176話目 燕のバースデー 異種族ガールズトーク
ネフェと実鳥を弄る回です。
「そんな訳で、ネフェは剣お兄さんの子を孕まないと集落に帰れない事になったのです。でも、こっちの食べ物はとても美味しいし、面白いモノばかりだし、もし竜人だとバレたとしてもあっちの世界の一族の迷惑にならないので、最近は帰らなくてもいいやって思ってます」
ネフェの身の上話を聴かされた少女達は、掟によって一族から出奔せねばならない境遇となったネフェを不憫に思い、同情的な視線を送ったのだが、当のネフェは実にあっけらかんと現在の心境を語ったのであった。
事実、ネフェが故郷を離れて緊張していたのは初日だけで、自分の一族が束になっても敵わない強者である剣の庇護下にいる安心感からか、異世界富裕層の日常?ライフを悠々満喫しているのである。
「本人が納得しとるんなら他人がとやかく言う事やないけど、子供に対しても厳しい一族なんやなぁ?ネフェちゃん、ほんまに不安とか無いん?」
「ありません。……と、言いたいところなのですが、待遇が良すぎて逆に不安になります。例えばですね……」
食事を例にとってみると、ネフェの一族は狩猟のみで食糧を確保していて、獲物を分けあう事もあれど、働かざる者食うべからずを基本理念としているのである。
「こっちに来てから、一度も狩りをしていません。なのに、一日三食におやつまで戴いています。生きる為の最低限の行動すらしていません。これが……こちらの世界の子供としては普通なのかと思うと……少し心配です」
自然界で育ったネフェにとって、食べ物を自分でなんとかするのは当然の価値観であり義務である。聖家に来てから、それが……無い。地球での生活は経験する全てが新鮮で学ぶ事だらけなのだが、生存に必要な活動をしていないことに、僅かに不安を覚えてしまう事もあるのであった。
「ま……まぁ、異世界の文化を学ぶんが、ネフェちゃんにとって今一番優先すべきことちゃうんかな?なぁせっちゃん?」
「そ、そだね……遠慮しなくていいんじゃないかな?」
「何故、目を反らすのです?」
親の世話になって生活している女子中学生にとっては、年下の女の子が保護者に甘えている事を疑念に思っていて、それを直接言葉として聞いたのは耳に痛かった……
そして、女子高生二人の反応はというと。
「事情は分かったけど……それにしたって、文化そのものが違うにしても、その、小さな女の子が……は……むとか、口にするのは……」
「弓さんや、その程度の単語を言い澱む方が、アタシらの歳を考えると逆に恥ずかしくね?口にするぐらい堂々としてろっての「孕む」程度さぁ。カマトトすんなって」
精一杯言葉を濁したのに、親友に平然と言われてしまい、弓は顔を真っ赤にしてプルプルした。
「おいおい恥じらっている場合なのかよ弓?こんな強力なライバルが……三人?正妻のアズッちに遠く及ばないどころか、第二夫人の座すら届かないかもよ~?」
「な……何を言ってるのかな安芽は!?……負けないもの!」
「その反応なら……ま、安心か」
弓の剣に対する恋情を呆れるぐらいに熟知している安芽は、敢えて弓の恋心を煽ったのである。
剣は異世界での行動に一切の後悔をしていなかったので、何をしてきたか包み隠さず話したのだ。その中には当然、殺人も含まれていた。
安芽の倫理観は、一般的日本人と然程ずれてはいない。クラスメイトが殺人を犯した事実を平然と告白したことに、当然戸惑いと嫌悪感を覚えた。だが、剣に対して特別強い感情を抱いていなかったからか、話を客観的に判断して、姉妹を守るために剣がそうしなければならなかった事も納得したのであった。
だが、親友の弓が、いざとなれば殺人も厭わない男にベタ惚れしているのは……正直受け入れ難く、恋心を諦めさせるべきだと思ったのと、それでも背中を押してやるべきかと、気持ちが半々に揺れたのである。
だから、剣の行為を直接目撃しながら、それでも変わらぬ関係性を保っている梓や姉妹を引き合いに出し、弓の心を揺さぶってみたのである。結果、親友の恋心は思っていた以上に強情だったと分かり、心配は杞憂であったのだが。と、安堵したのも束の間。
「なぁ、倉田」
「な、なんよ剣ん?」
剣からの思わぬ問い掛けに、安芽は思わず身構える。
「いや……三人って、誰よ?話の流れ的に、梓とネフェと……誰ってハナシ」
女性からの恋愛感情に鈍感極まりない剣にとって、聞き捨てならない一言であった。剣はここ最近、誤解されては小町にムシケラ扱いされているので、割と本気で無用な誤解は避けたいのだった。
