特別編 海の夜
特別編、今回でお仕舞い!
「ひゃふぅー!サーチライトぎゅおんぎゅおんの!水流噴射しゃわっしゃわっーの!水面炎上ごうっごうっのぉ!花火ばしゅんばしゅんっでぇ……最っ高だったぁ!だったよね?よね!?」
「そ……そうだね。うん。とても綺麗で素晴らしいショーだったよね。何度でも見たくなっちゃう……ね」
「でしょ!そうだよねそうだよね!実鳥義姉さんなら解ってくれると思ってた!」
「……感動と興奮のあまり、小町たまの語彙力が残念になっているのであります……」
ナイトタイムのスペクタクルなショーと、その後の音楽と共に夜空を彩る花火を観賞し終え、一行は涼みがてらにパークを散歩していた。
炎天下の肌を刺すような陽射しは失せたものの、小町ちゃん同様に、興奮冷めやらぬ人々の熱気故か、桜と実鳥はジットリとした湿気を含んだ温さを空気に感じていた。
「ん~♪凍らせただけのマンゴーだけど、甘酸っぱくて、冷たくって、KA・I・KA・N!」
いつの間にやら自分の分だけフローズンマンゴーを購入していた女神ちゃんは快適に過ごしていたけれども。
「……なんだかんだで、一日中食べたり飲んだりしてたよね。困るよね、ここの食べ物……見た目からして食欲を掻き立ててくるから……」
「エリア毎のコンセプトに合った料理が提供されていて、食事中も世界観に没入して楽しめるのが花丸でありますな!キャラクターモチーフのスイーツも多くて目にも楽しく……冷静になると、味はそこそこであったりするのでありますがっ!?」
小町が無言のまま、桜の鳩尾を拳で強烈に穿った!
「ここに……美味しくないものなんてない……だよね?実鳥義姉さん♪」
「う、うん……お腹も心も満たされてるよ!」
言えない。桜の横隔膜を抉っておいて、何事もなかったかのような笑顔を浮かべている小町が恐ろしくて、実鳥は「コンビニなら似たような物が半額以下……」なんて、本音は言える筈がなかった……
「ぐうぅ……素晴らしい踏み込みでありましたぞ小町たま!その拳でなら世界を狙えるのであります!」
「桜ちゃんがタフ過ぎる!」
お腹を抑えて蹲っていた桜であったが、まるでノーダメージであるかのように立ち上がると、左手で眼鏡の位置を整えながら顔を半隠し、右手で小町をシュビッ!と指差しポーズを極めていた。
「一般人にしては中々の耐久力だね桜ちゃん。日頃から剣ちゃんに鍛えられてるだけはあるねぇ」
「お褒め頂き光栄至極です我が主。兄様と姉様方に鍛え、磨かれしこの身体……そこらのパリピとは一線を画す柔軟性と耐久性を有しているのでありますよ!しかも、主には及ばずとも我ながら合格点な美少女フェイスにプリチーなボディライン!人生勝ち組過ぎてごめんなさいなのであります!」
「うんうん。これでお母さんが早くに亡くなってなければ完璧勝ち組だったのにね~」
「……調子こきました。生まれてきてごめんなさい……」
「言っちゃうかな!?ここでそれ言っちゃうかな女神様!ああ……夜なのに、それでも判っちゃうぐらい桜ちゃんの表情が暗く……」
「ここまで空気読まない感が強いと、突っ込む気力もなくなっちゃうよね。まあ、突っ込んだところで私如きの腹パンじゃノーダメージなんだろうけども」
少女達は悟っていた。神は傍若無人な存在であると。そして、抗う事は無駄なのだと……
「これがラノベならさ「神だからって全てが許されると思うなぁ~」みたいに反旗を翻したりするべきなんだろうけど、確かに理不尽は十二分に感じているんだけれども……なんか、遊ばれてるのを判っていながら……逆らう気にもなれないのよね……」
「それは、まぁ……うん。確実に遊ばれてはいるけれど、怒るよりかは呆れさせられちゃうんだよね……あっちの神様達と比べれば、私の人生的にはほぼ無害だし……」
「死にたくなったり、殺したくはならない程度に苛立たせる匙加減が絶妙なのよね……他の神様を直接は知らないけれど、本当に変な神様よね」
「そうです!わたすが変な女神様です!」
しっかり聞こえていた地獄耳ならぬ女神耳。音もなく背後に回り込まれ、実鳥と小町は温い空気の中で、首筋から背筋にかけて冷や汗が垂れ流れるのを確かに感じた……
「ふふふ……神に対する不敬、覚悟は……してるかな?」
実鳥と小町は襟首と項の間に指を差し込まれ、優しく擽られるように撫でられ、全身の毛穴が総毛立ち鳥肌と化すのを、えもいわれぬ恐怖と共に感じた……
どう抗っても及ばない隔絶した力を持つ存在に、急所を弄ばれている感覚……少女の頸骨なんて、女神にとってはう○い棒と大差無い強度なのである。
完全に命を手中に握られ、二人の汗腺から冷や汗が止まらない!
