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158話目 ドラゴン村へ行ってみた

前回のあらすじ

ドラゴンの村へ行くことにした。

剣達が泉から飛び立って小一時間。


緑の木々が生い茂る森林から景色が変わり、荒々しい岩肌の絶壁に挟まれた渓谷を、一行はゆっくりと飛行していた。


「これはこれで……大自然だな」


命の息吹溢れる森林とは真逆ながら、岩石が織り成す自然そのままの雄大な光景に、剣は思わず「ほはぁ~」と息を吐いた。


「高さ……50メートルくらい?」


「幅は20ってとこ?これならおっきいドラゴンも通れるね」


翼と希も自然が生み出した景観に圧倒されながらも、状況分析に怠りはなかった。ドラゴンの集落に接近すれば、不意に遭遇する確率も高くなり、問答無用で戦闘となる可能性だってある。無論、剣の戦闘力が絶大であり、その人間性に対して揺るぎ無い信頼はしているのだが、それでも双子は油断していない。装備が実戦を舐めているとしか思えない、露出過剰であったとしても!戦いになる可能性を覚悟している以上、心構えは常在戦場なのである!そうは見えなくても!


「あ……あの、そろそろ」


「分かった。ここからは更に低空だな?」


ネフェに促され、剣は地表ギリギリにまで下降した。ドラゴンの集落には外敵に警戒して交代制で見張りがいるらしく、仲間のドラゴン以外、周辺に生息している鳥類よりも大きな生物が飛行して接近した場合、撃墜してもいいことになっているらしい。ネフェが知る限り、そんなことは一度も起きていないのだが……偶然にも人が迷い混む要素がない、そんな秘境に竜人族の集落は存在していたのである。


「谷の上も木とか生えてなくて荒涼としてるし、その上を飛んでればかなり目立つからな……こうして渓谷の中を進んでいかなきゃ全部敵、か……理に叶っているが、排他的だよなぁ」


集落へと戻る際、定められたルートで戻らねば仲間に攻撃されても文句一つ言えないのだそうだ。


「或いは、通常の帰還手段を用いないことで、仲間に異常をいち速く伝達する為でもあるね」


「私もろとも敵を討て!みたいな」


翼と希の背中で、ネフェちゃんが泣きそうな顔でプルプルしていた。


「本来は、そうすべきなのでしょうが……うぅ……」


集落で最善と教えられていた掟が、ネフェにはどうしても最善と判断出来なかった。それどころか、最悪手に等しいのではないかとの疑念が、後から後から湧いてきたのである。


ネフェは同胞から他種族と遭遇した際の話を、これまでに何度も聴かされていた。大概の場合は威嚇するだけで逃走し、立ち向かってくる者も脅えながらが大半。自信に満ちていた者も歴然とした力の差を見せつければ途端に腰が砕ける。


そんな、武勇伝ばかりであった。


他種族に対して、恐れるべきは数だけであり、単独で竜人に優る者は勇者と魔王のみ。


……そう教わっていて、実際そうだと思っていた。今日迄は。


現在同行している三人は、ちっとも巨竜姿のネフェを恐れなかったのである。そして、剣には圧倒的な力量差を逆に見せつけられて、竜人にとって力の象徴にして誇りでもある角を折られてしまったのであるから……自信も誇りも価値観も粉末状に磨り潰されたような心情なのであった。


そして奇妙なことに、彼等はネフェの置かれた現状に、いたく同情的であった。それまでのネフェの価値観であれば、意識を取り戻すのを待たずに殺されていても、食料にされていても文句を言える筋合いではなかった。


なのに、優しく諭されたり、美味しい食べ物を分け与えられたり、集落に戻れるようにと知恵を絞って実際に送り届けてくれている……ネフェは正直、剣達が何を考えているのか、完全に理解の範疇外であった。


それでも、ネフェちゃんは考えた。必死に考えた!その結果たどり着いた答えは……〝この人達を怒らせたら、絶対ヤバイ!〟とゆう、シンプルながら純真な心を持っているが故に間違わずに到達しえた真実であった。


そして、ネフェちゃんが次に考えたのが〝同胞の命を守らないと!〟で、あった。前述している通り、集落に近付く者は問答無用で攻撃されるのである。その攻撃を、剣が防いだり回避できなかったりするイメージが、ネフェにはどうしても浮かばなかった。そして……威嚇しただけで、自分がどんな目に遭わされたか……


もし、剣達の進路上に、偶然にも集落が重なっていたりしたら……集落の全滅だってありえる。ネフェちゃんは、そんな恐ろしい想像をするに至ったのである!


