160話目 どらよめ
前回のあらすじ
竜人の族長は美魔女だった。そして全裸。
「これでよいか?他種族の男は妙な事を気にするのだな?」
「竜人の常識は、他所じゃ全然通用しねぇからな?やっべぇわ。その辺の冒険者がたまたま迷い混んだら、美男美女だらけの裸族村だったりしたら正気失うわ。竜人が他種族と交流絶だた切っ掛けも、その辺りにあるんじゃねぇかと疑うわ」
白い虎柄の毛皮を羽織った族長は、正にアマゾネス。野性的な逞しさに、煌めく白銀の髪が映え、既に孫がいるとは思えない程、生命力溢れる美しさを醸し出している。
「そうゆうものか?我々にとって衣服とは、ドラゴンの姿になれぬ場所で肌を守る為に身に着ける防具に過ぎぬのだがな。それはそうと、貴様の連れもほぼ裸ではないか?」
「……否定できねぇ!」
「いや、否定してよおに~ちゃん。これは……ファッション!裸とは似て非なるもの!」
「そう、防具の意義である防御力を度外視し、動きやすさと肉体美を際立たせるのを追究したスタイルなんだよ!」
それでも、ほぼ裸。それは紛れもない事実であり、未開文明人である竜人に違いが解る筈がない。
「ふむ……他種族の女も久しく見ぬが……そんなに胸ばかり肥えるものなのか?動きにくそうであるし、醜いな」
「「アァ!?」」
見解・美的感覚・価値観の相違。双子ちゃん激おこ。
「す……済まぬな。我等は授乳期でもそこまで大きくなる者はおらぬのでな。それにその大きさに比べ背も低いし顔も幼い。なんともちぐはぐで……奇妙に見えたのだ」
精一杯言葉を選んだ族長に、周囲に控える竜人族一同もコクコク頷く。
「なんてこと……豊満な胸肉が女性の魅力足り得ないなんて……まさか筋肉?カッチカチな筋肉がツボなの!?」
「嘘でしょ……ロリが性的嗜好にも対象にもならない……ある意味生物として正常過ぎて恐ろしい……」
竜人族に自分達の魅力が通じないと判り、双子はとっても落胆した。が、一転とてもにこやかな笑顔となり……
「おに~ちゃん、こいつら殺っちゃおう。根絶しよう」
「私達の希少価値を理解出来ない可哀想なオツムなんだから、生きていたって仕方無いよね?」
双子は即断即決した。生かす価値なし断罪執行!
「……いや、何しに来たか忘れんなよ。優先順位があるだろーが。全滅させたら意味ねぇだろ」
と、言いつつ。剣が愛する妹達を〝醜い〟だなんて表現されて面白い訳がない。族長を見据える瞳は、果てしなく冷徹であった。
「むぐ……その若さで、我をも気圧す殺気を放つか……一体、何者か……まさか、勇者か?」
「いや、違うが?でもまぁ……それよりほんのちょっと弱いぐらいかな、俺は」
「馬鹿な!勇者と拮抗できる者は魔王だけの筈……魔族ではない貴様にそこまでの力……いや、詮索する意味もないか。事実、一族の者達が圧倒されてしまったのだからな……」
「そんな事より、本題。アンタ達の掟や事情についちゃ簡単に聞いちゃいるんだが……ネフェの減刑とかしてくれない?」
「……出来ぬな。我は族長であり、ネフェは直系の孫である。立場上、情に流され掟を曲げることは許されぬ。異種族に角を折られ、あまつさえ集落に招くなど酌量の余地もない。既に、死んだものと扱っている」
族長の言に、ネフェは暗く顔を沈めた。先程放たれたブレスには、それだけの意味が込められていたのである。
だが、ここで剣は平然と返す。
「でもさ?俺がネフェがドラゴンだって知ったのは集落に着いてからなんだけどなぁ?見張りの二人が背中から翼を生やしていたから、あれなに?って。それまで、ただの自然派生活主義者の集団だとしか思ってなかったんだけどなー?」
勿論、嘘である。出任せである。見張りに罪を擦り付けようとしているのである。
「たまたま森で気絶しているネフェを見つけて、住処まで送ってきただけなんだけどなー。角がある獣人なんて珍しくもないし~。でも……背中に翼ってのはないわ~。あれがなきゃ、ドラゴンだなんて気付きもしなかったのにな~」
なんて白々しい嘘をいけしゃあしゃあと……ネフェちゃんは見ていられなくて、顔を覆ってしゃがんでしまった。……遠目には、悲観して号泣しているように見えなくもない。
ここで双子が追撃。
「だよね~。折角ネフェちゃんが竜人であることを隠していたのに、間抜けな見張りの所為で台無しだよね~」
「折れた角を見て大慌てで事情も聞かなかったもんね~。族長さんになんて説明したのかなぁ?ねぇどうなの?」
畳み掛けるような嘘八百。族長は、しばし呆然とした後に、伝令に来た見張りをキッと睨んだ。見張りは青褪めて激しく震えている。この見張りは「ネフェ様が角を折られ……人族を伴って帰還されました!」と、報告しただけなのであるが。まあ、事実確認もせずに、部分的に竜化した姿を晒したのは事実である。
「どうする?ソイツも処罰する?あ、事実確認を怠ったのは族長も同じか……ぜ~んぶなかった事にして水に流しちゃった方がよくない?」
族長、とっても悔しそうに赤面して歯軋りしている!
