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167話目 燕のバースデー おはよっ!

7月最終章開始!……長かったな7月。まだ長くなりそうだけれども……

7月30日。その日の朝、聖家の末っ子はパチッと目を覚ました。


「……う~……たーんじょーびー!ばめっ!きょうからさんさい!さんさいだー!」


起床から寝ぼけ度0%の覚醒状態で、燕は一人で光のベッドから飛び起きた。両親が仕事で家を留守にしているので、燕は姉達の部屋を姉達の都合や自身の気分によって不規則に寝床としていて、今日は光の部屋で寝ていたのである。


光は既に朝食の支度の為にキッチンに立っているので、燕の歓喜に満ちた三歳初の発言は、誰に聞かれることもなかった。


しかし、燕にとっては聞かれていようがいまいが関係ない!溢れ出る喜びを早く大好きなお兄ちゃんとお姉ちゃん達に伝えたくって仕方がないとばかりに、跳ねるようにベッドから飛び降りると、皆が集まっているであろうリビングへと、軽快にパタパタ駆けてゆくのであった。


光の部屋は三階にあるので、二階分の階段を下りなければならない。まだ幼い燕の身体では、一段下りるにも足の長さが足りないので、座る。次の段に両足で立つ。また座る……とした動作を繰り返さなければならない。急いで一階にまで行きたくても、安全優先の為に駆け下りたりはしない。お姉ちゃん達とのお約束なのである。燕は歯痒い思いをしながらも約束を破らないよいこさんなのだ!


「んしょ。んしょ。ん……いいにおいがする!」


一階に近付くにつれ、食欲を掻き立てる甘い香りが強くなってきた。燕の中で期待値が膨らむ。何故なら、昨年はまだ誕生日とゆう概念を理解出来るまでの精神的成長を果たしていなかったから。


そう、燕にとって今年の誕生日は、自我に目覚めてから初めての誕生日なのである!


逸る気持ちを抑えて、転がり落ちないように階段を下りきった燕は、「もう、だれにもとめられない!」と、ばかりに走って勢いよくリビングのドアを押し退けて飛び込んだ!


「おっはっよーっ!ばめっ、さんさいになったー!」


元気爆発な挨拶に、その場にいた剣と姉達は驚きを隠せず一瞬固まった。人間よりも一足お先に食事をしていた聖家にゃんちゃんズもまた、吃驚して全身の毛を逆立て身構えるぐらい、大きな声だったのである。


「お、おぉ……早いな燕。まだ七時前だぞ?」


朝食の準備が整う前に、燕が自主的に起きてくるのは稀である。それも剣達が驚いた理由であった。それに、燕の誕生日であることは彼等の方が重々承知している。その為に、朝から気合いを入れて支度をいていたのだから……その前に主賓が現れてしまったので、少々〝なんだかな~……〟な気分になってしまったのも致し方なし、なのであった。


「ばめたん、おはおめ!うんうん、元気に三歳を迎えられてよかったね~」


「ありがと!あずねぇ!」


にゃんこ達の食器にキャットフードを注いでいた梓が、逸早く燕を抱っこしてお祝いの言葉を掛けた。料理に手を出させて貰えないのが幸いし、燕の誕生日ハグ一番乗りである!


「あ!やっぱり!ほっとけーきだ!」


梓に抱っこされたことで視界が高くなり、テーブル上を確認出来たことで、先程から漂っていた匂いの源が、自分が思っていた通りの物であったことに燕は喜色満面で叫びをあげた。


テーブルの上にはホットプレートが三台並び、各々に剣・実鳥・小町が着いて、ホットケーキを焼いていた。既に、こんがり焼き色のついたホットケーキが何枚も皿に積まれてもいた。


