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168話目 燕のバースデー ホットケーキ!

燕の誕生日編二話目です。ぐだぐだしてます。

こんがりと綺麗に均一に焼けた、真円のホットケーキに乗せられた角切りバター。焼きたてケーキの熱によって、ふにゃりと蕩けたそれに、惜しみ無く注がれる琥珀色のメープルシロップ……これぞ正に、ホットケーキの王道である!


そして、ナイフを入れた断面に混ざりあったバターとシロップが限界まで染み込んだそれを頬張れば、口全体に拡がる濃厚な甘みと旨み……


「噛む度に、じゅわっと広がる甘い蜜……至福です!」


早々に、ホームステイ中のドラゴン娘はその味に魅了されていた。口いっぱいに詰め込んではしっかりと噛み締め、ホットケーキとバターとメイプルシロップを三位一体のペースト状にしては飲み込み、その度に恍惚とした表情を浮かべている。


「私達にとっては当たり前の味だけど、初めての人にとっては衝撃的な組合せなんだね……」


「そうだね。それに、日本で食べれる料理ってエルヴィアスで普通に食べれる料理よりも、かなりレベル高いもの。前世の記憶を取り戻した今、私だってそのギャップに戸惑っちゃうんだから、ネフェちゃんが感動しっぱなしなのも、判らなくはないなぁ……」


食事の度に新鮮な反応を見せるネフェに、小町は自身の食事に対する感謝や感動が足りないのではなかろうかと自問自答したり。二つの世界の違いを知ることになった実鳥にとっては、これまで日本の生活で普通だと思っていたあらゆる物が、便利であったり質が高く思えて仕方なくもあったり、違和感を覚えることもしばしばであった。


「そう言えば……翼さんと希さんの前世の世界って、食事ってどうだったんですか?やっぱり、文明も進んでいたから、料理も洗練されて……ひっ!?」


といかけてあいた実鳥が思わず叫んでしまったのも当然か。それまで寝ぼけ面でホットケーキをもきゅもきゅ咀嚼していた双子が、無表情で瞳から光を失い、グサ……グサ……と、ゆったりとしたペースで、ホットケーキにフォークを何度も突き立て始めたのだから。


「……あれは、食事なんかじゃなかった……」


「そう、単なる栄養接種でしかなかった……」


「定時に錠剤と水、それだけ……」


「味なんて、しない。そもそも、食事をしたとして、何も感じる筈もなかった……」


「命令に絶対服従……そのだけしか存在価値を与えられていない、兵器だったから……」


「〝楽しい〟や〝嬉しい〟だけでなく、〝悲しい〟とか〝苦しい〟さえも削ぎ落とされた、空しい一生だった……」


兵器として生まれ、その在り方に疑問どころか感情を持つことすら許されず、与えられた任務を遂行するだけの日々。


「別に、思い出して悪夢にうなされる訳じゃ……ないんだけどね」


「ただ、鬱になる……給料すら貰えない、ブラック企業の社蓄にすら劣る、空虚な日々……」


刷り込み教育。投薬。外科手術。ナノマシン注入etc……数多の手段によって感情と自由意思を持たされなかった人造人間兵器。それが双子の前世。


「……迂闊な質問して、ごめんなさい。もう、二度と聞きません……」


涙目で頭を下げる実鳥。前世での過酷な奴隷経験や、幼児期に虐待された経験もある彼女からしてみても、双子が無表情で語る兵器としての前世は、恐ろしかった。


「いや、みどりんは悪くないから謝らないで。今じゃなくても、その内話したかもしれないし」


「それに、みどりんみたいに特別不当な扱いだった訳でもないし。兵器に限らず、人造人間が社会の歯車になってる文明もあるってだけの話だから」


実鳥を宥めようとしてか、翼と希は無表情を崩し、普段の調子で語りかけた。それまで息を呑んで双子の話に耳を傾けていた姉妹達であったが、安心したかのように口を挟み始めた。


「今の世界の倫理観からすると、その文明どうかしているよね?」


「でもよ、実際にそんな世界か時代に生まれたら、そんなもんだと受け入れちまうのかもしれねぇな……」


「科学が進みすぎると、効率優先な社会になっちゃうのかしらねぇ……地球でも、後何十年かしたら、体内にicチップを入れたり、コネクター埋め込むのが普通になるのかもしれないわね」


「とゆうか、宇宙の何処かにそんな文明?国?星?なんかが存在しているかと思うと怖いよね。地球、絶対負けるでしょ?」


各々、双子の前世の話への感想と、意見を発言して、あーだこーだと盛り上がった。


……今日、誰が主役なのかも忘れて。


そして、本日の主役は、とても不機嫌な顔をしていた。皆で楽しく、笑顔で食事をしたいのに、何故かお姉ちゃん達は皆、真剣な表情でディベートしているのだからだ。


そこに、凜とした声が響き渡った。


「皆様。姫様が大層御立腹であらせられます。私にとっても大変興味深い話題ではありますが……それは、今しなければならない事なのですか?他に、優先するべき事はありませんか?」


必殺!眼鏡クイッ!キラッ!鋭い眼光が姫様の存在を二の次にした姉妹達を睨み付ける!それは、厨二設定(大好物)にも食らい付かず、愛する(姫様)のメイドに徹する桜ちゃんだ!