「そ、そんな後出しの屁理屈なんぞ……」
「ま、大体嘘なんだけどね」
「……はあっ!?」
完全に騙せそうな流れであったのに、剣は自ら嘘だと暴露した。
「いや、今のは何通りか考えておいた作戦の一つだったのさ。アンタ達、他人と関わらないだろう?だから騙されやすいと思ってな。だから俺達はネフェを送り届けたらさっきの事情説明をして速やかに去る……が、ベストだったんだが、想定していた以上に見張りが慌て者で、族長が短気でな」
それで、大声で呼び掛けて出方を伺ったら、ブレスぶっぱであった。
「一族を守る為の掟。族長としての立場もあっただろう。外敵を排除するのも当然の選択だと理解を示せる。でもさ……結果だけで判断下して、外敵もろとも子供を……それも実の孫娘を殺処分てのは、俺は納得出来ないな」
「黙れ……貴様に言われたくなど……ない!」
族長の顔が、怒りと苦渋で激しく歪む。
「我とて……望んでした決断ではない!ネフェを……いや、一族の誰であろうと、愛おしく思っていないとでも!?だからこそ……他の者に子殺しなどさせられるか!そんな苦しみは……」
事情を聞き、言葉を交わせば、ネフェに同情し赦しを乞う者も現れるかもしれない。絶対厳守とされてはいるが、破る者も幾久しく、風化しているような掟でもあった。
故に、族長は誰もが迷い、議論を始める暇も与えず、一思いにブレスを放って終わらせようとしたのである。
「ふーん。そこまで非情に徹しておきながら、おに~ちゃんに容易く阻止されちゃったと」
「族長一世一代の決断で大失敗!危うく一族存続の危機を招いちゃいました~。ぷっふぅ~!」
「ぬがっ!?」
悲壮な心情を吐露していた族長だったが急転直下。双子に貶され煽られ、反論出来ずに固まった。
「野生で最強なのかもしんないけど、こんなに頭悪くてよく絶滅しなかったよね~?」
「こんな山奥で、その日暮らしのニート生活してるからだよ。生まれつき恵まれた身体に甘えてストレスフリーとはいい身分!」
純粋な心の持ち主である野生のドラゴンさん達に突き刺さる言葉の刃。既に、人族・魔族双方から忘れ去られた幻の種族は、命を脅かす外敵もいないのに、文明どころか生活レベルを向上させる事もなく、ダラダラと存続していたのである。
既に力で完膚なきまで叩きのめされているので、語彙力不足のドラゴンさん達は、涙を呑むしかなかった……
「結局、折っちまったなぁ……身体も心も」
「仕方無い。暴力に訴えたのはあっちが先。これは彼らが望んで招いた結果」
「そう、話し合いによる平和的解決を望んだ我々に対し、悪逆非道にも数の暴力を行使した彼等が悪い」
それが因果応報だとでもいわんとばかりに、項垂れる竜人達(特に男)を胸を張って見下す翼と希。
(あいつ等、巨乳を見る度に身震いするんじゃねぇかな?)