「ばめも!ばめもやくっ!やらせて!」


「いいぞ。今焼いてる分を片したらな」


「兄さん。火傷させないように気を付けてよ?」


心配そうな小町に向けて、剣は親指をグッと立て……


「軽い火傷程度なら、俺の治癒魔法でも簡単に治せる。問題ない」


「簡単に治ると思うようになっちゃったら、そっちの方が問題だからね!「死んでも生き返らせればいい」なんて考え方は、人間として根本的に間違っている考え方だからね!」


「いや、俺だって死んだ人間を生き返らせたりなんて……無理……でもなかったな。まあ、あれは偶然……類い稀な条件も重なっていたし……特例だな。別カウントだ」


「え?……何?とても不穏な呟きが聞こえたんですけど?」


「こ、小町ちゃん!そっちのひっくり返し時だよ!」


訝しそうな小町に、実鳥が空かさず誤魔化しサポートで剣から気を反らした。


実鳥がフォローするのも当然。現在実鳥が首に掛けているネックレス、それに括り付けられている一見ビー玉大の宝玉……その中に、剣が蘇生しちゃった勇者の肉体が保存されているのは、聖家内では剣と実鳥だけの秘密なのである。


現在、実鳥が勇者の肉体と自在に入れ替わる為の魔法道具の解析・研究を、地球の()()()と共同研究しているのも、他の家族には秘密なのである。


「さ~て、それじゃばめたん、お着替えしないとね~。お料理するならエプロンしないとだよ!」


「あい!おきがえします!」


起き抜けなので、パジャマ姿のままであった燕。梓に抱っこされたまま一旦退場した。


「……サプライズ、失敗しちゃったわね~」


「こっちが驚かされたっすよ」


キッチンで他のメニューを料理していた光と遥がテーブルへ盛付けの済んだ器や皿を運んできた。二人を含め、リビングに集まっていたメンバーの誰一人、燕が自力で起きてくるとは思っていなかったのである。


「……成長は喜ばしいんだがなぁ」


「今日を楽しみにして昨晩は中々寝ついてくれなかったんだけどねぇ……起こすまで起きないと思っていたのに……ふぁ……」


「必然的に、光姉さんの睡眠時間が削られていると。燕は何時頃まで起きてたの?」


「えっと……11時は確実に過ぎてたわね」


「それ、三歳児が起きてられる時間じゃないですよ……それじゃ、今日は七時間程度しか寝てないんじゃないですか?普段は十時間以上は寝てるのに」


「折角の誕生日だってのに、昼寝が長くなっちまいそうだな。後でぐずらなきゃいいけどよ……」


「上手いこと、ちまちま休ませられればなぁ」


今日は一日、燕の希望を叶えながら、いっぱい皆で遊ぶ事になっているのである。そのスケジュール管理は光が統括している。


「その辺りは、任せることになっちまって悪ぃな。急に昼のシフトに穴が空いちまって……燕に申し訳ねえよ」


遥は急なバイトが入ってしまい、朝食後から昼過ぎまで、燕と一緒にいてあげられなくなってしまったことを、どう説明したものかと悩んでいた。


前々から休みの申し出はしてあったので、当然休めるものだと思っていたのだが、昨日さにゃえメイド長から「本っ当に申し訳ないにゃ!突然だけど、マジでシフトに穴が空いちゃったんだにゃあ!お昼時間だけお願いしますにゃ!もう、ハルにゃんしか頼れる御方がいないんですにゃあ~!埋め合わせはするから、どうか後生ですにゃ~!」……と、二年を過ぎたバイト歴で、覚えがないレベルでの懇願をされてしまい、渋々臨時出勤を引き受けてしまったのである。


「大丈夫だよお姉ちゃん。お姉ちゃんの分も、私達が燕の相手をしておくから」


「そんなに気にしなくても、遥義姉さん一人いなくたって平気ですって。そもそも、両親不在ですし」


「それ言ったら元も子もねぇ……実際、燕の奴全然寂しそうにしてねぇもんな……寧ろ、オヤジさんがベソかいてる顔の方が軽くイメージ出来て悲しいわ」


「本当、父さんにも困ったものよねぇ……仕事への集中力が持続しなくて、帰国が遅れそうだって美鈴さんが嘆いていたわ……」


両親との連絡係である光の、溜め息混じりに吐露した真実に、一同揃って苦笑いを浮かべるしかなかった……


聖家の大黒柱、聖家で一番精神的に子供説……継続中!




