149話目 夜も更けて……
あまり実の無い話です。
「うぬぬぬぬ……」
桜は自室のベッドの上で、座禅を組んで瞑目しながら唸っていた。そんな中、眠たそうに欠伸をしながらパジャマ姿の梓が入室してきた。
「さっちゃん……まだスキル探し?そんなに焦らなくてもいいじゃないの……?」
既に、時刻は22時になろうとしていた。昼過ぎにエルヴィアスから帰ってからずっと、桜は自身のスキルを知る為に、記憶の中にある特殊能力を検索しては、発動するか念じて試しているのであった。
しかし、未だ見つけられないことに心が萎えたのか、哀しそうな瞳で梓を見詰め……
「梓姉様……スキルが、欲しいです」
「いや、バスケがしたいです。みたいなノリで言われてもね……女神ちゃんがあるって言ってたんだから、諦めずに気長に探しなさいよとしか、お姉ちゃん的には言ってあげられないってば」
「梓姉様はいいのです……御自分の趣味と特技にドンピシャなスキルを戴けたのですから……ボクにもようやく、憧れの異能者への道が拓けたのです!早く!使ってみたいのでありますよ!」
「スキルを貰えなかった人や、欲しくもなかったスキルを持たされちゃった人がいる事も考えて発言しよーね?はるるんに聞かれたら、キャットクローでズタズタにされちゃっても文句言えないぞ~」
「それは勘弁!……なんと?爪まで変身したのでありますか!?そ……そこまで既にスキルを使いこなし……」
「いや、もて余してただけだからね。したくもないのに変身しちゃうとか気の毒ではあるよね、ただ……」
「ただ……何でありますか?」
言葉を切って沈黙した梓の雰囲気に呑まれ、桜は思わず息を呑み込み、喉をゴクリと鳴らした。
「野生のハルにゃん、すっげぇ可愛かった!いや、生で見る天然モノのネコミミ獣人とか、眼福眼福!」
「どうして呼んで下さらなかったのですくぁ~!?」
「因みに、散歩から帰ってきたつばぞみは、汗ぐっちょりの乱れ髪だったりした。いや、あれも中々艶っぽく……」
「見逃した!網膜に焼き付けるべき桃源郷を見逃した!」
とっても悔しそうに、ベッドの上で悶える桜。梓はそれを、したり顔で含み笑いを浮かべながら観察している。
「ふむ……想定通りの反応をしてくれて嬉しくなっちゃうね。つまり、そういったチャンスを察知しちゃえる系のオートアビリティではなさそうだねぇ」
「喉からハンドなスキルなのです!むむぅ……視覚的に派手目なスキルばかりを考えておりましたが、予知や察知、感覚強化型の線も悪くはありませぬな……よもや!透視や盗聴関連のスキルであったり……」
「そーゆースキルは、日常生活では使っちゃ……あってもこっそり使ってね。使ったのバレたらアウトだからね?」
「梓姉様……あったら使うのですね?兄様の着替えや入浴をじっくりねっとり堪能するのでありますね!解ります!解りますぞ!直に見るのと、隠れて見るのとでは、背徳感による興奮度が異なるのでありますね!」
「さっちゃんが何を言ってるのか分からないな~?」
「思いっきり目が泳いでいるのであります。わざわざ言い直した辺りバレバレなのです。ですが……兄様相手だと気配で察知される可能性が高いと思うのです」
「そうなんだよね~……けんちゃんが無防備なのって、熟睡中ぐらいなんだよぉ。透視が出来ても、壁一枚程度じゃ簡単に察知されちゃいそうだよ……って、みなまで言わすな!そもそも、そんなスキルは持ってないし!」
「いやはや、梓姉様はノリが宜しくて嬉しい限りでありますな!全く、良い姉様を持ったものであります!」
「はいはい、私も面白い妹がいて幸せなのですよ……それはそうと、お姉ちゃんはそろそろ夢の世界へ旅立ちたいのです。さっちゃんもさっさと汗を流してお休みなさいな……ふぁ……」
梓は大口を開けて欠伸をし、凄く眠たいアピールをして自分のベッドへと転がり込むと、ぐでーんと四肢を広げて大の字となった。色気の欠片もない寝相である。
「仕方がないでありますな……まぁ、湯に浸かりながらの方が、案外いい思い付きをするかもしれぬでありますな……」
そして、桜が部屋を後にし……一分後。
ドタドタバッタンと、荒々しい足音が夢見心地になりかけていた梓の意識を現実に引き戻した。
「あ……梓姉様!え……エマージェンシーなのであります!」
大慌てで部屋に飛び込んで来たのは桜であった。
「……何よ~?つまらない事だったら怒るよ~」
目をしぱしぱさせて上体を起こした梓に、桜は気が動転しているのか、呼気が荒く、表情と全身を小刻みに震わせながら……
「み……実鳥たまが……兄様と添い寝していたのです!」
「それだけ?知ってるけど」
「……それだけ!?」
桜にとって驚愕の事件であっても、梓にとっては既知の現実でしかなかったので、反応が薄いのは当然であった。
「だ……だって、あの引っ込み思案な実鳥たまですぞ!?帰ってきた時のは事故のようなものですし……いきなりそんな大胆な……」
「あぁ……うん。あれね、けんちゃんの看病している内に、どりりんも疲れて寝ちゃったから……ちょいと私がよいしょっと」
梓は眠たそうに目を細めながらも身振り手振りで、寝ちゃった実鳥を抱えあげ、剣の隣に寝っ転がらせたのだと桜に伝えた。
「いやね、前世でけんちゃんと親子みたいな関係だった記憶を思い出したとは言っても、奥手な性格は簡単に変わらないと思うんだよね。だから、取り敢えず心の距離よりも先に物理的な距離をと思って……やってみた」
