた通り、毎日お部屋のお掃除してるのよ!」
「……既に、子供達の人望が奪われている……」
バルテさんが、遠い目をして夜空の星を仰ぎ見ている……
この一団の魔族にとって、ガルミアはずっと救世主であった。ストイックで自分にも仲間にも厳しく、しかし決して仲間を見捨てず。誰よりも正人族に、リーイース王国に対して強い怒りと憎しみを以て戦いを挑み続けた不撓不屈の鬼リーダーだったのだ。
「ママ~。あれから会いに来てくれなくて、ガルミア寂しかったんだからぁ~」
「ご、ごめ……目が回るぅ~!」
鬼リーダー……だったのだ!
「すっかり……幼児退行してしまった!」
バルテさん、今度は四つん這いして母なる大地とにらめっこ!
「……バルテさん。今度、いい胃薬持ってくるね」
振り回されがちな小町にとって、バルテはとても共感できる相手であった。それはバルテにとっても同様。二人の間に、絆が生まれた瞬間だった。
そして、現在進行形で(物理的に)振り回されている実鳥はというと。魔族トップクラスの身体能力を持つガルミアに無邪気に振り回されている結果、三半規管が盛大に揺さぶられ……リバース寸前状態に陥っていた。
「き……きもちわ……転身!」
「わわっ!ママ!?」
いきなり全身が光に包まれた実鳥に驚き、ガルミアは思わず実鳥を手放してしまった。そして、実鳥はまるでハンマー投げの要領で彼方に放り投げられ……慣性を無視して空中でくるっと回転。近場の大木の枝に、見事な体幹でスチャッと着地した。
その姿を見て、ガルミアは言葉を失った。何故なら、そこに立っていたのは……
星明かりに照らされる翡翠色の髪と体毛に覆われた尻尾。紅白の風変わりな衣服を纏っている事なんて気にも留まらない。それは……ガルミアにとって、母の、真実の姿だった。
「ママー!!」
零れ落ちる涙を拭わぬままに、ガルミアはヴェルティエの姿となった実鳥に向かって、全力で跳躍した。実鳥が母である事は欠片も疑っていなかったし、姿形が変わっても再会の喜びや幸福感に嘘はなかった。だが、それでも、ガルミアにとっての母親は、頭を撫でて欲しいのは、抱き締めて欲しいのは、このヴェルティエだったのだ。
ガルミアは今、万感の想いを込めて母の胸に――
ヴェルティエもまた、そんなガルミアを聖母の微笑みでその胸に迎え入れ――たかと思ったら、肩に軽く担ぎ上げた。
「ガルミア……お仕置き!」
スパアァァァーン!まるで、鞭の先端が音速を超え、空気を破裂させたかのような快音が響き渡った。
「ぎみゃあぁぁ!痛い!ママ?何で!?」
「ガルミア、貴女ねえ……ママを殺す気なの?あっちの身体がこの身体とは比べ物にならないぐらい貧弱だって判ってるわよね!もう大人なんだから落ち着きなさい!それで聖剣さんにも痛い目に遭わされたばっかりでしょう!」
説教されながら、愛の鞭による躾をされ、ガルミアは歓喜の涙を悲痛の涙へと変えて垂れ流す。
「いひゃあ~い!ごめんなさぁ~い!」
ガン泣きしながら、涙声でひたすら謝るいい大人のガルミア。
バルテさんは、体育座りで俯いて誰にも表情を見せようとしない!
小町はそんかバルテの隣に同じように座って、優しくバルテの背中を擦るのだった。
「なんとゆ~か……どりりんがけんちゃんの娘だって、実感しちゃうよねぇ」
「空気を読むより、実を取るとか」
「見事なまでに、感動そっちのけとか」
「では、我々もそんな御兄様の妹らしく、燕たまのバースデーの準備をすると致しましょう」
「おい、散々言われてっぞ剣……あれ?アイツ何処行った?」
「あ、剣だったらネフェちゃんを連れてお肉を取りに行ったわよ。こっち来て直ぐに」
「……空気を読む気が無いにも程が有る!」
かくして、燕のバースデーパーティー最終イベント(の準備)が始まったのであった。
素直に読者様を感動させられない書き手でスミマセン。
自分も読み手としては感動的なシチュエーション大好物なのですが、書き手になると……何故か天の邪鬼になってしまふ……
オチを着けて笑わせたくなってしまうのですぅ。
ストーリーで引き込める作品も、書けるようにならないとなぁ……真面目にそう思います。
燕ちゃんのバースデーは、魔族の皆さんとのパーティーが最終イベントになります。これが終わったら、夏休みの平凡な出来事を一話完結で何本かやって……あのイベント編に着手します。




