177話目 燕のバースデー ハルにゃん覚醒!
リアルが8月になってしまった……
更新が遅れてしまってすみません。集中力が落ちてるのを実感する今日この頃……
「こんの性悪メイド長!趣味で従業員の嫌がる事をしてんじゃねえっ!いつもいつも……こっちが大人しくしていると思ったら大間違いだあ!」
遂に、ハルにゃんがキレた。さにゃえによって初めて猫獣人変化して撮られた写真を公開された弓と安芽によって「あざといなんてレベルじゃない!」「こんなの卑怯よ!」とか詰られ。夏彩と星和から「ありがとうございます!」と笑いを堪えながらの丁寧な所作での土下座をされたことで、羞恥心が限界を超越して憤怒へと転化した。怒りの矛先は当然、常に猫を被っているアラフォーである。
しかし、ハルにゃんが怒り任せに飛びかかったところで、さにゃえメイド長は容易くあしらいながら逃げ回るか、合気道よろしく一瞬で捩じ伏せられるか……ハルにゃんの同僚達はそう思っていた。なにしろ、さにゃえは自重の三倍はあろう巨漢ですらホイホイ持ち上げてしまう不思議生物なのであるから。
だが、そうはならなかった。
「ぎぶぅ!ハルにゃんぎぶっ!まじ……くるひ……」
何故なら、ハルにゃんはさにゃえの予想を上回る俊敏さで背後に回り込み、チョークスリーパーを完全に極めてしまい、さにゃえよりも長い脚でさにゃえの両足な巻き付けるように完全ロックして寝技に持ち込んだのである。
どうしてハルにゃんにそんな真似が可能だったのか?それは、本来白く艶やかである筈の、彼女の四肢を見れば明らかであった!
「お、お姉ちゃん落ち着いて!全身!全身が変身しちゃっているから!」
そう、獣化魔法を発現させちゃったのである。しかも、猫耳や尻尾が生えるに留まらず、腕も脚も獣毛に覆われ、それどころか顔にまで毛が生え地肌が見えなくなる程であった。
こうなれば外見だけでなく、筋力までもが獣そのものとなっている。即ち人間サイズの猫……とゆうか最早黒豹と表現した方が正しい。大型猫科肉食獣の強靭さと柔軟性を兼ね備えた筋力による絞め技。常人離れした身体能力を持つさにゃえであっても、完全に絞められてしまった状態から脱するのは至難の業であった。
「お?あれハルにゃんなのか?いいぞ!やっちまえ!」
「こんなに強い子に育って……これは天罰ですよメイド長」
「下剋上!下剋上!」
何時の間にやら集まっていた店のスタッフ達が、ハルにゃんに声援を贈っていた。そして、誰もさにゃえを助けようとしない……
「あらら……遥ったら、職場の皆さんに好かれてるのねぇ。お姉ちゃん安心しちゃうわぁ」
「光姉さん何を呑気な!メイド長さんおもっくそタップしてるし!ああ!白目剥いて口から泡が……」
これ、洒落で済まないでしょ!と常識的な見解を示した小町であったが、さにゃえから遥を引き剥がそうとはしなかった。とてもじゃないが、自分の力でどうにかなるとは思えなかったから。
「ちょ……実鳥ちゃんの変身どうのこうの言ってたけど、コレは無いわ。オカルトだわ。マジ怖ぇんですけど……」
「一歩間違ってたら、私が餌食になってたんじゃ……」
まるで満月を見た狼男みたいな変身をしたハルにゃんを前に、弓と安芽は身体を寄り添わせてガクガクブルブルしていた。特に弓は、ハルにゃんに対して敵意すら込めて睨んでいたので、次の標的にされないか本気で脅えていた。
「みっちゃんがわんわんでお姉さんがにゃんにゃん……こうなると、燕ちゃんがぺんぺんになるんも不思議じゃないかもなぁ?」
「なるのは不思議じゃないかもだけど、現時点で不思議姉妹なのは確定してるわぁ……」
震えるお姉さん達とは対称的に、中学生の二人は淡々とした雰囲気で沁々と眺めていた。
「どりりんの友達冷静だね。こんな非常識を平然と現実として受け入れちゃうなんて……逞しいなぁ」
「全く、頼もしくも末恐ろしい後輩達です」
「一般家庭育ちにしては、価値観が素晴らしく柔らかい」
「非常に高い受容力。このまま常識に縛られないでほしい」
実鳥の友達二人は、お義姉ちゃんズから軒並好評価を受けたりしていた。そしてお義姉ちゃんズもハルにゃんからさにゃえを助けようとはしない。到底腕力じゃ敵わないと判断しちゃったから!
