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150話目 桜色バスタイム

予告通り、オール二人きりのバスタイム回です。

「み~ど~り~たまっ!どうしたのでありますか~?」


「ひゃわっ!?さ、桜ちゃん?おどかさないでよ~」


激しく洗顔している実鳥の背後に忍び寄り、その背に抱き着いたの桜。直前まで入浴していたので、当然全裸である。しかもびしょ濡れでもある。


「あ~服がぺったぺただよぉ……」


桜の身体に纏わりついていた水分を吸収し、実鳥の衣服は肌にぴっちり貼り付き、細身ながら均整の取れた身体のラインを露にしてしまった。桜の思惑通りに。


「まぁまぁ、実鳥たまはまだ入浴を済ませておらぬでありましょう?……と、言うわけで……よいではないか!よいではないかぁ~!」


「ちょ!それ、時代劇で和服の帯をアレする時の台詞……ってぇ!?きゃあ~!」


着物美女を独楽回しして着物を剥ぎ取るよりも、いとも簡単に、素早い手際で脱衣させられてゆく実鳥。数多の複雑な衣装を着こなしてきたコスプレイヤーSAKUTANにとって、シンプルな構造の普段着や下着を脱がすことなど雑作もないのだ!


「さぁて、裸のお付き合いなのであります!」


「ああぁぁぁ~!?」


抗う間もなく、一糸纏わぬ姿に剥かれてしまった元勇者様。そして、桜は実鳥をお姫様抱っこで抱えあげると、迷いなき足取りで浴槽へと歩みを進め、ピョンッ!とダイブした。


どっぽ~ん!痩せ形体型女子とはいえ二人分の体積である。立ち昇った水柱は天井にまで跳ね上がり、大粒の雫となって二人に降り注いだ。


「ふむ……雨の中、露天風呂に入浴しているような……これはこれで、風情を感じなくもない……ですな!」


「いや、そんな風情はちっともないよ!もぅ、桜ちゃんってば、強引だよ……」


一瞬にして全身ずぶ濡れ。前髪が目を覆い隠すように垂れ下がり、その隙間から、実鳥は呆れたようなジト目の眼差しを桜に向けたのであった。


桜も実鳥同様に顔に貼り付いた前髪を掻き分けると、まじまじと実鳥を舐め回すように見つめ、ぽわ~んとした笑顔を浮かべた。


「ん!真に良き乙女に成長されたでありますな実鳥たま!健全な中学生男子の九割以上を発情させるに足る発育をされておられるのであります!」


ぼひゅっ!突然のセクハラ発言に、実鳥の全身が紅潮し、頭頂部から湯気が立ち昇った。


「な……何を言ってるのかな桜ちゃん!?そ……それを言ったら、桜ちゃんこそ学校じゃ人気者だよ!む……胸だって、私より育ってるでしょ!」


「お褒め頂き、光栄であります」


「少しも恥じらわない!?」


桜にとって、現在の身体に恥じる点など(近眼以外)一切無し!一般的に女子にとってはコンプレックスとなるソバカスですら、男子的感性を持つ桜にとってはチャームポイントなのである。そして、剣によって鍛え上げられた一般女子の平均を上回る体力と運動能力。翼と希によって培われた美容。光の料理によって育まれた健康的な身体。


「恥じらう要素がありませぬので!」


「とんでもなくポジティブ……いや、自信があるのはいいことなんだけどね。まあ……うん。胸の大きさでどうこう言って動揺するのは、少し大人気なかったかな」


前世の、十九歳まで生きた記憶を思い出した今となっては、第二次性長期の発育状態を同級生等にからかわれたりして気を揉んだりするのも、実に下らないような気がしてしまう実鳥であった。


