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169話目 燕のバースデー 水族館に行った

更新が遅れてしまいました……最近、眠気に勝てない……

かれこれ一時間、都会の空を背景に飛ぶように泳ぐペンギンを、水槽の前に燕が陣取ってから、それだけの時間が経過していた。その間、メイド姿の桜もずっと、背筋を伸ばして一歩も動かず控えていた。


控え目に言っても目立っているし。控え目に言わなければ悪目立ちしている。場違いなメイドだから。水族館のスタッフやお客さんが思わず二度見したり、チラチラ見たりしている。見られている本人は鉄壁の精神耐性で毛程も気にしていないのだが……


「光姉さん、私、すっごく恥ずかしい……」


「耐えなさい小町。一応、あれも燕の為の余興なんだから……」


少し離れた位置から、他人のふりをして(だけ)を見守っているのは光と小町。ペンギンがいるのは屋外の展示スペースであるので、燕(ついでに桜も)が熱中症で倒れないように、時々冷たい飲み物や冷しタオルを差し入れる必要があるのだった。


「……幼児なのに、それとも幼児だから?驚異的な集中力だよね。他の生き物に目もくれず、ずっとペンギンしか見てないもんね」


「何故か、燕にとってはペンギンだけは特別なのよね。他の動物が嫌いな訳でもないのに……」


寧ろ、燕は動物が大好きである。家で飼ってるわんことにゃんこを毎日ナデモフしているし、散歩中に大型犬と出会えば怖いもの知らずに抱き着いたりしてしまうぐらいである。


一体、燕にとってペンギンの何が別格であるのか、それは聖家の誰にも未だ解明出来ずにいる謎なのであった。


「……まあ、小さな頃の好きなものって、明確な理由って無いかもしれないよね?そもそも、幼児に理論的な説明を求める方が無理あるし」


「それが、普通なのかもしれないわね……思えば小町よりも私の方が、幼児の精神性に対する認識が世間一般よりズレているのかもしれないのよね」


「光姉さん?それってどういう……」


「いえね、私にとって幼児の基準って、剣だった訳じゃない?」


「あ、そーゆー意味…」


小町は剣の幼児期を正確には知らないが、前世の記憶を持っていたことから、年齢に不相応な大人びた思考をしていたであろうことは、容易に想像がついた。


「次いで、翼に希でしょ?そして桜……四人とも、生まれつき前世の記憶が……自我があった訳じゃない。今思い返せば……あの子達の我儘を叱った覚えが、私……無いのよ。最近漸く、それが異常な事なんだって気付かされたわ」


「いや、気付くの遅っ!……まぁ、環境的に仕方ないか。私も小学校に上がるまで、自分家を変だと思ってなかったもんなぁ……もう、普通って何だろう?ってぐらいに最近は感覚が麻痺してるような気もするけど」


「ここ最近は特にねぇ~。ファンタジーな異世界に飛ばされたし、神様に会ったりドラゴンが居候してるし……次は、翼と希の前世絡みで、宇宙人でも来るのかしらね?」


「まさか、宇宙人なんているわけ……って否定出来ない!否定していられた日常は戻ってこない!」


常識的に考えれば、翼と希の前世が宇宙人(の生体兵器)であるなど、本人達の自主申告に過ぎず、ほんの一週間前の小町であったなら信ずるにも値せず、生返事で聞き流すような与太話だと思い込んでいただろう。


だが、現実は酷しかった。異世界ファンタジーはフィクションの娯楽であり、楽しみはしても憧れはせず。超常の力を当てにせず、地に足を着けて日々の努力を怠らなかった彼女に世界は――


『奇跡も魔法もあるんだよ!』と、世界さんは逃げ場の無い現実を突き付け、小町の認識を強制アップデートしてしまったのである。小町はもう、地球のノンフィクション物語には帰れなくなってしまったのだ。


「もう……色々諦めちゃったけど、可能性は否定しないけど……リアル宇宙戦争は勘弁してほしいよ……」


「それは考えすぎ……じゃ、ないかもだけど。大気圏外から惑星破壊光線砲でも使われない限り、どうにかしちゃえそうな弟がいるってのも、けっこう複雑な気分よね~」


「う~ん……ソレも、真っ向からなら防いじゃったりしそうなのが、笑うしかないって感じだよ。もし、本当に宇宙から侵略者が来たとしても、たった一人の一般市民に壊滅させられる……私はそっちに同情しちゃいそうかも」