因みに、剣はシェフに徹して黙々とホットケーキを焼いていた。ネフェはそれを、焼けた傍から食べていた……


「さっちゃん如きに叱られちゃった……」


「これ、地味にくるな……」


「不覚……不本意だわ!」


「見た目一番巫山戯ているのは桜姉さんなのに……」


「……皆して桜ちゃんに酷い」


ともあれ、皆で燕に謝って、朝食を仕切り直したのであった。


「おかわり!つぎは、いちごのじゃむで!」


「かしこまりました姫様」


楚々と滑らかな所作で、燕のホットケーキにバターを載せて、イチゴジャムを添えるメイド桜。そして、給示を終えると速やかに燕の斜め後ろに控え、背筋を伸ばし、ウエスト前で手を重ねて待機。とても澄ました顔をして。


「さっちゃ~ん、食べないの?」


「使用人ですので。主が食事を終えられましたら、後程手短に頂きます」


「そこまで徹する?……仕方ないなぁ」


小町は呆れたように溜め息を吐くと、直径15㎝程のホットケーキを二枚皿に載せ、キッチンに運んでラップをしてから戻ってきた。


腹ペコドラゴンと腹ペコペンギンが総てを平らげる前にと、桜が食いっぱぐれないように、配慮したのである。


「おお~小町、やっさしー」


「本当、桜には過ぎた妹だー」


囃し立てる翼と希。小町はそれを否定するでもなく、桜に恩を着せるでもなく、黙って自分の席に戻り、無言の仏頂面で、食事を再開した……少々赤面しながら。


「……こ、こま……小町たま!愛しておりますぅ~!」


あまりの感激に、メイド桜は我慢の限界を越えた!煩悩と欲望のままに、小町に抱きつこうと――


「揺らぐな!徹しろ!こんの……駄姉がー!!」


「はぶるぁ!?」


耳をつんざくような、大・快・音!


親愛の情を示すべく、小町をハグしようとダイブした桜は、撃墜されソファーに頭から突っ込んでいた。小町の突っ込みで。


小町は振り向き様に、金髪ツンツン頭のソルジャーが愛用している大剣サイズのハリセンを桜に炸裂させたのであった。


(何処から取り出したんだろう?)


皆そう思ったけれど、まるで勇者なロボットみたいにハリセンを構える小町の迫力に圧されて聞けなかった……


一方、つい突っ込みを入れてしまった小町もまた、次にどうすべきか迷って固まっていた。燕にとって大事な誕生日であるのに、暴力的に見えなくもない突っ込みで桜を吹っ飛ばして(世間一般的にこの時点で暴力確定)しまい、妹への教育上とか、異文化交流(ネフェ)に誤解を生じさせないかとか……やってしまった感でいっぱいなのであった。


「小町お姉さん、見事な一撃でした!ネフェでも避けられなかったと思います!」


「それでこそこまねぇ。いつもどうり!」


誤解も教育も、既に手遅れなのかもしれなかった……


「あ~……えと、こまたんが本調子になったようで良かった良かった!沈んでるよりずっといいよね!」


梓が場を和ませようとしたのを皮切りに、


「ハリセンの振り抜き具合……キレが増してない?」


「確かに、見切れないレベルかも……まるで神速の抜刀術」


「いや、早速ボケるなよ。桜と同じ目に遭いたいのか?」


わざとらしく怯えた素振りをした双子を遥が嗜めたり。


「ネフェちゃん、シロップもいいけど、フルーツと一緒に食べるのも美味しいわよ」


光は完全スルーしてたり。


「誰も、桜ちゃんを心配してない……いつもだけど……」


小町のハリセンは、桜にとっては愛同然であることを皆分かっているので、いっそそれで死ねるのであれば本望だろうと悟りの境地なのであった。たとえ、桜がスカートをおっぴろげて犬○家して痙攣していても、聖家では普段通りの光景なので、誰も大して気にしないのだ!


「また、つまらぬ御褒美をあげちまったな小町?」


「……いっぺん、斬鉄○で斬るべきかもしんない」


小町の台詞が聞こえたのか、桜の身体がビクビク震えた。果たして、脅えているのか興奮したからなのか……


取り敢えずソレ()は放置して、光から朝食後のスケジュールが発表された。


「水族館に……行きます!」


「すいぞくかん!ぺんぺんさんにあえる!」


目をランランとさせる燕。そして……覚悟を決めた表情を浮かべる兄と姉達……何故なら、燕と水族館の組合せは……鬼門だから!


そして、状況を呑み込めていないのが一人。


「水族館って、何ですか?」


まだ、一度しか聖家の外にお出掛けしていないドラゴンちゃんである。


「簡単に説明すると、魚とか水辺に生息しているナマモノを集めている場所だ」


剣さんのザックリした説明に、ネフェは乏しい知識をフル回転させて、水族館を想像してみた!


「……!その魚は、獲り放題食べ放題ですか!?」


「観るだけだ」


「……楽しいのですか?ソレは……」


魚は腹を満たす食糧としてしか見たことがないネフェは、期待外れにションボリとした。


「まあネフェちゃん。こっちの世界を知るいい機会と思って」


「そうそう。今日は下調べと思えばいい。その内……ね?」


その内、野生のドラゴンが世界中の美味な野生動物を狩る……そんな未来もあるのかもしれない……


「う~……ぺんぺんさん!いまいくよー!」


聖家、池袋へ出発!




ホットケーキは蜂蜜の方が好きな方もいると思いますが、幼児に蜂蜜を与えるのは身体に悪いらしいので、作中ではスルーしていました。

蜂蜜バター最高!

次回は燕、念願のぺんぺんさんとの遭遇!……しかしなさそうだなこの子は。アシカショーもカワウソもガン無視するよ絶対。

その分は、ドラゴンの反応に期待しましょう。

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