「おまたせ~!めいくあ~っぷ!かんりょー!」


着替えを終えて戻ってきた燕を見て、剣達は「おお~!」と歓声を上げ、拍手をして出迎えた。


「燕可愛い~!お姫様みたいだよ!」


「てか……クオリティ高っ!白いドレスに黒のケープでペンギンを表現してる!梓姉さんの拘りを感じるわ……」


くるくる回ってきらびやかなペンギンドレス姿を披露する燕はご機嫌そのものである!そこから少し離れ、ニヤリと白い歯を輝かせているのは、燕をコーディネイトしたスタイリスト梓!勿論、ペンギンドレスをハンドメイドしたのは彼女である!


「ドヤ顔するだけはある。見事な仕事だぞ、梓!……で?お前は何をしてるんだ桜?」


「見ての通り、メイドで御座いますお兄さま」


桜の装いは、ゴシックな英国風メイド服であった。ミニスカでもなければケモミミカチューシャも着けていない、巫山戯ている要素が一つも見当たらないのが、逆に巫山戯ているように思えて仕方がない……普段の桜を知る家族からすれば、そう見えてしまうのであった。


「わたくし、本日は姫様の専従メイドとして側仕え致します」


「つまり、燕の一日メイドをする……って遊びなのね桜姉さん?」


「遊びだなんて心外で御座います。誠心誠意、姫様の手となり足となり、尽くす所存で御座います」


普段の口調も封印し、メイドになりきる桜。


「うむ!よきにはからえ!」


燕は既に仕込まれていた。


「メイドよ、ばめはほっとけーきをやきたいのである!」


「かしこまりました。ご用意しますのてお待ちください」


メイド桜は、手早く燕にエプロンを装着させると、テーブルから椅子を引き、一礼して燕を抱え上げると椅子に立たせた。全く無駄のない動きに、一応本職?の遥が呆気に取られる程、見事なメイドであった。


「……で、桜。お前は姫様にホットケーキの焼き方を教えられるのか?」


それは、完全無欠なメイドを演じる桜への剣からの挑発。料理を全くしない桜は、この難題を……


「シェフ。姫様にホットケーキの調理を御教授下さいませ。くれぐれも粗相の無いように」


ちっとも焦らずに丸投げした!


「シェフじゃねぇし……ま、いーや。いいか燕?お玉で生地をすくって、プレートに流し込むんだ」


「こ、こう?」


剣に言われた通り、燕は手にしたお玉を傾け、ホットプレートに生地を落とし始めた。


「うん、いいぞ。そのまま手を揺らさないのが綺麗な丸に焼くコツだ。よし。表面がプツプツでいっぱいになったらひっくり返すぞ」


「はい!まちます!」


お玉からフライ返しに持ち代え、燕はケーキ表面に気泡が浮かび上がるのを凝視する。その表情は真剣そのもの!


「あ~……いいにほいですぅ~」


「そーいや、ホットケーキって言ってたっけ?」


「燕~、おめ~と~」


最後に起きてきたのは、いつも通りな双子。それとネフェである。三人とも、だらしなくも下着しか着けていない……


「……なぁ剣よぉ。なついているとはいえ、ネフェの教育係があの二人ってのは、やっぱ問題ねぇか?」


「……言うな。他の奴にしたら、それはそれで問題あるんだ……」


何が問題なのかと言えば、それは……竜人族が、性的におおらかな種族であるから、である。現状ネフェと同室で安眠可能なのは、双子と梓だけなのだった。教育上的に。


かくして聖家の食卓に全員(両親除く)集合し、燕の誕生日はここから始まるのだった!














しばらく燕中心で話を進めます。

双子とネフェは……ぼのぼってると勘繰るのが正解……ってことに。それで間違ってはいない……本文での明言は……予定なし。



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