だったら、正直に教えちゃうのが賢明だよね~☆


と、ネフェが開き直っちゃうのも無理はなく。むしろ十歳程度の少女が導き出せた答えとしては、及第点とすべきではなかろうか。


ネフェが不安で心をモヤモヤさせている内に、渓谷の奥にポッカリと大口を開けているような、巨大な洞窟の入り口が見えてきた。


「お?あれがそうか?」


「そ……そうです。もう、着いちゃいましたぁ……」


これから起こるであろう事態に悩み、ネフェは不安で一杯だった。どうか、誰も死にませんようにと祈るしかなかった……


洞窟の手前に差し掛かると、ヒナから剣に念話が届いた。


『上、二人います』


(ネフェが言ってたとおり、見張りだろうな。ま、あちらさんも突然で驚いてるんだろう。攻撃しようにも、仲間の、それも子供が一緒だからな。それじゃあ先ずは、近代的文明人らしく平和的に話し合いでいこうか)


剣は着地して翼と希、ネフェを降ろすと、渓谷の上を見上げて、大きく息を吸い込み声を張り上げた。


「ごめんくださーい!お宅のおじょーさんを保護したので御届けに参りましたー!諸々説明したい事情も有りますので、族長さんとか偉い方に、お取次頂けませんでしょーかっ!?」


剣さん、ニッコニコの作り笑いを浮かべながら、白々しく見張りの人達に呼び掛けた。ネフェちゃんの胃袋が、キューっとした!


剣の呼び掛けに戸惑ったのか、数秒遅れる事、二つの影が渓谷の上から降り立った。その背に、蝙蝠のような翼膜の有る翼を羽ばたかせながら。二人とも若い男性であった。一人は黒髪。もう一人は青紫髪。どちらも西欧風石膏像のような整った容姿である。ただ……身に着けているのは毛皮の腰巻きだけであるが……


「……モロに見えた」


「遥ちゃんや小町がいなくてよかったなぁ」


今世では男性未経験な双子であるが、前世では色々と経験済みなので、双子は突然の男性局部露出にも動じなかった。とっても冷静に、初心な義姉と真面目な妹がいたら、大騒ぎだったろうなぁと、思いを馳せるのみであった。


「……これはそうゆう文化。これはそうゆう文化。抑えろ俺、文化の違い。文明の違い。多様性を認め合ってこそ、真の文明人足り得るんだ……」


一方、剣は強く自分を律していた。その心の深奥から表層まで、「大切な妹達に、ナニを晒してんじゃねぇぞワレェ!」と怒りをぶつけたい衝動に駆られていたが、それは相手にとって理不尽な怒りであると理解しているから。


ここが日本であったらフルボッコにしてポリスに突きだし、リーイースだったら消し炭だろうが。


一方、男達はといえば、招かざる客に警戒しながらも慌てた形相でネフェを問い質していた。


「ネフェ様!人族を連れてくるとは、どうゆう事ですか!?」


「事と次第によっては、ネフェ様とて……」


「ま、まって……順を追って説明するから……この方々はね」


そして、計画が始まった。


「な、なんてことだ……」


「お、俺は族長を呼んでくる!お前はネフェ様と人族を見張っていろ!」


ネフェが髪を掻き上げ、折れた両角を見せると見張りの男達は血相を変えた。そして一人が族長を呼びに洞窟へと全速力で走って消えた。もう一人が驚愕に震えながら見張りを続ける中、翼と希はネフェを挟むように寄り添い、内緒話をするのであった。


「ネフェちゃんって、案外偉い人?」


「えっと……一応、次の族長候補ではありまして」


「それ、大事な情報!詳しく!」


「そ、その……白竜は総じて強く成長するらしくて……今の族長も白竜で……他には、この集落にはいませんから……」


「ん?ネフェちゃんは、族長さんの直系かな?」


「私は族長の孫にあたりますが……この集落で血縁はたいして意味がありませんね。一族全員、親族ですから」


「そっか、実力主義なんだね。で?実際のトコどうなの?ネフェちゃんは現状でも崇められてる程度には強いの?」


「集落では……真ん中ぐらいですね。でも、私が一番年下なんですよ!凄いと思いませんか?」


「凄い……けど、それじゃあ半分は確実に、おに~ちゃんに瞬殺される程度のトカゲなんだ。それは安心」


「ドラゴンなのにぃ……お兄さんの強さがどうかしてるんですよぅ。族長、お兄さんを怒らせないでくれるかなぁ……?」


それが淡い期待であることは、ネフェ自身が一番よく理解していた。竜人族は個の強さを重んずる種族であり、種としての強さに絶対(勇者と魔王を除く)の自信を持っている。事実、自分もそうであったのだから。


そして、掟に対して厳格でもあり、他種族に対して排他的であるのに反して、仲間意識が強固である。そんな一族の族長の孫娘であり、次期族長候補であるネフェを追放しなければならない事態に陥っているのだから……怒り狂うのは当然であり、その元凶である剣達に対して矛先が向くのは避けられない。