……ついさっきまで、とても楽しく過ごしていたのに、どうしてこうなってしまったのだろうか?
いや、元々人の子の命なんて女神にとってはとるに足らないモノであるのに、女神が気紛れであるのを忘れて調子に乗っていた、その報いがこれなのか……
何にせよ、二人は突然の命の危機に身がすくみ、振り向いて女神の顔を確かめることも、トラウマスイッチが入って近くの柵に身体を垂れかけている桜に助けを求める為に声を上げることも出来なかった!
「くくく……さあ、お仕置きの時間だよ」
スーッと女神の手が二人の背中に差し込まれ、心臓を裏から包み込むように撫で摩り……
ガクブルしている二人の耳に突然〝パチンッ〟と、何か弾けるような音が響いた……次の瞬間!
「ひっ!?ひゃあーっ!?」
「あっ?あぁーん!?」
「ふむふむ、やはり小六と中一にしては発育がかなり宜しい。いやあ、けしからん。女神的にも、これは剣ちゃんをうらやまけしからんと思っちゃうな~」
先程の〝パチンッ〟は、女神が二人のブラジャーを刹那にもタイミングをずらさずに外した音であった。そして間髪入れずに背中から胸へと、服の中を手を這わせたのである!
「驚いた?ねぇ驚いた?嫌だなぁもう!君達みたいなオモロイ娘、殺して消すとかツマラナイことするわけないじゃないの!心外だなぁ……私、そんなに心が狭いと思われてたかぁ……そんな悪い娘はこうしてやる!やはり、揉むのは直に揉むのがいいなあ!汗で肌の感触もとても滑らか!」
「だ、駄目です女神様ぁ~!こんな場所……場所の問題じゃないてすけどぉ~!」
「や、やめて!セクハラ!公開セクハラ、駄目絶対!こんなことしたら、即刻強制退園なんだからぁ~!」
「ふふふ……問題無し!この光景は君達と、上位存在にしか認識不可能だから!」
「なんて御都合主義な能力なのー!?」
小町の叫びは、夜の闇へと溶けていった……
「尊い……なんて神々しく尊き戯れ……ありがとうございます!」
「桜ちゃんの……ぶぁかあー!」
何時の間にやら復活していた桜が、涙を流しながら平伏していたのを見て、実鳥が珍しく吐き出した罵倒の言葉も、虚しく星空に吸い込まれたのであった……
「いやいや、夜が更けると秘境感あるねぇ、この辺りは」
実鳥と小町の身も心も弄んで満足したのか、女神様は散歩を再開した。現在一行はパークの最奥である〝中米ジャングルの川辺〟をイメージさせるエリアを歩いている。その設定上、他のエリアに比べて、夜はとても……暗い。
「……ここって、暗がりでバカップルがキャッキャしてても気付かれそうにないよね~」
「そ、そうゆうのは禁句です!」
何としてもパークの秩序を守りたい小町であったが、女神にいいように弄ばれた後なので、桜の背中に隠れての、肩越しロングレンジでの注意しか出来なかった。実鳥も桜の背中に隠れている。桜としては両手に華状態なので御満悦であった。
実鳥と小町が緊急時に肉盾にしようとしているのを知ってか知らずか……
「おいおいそんなに怯えるなよ~。腰が砕けそうになるほど気持ち良かったろ~?だって……この指は〝神の指〟なんだからさぁ!神だけに!」
「ゴッドジョーク全開ですな主様!指が爆熱していないのであれば何にも問題ありませぬ!」
「「問題しかないよ!」」
「おふっ!?」
両耳直近でのハモり突っ込みで、桜の聴覚に重大なダメージ!
