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148話目 お喋り会

話が進まない……

筆も進まない……

「ふぅ……参った焦った」


「魔法……危険」


ぐったりと疲弊した状態で帰宅した翼と希。よく冷えた麦茶をカブ飲みしてから、呟いた一言であった。


「えっと……何があったか説明してくれるか?その、小町の奴も、梓から聞いてたよりかは、幾らかマシになってたみたいだしよ」


遥が問いかけると、翼と希の視線が、遥の身体を隅々まで舐めわすようにさ迷い……二人揃ってサムズアップした。


「猫度がランクアップしてる!」


「魔法、最高!」


手指の爪まで猫獣人化している遥。このまま猫化が進めば、モフモフした毛が生えたり、プニプニ肉球まで再現されそうであると、双子は期待を込めた眼差しで遥を見詰めた!


当然、遥にとっては不愉快でしかない。目端と口の端を吊り上げて、ヒクヒクさせていらっしゃる。


「そうか……それじゃあ、猫らしくじゃれてやろうか?この爪で……」


遥の両手の指から伸びる十本の鉤爪。鋭く厚みのあるそれは、夏の薄い衣服程度であれば新聞紙を千切るが如く容易く引き裂き、乙女の柔肌などゼリーやプリンの様に貫き、一生消えない傷痕を刻み込む……当たり所が悪ければ命すら雑草同様に軽々しく刈り取ってしまいそうな禍々しい凶器である。


しかも、その凶器を身体の一部として有しているのは、その状態に不慣れである戦闘の素人。それがどれだけ危険な事か、前世で戦闘のプロであった翼と希は即座に理解し判断した。


「「ごめんなさい遥ちゃん」」


双子は流麗な動作で、椅子から滑るように床に伏せ、土下座の姿勢をとっていた。


「……清々しい変わり身っぷりだな?オイ」


「いやはや、つばぞみの危機察知能力は一級品だねえ。保身させたら家じゃあ最強だね」


一般的には嬉しくもないであろう賛辞であったが、翼と希は梓に振り向くとニヤリと笑みを浮かべたのだった。


「褒めすぎだよ梓ちゃん」


「でも、もっと褒めてもいいよ?」


「迷わず保身に走れるつばぞみのゲスっぷり、お姉ちゃんはけっこう好きです。今後も安全なタイミングを見極めて、姉妹をおちょくってくれる事を期待したいと思います」


梓からの惜しみない賛辞に、双子はシンメトリーなウインクと横ピースとテヘペロを以て返礼とした。


「……いや、アタシまだ割と怒ってるからな?てゆっか……双子!お前ら梓にいつもいつも従順過ぎじゃね!?お前らが梓をおちょくるの見た覚えがねーんだけど!」


遥の疑問に、双子即答。


「だって、梓ちゃんは喜ぶだけだし」


「皮肉が全部、誉め言葉になっちゃうので」


「それはま……分かるがよ……」


聖家九姉妹最強のポジティブ思考者、それが梓である!


「もう、つばぞみこそ褒めすぎぃ~」


「「ほら」」


「……あ、うん」


梓と双子の見事?なトリニティコンビネーションに毒気を抜かれ、遥は自らの爪で手を傷付けないように、ゆっくりと拳を握り込んだのであった。


「……めっちゃ不便」


あまりにデメリットの多いスキルに、遥は沁々と溜め息を吐いた。メリットと言えば、今日のバイト代に少々色を付けて貰えたぐらいしか思い付かない……そんな程度である。


「確かに、コントロール不安定な現状は打開しないと」


「私達も、かなり大変だったし……てゆうか、今のままだとバンドに支障が……」


散歩しながらふざけ半分に唄っただけで、その歌声は物質(コンクリート等)を透過し、魅了効果が付与され、聴いた者の感情を昂らせてしまったのである。その所為で大勢に囲まれそうになり、必死に遁走する羽目になったのである。その際に小町の精神状態に回復が見られたのは怪我の巧妙であったのだが……


