159話目 先手必敗
前回のあらすじ
ドラゴンの族長が現れた!なんかビビってた。
「殺意100%の返礼に、指~ムでの威嚇でありますか……ぬっ殺しなかっただけ冷静でありましたが、それはそれは族長様も、肝を冷やしたでありましょうなぁ。威力も随分と加減されたのでしょうが、洞窟に直撃していたら、一族郎党生き埋め……からの土葬でありましたからな」
「けんちゃんも自重したよねぇ。族長さんがそうくると予想していたから怒らなかったけど、普段だったら……つばぞみが危険に晒された時点で、言い訳無用で滅殺だもの。族長さん……いや、竜人族さん……ラッキーだったねぇ」
族長降臨!迄の説明を終えて、聖家の食卓はデザートタイムに突入していた。本日のデザートは、信州のじっちゃんが贈ってくれたトウモロコシである。一度蒸してから布巾をかけて室温に冷えるまで荒熱をとり、その後更に冷蔵庫で冷やしているので、噛む度に、甘く冷たくジューシーな果汁が口いっぱいに広がるのであった。
「こ……こんな甘い果物があっただなんて……」
「ネフェ、それは穀物に分類される作物なんだが……まいっか」
ネフェちゃんは、未知の食文化に感激しっぱなしであった。ガシュガシュと削ぐようにトウモロコシにかぶりつく姿は、まるでリスのような可愛さである。
「実鳥義姉さん、エルヴィアスってコーン無いの?あ、お塩とって」
「あった筈だけど……私も使うから一寸待ってね」
軽く塩を振りかける実鳥と小町。ネフェちゃんは目敏くそれを見逃さなかった!
「そ、その粉は何ですか?」
「塩……だけど?」
「塩?……なんで、しょっぱいものをかけるのですか?」
顔を見合わせ、キョトンとする実鳥と小町。
「あ~……気にしないでくれ二人とも。その……なんだ。竜人族には、料理どころか、調味って概念すらないんだ。基本、何でも生で食うから」
続けて双子も補足。
「そう、竜は野生」
「塩分欲しくなったら、岩塩かじるし」
あまりにもなカルチャーギャップに、実鳥と小町の眼差しが生温かくなった……
「……社会科見学で、牧場行ったの思い出しました」
「岩塩舐めてる牛さん?」
とっても憐れまれているネフェであったが、〝甘い物に塩〟の組み合わせに感激していて、見られていることに気づきもしなかった。
「それにしても……ネフェちゃんから悲壮感を感じないから不完全燃焼なんだけど……族長さんは許せないわね。立場や事情はあったにせよ、申し開きもさせずに燃え盛る火炎を孫娘にとか……まぁ、その後に何が起こったかを想うと……気の毒だけれど」
ジト~っと据わった目で剣を睨み付ける光。剣は決して光と視線を合わせようとしない!