「しかし……プッツンしたとはいえ、獣化魔法でもうここまで姿を獣寄りにしちまえるとか、遥は案外魔法の素質あるのかもな」
「剣さんまで呑気してないで!さにゃえさんの顔色がおかしな事になっちゃってますから早く止めて下さい!」
なんとか脱出しようと足掻いていたさにゃえであったが、はるにゃんの身体を激しくタップしていた腕は力なく垂れ下がり、顔面が紫色を帯びてきていた。だが、剣は全然慌てていない。しっかりと罰を受け入れて、正座をしたまま膝の上のにゃんこを撫で回している。そして、その表情は……キョトンとしていた。
「いや……獣化でいくらか強くなったとしたって、実鳥の方がずっと強いんだから問題ないだろ?なんで、自分で止めないんだ?」
「……え?」
「えってお前、遥どころか俺よりも強い筈だろ?幾ら鍛えているからって肉体的には普通の人間でしかない俺より、狼の獣人で、しかも勇者な実鳥の方が単純な身体能力でもニホンザルとゴリラ程度の差はあるだろう?」
何を不思議がっているんだと言わんばかりに問う剣。基本ステータスでは勇者である実鳥に敵う者など、この場にはいないのに何故?と。
「……あ、そっか。剣さんより強いんだった私……」
転生前の記憶を取り戻したとはいえ、実鳥は既に十二年以上の月日をガチバトルとは無縁であった為に、自分自身が他者を力でどうにかするといった発想に至らなかったのだった。
「より、どころじゃなくて、その気になれば一日で楽に関東一帯は荒野にできるだろうが。そんな力を使われても困るけど」
「それは剣さんも同じでしょ?でも……加減、出来るかな?今の身体とかなり感覚違うから気を付けないと、お姉ちゃんの身体を傷つけちゃうかも……」
実鳥の身体に馴れきってしまっている現状、ヴェルティエの身体は途方もなくオーバースペックなのである。転身可能になったのはつい最近。勘を取り戻す訓練を始めたばかりなので、常人離れした筋力を持つ今の遥を、それを上回る筋力で大人しくさせるのには不安と躊躇いがあるのも事実であった。
そんな様子を、姉妹達は諦観した表情で見守っていた。
「弟と義妹が人でありながら災害指定されちゃいそうな会話をしている件について、お姉ちゃん家族の意見を聞きたいわ~」
「頼もしいなぁ~。東京に核ミサイルが落ちてきても、我が家だけは助かりそうだよねぇ」
「とゆうか、世界中の軍隊が束になっても二人には敵わない」
「世界がおに~ちゃんとみどりんの機嫌を損ねないことを願うのみ」
「各国首脳は、範○様にするのと同様二人に対して己が信仰する神に宣誓するべきだと思います」
「何時の間にか、シンゴ○ラ以上の進撃力を持つ超人が家族に二人も……政府とか闇の組織に目を付けられそう……」
「にーたん、どりねぇ、さいきょー!かっこいい!」
聖家姉妹は、既に常識が崩壊していた。その身一つで関東まるごと一日で荒野に――なんて聴かされても「そんなの人にできる訳ない!」とか思いもしない。「そうだね。できちゃうよね」と考える方が普通になってしまっている。
因みに、小町が危惧している件についてだが、修学旅行の一件で剣は既に各方面から目を付けられていたりする。そうゆうの相手には、葛乃葉さん家が頑張ってくれている。とても頑張ってくれているのだ!
それはさておき、そうこうしている間にも、さにゃえの顔色は青褪めてゆく……
「お、お姉ちゃん……それ以上絞めると、メイド長さん死んじゃう……」
「フシャアァァァ!」
威嚇するように吠える遥。興奮し過ぎて精神まで獣化しつつあるようで、説得は通じそうにない。
仕方なく、実鳥は遥の腕をゆっくりと掴み、握り潰さないように慎重に力を込めながら、恐る恐るさにゃえの首と遥の腕の間に隙間を作っていった。
(こ……怖いよ。慎重に力をコントロールしないと、お姉ちゃんの腕を引っこ抜いちゃうかも。最悪、真っ二つに……)
遥は今、攻撃的な本能で行動しているような状態である。なので、急な刺激によって反射的に行動されて実鳥と同じ方向に力の向きを変えられると、勢い余って関節を逆方向に曲げてしまったり、プチッと千切れてしまいかねない。実鳥はとても慎重に、それはもう前世を含めても最高クラスの慎重さで力加減をしているのだった。
「お姉ちゃん……また黒歴史の1ページが……これじゃ野獣そのもの!?そうだ、翼さん!希さん!お願いします!」
相手が動物であるなら、最適な人材がいた!実鳥に、義妹にお願いされてしまっては、腰を上げない訳にはいかない。何故なら、お姉ちゃんなのだから!
