165話目 葛乃葉さんの豪邸 後編
後編です。前編も本日投稿しています。
「天使……ですか?」
剣が口にした単語。それが意味するモノを、実鳥は計りかねていた。
「ああ。もし本当にそうだったとして、天使がなんなのか俺にはよく解らねぇ。ただ……あの女神様が、嘘を吐くとは思えないんだよな……実際、悪魔は存在していた訳だし……」
「悪魔……?剣さん!悪魔を見たことがあるんですか!?」
寝耳に水だった実鳥。
「あ、うん。修学旅行の時に戦ってな。ヒナ、説明よろ」
『私の扱いが、雑……』
ヒナちゃん。ひょいッと実鳥にパスされる。その間に話は進む。
「悪魔もそうだが、そういった地球のオカルト知識に自信がないんだ。俺が天使について知ってるの事は一般人レベルだからさ。じいさん達の方が詳しいんじゃねぇかと」
「天使か……ふむ……」
燕の頭を撫でながら、楼明は思案しているのか黙りこんだ。燕はそんな楼明を上目遣いで見詰め……
「ばめ、てんしさんなの?」
マジ天使だった。楼明、ショック死しかねないほど心拍数が高鳴った!
「……じゃあ、とべる?はねはえる?ネフェねぇみたいに!」
「そ、それはどうじゃろのぅ……ん?竜の嬢ちゃんは飛べるんかい?」
「ふぁい。とべむぁふ」
燕同様、もぐもぐタイム中であったネフェ。そして、飛べる事を証明するかのように、バサッと背中に翼を生やして見せた。因みに服の背中や脇の下等にはスリット加工とマジックテープを目立たないように使用されているので、着衣のままドラゴンに変身しても破けないようになっている。聖家の服飾職人の手による逸品である。
「ネフェは部分変身だけだと、まだ上手くは飛べないけど。ドラゴンに完全変身すれば、燕ぐらいなら乗せて飛べるよ」
「ほう……これは見事な竜の翼じゃ。応龍か西洋系のドラゴンといったところか。……まるで、夢魔の類いに見えてしまうがのぅ」
銀髪に蒼眼。欧州系の均整のとれた顔立ちに白い肌。そこに翼膜を有する翼。確かに、ドラゴンと言うよりは……悪魔である。立派な小悪魔さんである。しかも、鱗に覆われた尻尾を生やしたバージョンにも変身可能なのだからマーヴェラス!そしてドラゴン姿はブルー○イズホワイトドラゴンだ!
しげしげと、まるでサキュバスなネフェを眺める楼明であったが、孫娘がドス黒い闘気を放って威圧してくるので、即座に話題を元に戻した。
「あ~天使じゃったな?悪いが儂にも確かな事は解らん。そもそも宗教圏が異なるし、日本での目撃例なんぞ皆無と言っていいほどじゃ。有史以降、人間との関わり自体が稀であるそうじゃからな。正直、悪魔よりも得体が知れん」
「そうか……いや、解らねぇなら仕方ねぇや。天使が何なのか知れれば事前に対策も用意しておけるかと思ったんだが……」
「剣殿は、天使を危険視しておるのか?」
「天使は悪魔より融通が利かない。日本のサブカルチャーの常識だろ?」
「サブカルチャーの常識を持ち出されてものう……本物の天使なんぞ実際知らんし……これ以上の推論は不毛な気がするのう」
「……だな。解答がある訳でも……ある所にはあるかな?法王庁とか……」
「はい!一旦休憩にしましょう!そろそろ板前さんも到着する頃ですからね!燕ちゃん!ネフェちゃん!食事前に運動してお腹を減らしましょうね!」
剣が危険度マックスな呟きを始めたので、尋姫はこの話題を全力で強制終了させたのであった。
そして、ヒナから剣の無茶な行動のあれこれを聞いた実鳥による小言タイムも始まったのであった……
剣さん、最近こんなのばっかである。
昼食の準備が整うまでの間。剣は楼明と共に縁側に腰を掛けて休んでいた。庭園では妹達とネフェが尋姫に連れられ散策中である。