「ま、まぁ誰も死なずにすんだし~……肉体的には」
「オラオラ剣。さっさと吐け。どーしてネフェちゃんを預かることになったのか、ドラゴンさん達に何をしたのかキッチリ吐けや」
ヤンキー口調で尋問する遥であったが、本日は休日でノーメイクである為に迫力がない!……ギャップは大きいが。
「いや、ちゃんと話すって。族長さんと対面したとこからだったよな……」
洞窟を崩落させられては敵わないと、派手に仰々しく豪快に登場した竜人の族長。その胸中たるは、己が失策で一族が全滅寸前の事態を招いてしまったのではないかとの焦りを抱えていた。
そう、掟に反して他種族を集落に連れてきたネフェを処断せんと、肉親の情に流されず、他の者達もその厳格な判断に涙と悲しみに堪える中、非情にも放った必殺のブレス。
必殺のブレス……だった筈が、あっさりと防がれてしまったのだ。これには族長はじめ、一族全員驚嘆して一言すら発っせられなかった。
そしてブレスの御返しとばかりに人族の男が指先に集束させ始めた膨大な破壊的魔力たるや、それは族長のブレスの比ではなく、もし一族全員のブレスで対抗したとしても間違いなく貫通される……族長は瞬時にそう理解して背筋を凍らせたのであった。
しかし男の攻撃は立ちはだかったネフェによって(元々威嚇のつもりであったけれども)阻まれ、峡谷の片側の地形を大きく抉り削るとゆう結果をもたらすに留まった。族長にしてみれば、一族の人命に被害が出なかったのは奇跡に等しかった。
剣はちゃ~んとヒナに索敵させて、誰もいない場所を狙ったのだから、奇跡なんかじゃないのだけれど。
ともあれ、族長にしてみれば奇跡的な生存であった。しかし、ここで問題が勃発。大規模な破壊の痕跡を見せつけられてまで、怒りに燃える血気盛んな若者や脳筋が洞窟を飛び出そうとしたのである。
だから族長は威厳を示すように、一族最強である自らが先頭に立つことでブゥワッカ共を諌めようと航空ショーさながらの登場を演じたのである。
そうして目一杯の強がりを現在進行系で演じていたのだ。めっちゃビビって震えているけど!脳筋連中からは武者震いに見えているけど、本当は「こっからどうしましょうかしらん?」ってキョドッているけど!冷や汗が全身からジットリ滲んでいるけれども!
だから、そんな様子を察した剣の一言が、こうなったのである。
「……なんか、ごめんなさい」
「……は?」
最早、破壊の化身。恐怖の権化であった相手にペッコリと謝罪され、族長は気の抜けた返事をしてしまった。
「え?」
これにはネフェちゃんも素っ頓狂に驚くしかなかった。何故なら族長、陽気で豪快な性格ではあるが、とても厳格なのである。ネフェから見れば、族長は怒りにうち震えているように見えていたのである。それが間の抜けた返事……信じられなくとも無理はなかった。
「族長さん微妙に濡れてるけど……水浴びしてた?」
「それとも、汗?ドラゴンって汗腺あるの?」
「お姉さん達、冷静通り越して緊張感ありませんよね!」
六階建てのビル以上の高さはある族長ドラゴンを見上げながらも、双子には緊張感どころか恐怖心もなかった。ネフェ的には、族長から威厳が薄れているよりも驚きであった。
「いや、遠距離攻撃が無力な時点で詰んでるし」
「おに~ちゃんにとって、既に火を吹くだけのでっかいトカゲでしかないし」
それ、充分バケモノですからね!小町がここにいたら、そんな突っ込みを入れるに違いない。間違いない。
外野の与太話は置いといて、剣は頭を上げると、族長を見上げながら申し訳なさそうに、
「すいませ~ん。かなり加減したつもりだったんですけど、思ってたよりも地形を変えちゃいました~。洞窟の中、崩落したりしませんでしたかー?」
「か……加減!?……ふ、ふふ……面白い事を言うではないか?」
あくまでスマイル&フレンドリーで同等な交流を試みる剣に、族長は絶望的に引き攣った笑顔を浮かべたのであった。ドラゴンなので、表情が読まれにくいのが救いである。
さておき、茶飲み話をしにきた訳ではないので、剣は再度要件を伝え、事情説明をするのであった。
「まぁ何と言いますか、俺達はお嬢さんを送り届けに来ただけですんで、竜人族の皆さんに敵意がある訳では……」
「小五月蝿い!抹殺あるのみ!」
「あっ!?この愚かも……」
血気に逸り、剣に襲いかかる一頭の巨竜。族長の叱責も間に合わず、剣に鋭い爪を伸ばし――
「話の腰を折るな。礼儀知らずのハネトカゲ」
「ぐぼふぅー!?」
剣はするりと爪を避けると、ドラゴンの腹の下に潜り込み、そのまま下から拳を突き上げた。ドラゴンの巨体からすれぱ人の拳なんて、人にとっての爪楊枝の先端に等しい面積でしかないのに……ドラゴンは舞った。遥かな天空へと。
「おのれぇー!よくも仲間を!」
それを皮切りに、ドラゴン達が一斉に剣を襲った。
「だから!」
首投げ一本背負い!