「今の私達がステージで全力パフォーマンスしたら……」


「秩序崩壊。最悪、暴動」


梓と遥を茶化す様子もなく、真顔で実際に体験したばかりの事実から、双子は持論を展開した。


「多分、〝歌う〟事が、魔法の詠唱と同様の役割を発揮したのだと思われる」


「詠唱発動ならぬ歌唱発動。問題は、魔力をコントロール出来ないと、歌う度に何かが起きてしまうこと……」


「子守唄で、人を確実に眠らせられるかも」


「デスメタルなら、殺せるかもしれない……」


当然の措置として、魔力のコントロールが可能となるまで、双子は歌う事を禁止された。


「いや、可哀想とは思うけど、歌声が壁すらすり抜けちゃうんじゃねぇ……私なんて今のところ全然デメリットを感じないスキルが貰えちゃって、ちょこっと申し訳ないなぁ」


梓が発現させているスキルは、裁縫に限らず服飾全般に及んでいた。縫製の高速化・正確性の向上は当然として、生地を裁断する際、完成品をイメージすると、定規等を利用せずとも感覚的に必要とする長さ大きさが解り、正確に鋏を入れられたりするのであった。


こうして会話を続けている最中にも、手のひらサイズのペンギンのぬいぐるみが手作りで大量生産されていた。


「実用的過ぎて、めっちゃ羨ましいわ。これもう、水族館のショップかよって数になってんじゃねえか」


「いやはや……こんなに技量が向上しちゃって始めは戸惑ったりもしたけれど、こんなに速く沢山作れちゃうと面白くなっちゃってねぇ。ここは一つ、魔力か材料が尽きるまで挑戦してみようかと……」


「燕のベッドが埋め尽くされそう」


「お風呂から溢れそう」


どちらにせよ、ばめたんは誕生日の夜に、ペンギンに埋もれていい夢が見られそうである。


「しかし……双子にしろ梓にしろ、誰も魔力のオン・オフが出来ていねーってのは問題だよな。まぁ、歌ったり裁縫を止めれば垂れ流しってこたぁ無いんだろうが……そういや、桜の奴はどうだったんだ?ちっとも姿を見せにこねーけど……」


四人でそこそこの時間を賑かに語らう中、外出していない筈の桜が一度も姿を現さない事を遥が訝しんだ。


「なんかねぇ、迷走しては瞑想するを繰り返してるって感じかなぁ?色々試してはいるんだけど、まだスキルらしきものが見つからないみたいだよ」


梓曰く、座禅して気を集中してみたり。両手を天に掲げて周りから元気を集めてみようとしたり。ラテン語で呪文を唱えてみたり。分身しようと反復横飛びしてみたり。「身体は剣で……」とか言ってみて、空かさず梓に「それは貴女のお兄ちゃんです」と突っ込まれたり……


「時々叫び声が聞こえたりするから、多分まだ試行錯誤してるんじゃないかなぁ?部屋とか家を壊しちゃいそうなスキルには挑戦しないでねって、釘は刺しておいたけど」


「……まぁ、あの女神さんのこったし、暴発してアタシ達が死んだりするような洒落にならねぇ危険なスキルは付与させてない……と、思いたいとこだな。しっかり嫌がらせはされた気分だけどさ……」


「人の神経逆撫でするのが趣味みたいな女神ちゃんだったよねぇ……けんちゃん達の注文の穴を突いて、ゲートのデザインを好き勝手に仕上げちゃったから……完成したのを見たとき、さっちゃんとばめたん以外、みんな目が死んでたよね……」


無駄にファンシーで、無駄にゴージャスな外見の空間ゲートを完成させ、全員分のカードキーを渡すと女神様は「クーリングオフは受け付けません!」とでも言わんや、別に開いたゲートに飛び込んで姿を消してしまったのであった。


「苦情言うだけ……無駄」


「寧ろ、消されなかっただけ運がいい……」


神、即ち上位存在。本来上位次元に存在すべきモノ。三次元世界に於いて、あらゆる現象を発生させる力を持ち、時には新たな法則すらも生み出して、世界の在り方すら改変してしまえる絶対者である。それこそ、人一人の存在を気紛れに消滅させることなど、消ゴムで鉛筆の文字を消すより簡単で些末な作業に等しいのだ。そんな大それた存在が、特に取り返しのつかない事をせずに去ってくれたことに、双子は心底安堵しているのであった。