「いやいや、心が休まる光景じゃのう。それにしても妹だけでなく、いつの間にやら幼妻まで娶っておるとは、男として羨ましい限りじゃわい!」
「……説明しただろが。そんなに俺を性犯罪者にしたいかよ?」
「竜人には法が適用されるかのう?」
「それ言ったら、竜人には性犯罪自体がねぇけどな」
「ほう?それはどうなっておるのだ?」
「これは、俺が知ってる竜人の集落だけかも知れないが……」
ロルハイト族の竜人女性は、基本的に同じ母から生まれた兄弟と自分が産んだ息子以外、誰とでも交配する。力を絶対の価値観としているので、自分より強い男であれば拒絶する理由がないらしく、そして男の方も強い女に対して拒否権が無いらしい。つまり、無理矢理行為に及ぶなんて概念すらない。
「しかも、ドラゴンの姿で裸でいる事が多いもんだから、人の姿で裸でいることにも羞恥心がない……男に見られるのも全然平気なんだ……性行為も含めてな」
「なんじゃと!?」
「食い付くなよジジイ……現役か?言っとくが……ネフェはまだ発情期を迎えたこともねぇお子様だからな。行為は未経験だそーだぞ」
「発情期て……野生の獣みたいじゃな?」
「野生なんだよ」
そう、野生なのだ。言葉が通じるので忘れがちだが、野生動物なのである。人間の常識が当て嵌まらないナマモノであるのだ。外見上人間と大差ないのだが、別種の動物なのだ。それは、エルヴィアスに生息する多くの人族と異なり、人族以外の身体的特徴が合致する動物との交配が可能であることからも明らか――つまり、竜人ではないドラゴンとの交配も可能であったりするのだ。そうして生まれた子供は、必ず母体の種族となる。
しかし、数千年以上他種族と関わりがなく、当然それ以前の記録なんて残ってはいない。竜人が人族や魔族と子を成せるかは、不明なのであった。
現在の剣にとっては、どうでもいい話であるし、ネフェにとってもまだまだ先の話であるので現実味を感じてもいないが。
「ネフェに関しちゃ……当面こっちの習慣やら常識を学んでもらって、どうしても馴染めなきゃ……そん時は、エルヴィアスで一人でも生きていけるように、鍛えてやりゃいいと思ってる」
元々エルヴィアスの人族よりも圧倒的に優れている身体能力を持っているのである。大人にさえなれば、巨竜化できなくとも大概の魔物には劣らない種族なのだから、それこそ知識をつけるだけで充分なのかもしれない。
「んで、実鳥の事なんだがな……協力してほしい事がある」
「……ふむ。それが本題か?燕ちゃんの件と違ぉて、具体案がありそうな語気じゃのう?」
「ああ、ちゃんと礼もするよ。異世界の魔法道具……思う存分調べてみたくないか?」
帰りの車内。燕とネフェはポンポンになったお腹を擦り、御満悦な表情でダレていた。
「料理とは……奇跡なのです……葉っぱがサクサクになると、あんなに美味しくなるなんて……油は、しゅごいお水でひゅ~」
「まんぷく!てんぷらおいしかったー」
昼食に用意されたのは天麩羅であった。しかも、有名店から板前に出張してもらい、目の前で好きなものを揚げてもらう方式とゆう贅沢なスタイルで。
黄金色の油の中で踊る食材にネフェは目を奪われ、おまかせの一品目の車海老を一口かじった瞬間。ネフェはその味の虜となった。そして迷うことなく、片っ端から全ての食材を揚げてもらったのである。
特にネフェを驚かせたのは、大葉や春菊といった葉物野菜であった。これまでの生活では野菜どころか植物なんて、木に生る果実ぐらいしか口にした事がなかったのである。葉っぱなんて、口にしても苦いか渋いだけとゆう認識だったのである。
それが、衣のサクサクの食感と油によってプラスされた濃厚な旨みによってまろやかな味わいとなり……夢中で貪ったのであった。