「人が!」
念動岩石落とし!
「話してる!」
究極亡霊キック!
「途中!」
十連指~ム!(超手加減バージョン)
「でしょーが!」
ドラゴンテイル・スイング!
「……ふう。やっと大人しくなったか?」
剣の手元には千切れたドラゴンの尻尾。回転ハンマーにされたドラゴンさんの腰からプチっともげていた。そのドラゴンさんを含め、十頭余りのドラゴンが気絶でもしているのか、そこかしこに転がってピクピクとしていた。
「……ま、また生えるよな。トカゲだし」
ついでに、掴んだままの尻尾もピクピクしていた。まるでイカゲソみたいに。取り敢えず、持ち主の傍に返しておいた。
「あ……あぁ……怖れていたことが現実にぃ……」
「いや、殺さないように凄く手加減したし。角だって折らないように気を遣ったんだぞ?」
ネフェを含め、剣に襲いかからなかった竜人さん達にとって、目前で繰り広げられた光景は、想像の埓外の悪夢であった。巨体を誇るドラゴンが、特に大柄でもない異種族に、力で、速さで、技で、魔法で、何一つ抗う間すら与えられずに全滅させられてしまったのだから。
無論、それは族長もである。屈強な戦士達が為す術もなく地面に転がされ、壁に叩きつけられ、あまつさえ振り回されている中、剣の猛威を阻む為の手出しをする隙を見つけられなかったのだ。
「さあ、話し合いを始めようか?」
族長さん。誰でも見て判っちゃうぐらいにビクッとした!一寸地面が揺れちゃうぐらいに身震いした!
「……聞こう。要求を呑めるかは判らぬが」
「ああ。やっと文化的で平和的な人間に相応しい意見交換が出来そうでなによりだ」
ほへっと気を抜く剣を苦々しく睨みながらも、先に武力で手出しをしてしまったのは竜人族側(先ず自分)なので、族長は口惜しくも従うしかなかったのであった……
「さて、この姿のままでは話しづらいな。他種族に人の姿を見せるなどいつ以来か……」
族長の身体が光を放ち、徐々に萎んでゆく。尻尾と翼が完全に引っ込み、鋭い爪牙が縮み、頭髪が腰よりも長く伸びた姿を形作る。
やがて光が消えると、そこには2メートル近くの長身。ネフェと同じ白銀の髪と蒼い瞳。顔には幾筋か皺が刻まれているものの、背筋はしっかりと、引き締まった四肢は筋骨隆々。腹筋も見事なシックスパックに割れており、胸筋は逞しく……ありながらも、ポヨン……ともしていた。
「……ほう、これは美魔女な」
「族長はアマゾネス女帝でしたか」
美に自信がある双子をして、顎に手をあて頷いてしまうほどに、美しくも堂々とした立ち姿であった。
「……ネフェ、族長って女性だったのか?」
「言ってませんでした?」
(聞いてねぇよ……ドラゴンの声、野太いから女だなんて欠片も思わなかったっての……ひょっとして、脳筋ドラゴンの中にも女がいたりなんて……マジ、角を折らんでよかった……)
そして、族長は右手を腰に添えると、モデルさながらの美しいウォーキングで、何も包み隠さずに接近してきた。
「つか……何か纏えやー!!」
集落に到着してから、一番大きな剣さんの絶叫であった。
脳筋ドラゴン相手に無双。
んでもってネタ。
亡霊はドイツ語で読む!
十連指~ム=白き方舟。
ドラゴンテイル・スイング=ドラゴンの尻尾でジャイアントスイング。書いててサルファのバラン=ドバンを思い出しました。
千切れた尻尾をイカゲソ扱い。=大昔、高橋名人をモデルにしたギャグ漫画があったなぁ……
と、今回は(も)はっちゃけました!
で、ラストに族長が人化。美熟女でした。ダレトクやねん!と、セルフつっこみ。
次回でネフェ登場編は終了予定。その後、輝いていないGW中は、一話完結のお話を連投しようかと思います。