そして、女神は嫌らしくも面白そうに笑みを浮かべた。
「そうだねぇ、いや、実に刺激的だったろうねぇ……久しぶりに。ねぇ実鳥ちゃん?そんなに敏感な部分を刺激されたのは……前世で赤ちゃんだったガルミアちゃんにしゃぶらせて以来……だったかな?出もしないのにね!」
実鳥の顔面が、作画崩壊レベルで爆熱した!
「小町ちゃんも……燕ちゃんの授乳期に、興味本意と母性本能をない交ぜにしちゃってぇ……」
「わー!わー!聞こえない!何言ってるか解りません!」
聞こえてないのは桜である。
「恥ずかしがるなよぉ~。それ、認めているも当然だぜぇ~?寧ろ、母性が正常に育まれている証しだと思うよ?試してみたくなるのは正常だって!」
「やめてっ!そーゆーのは思っても察して言わないで!私、そーゆーキャラじゃないんですから!実鳥義姉さんも何とか言って!」
「わ、私の場合は……他に誰もいなかったし……私、燕には吸わせてな……あ、でも、お姉ちゃんがこっそり……」
ここにはいない遥に誘爆!
「聞きたくなかった!衝撃の事実だよ!?駄目だ……他の姉さん達は、当たり前のようにやっている画しか浮かばない……」
小町はジットリした目で、傍らの桜を見据えた。
燕にとっても甘々な桜が、愛情表現として試していない訳がないと、疑う余地は有り得なかった。
「……桜ちゃんは、してないよ?」
「……逆に衝撃の事実!?」
女神と小町の表情をキョロキョロと見比べ、頭に?を浮かべる桜。耳がまだキンキンしており、状況が飲み込めていない!
「ど……どうして?あんなに燕を溺愛しているのに……そんな桜姉さん、期待外れだよ!」
「小町ちゃんは、桜ちゃんに何を期待してるんだろう……?どちらにしても怒鳴られるんだ……」
「ま、その頃の桜ちゃんには、まだ母性に目覚める覚悟がなかったってだけの話なんだけどね。身体の成長と共に今では意識も変化したけど……前世が男の子だったから気持ち的に難しかったんだよね!」
?……?……!?……!!?
「えっと……女神様、今、桜ちゃんが……男の子だったって……言いましたか?」
「言ったよ!ぶっちゃけたよ!あ……男の子ってのは語弊があったかな?死ぬ前は三十代だったから野郎だね!おっちゃんだね!」
「……うぇ、桜姉さんの中身、オヤジかよ!?……いや、聞けば納得するあれやこれやがあるけど……キモッ!」
目を背けながらジリジリと桜から後ずさる二人に、桜は女神が重大なプライバシー侵害を犯した事を瞬時に察した!
「あんまりなのです女神様!それは……ボクが墓場まで持っていく秘密でありましたのにー!」
「え~?別にい~じゃん!剣ちゃんや双子ちゃんは知ってることなんだし~。それに……そろそろオチをつける頃合いだもの!何言ったって、ここじゃあ……ね?」
「た……確かに、しかし……現実で知られると……こうなる訳なのでありますな……兄様と翼姉様、希姉様の寛大さが身心に染み渡るのであります……」
辛苦に表情を歪ませる桜であったが……これがオチだと知って、理解できて安堵の涙を流していた。
一方、実鳥と小町には、オチが何を意味しているのか理解出来ていない!