「そうですな。光姉様は、実にお子様だと思うのであります!」


「桜ちゃん、それ言っちゃダメでしょ~」


「もち。オフレコでお願い致しまする」


わざと光を引き合いに出した事も含め、桜が必要以上に気を使って、場を和やかにしようとしてくれているのだと実鳥は感じたのであった。


「……なんだか、安心したな。あんな、非常識な事があったのに、桜ちゃんが、相変わらず桜ちゃんで」


「まあ、ボクは兄様が前世で聖剣であったことを教えて貰っておりましたから異世界の存在を疑っておりませんでしたし、召喚された場合の心構えもしておりましたから。それでも、実鳥たまの前世が勇者で、兄様と前世から縁があったことには驚きだったのでありますよ。いやはや……デスティニーを感じるでありますなぁ~」


「運命的、だよね……そして、奇跡的だよ。何だか、子供の頃の分と前世分の不運を、全部取り戻して余りある気分だよ……」


曇りなく、心から幸せそうな笑顔を浮かべる実鳥。そんな笑顔を見せられ、桜は幸せのお裾分けをされたかの様に、心が朗らかになる思いであった……が!ここで「あぁ良かった」で終わらせるつもりは無いのであった!


「ふむふむ、それは良い気分でありましょうなぁ……ところで、お目覚めに至近距離で兄様の寝顔を直視した気分は如何ばかりでありましたのでしょうか?」


「はぶぅ!?」


ばしゃんっ!ぶくぶくぶく……実鳥は浴槽に潜るが如く顔を勢いよく沈ませ、肺の中の空気を泡と化して漏らし始めた……


「いや、兄様は妹としての贔屓目がなくとも美男子でありますからなぁ……ボクであったら、つい、唇を戴いてしまいたくなるところでありまして……」


ばしゃんっ!ばしゃんっ!ばしゃんっ!激しく水面を叩きつける実鳥。聞こえない!聞こえてないから!と、アピールしているつもりなのであろうが、逆に聞こえている事がバレバレである。


だが!桜は追撃の手を休めない!


「よもや「前世では添い寝するの当然だったもの!」とか言われても、流石に無理がありますよなぁ……。まぁ、実鳥たまが美男子よりも、金属の剣に興奮してしまう武器フェチな変態さんであるのなら是非も無しでありますが……」


「ぷはっ!……そ、そんなフェチはないよっ!」


羞恥からか、それとも窒息寸前だったからか、実鳥ちゃんのお顔は真っ赤だ!


「だ……だって……目を開けたら、本当にすぐ目の前に……しかも、密着しているような距離感で……私、看病しながらうたた寝してたのは覚えてたけど、添い寝なんてした記憶が……無意識に寄り添っちゃったのかと思うと……」


どうやら、実鳥は寝惚けて剣の傍らに潜り込んでしまったと思っているようである。実際には梓の手により剣の隣に寝転がされたのであるが……桜は当然、誤解させておいた方が面白いと判断したので、真実を口にはしなかった。


「まぁ、ボクとしましては、兄様と実鳥たまの距離が縮まってくれたことは素直に嬉しく思うのでありますよ。正直、妬けてしまうぐらいなのです!前世から深い絆で結ばれているとか、とっても羨ましい限りであるのです!」


生まれ代わっても、共に――とか、転生モノ好きにとっては大好物である!つまり、桜にとってはこの上なきシチュエーションであるのだった。


「本当に……羨ましいのです。ボクなんて……前世で誰ともロマンチックやドラマチックな関係を築けておりませんでしたから……奇跡的な再会とかマジで憧れるのでありますよぅ!」


「そんな風に言われても困るなぁ……確かに、前世の記憶を思い出して、剣さんが聖剣さんだって判って……それはとても嬉しいよ?でもね、困惑もしてるんだ。私、これからどうしたらいいんだろうって……」


「……実鳥たま、いきなり重いのです!まるで人生に迷って自分探しの旅に出ていきそうな若者なのです!焦る事はありませぬ!前世(自分)は見つかったばかりでありますぞ!」


「いや、そこまで人生に迷ってはいないからね?何と言うか……不遇だった幼女時代だけでもアレだったのに、かなり凄惨な前世のバッドエンドを思い出しちゃったりして……そんな私が、今凄く幸せなのが……何に対してなのか解らないんだけど、申し訳無く思えちゃったりもして……」