梓の表情には悪びれた様子は一切なく、それどころか、イイコトしたなぁ……みたいな充足感すら感じさせる清々しさすらあった。
「梓姉様の仕業でありましたか……それは悪戯心が過ぎるのでは?先に兄様が目覚めるのであれば問題なさそうでありますが、実鳥たまが先にと考えると……なんともはや、どうなってしまうのでしょうか……?」
「さあ、どうなるんだろうね~?じゃ、おやすみなさい」
確信的愉快犯は、結果よりも過程で既に満足しているらしく、果報は寝て待つことに決め込んでいるらしかった。
「これが、正妻の余裕なのでありましょうか……」
愛する男の傍らに、義妹とはいえ別の女を寝かせて平然どころか、楽しそうな表情すら浮かべる実姉の所業に、桜は驚愕するやら呆れるやら……「やはり、梓姉様には敵わないのであります」と、梓の包容力やら器の大きさに感心してしまうのであった。
「くっ……はぁ~……姉妹皆様方のエキスがたっぷりと染み出た残り湯……最っ高の効能なのであります~♪」
かなり駄目なエロオヤジ発言をしながら、桜はゆったりと全身を湯に浸からせた。しかして、そのエキスの効能は確かであり、顔面に浮かぶソバカスさえ除けば、全身の素肌はスベスベツヤツヤ、中学生女子としては引き締められながらも発育している肢体でもあり、本人が美少女だと自画自賛しても否定する声があまり聞こえない程度に、健康的で可憐(黙っていれば)な容姿を確かにしているのであった。
……本当、黙っていれば。前世がヲタなおっさんでさえなければと思わざるを得ない。
そして、作品開始初期に、中身を早々に公開しておくことによって、読者の皆様をガッカリさせない布石を打っておいて良かったと……そのようにも思わざるを得ない。
「……なにやら、天の声に辛辣なコメントを戴いてしまった気が致しますが……真実なので仕方ありませぬな~」
作者の心情なにするものぞと、桜は両腕を大きく広げてバスタブの縁に乗せると、身体をゆら~んと湯に浮かべ、上機嫌で鼻唄まで奏でてリラックスし始めたのであった……
「やはり……風呂はヒトの産み出した文化の極みの一つでありますな~。こうして一人でのんびりするもの良きものですが、家族の皆と温泉にもゆきたいのであります……」
身心共にリラックスしたところで、桜は自身に与えられたであろう筈のスキルについて、再考してみることとした。
現時点で判明している姉妹のスキルは、光が料理。梓が裁縫。翼と希が歌と、各々の趣味や特技に則した能力であった。遥の場合は……趣味とも特技とも言えないが、少なからず利と益が無い訳でもなかった。スキルを与えた側の悪意が透けて見える感じではあるが……
「……ボクは、趣味の範囲が広すぎるのです……」
言うまでもなく、桜はヲタクである。漫画が好き。アニメも好き。ゲームも好き。ラノベも好き。特撮も好き。そしてジャンルも幼児向けからアダルト向けまで多岐に渡る。何もかもが好き過ぎて……思い付いたものから、片っ端から好きな作品に登場するキャラの異能力を試してみたのであるが……今のところ全て空振りに終わっていたのであった。
「……やはり、梓姉様に禁じられた破壊力系統を試してみるしかないのでありましょうか……?」
そんなことをして家を破壊……窓ガラスの一枚でも割った日には、ナチュラルにゴリラ以上の腕力を発揮する長女様から仕置きと説教を頂戴することになってしまう。
温い湯に身体を浸しながらも、桜は思わず身震いしたのだった。
「何にしても、戦闘系スキルは必須でありますな……兄様の足手纏いにはなりたくないのです……」
桜にとっても、剣が戦闘で敗北寸前まで追い込まれたのはショックであった。そして、思ってしまったのだ……誰も守る必要がなければ、剣一人であれば、逃げきる程度は造作もなかったのではないかと……
あの時、剣が四人の騎士を相手に立ち回っていた間に、桜が出来たことと言えば、花火で撹乱した程度。それで剣の首の皮一枚命を繋げた活躍と言えなくもないのだが、桜は力不足を痛感していたのである。
「次があった時、無様を晒したくはないのです!」
桜は決意したのであった。強くなると。常人を越えるスキルを得たのであれば、それを鍛え上げて人を超えると。大切な家族を理不尽な悪意から守ってみせると。誰よりも尊敬する、兄の様にと。
「明日、兄様が目を覚ましたら、早速特訓をお願いするのであります!」
ザバッとお湯を吹き飛ばすように立ち上がり、腕を突き上げ気勢を上げる!
……全裸であるのに、実に色気が無い。
「……またしても、失礼な声が聞こえた感じが……おや?」
その時、脱衣所兼洗面所のドアを誰かが勢いよく大きな音を立てて開閉させた。そして、洗面台の蛇口を全開にさせたのか、水音が激流のように響き、次いでバシャバシャと叩きつけるような音が浴室にまで轟いてきた。
桜がそ~っと浴室のドアを開けて洗面所を覗くと、実鳥が洗面台に突っ伏すように、両手で水を顔に叩きつけて洗顔(?)しているようであった。
故に、桜は察した。
ああ、兄様より先に起きてしまったのですね……と。
(では、ここは義姉として一肌脱ぐとするでありますか!……脱ぐものがないのですが)
一人の静かな入浴タイムは、ここで終了したのであった。
後半は桜のサービス回でした。次回はここに実鳥も入ります。即ち、桜へのサービス回です。
……画にすると肌色面積大きい。
各自の妄想力にて挿し絵ないのを補って下さいね!