「ど、どうゆうこと?オチ?」
「はい!そろそろ閉園時間でもあるし、夢の時間もお仕舞いってことさ!そう、ここは夢の中だから!ここは冒険とイマジネーションの海を知るゲストやキャストの集合無意識から、わったっしっが!創った仮想現実空間……GVRだからね!いやあ、いい仕事した!」
女神にとって、人の記憶から現実に限りなく近い仮想空間を創るのは朝飯前である!剣一人の記憶からでも記憶と違わぬ再現が可能なのであるから、万単位の人間の集合無意識から再現されたテーマパークは……実物との誤差を発見する方が困難な再現性なのであった。
因みに、一般来園者やパークキャストも集合無意識から再現された、現実に存在している人間であり、GVR内でも現実同様の自我を持って行動しているのであった。当然、GVRである事を自覚しないように意識誘導はされているが。
「な、なんて高性能な仮想現実……女神様、パないよぅ……」
「マジ、この人が本気で神様すれば……いや、そんなこと考えるだけ無駄よね……」
自身の道楽の為だけに超常能力を振るう……或いは、とても神様らしいと云えるのかもしれない。
「あれ?……だったら、アトラクションの待ち時間とか、人を減らして短く出来たんじゃないのかなぁ?」
「勿論、私の能力なら雑作もないね!しかーし!今回は〝夏休み中の平均的な混雑日〟の設定なので、不自然な人の移動は起きないようにしてました!待ち時間一切無しで、全部のアトラクションを楽しむとか……逆にツマラナイのではと拘りました!」
「……それは、判る気がする」
神妙な表情で同意したのは小町であった。
「人の多さも、パークの楽しさの一因だから……だからこそ、朝一で人気アトラクションに並んだりファストパスを確保したり、そうして努力した結果で待ち時間を短縮してこそ、得られる結果に満足出来ると思うの!いえ!あえて並ぶことにこそ意義がある!」
「そうです!始発ダッシュからの開場待ち……その時間が最もイライラしつつもワクワクする時間なのであります!」
「桜ちゃんまで食い付いた!?」
桜が言っているのは、当然ここの事ではなく、有明や幕張のイベント会場の事である!
「……方向性は違うけど……二人はやっぱり姉妹だね、小町ちゃんは間違いなく桜ちゃんの妹だよ……」
特に趣味や拘りがない実鳥から見れば、桜だけでなく小町も追随しきれないヲタなのであった……
「さて、宴もたけなわ……今回の特別編は如何でしたでしょうか?残念ながら、彼女達の記憶に今回の出来事は……うすらぼんやりとしか残りません!全ては泡沫の夢……そう、特別編は夢オチで終わるのがお約束なので~す!さて、今後の本編ですが、取り敢えず直近で燕ちゃんの誕生日。そして夏休み本番の八月に突入!すると当然あのイベントが待っている!……漸く、序盤で貼ったストーリー的に意味のない伏線が回収される!?桜ちゃんの誕生日もあるね!それでは皆さん、また五十話後の特別編で再会しましょ~」
「ちょ!?女神様、勝手に締めてるんだけど!?」
「つまり、夏休みはボクがメインヒロインなのですか!?」
「……魔法少女、やらされるのかなぁ……?」
だらだらシーを巡りながら、少々設定を開示していた六話でした。
……いやぁ、ディ○ニーっていいですよね。
次回から本編再開しますが、超人化した聖家姉妹はどうなってしまうのだろう?自分でも想定していない方向に行ってしまいそうな……
PS
女神様のセクハラについては……R15の範疇に納まると思われる範囲で、今後更に過激に……していいかな?