小町は想像した。仮に、宇宙から侵略者がやってきたとしたら、そいつらは地球の各国家が保有している軍事力を入念に調べあげるだろうと。そうして戦力で圧倒可能だと判断した上で、確実に勝利する為の戦略で侵攻するだろうと。だが、軍に所属していない、公的に存在を知られていない一個人の戦闘力によって、侵略者の戦略は完膚なきまで瓦解させられる事になるのだろうと……


「兄さんが、機動兵器で瓦礫の山を築いているのが容易に想像できる……」


「本当、相手が気の毒になるわよねぇ。今の剣って、平均的地球人の……何万倍?何億倍?相当の戦闘力だもの、同種の生物でそんな個体差、想定しようもないでしょうし」


「実際、それと同じような事があって、ネフェちゃんを預かる羽目になったんだもんね。まあ、素直な娘だから良かったけど……不用意に居候を増やさないように、兄さんには自重して貰わないとだよね」


「まあ、不可抗力だったみたいだけど。最近色々あって、隠し事がなくなって箍が外れちゃってるのかもしれないわね。そう考えると、剣ってずっと自重していたのよね……気付いてなかったわ、姉なのに……」


「それ言ったら、私だって妹なのに気付いてなかったし。正直、今迄が自重していたってのに驚きだよ。まあ、目立ちたがりな姉さん達に比べれば、自主的に前に出る性格じゃあなかったけれどね」


「いや、小町も充分目立ちたがりだから。生徒会長なんて学校で一番目立つ役職、小町しか経験してないからね?」


「全国誌で、モデルやってた光姉さんに言われたくない」


胡乱な視線を向ける小町に、光は涼しい顔で誤魔化し答えた。


「そこは、まぁ…お父さんの血を継ぐ姉妹、お互い様ってことでね。うん。燕が将来、どんな大物になるか楽しみよね~」


「逃げ方が露骨!……まあ確かに、燕は既に大物感を漂わせてるけども」


天然で誰をも魅了する愛くるしい笑顔に、天真爛漫で恐れを知らない無邪気な性格で人懐っこく。幼児離れした体力と身体能力を持ち、歳の離れた兄と姉達から様々な英才教育を遊びのように施され、日々成長を続けている逸材――それが燕なのである!


そんな末妹の秘めたる潜在能力を想うと、小町は将来、姉達だけでなく妹にまでも劣等感を抱いてしまうのではないかと、自身の心の矮小さに嫌気を感じるのであった。


「それはそうと……まだかな?兄さん達は。私も中を見に行きたいのにな」


「そろそろ屋内施設を一巡してもいい頃だけど。まだ出てこないって事は、少なくともネフェちゃんは退屈してないみたいね。来る前に「魚を見るだけで食べない?それ、何が楽しいんですか?」みたいな顔をしていたから、正直不安もあったんだけど」


「今度、魚河岸にでも連れてってあげる?」


「とっても喜びそうだけど、出費がかさみそうねぇ」


ネフェの輝く瞳と口から唾液を溢す姿が想像できて、光と小町は思わず笑いを声に出してしまうのであった。




水族館屋内施設。薄暗い館内は冷房が効いていて快適な空間である。夏休み期間中でもあり、客入りも上々でファミリー層が多数を占めていた。そんな中を、水族館どころか、日本の娯楽施設初体験のドラゴン少女ネフェは、初めて見た水棲生物の多種多様さに驚きを隠せずにいた。


「お……恐るべし地球の人の拘り!泳いでいる魚を横から見るなんて発想は無かったのです!しかも、岩とか砂も入れて本物の自然っぽくしてます!魚を見せるだけの為に、ここまでするのですか!?」


聖家で生活を始め、ガラス等の透明な物質が存在する事はネフェも知ってはいたが、それを水棲生物を展示する為に用いるとは思い付きもしていなくて、大変驚いていた。水に潜らずに、魚の泳いでいる姿を横から、下から見ることができる。その驚きは一瞬で、ネフェを水族館の世界に引き込んだのであった!