「え……剣ん、それ、マジで言ってるの?」
「判らないから訊いてるんだが?」
本当に判っていなさそうな剣に、安芽は思わず頬を引き攣らした。
「いや……アンタこんだけ姉妹に囲まれた生活しておいて……どうしてそんなに乙女心に鈍感でいられんの!?漫画・小説・ドラマ・映画……数多の物語において、生まれ変わって再会を果たすだなんて結ばれるべき運命だと思うのが人情でしょうが!……そうでしょう実鳥ちゃん!!」
「ふぇっ!?わ、私?」
突然名指しされ、その意味を理解した実鳥は、赤面して慌てふためいた。
「ま、待って下さいよ!確かに私と剣さんは前世からの関係はありますけど、恋仲とかじゃありませんでしたよ!それに、剣さんは人どころか動物でもないし、性別すらなくって……」
色々言い訳をする実鳥の肩を、夏彩がポンポンと叩いた。
「みっちゃん……恋とか愛とかな、性別がどうとか、肉体が有るかないかなんて、些末な問題やねん。かの漫画の神様かて、人とロボットの恋物語を描いたことがあるんよ……」
「な、なっちゃん!その生暖かい目をやめてー!」
そして逆の肩に、星和がそっと手を置いた。
「百歩譲って前世で恋心は抱いていなかったとしよう。でもさ……今はあんなイケメンなんだよ?そして、命懸けでみっちゃんを助けてくれた訳じゃん?それを全然意識してないってのは……無理があるんじゃないかなぁ?」
「あ、あぅぅ……」
お見通し感を言葉と態度に滲ませている友人二人に挟まれ、実鳥の萎れていた犬耳が更にへにょんとしてしまった。
「で、どうよ剣んこの反応?これで好意を寄せられていないと思える?好意が恋心にシフトしないと言い切れる?」
「……ま、言いたい事は解ったし、俺が鈍感だってのも甘んじて納得しよう。だがなぁ……」
剣は言葉を詰まらせた。そう、他人から言われて気付いてしまえば、実鳥の気持ちが親愛から慕情に移り変わってしまった場合、それを拒絶する理由は、剣には無いのである。
前世の実鳥、ヴェルティエの幸せを願い、命すら捨てた。しかし、ヴェルティエは魔王との闘いで死んでいた方が、尊厳を汚されずに済んでいたのではと思えるような悲惨な最期を迎えた事を、その最期までヴェルティエと共にあった自らの半身――〝無銘の聖剣〟の柄に残されていた魂の片割れから教えられたのである。
剣は片割れからヴェルティエを救えなかった悔悟と絶望を受け取り、片割れは剣からヴェルティエの転生体である実鳥の存在を知り、今度こそ幸せにしてみせると希望を見出だしたのである。
だから、剣に実鳥を不幸にする選択は有り得ない。もし、実鳥が剣に想いを告白するような事態が起きたとしたら、正直な話、弓よりもずっと容易く受け荒れてしまうだろう……と、結論出来てしまった為、剣は口籠ったのである。精一杯空気を読んだのだ。もしそのまま口にして弓を泣かせでもしたら――「こんな大勢の前で女の子に恥をかかせるなんて、サイテー」とか小町に言われてしまうと思ったから。
「なんか、黙ってしもたなお兄さん。時にみっちゃん、ずっと気になっとったんけど……どして巫女服なん?ケモ耳巫女なんて、めっちゃあざとい!これでお狐様やったら完璧やったわ!一生癒されてしまうわ!」
「なっちゃん目がキラキラし過ぎ!これは……その、宝玉……身体と魂を入れ替える為の道具なんだけど、これも含めて剣さんが異世界から持ち帰った魔法の道具を、知り合いの陰陽師の人達に研究して貰ってるから……」
ヴェルティエが死の際に纏っていた衣服は、魔法攻撃でボロボロにされた挙げ句、心臓を貫いて自刃したので血塗れであった。それで、葛乃葉一門の研究部門が用意してくれた服が、たまたま巫女服だったのである。
「カモフラージュなのか、日本の霊能者って表向き神職に就いてる人が多いらしいの。それだけの理由なんだけど」
「へぇ~……実在してたんだ霊能力者。私達が知らないだけで、現実世界もファンタジーなんだなぁ……。ま、友達がファンタジーの権化だったんだから、もう疑う余地なしだけど」
「せやな。奇跡も魔法もあったんや!せやけど……それだけに残念や。確かに巫女姿かぁええし似合うとるけど……」
夏彩は瞑目し、ぐっと歯を食い縛り、握り拳を震わせた。
「ウチの気持ち、桜ちゃん先輩なら……解ぉてくれますよね?」
夏彩に同意を求められた桜は、くいっと眼鏡の位置を整えレンズを煌めかせた。雰囲気だけなら、とてもデキるメイドさんみたいだ!