ズブズブと目元まで水面に沈んでゆく実鳥。


「判っていた事とはいえ……勇者様なのに闇が深い!いや、勇者様だから闇が深い?駄目なのですよ、何だか解らないモノにまで責任を感じては。実鳥たまは、もうちょっと適当になった方が良いと思うのであります」


「そう言われても……不安にはなっちゃうよ……」


「なんとも、拗らせているでありますな。かくなる上は……」


これまで歩んできた人生の不遇さ故か、幸福を素直に受け止めきれない様子の実鳥に、桜は、それは宜しくない。勿体ないと感じたのであった。それは、桜自身もまた、深い絶望の中、自分が生きていることすら罪深いと感じていた時期があったからである。


今世の母、夕樹の死が、正にそれであった。


それまでの桜にとって、半端であったとはいえ前世の記憶と知識をを有しての、転生しての人生は紛うことなくイージーモードな人生であった。それが、一瞬にして暗転する出来事であったのである。


前世との記憶の混濁も生じ、自我が崩壊しそうな程の苦しみを味わいもした。それを踏みとどまらせ、立ち直る事が出来たのは、剣達の存在であった。


だから、桜は知っている。それで本当の意味で知ったのだ。


誰かに助けてもらえることが、他に比べようもなく幸福なことであるのだと。


だが、それを言葉で実鳥に伝えたとしても、益々実鳥に背負い込まなくてもいい責任感を抱かせる事になりかねないと桜は判断した。なので……先ずは実鳥を笑顔にするべく、この状況(風呂)をフル活用することにしたのである。


「さ……桜ちゃん?ひゃんっ?はにゃんっ?く、くすぐったいってば~」


「ふふふ……やはり、女の子同士でのバスタイムに、きゃっきゃうふふは外せないのであります~!」


桜は取り敢えず、実鳥を笑顔にすることにした。物理で。


軟体生物の触手のように、ウネウネと自由自在に蠢く桜の十本の指が、実鳥の脇腹や二の腕、太股や脹ら脛、筋肉が柔らかく敏感な部位を容赦なく責める。とても心地好い感触に、桜ちゃん御満悦であります!


「ふひゃっ!?ら、らめっ!ひにゃぁ~!桜ちゃん、そこは駄目だってばぁ~……仕返しだよ!」


「わぶっ!ふははっ!そうこなくては……はうぅ~!?いだたっ!いきなり足裏ですかぁ~!」


顔にお湯をかけられ、桜が一瞬怯んだ瞬間、実鳥は桜の足を掴み取り、足ツボマッサージでの逆襲を試みた。


「よくお姉ちゃんのマッサージしているからね!こことか……どうっ!?」


「あぎゃぎゃっ!痛い!でもぎぼぢいいっ!……でもいだいっ!快楽よりも痛みがすぎょいっ!ギブ!ギブなのでありますぅ~!……参りましたのです!あぎょっ!……ぐきゃっ!?み、実鳥たま、やめてぇ~!」


この戦い。桜の悶死により実鳥の勝利。




「実鳥たま、思わぬテクニシャンだったのです。危うく、Mに目覚めてしまいそうでありました……」


「人聞き悪いよぅ……まるで私が卑猥みたいな。絶対に女王様キャラじゃないから!」


一騒ぎを終えて、二人はまったりとぬるま湯に浸かりながら、和やかに語らっていた。


「それにしても……桜ちゃんの前世話がネタじゃなくて本当だったとはね。それに……翼さんと希さんが元々一人で宇宙人?な前世とか……驚きの連続だったよぉ」


「そうですなぁ……それに、女神様の口振りですと、小町たまには勇者を越えうる可能性がありそうですし、燕たまには女神様ですら手出しし難い事情があるかのような……この分だと、他の姉様方にも何かが……」