「ふう……今回はでしゃばらずにいようと思っていたけれど」
「やれやれ、求められては仕方ない」
偉そうな事を言っているが、実鳥が遥の両手首を抑え安全マージンを確保したが故の行動である。とても狡い。
だが、双子の動物タラシテクは本物であった。双子が遥の全身グルーミング(撫で回し)を始めると、牙を剥いて猛獣みたいに唸っていた遥が、たちまち目を細め、うっとりとリラックスし始めたのである。
「あれ、強力。何も考えられなくなって、逆らえなくなります」
毎日双子に色々と可愛がられている野生のドラゴンの証言なので、説得力抜群でした。
「にゃう~ん☆ゴロゴロゴロゴロ……」
「まんま、大きな猫になってるよお姉ちゃん……」
遥は完全に脱力して、双子に全身を撫でられながら、気持ち良さそうに身を捩り始めた。実鳥も遥の腕から手を離し、後から遥が知ったら引きこもりになってしまいそうな醜態を、哀しそうな瞳で、無力感に包まれながら見守るしかなかった……。
「熱しやすく冷めやすい、まさしく猫」
「正気に戻るまで、存分に愛でさせていただきます」
獣化魔法を感情的に暴走させた副作用か、遥の精神は現在完全に猫の本能に支配されているようであった。
「遥義姉さん。なんて無体な……ねえ?ちゃんと元に戻るんだよね?どうなの兄さん!?」
「まあ……魔力が尽きれば自然に戻る筈だけど。獣化魔法は自身の肉体に在る因子を一時的に活性化する魔法……の筈だから。多分」
剣は目を泳がせまくっている。自分が使ったことのない魔法だから、詳しくは知らんのだった。
「全然安心する要素がないよ!」
「……ま、肉体が元に戻るのは確実だから。精神の方は……それより時間がかかるかもだけど、いざとなれば治癒魔法でなんとかするから」
「本当……だよね?私、あんな遥義姉さん見てらんないよ……」
まるっきり大きな猫と化した遥、改め真祖ハルにゃん――は、正気の本人であったら絶対にしないであろう行動しているを……自ら翼と希に、身体を擦り寄せていた。
「ハ~ルにゃん!こっちおいで~☆」
「にゃ~ん❤」
光に名前を呼ばれると、猫まっしぐらに、光の膝へと乗っかった。誰もが見るからに、翼と希に甘えていた以上に甘えている!
「元々はるるんって、おねーちゃんを尊敬してるからなぁ。本能的に……素直になると、それだけ甘えたかったって事になるのかな?」
「そうですね。とてもこのことを正気に戻られた遥義姉様に見聞かせる事は出来ませんが……私の心のファインダーには永久保存させて戴きます!」
「さっちゃん、鼻血拭いて」
真面目な表情のままで、桜は鼻血を垂れ流していた。それはもうダクダクと。
「るかねぇもふもふー!きもちー!」
「燕ちゃん?危ないってば!」
安芽の制止も聴かず、燕はハルにゃんに抱き着いた。姿形が変わろうと、燕にとっては大好きなお姉ちゃんなのである。そこに危険があるなど考えもしない!だが、安芽から見れば今のハルにゃんは立派な猛獣さんである。噛みつかれでもしたら……そう考えるのも当然であった。
「ひゃうっ!るかねぇベロがザラザラ!くすぐったい!ちょっといたい!」
しかし、その心配は杞憂であった。ハルにゃんは親猫が子猫を構うように、燕のほっぺたを舌で舐めて優しくあやしたからである。
「成る程。本能だけで行動してても、記憶が全くない訳でもないと」
「ん。ちゃんと私達を認識している。燕が妹だって分かってるね」
双子の知ったかぶり分析に、皆が「そうなんだ~」となんとなく納得した。そして、ハルにゃんが注目されてる間に、気配りの出来る勇者・実鳥ちゃんは、一人治癒魔法でさにゃえメイド長を癒していた。さにゃえの全身が淡い黄色の光に包まれる姿は魔法を知らない者から見れば神秘的である……筈なのだが、誰もさにゃえの安否を気にしてはいなかった。
「あ、メイド長さん。気が付きました?」
「……あ、ありがとにゃん妹ちゃん……ショックだにゃ……何時の間にかハルにゃんに、人気も人望も抜かれていたみたいだにゃ……にゃにゃ!?」
(この人、開口一番に何を言ってるんだろう?お姉ちゃんを止めれる人がいなかったら、命が危なかったのに……?何を驚……!?)
さにゃえの視線の先。実鳥もそれを見て、固まった。
「お……お……お姉ちゃん?な……何をやってるのぉ~!?」
実鳥が目にしたのは、剣の口周りを嬉しそうに舐め回しているハルにゃんの姿であった。
この177話目の出来事は、遥の記憶に殆ど残らない事になります。多分、残しておくとストレスで死んでしまいそうなので……
この後に起こったことは、姉妹の回想とゆう形で次話で文章化します。
いや、人間は理性がある生き物で本当によかったな~と思いました。