「そうですね……魔法少女のリアル変身を目の当たりにして感無量ではありましたが……敢えて苦言を呈しましょう。足りていません……効果が!」
立ち上がり、腰を若干捻りながら、胸の下を水平に伸ばした左腕、その手のひらに右肘を載せながら垂直に伸ばした右腕。僅かに首を下に傾け、大きく開いた右手で顔を隠しながら、中指だけ眼鏡のフレームのセンターを押さえる。脚を交差させながら、左足だけ膝を曲げてつま先立ち……バァ~ン!とかドォーン!みたいな擬音が聴こえてきそうな素晴らしく香ばしいポーズだ!
「効果……即ちエフェクト!魔法少女の変身シーンには心踊るミュージックが!テンションの上がる変身する為の合い言葉や詠唱が!謎の光に包まれたシルエットが華麗に舞いながら徐々にコスチュームを自動装着してゆく演出が!そして変身完了時の決めポーズ&決め台詞!……日本産魔法少女の必須項目であるのです!」
桜、渾身の力説に「この娘は何を言ってるのかしらん?」と他人の女子高生お姉さん二人から胡乱な視線が注がれ、中学校の後輩二人からは尊敬の眼差しが贈られた。
「さくねぇのいうとおりなの!どりねぇはすぐにかわっちゃってつまんなかった!ちっちゃいたまだけじゃかわいくないし!こんぱくととか、すてっきつかってへんしんしたほうが、ばめはいいとおもいます!」
なんと、実鳥の変身に燕からも駄目出しが入った。桜にしっかり教育されている……
「あのね、燕。どりねぇが変身したのは、魔法少女をやりたいからって訳じゃなくてね」
「やらないの?」
首を傾げ、くりくりっとした瞳で見つめてくる燕に、実鳥はとても「やりません!」なんて言い返す事が出来ず……
「……たまになら」
顔を反らしながら、そう誤魔化すのが精一杯だった。
「いやしかし、ドラゴン娘にケモ耳魔法少女かぁ……弓、アンタこんな強個性相手に張り合えるの?もう一人だって、何を隠しているか分かったもんじゃないし」
「……負けない。あんな、あざといにも程がある女にだけは……絶対に負けない……!」
この時、今日一番のゾクゾクがハルにゃんを襲った!
「……な、何で、身に覚えもないのに殺気と怨念の籠った敵意を向けられなきゃならないにゃん……事実無根にゃりよ……」
だが、ハルにゃんの受難はまだ終わらない!何故なら、この状況を静観していた悪魔が、最年長でありながら最も大人気ない大人が、こっそりと弓と安芽の背後へと這い寄っていたのだから!
「もっしも~し御嬢様方?ちょっとコレを見てくれませんかにゃ~?」
そして二人に差し出されたのは、さにゃえメイド長の、スマホの待ち受け画面。そこに写っているのは……羞恥で顔を紅く染め、半泣きの着崩れ状態で女の子座りをしている……天然物の猫耳美少女(真)ハルにゃんだった!
「「な、ナニコレ~!!??」」
閑話
「そういや翼に希。お前ら珍しく大人しいな?」
「ま、私達異世界編からネフェちゃん登場編まで沢山出番がありましたので」
「ここはリアルタイムで一年近く出番のなかった人達に譲ってあげても問題ないかと」
「特に、おに~ちゃんの同級生とか。八月になると家の両親帰ってくるし。家族旅行もあるし。コミ○&桜の誕生日もあるしで」
「次に登場するのはいつになるのか……」
「正直、イチさんとずめさん。登場出来なかったことを申し訳ないと思う」
「変態も二学期始まるまで、恐らく……出ない」
「私達の犬も同じく」
「正直、ヒナちゃんより存在を忘れられてるからね~」
「喋らした途端にヤベェメタ発言ばっかしやがるな!頼むから……店を出るまで大人しく黙っていてくれ……」
ぶっちゃけ、実鳥に剣を意識させる為の話でした。
そして次回は、ハルにゃんが全方位から弄られる!……あかん。自分がいじめっこな気がしてきた(今更)。
ネタ
漫画の神様 誰もが知ってる、ベレー帽のあの御方じゃん!火○鳥!愛の物語だ!