だが……それで剣を怒らせてしまったら、御仕舞いなのである。


だから、どうか族長……先に手出しをしないで下さい!そう願うのみであった。


が、その願いは脆くも崩れ去った。


洞窟の奥から一直線。灼熱の暴風がネフェ達を襲ったのである。


「族長のブレス!?」


「っと、事情なんて聞くまでもない……か」


その暴風に対し、剣は地属性魔法で対応。臆する事なく、その場でパタンと足踏みすると、暴風に向かって地面が波打つように隆起し、合計十枚もの岩壁を創製した。


「……なんだ。見た目ほど派手な威力じゃなかったか?」


暴風は岩壁を三枚まで粉砕したが、四枚目に多少の傷を付けるのが精一杯であった。


「手加減する理由も無いだろうに……これが族長さんの全力なのか?だとしたら……チョロいな竜人族」


警戒し過ぎたかな?みたいな空気を纏う剣に、見張りの男(暴風の射線からは外れていた)は、信じられないモノを見た!を全身で表現するかのように腰を抜かし。ネフェは剣達ごと抹殺されそうになったショックよりも、剣が怒っていないかを、アタフタしながら心配するばかりであった。


「お……お兄さん……ご……ごめんなさ……」


「は?どうしてネフェが謝るんだよ?この程度の挨拶は想定内だっての。むしろ族長として実に合理的な判断だと評価するね。ただ、これも想定通りなんだが……相手が悪いって可能性を、考慮すらしていないようだな。これは少しばかり、世界の広さを教えてやる必要がありそうだ」


「あれがドラゴンのブレス?」


「まるで涼風のようではないか……みたいな?」


「……お前ら、自分で防げるのか?」


何もしなければ致死級の攻撃であったのに、双子は平然とネタに走っていた。要は、「あの程度、おに~ちゃんだったらどうとでもしちゃうし~♪」とゆう、信頼の為せる業であった。


「やれやれな妹達だ。さて……すいまっせーん!今のが竜人族ではごく普通の挨拶なのでしょうかぁー!?だったらこちらも、相応の挨拶を致しますが、よろしいでしょうかぁー!?」


剣は自ら造り上げた壁の上に立つと、暴風の発生源である洞窟に向かって、これでもかと大声で呼び掛けた。そして、右手をピストルの形に構え、人差し指の先端に魔力を集中。そこに、剣自身と周囲を漂う魔力が、恐るべき密度で収束し……破壊的なエネルギーが、激しい光を放ち始めた――


「だ、駄目ぇー!」


ネフェは思わず、剣の右手の前に飛び出した。


(ヒナ)


『はい。索敵完了。問題ありません』


剣は右手を洞窟から反らすと、渓谷の上端を撫でるように、指から光線を放った。


次の瞬間。渓谷の片側の高さは10メートル程低くなり、粒子化した岩石がサラサラと、風に乗って流れていた……


「は……はわわ……」


とてつもない破壊の痕跡を前に、ネフェちゃんは乙女座りでへたれ込み……漏らしていた。


「あのまま撃つと思ったか?今日会ったばかりだから仕方ないけど、信用ないなぁ……」


ここには、ネフェをお家に帰すのが目的で来ているのだから、その家を壊す真似をする筈がないのに……剣は「解せぬぅ」と顔をしかめるのであった。


「ま、これでこちらの実力を示せただろうし、ひっコミュすることの無意味さを感じ取って……」


くれたみたいである。洞窟からわらわらと住民達が慌てた様子で沸いて出てきた。総数、二十人程度であった。


それと一緒に、巨大な白い影が洞窟の出入り口から垂直に、高速で飛翔した。白銀の巨体が美しく日光を反射しながら宙返りすると、翼を優雅に広げながら剣の前へと、前肢を組んで、仁王立ちの姿勢で降り立った。


巨竜化したネフェにそっくりな竜であったが、その身体はネフェの更に倍もの巨体で、実に威風堂々と、貫禄のある姿で……なかった。


「ふ……ふふふ……正人族にしては、やるではないか……」


ラスボス的な威容であるのに、身体も声も微妙に震えていた。


白い竜鱗が美しく日光を反射しているのは、冷や汗が鱗を湿らせていたからみたいである。


「……なんか、ごめんなさい」


思わず、剣は族長に頭を下げたのであった。





見苦しいモノをお見せしてごめんなさい。

野生の残念なイケメン(名前未定)と野生の残念な族長白竜が登場!

次回、族長さんは威厳を保てるのか?

それにしても……コロナツレェ……

カード屋がデュエルスペース休止してるし、ゲーセンは営業すら自粛してるし……仕方ないから、連休(5/1から)は、6日連続投稿を目標にします。

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