竜人達にとって、ロリ巨乳は恐怖の象徴になってしまったのかもしれない……
「……しかし困ったな。族長はどうあってもネフェを集落に戻せないらしいし……手荒な真似をこれ以上したくはなかったが……竜人にとって暴力は常套手段らしいし、実力行使……するか」
コキコキと指を鳴らす剣に畏れを抱き、竜人の誰かが「何を、するつもりなんだ?」と、問い掛けたので、剣は。
「これから、全員の角を折ろうと思います。そうすれば、皆同罪ですよね?」
角を折られたら、竜人は力の大半を失う。そうなれば、天然自然は竜人にとって理想郷ではなく、生きるに過酷な環境へと早変わり……絶滅必至である。
竜人達は叫びを上げ、蜘蛛の子を散らすように……逃げられなかった。逃亡しようとした全員、剣の重力魔法で地面にビッタ~ンさせられてしまった。
「き、貴様!この極悪非道め!」
族長からの糾弾に、剣はなんとも悲しそうな目をした。
「……一人の少女に償いをしようとしたら、この言われよう……どうすりゃよかったんだろうなぁ……ま、族長さんの角は折らないから、皆の食い扶持を頑張って稼いでね♪」
「こっ!この……疫病神めぇー!」
「もう……やめてぇー!」
たった一言の叫びで、肩で息をする程の声量を発したのは、ネフェであった。
「もう……もういいですからぁ……私、ここを出ていきますからぁ……お兄さん、もう、やめてくださぁい……」
泣き叫びながらの懇願に、剣は重力魔法による拘束を解いた。
「いいのか?何処へ行こうと、一人で生きるには世界は厳しいぞ?」
「……ひぐっ……いいんです。一番悪いの、角を折られた私……だから。元々、戻っていいなんて、思ってませんでした……ただ、皆に、お別れを……ちゃんと、したくて……」
泣きじゃくるネフェを、翼と希が優しく抱き締める。剣も一度、ネフェの頭を軽く撫でると、族長に向き直った。
「だ、そうだが。追放前に、別れを惜しむ時間も与えてやれないか?俺は、ネフェの角を折った償いをしたいだけだ。本人がそう言っているんでな。この要求さえ呑んでくれれば、もうアンタ達に危害は加えないよ」
「……いいだろう。この惨状を鑑みれば、安い要求だ」
それから暫く、集落ではネフェの追放を前に、全員がネフェを囲んで離別を惜しんでいた。翼と希はここでもとんでもないコミュ力を発揮して、集落の女性と普通に会話をしていた。男性からは畏怖の籠った視線を送られていたが……
剣は一人、その環から外れて様子を見守っていた。そこへ、族長が訪れてきた。
「不思議な男だ。嵐のように荒ぶっていたかと思えば、今はそよ風のように穏やかだ。そういえば、まだ名を聞いていなかったな?」
「剣だ。そういや、アンタの名も聞いてなかったか?」
「そうであったな。我はグレタ。ロルハイトの族長。デオグレタ=ロルハイトが我の名だ」
「……それ、真名じゃないのか?ネフェだって真名は伏せてるっぽかったぞ?いいのかよ……」
「あれだけの力量差を見せつけられては今更であろう。きさ……剣であれば、我を含めて一族の命を刈り取るに精神支配なんぞ手間をかけずとも容易かろう?」
「だからってな……ま、どうでもいっか。で?何か用があるんだろ?ネフェのことだろうけど……」
「うむ。そうであったそうであった。剣よ、確かネフェの角を折った償いをするのであったな?」
「ああ。ネフェが安心して暮らせる場所が見つかるまでは面倒見るさ。あの容姿なら人族にも溶け込めるだろうし……なんなら常識や教養も世話するぞ」
「それはちと……思っていたのと違うな」
「ん?何か不満でもあるのか?」
「いや……我の常識が古いのかもしれぬが……人族の男が女を傷物にした場合に〝償う〟〝責任を取る〟と宣うのは〝娶る〟と同義ではなかったか?」
「違ぇよ。拡大解釈すんな」
「そうなのか?しかしネフェには「子を孕んだら同族であるとみなし、追放を解くのも吝かではない」と伝えてしまったのだがな。まあ、気が向いたら交わってやってくれ」
「性に対してオープン過ぎんぞ下衆ドラゴンめっ!」
「なんなら、我が種付けの相手をしても良いぞ?我が一族以上の強き男の子種。誰であろうと歓迎するぞ?人族の男は常に発情期なのだろう?遠慮せずとも……」
「翼ぁー!希ぃー!ドラゴンに何を吹き込みやがったぁー!?」
犯人の断定に、剣は一切の迷いを挟まなかった。
「とゆう事情がありまして、おに~ちゃんとの交配を前提に、ネフェちゃんを預かりました」
「遺伝子的な問題があるので、妊娠可能か分かりませんが」
「前提条件が大きく歪んでる!そんなつもりは一切ない!」
愛情(悪意)に満ち満ちた双子の説明を訂正する剣であったが。
「不潔」
そう言って席を立った小町に打ちのめされていじけたり。
遥は案の定羞恥心でオーバーヒートしたり。
梓が先輩嫁として張り切ったり。
桜はネフェに似合いそうなコスを選ぶのに熱中したり。
燕はミニドラゴンに変身したネフェの背中に乗せてもらってご機嫌になったり。
実鳥は「剣さんの新しいお嫁さん?すると私のお義姉さん?それともお義母さん?でもでも……それとも……義妹……何!何考えてるの私ー!?」とか呟いてたり。
光は「私は許可しますけど……響ちゃんへの説明は剣がしてね?勿論、異世界全般の説明含めてヨロシクね~」と、相変わらず心身疲労の激しい弟に丸投げしていった。
「あ~今日も楽しかった」
「明日もエルヴィアス行きたいね~」
「……絶対、連れてかねぇ……」
剣の呟きは虚しくも、双子悪魔の耳には届かなかった。
ネフェちゃん登場編終了!
さて、今回のサブタイトルですが某TCGのエクストラブースター名称をパク……参考にしました。
いや、異文化交流って難しい。肉体言語頼りになっちゃたなぁ……
そして、少女の純真な健気さに救われた。
構成が未熟すぐる……
次回は前回の予告どおり、1話完結の日常話をお届けします。明日更新します!