「そっか~。金魚鉢もない生活をしていた奴から見れば、泳いでいる魚の全身像を見るってだけでも新鮮な驚きを感じるんだな。人間始めてそこそこ長くなったから忘れてたわ」


「言われてみると、水中の魚を上から以外で見るのって、実は凄い事なのかもしれないね?私なんかは物心付く前からテレビなんかで見ていたから気付かなかったけど……ガラスやアクリルなんかが無ければ、直接海や川に潜らないと、見ることが叶わない姿だったんだね」


「これはネフェちゃんに感謝ですね。これから水族館を訪れる度、新鮮な気持ちで観賞する事が出来そうです!動物園だってそうですよね。猛獣を安全に見れるのだって、本当は当然なんだと思っていたらいけないのかもしれません…」


水族館初体験のネフェの感想に、各々価値観を揺さぶられていた。剣は人間に転生した頃の初心を思い返し、梓は常識だと思っていたことを見つめ返し、実鳥は真面目さ故に自身の浅はかさを省みてすらいた。


「いや、おに~ちゃん達、感化されすぎ」


「どう観るのも、楽しむのも、マナーを守れば自由でしょ?」


しかして、双子はマイペースを崩さなかった。水族館とは、魚綺麗!鮫かっけぇ!深海魚キモカワ!水槽でっけえ!と、単純に楽しめばいいとゆうのが、双子のスタンスなのであった。


「でもまぁ、今日は人が多いけど、安全に楽しめそう」


「おに~ちゃんも、一緒だしね」


既に何度か説明しているが、現在は夏休み期間中で、客層の中心はファミリーである。これがもし、客層がカップル中心であったなら、少々惨劇が繰り広げられる事となっていただろう。具体的に表現するなら、カップルの破局率が80%。修羅場率は90%といったところであろうか……


「常々、私達の魅力が恐ろしい」


「本日ここを訪れている御夫婦が、揺るぎない絆を紡いでいると願いたい」


「……無責任な他人事ですね翼さん希さん。実際、二人には何も責任無いんですけど……面白がっているとしか思えません」


実鳥の突っ込みなんて、双子の耳に念仏であった。


「まあ、つばぞみの胸脂に見とれた男が、彼女にビンタ喰らって破局するなんて日常茶飯事だし、どーでもいいんだけどね。ただまぁ、今日は別件で注目集めちゃってるね……」


そう、双子以外にも、目を引く存在がいるのである。


今日一番周囲から注視されているのは、ネフェである。


白銀の髪に西欧人的な白い肌に顔立ち。蒼い瞳。そして人とは思えない(実際人とは言えない)神秘的な雰囲気を漂わせながらも、活発にはしゃぎながら辿々しい日本語で喋る(翻訳アクセサリーを装備しているので、周囲にはそう聞こえる)姿は、老若男女の目を引き、誰をも微笑ましい気持ちにさせていた。


お陰で、順路を進む客の足が鈍っていた。


そして、独身男が少ないとはいえ、双子はやはり衝撃的な存在であった。例えば、水槽に見入っていた少年が不意に横を向くと……巨大な柔らかそうな膨らみが二つ、或いは四つ、顔面の至近距離に並んでいたりするのだ。……今後、道を違えない事を切に願わん。


当然、歩く度に揺れるそれが、お父さん方の目を引く訳で、奥さんの冷たい視線を背中に受けて立ち竦み……これまた通路の障害物となるのであった。


そして、もう一人。


妹達を見守るように一歩引いて俯瞰している剣である。


皆様お忘れかもしれませんが、剣さんの顔は光さん似の、中性的な顔立ちの美丈夫です。最近、小町ちゃんになじられて落ち込んでいる姿をよく晒していますが、それ以外の滅多な事では表情を崩さない超絶イケメンさんなのであります。


そんなイケメンさんが、妹達を見守り、優しげに浮かべる微笑は……恋愛感情が芽生えだした少女や、旦那さんとの関係に不満を感じている奥様を思わず見惚れさせてしまう程度には、充分な魅力があった。


それを知ってか知らずか、剣とずっと腕組み状態で幸せに満ち溢れた表情を浮かべる梓に、背後から嫉妬の視線が集中するのも必然で、通路の人口密集率は更に高まるのであった。


「梓さんって、凄いなぁ……あんな沢山の人に睨まれても平気なんだ…私、あーゆーの苦手で駄目だぁ……」


そんな事を呟いている実鳥ちゃんは、前世で十万の大軍に単騎特攻し、殺意と畏怖を向けられまくり、勝利しちゃった勇者である。全く、どの口が言うのか……


こうして、様々な要因で人目を集めた結果。屋内施設の見学は遅々として進まなかったのであった。


そして剣はこう思っていた。


(ヤバイ……また、小町を怒らせる)


冷房の効いた館内なのに、剣は無表情でありながら冷や汗を垂れ流していたのであった……




光さんと小町ちゃんのダラダラ会話で、伏線をばら蒔きました。その内、宇宙戦争編……をやるかは兎も角、翼と希の前世に絡んだ話も、みたいな?まぁ、広義的にはエルヴィアスも地球ではない惑星なので、この作品、とっくに異星人は登場してるんですけどね。

次回も燕バースデー続きます!

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