「……嫌だなぁ。私の前世やエルヴィアスが前フリや序の口だったりとか……そう考えると、やっぱり備えは必要かな……」


「実鳥たまもそう思われますか……まぁ、最低限自分の身ぐらいは守れませんとですなぁ。くくく……ドキワクな世界観になってきやがったのであります」


「桜ちゃんは……こうゆう展開に全く抵抗感無いよね~。寧ろ、待ってました!みたいな?」


「……流石に、あんな外道召喚スタートは願い下げでありましたがね~。ま……世の中そうそう上手くはいかないでありますな。理想としては、伝説級装備と凄腕美少女従者を三人は与えて戴ける厚待遇スタートであって欲しかったのですよ」


「それ……後で落とされるパターンじゃないの?」


「……ではチェンジで。まぁ、ボクがソロで召喚されることなどありませぬでしょうし……夢見たっていいじゃない!」


「私には、今の家族と生活こそが夢以上だけどね」


「感無量なことを……言ってくれるでありますな~。で、そんな夢以上の幸せを手にした実鳥たまに質問です。今後、兄様とどんな関係になりたいのでありますか?」


まったり会話の中で突然の奇襲!実鳥は目を丸くして赤面し、モジモジと俯いてしまった。


「ど、どんなと言われても……その、剣さんは大事な人だよ?前世ではとてもお世話になって……今も、優しく接してくれてて……一緒にいられるのが、とても嬉しくて……でも、前世の事を思い出したばかりで自分の感情さえ整理できてなくて……」


「それはまぁ、無理からぬでありましょうな。前世での御二人の関係性は、言葉で一括りには出来ぬでありますし。兄様も、師弟とか親子とか、そんなのに近い関係性であったと曖昧な表現をされておりましたからな……只、自分の命よりも大切に想える存在だったとは……」


それは、実鳥自身も、ヴェルティエだった頃から知っていた。実際に、そうして命を救われたのだから。


「だから……って訳でもないんだけど、今は、ちゃんとした関係性はあるのだし、今までは遠慮していたとゆうか、照れ臭くて言えなかったんだけど……今もだけど……ちゃんと、面と向かって呼べるようになりたいなって思うんだよね、その……」


言葉を一度句切り、更に恥ずかしそうに顔を紅く染め……


「お兄ちゃん……って」


その時、桜の全身に電撃が走った!


「な……なんと新鮮な響き!なんと……純な想い!久しく、耳にしていなかった神聖なる呼称なのでありますか!」


そう……この聖家で、剣を「お兄ちゃん」と、そのトーンで呼ぶ者は、久しくいなかったのである!


翼と希は「おにーちゃん」または「おにぃちゃん」と甘えるように呼ぶのが常であり。小町は背伸びしがちな傾向が出始めてから「兄さん」と呼ぶようになり。燕は幼く言葉足らずなので「にぃたん」と呼ぶ。


それはそれで、各々個性が出ていて素敵な呼び方ではあると桜は思っているのだが……やはり、シンプルに「お兄ちゃん」と呼んでくれる妹キャラは……桜的に、ヲタ的に必須なのであった!


「ボクは今、猛烈に感動しているのであります!そうです!そして失念していたのであります!どうして……七人も妹がいて……兄様には「お兄ちゃん」と呼んでくれる妹がいなかったこでありますか!」


桜は感涙し、鼻水までついでに流しながら、心の命じるままに実鳥に抱き着いた!


「素晴らしいお考えなのです実鳥たま!ボクは全面的に応援させていただくのです!嗚呼……きっと、兄様も喜んでくれるに違いありませぬ!……なんでしたら、ボクのことも「お兄ちゃん」と呼んでくれて構わないのでありますよ!?」


「意味が解らないよ桜ちゃん!?」


寧ろ、自分が「お兄ちゃん」と呼ばれたい桜であった。




150話目がこんな内容で良かったのか、俺!?

桜が満足して、実鳥の身と心が解されるだけの話でした。

150話か……てな訳で、次回は特別編をやります。当然主役は女神様です!本編でも引っ掻き回してくれたばかりですけどね……(汗)


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