「いや、アレと友達でいられるとか、おにーちゃんの心臓強すぎるってば」


「私達とおにーちゃんの間でもレベル差100はあるけど、おにーちゃんから更に万倍はレベル離れてるもんね……」


「そんなにかよ……アタシは、剣の強さの時点で感覚が麻痺しちまってるけどな。実鳥の心の中でだけど……でっかい化け物ぶったぎったり、平地をクレーターだらけの荒野にしたり……生身でスーパーロボットみたいな強さだったからな……あれで、肉体が一応地球人だってのが信じらんねぇ……」


「けんちゃんの話だと、前世のどりりんの方が、もうちょっと強いらしいけどねぇ。狼の獣人さんだったから、普通の人よりは頑丈な身体だったのかな?」


「多分、みどりんは勇者だから特別」


「神が選んだ特異点だし」


「特異点って、物語的には主人公とか重要人物に使われる用語だよな?実際、魔王と勇者の戦い次第で行く末が左右されちまう世界だったのが笑えねぇ話だったよな」


「おにーちゃんが前に言ってた。エルヴィアスは、人と魔族が神様の代理で争っている世界だって」


「神様がのんびりなのかぼんくらなのか、何千年も決着つかないらしいって」


「神様が人を駒扱いしてチェスしてるような世界が本当にあるとはねぇ……異能者になっちゃった私達が言うのもアレだけど、信じたくない話だよね~」


全くだよね~と、四人は揃って溜め息を吐いた。神によって勇者としての運命を背負わされた実鳥(ヴェルティエ)とは比べ物にならない程軽いとはいえ、少々女神様に遊ばれる経験をした今となっては、神に翻弄されているエルヴィアスの住民達に同情心を抱かなくもないのであった。


「……マジ疲れたわ。無事に帰ったとはいえ、考えさせられる事が多いって……明日は休み貰ったし、シャワー浴びてさっさと寝るか……」


遥は欠伸をしながら立ち上り、疲れを癒すべくバスルームへと向かおうとした。


「……はるるん、一人で大丈夫?」


「はぁ?いや、バスタブで寝転ける程は疲れちゃいねぇって、心配すんなよ」


「ん~……そーゆー方面の心配はしてないんだけどね。私が気にしてるのは、その指でシャンプーできるのかなっ?て」


指。そう言われて、遥は自身の指をまじまじと見詰めた。その指先には、刃の様に鋭く、杭の様に尖った爪が……


そして、遥の両サイドからその爪を覗き込む双子が……


「これはヤバイね、頭皮が裂けて、血塗れ必至」


「それに、上の耳穴にお湯が入ったら中耳炎になっちゃうね」


と、言う訳で……


「「遥ちゃんと、お風呂タ~イム!」」


「なあ!?ちょ、待てって!」


「大丈夫!優しくしてあげるから」


「最初は怖いかもしれないけど……気持ちよくなるから」


遥ちゃんで、ストレス解消!双子の妖しく光る目が、口より雄弁に物語っていた……


「あ、梓!こいつら何とかしろ~!」


梓は一瞬黙考すると、菩薩のような笑顔で手を振った。


「はるるん……大人の階段登っておいで~」


「……にゃー!!?」




一時間後。双子によって身体の隅々まで丁寧に洗われてしまった遥さんは、全身の肌を真っ赤に火照らせ、バスタオルを身体に巻いた姿で戻ってくると……


「……開けちゃいけない扉が、開きそうになった……」


それだけ梓に呟いてゆくと、フラフラと自室に入ったのであった。


その後、バスルームから出てきた双子は、とてもいい仕事をしたと言いたげな、晴れやかな笑顔をしていたのであったとさ。



今回も、異世界帰還後のぐだぐだな反省回でした。

バイトで色々鍛えられていた遥が、異世界体験の精神的ダメージが案外少なかったり、その分他の姉妹のストレスの捌け口になったり……

とても弄り甲斐のある娘です!

次回はほぼノーダメージな奴をフォーカス!

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