「ちっこい魚や貝も、ああして食べると美味しいんだ~」
「ばめは、おいもさんすき~」
すっかりお友達な二人であった。
「お土産まで戴いてしまって……こんなによくして頂いて、本当にありがとうございました尋姫さん」
残った食材まで全て揚げてもらい、それを詰めた四段もの重箱の風呂敷包みを抱えるのは実鳥だ。葛乃葉一門に警護をされていることを説明された後なので、行きよりも恐縮度合いが増していた。
「……マトモにお礼を言われるのって、こんなに心に沁みるものだったのね……無下に扱われないのって、とても嬉しい……」
心労が滲み出る言葉であった。
剣達が家に帰ると、既に光と梓。桜と小町が帰宅していた。
「うわ……なんだこりゃ?」
リビングのテーブルに、どっちゃりと買い物袋が載せられていた。ちょっと、そこらのスーパーやコンビニでは見ないような店の名前やロゴの入った袋ばかりである。
「けんちゃんおかえり~。いや、おねえちゃんと巣鴨を街ブラしてきて、そのお土産」
「……何故に巣鴨?てか、こんなに沢山……」
「お土産選ぶの楽しくって、つい……ね~」
「ね~」
「仲良しか!?……って、こんなに大福を……しかもあんパンも!?うわ……玉ネギの漬け物まで……ん?こっちは……」
剣の目にとまったのは、実に萌え~なメイドがドジって頭からコーヒーを被っているイラストが描かれたクッキーの箱であった。多分、酷い味のが入っているロシアンな楽しみ方をするアレだろうと剣は確信した。
「それはボクが買ってきました!ついジャケ買いしてしまったのです!」
「だろうと思った。そして酷い目に遭うのはお前だ」
まず、間違いなくそうなるだろう。
「光さん。コレ。貰っちゃって……」
「何かしら……あら?天麩羅がこんなに……それじゃ夕食に使わせて貰っちゃうわね?お蕎麦にしようかしら……それとも玉子とじして天玉丼?」
ガヤガヤと各々のお土産を品定めする中、小町はそれに加わらず、リビングのソファーに俯せていた。
「どうした小町?燕とネフェはもう大福に食らい付いてるけど、お前はいらないのか?」
小町は身体を起こそうともせず、少し首を曲げただけで剣に答えた。
「……いらない。食欲が沸かない。脂肪と糖質と炭水化物は敵。今は、蛋白質ですら味方とは思えない……」
「……夏バテか?水分だけは摂り忘れるなよ?」
「うん……大丈夫……」
あまり大丈夫じゃなさそうな小町を心配しながら、剣は時計を見て呟いた。
「翼と希も、もうじき帰ってくるかな?そういや、ネフェにタピオカ初体験させるとか言ってたような……」
小町がガバッと飛び起きた!
「事案発生!この家は誘惑が多すぎる!私、今日はもう寝ます!夕飯いりません!お休みなさい!」
冷蔵庫から水の入ったペットボトルを取り出すと、小町は自分の部屋へと閉じ籠った。
タピオカの原料は、キャッサバという芋の一種で、それを粉末にしたもの。つまりは澱粉であり、炭水化物。黒いタピオカには、それに加えて黒糖が入っている物が多い。つまり……炭水化物+糖質=高カロリー!
既に、誘惑に敗北していた小町は、空腹になる前に寝てしまうしか自衛の手段を思いつけなかったのだった……
連続六日間更新は出来ませんでした……ま、六日間で六回更新はしたからセーフ!……かな?
結局宙ぶらりんな燕ちゃんの秘密だったり。
竜人の生態を明らかにしたり。
じいさんと悪巧みしたり……
伏線を張りまくったお話になりました。
そして、偶然集ったお土産から敵前逃亡した小町がオチ。本当はタピオカ大好きなのです……
次回は双子回で、この一日の全員の行動が明らかに……って、ミステリじゃねぇし。蛇足。




