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145話目 違う。心配すべきは……

連日投稿間に合わず……

待たれていらした方、申し訳ありません……

「たった一日で帰れてしまったとか……異世界召喚が安っぽいのであります!」


聖家の梓と桜の部屋。部屋の主たる二人は先程エルヴィアスより帰還したばかり。快適な室内でアイスコーヒーを嗜みながら平和と安全を噛み締めていたのだが……突如として桜が吠えたのであった。


「さっちゃん……気持ちは判るけどね?誰一人欠けること無く帰ってこれたけど、実際奇跡的だったからね?私だから笑って流すけど、おねーちゃんやこまたんに聞かれたら、絶対怒らしちゃうからね!」


「そこは心得ております!しかしながら……異世界からの帰還とは、長き旅路に多大な努力、襲い掛かる困難に強敵との闘争があって、漸く家に帰れてこそ、感動を生むものなのでありますよ!それがたったの一日足らず……物足りなくは有りますまいか!?」


「そうは言うけどねさっちゃん……、それ完全に結果論だからね?私的には、殺意込み混みの悪意に晒される経験なんて初めてだったからね……人生ジエンドも覚悟しちゃう寸前だったでしょ?正直、けんちゃんが血塗れで吹っ飛んだ時には「オワタ」と思ったからね?都合良くけんちゃんがパワーアップしなかったら、私達どうなってたか……ある意味、さっちゃん好みの凌辱ルートまっしぐらだったかも……」


「それは架空であればこそです!リアルは駄目!絶対!でありますよ!……それはそうと、意外なのであります」


「何が?」


「いえ……梓姉様が、兄様が魔法使いである事をご存知であった事は、薄々勘づいているかもとは思っていたのでありますが……梓姉様にとって兄様は絶対の存在ではないのかと……兄様が敗北するなど、思いもせずに勝利を信じておられたのではと……」


「いや、確かに私にとってけんちゃんはヒーローだけどね。絶対無敵だなんて思ってないから。そりゃ、前々から人間のレベルは逸脱してると思っていたけど、あれでけっこうそそっかしいからね~。何があろうと、絶対に私達を守れるだなんて思ってないよ。何が敵であっても、最後まで私達を守ってくれちゃうんだろうな~って信じてはいるけどね」


梓は剣を完全無欠だなんて思ってはいない。勿論、他人と比べて優れた面が多いと思ってはいるが、欠点もそれなりに有ると思っている。例えば、妹の為と思えば無茶をしてしまうところとか、今回みたいに。


「ほら、さっちゃん覚えてるかな?こまたんが湖に落ちて、それを助けようとして……」


「忌々しき黒歴史!」


落水した小町を助けようとして、二次災害を引き起こしてしまった……桜の失敗談である。


「結局こまたんとさっちゃん二人とも、けんちゃんが助けた訳だったんだけど……二人を助けた後に、「死ぬかと思った……」って、呟いてたんだよね。それが、二人の事だったのか、自分自身の事だったのか……どちらにしろ、けんちゃん震えてたんだよ。思えば、その時かなぁ……けんちゃんにも、恐ろしいと思う事はあるんだなぁって理解したのは。どんなに強くても、心は私達と変わらないって」


「梓姉様の愛が……理解度が深いのであります!」


「付き合い長いですから。まぁ、理屈を色々コネコネしたけど、私が言いたいのは、けんちゃんには、神様みたいな力が無いとは知っているってこと。間違いもすれば失敗もする。それを、けんちゃん自身が誰よりも知っているのもね。だから、さっちゃんも、けんちゃんならばなんとかなるとか油断してちゃ駄目なんだからね?」


「うぐっ……耳に痛い御言葉……」


梓と異なり、剣に事実を聴かされていたからか、桜の方が、剣を神聖視していたのだと気付かされた。


だって、異世界からの転生者だし!元聖剣だし!魔法使いだし!沢山姉妹がいるし!主人公特性てんこ盛りだし!


……運命に愛されていると、思うなと言う方が無理あるし……


「そ、それはそうと……実鳥たまが、兄様の持ち主で、勇者の転生者であったのには驚きでありましたな……」


「そうだね~。私としては、それに便乗してさっちゃんとつばぞみも前世カミングアウトしたのも驚きだったけど。そして……さっちゃんだけ前世がショボい(笑)」


「……吐血しても宜しいですか?」


「冗談冗談。いや、しかしだね……つばぞみの前世が元々一人で、しかも宇宙の彼方の超先進文明で造られた人造人間兵器なんて聞いちゃうとね……やっぱりショボい」


「血涙流す!」


「あはは……ま、良かった……と、言うべきじゃないかもしれないけれど……どりりんが、少しは気を楽にしてくれるかなぁ……」


「?何故、実鳥たまが?」


「さっちゃんは……鈍感だねぇ」


「な!?ボクほど感受性豊かなヲタをつかまえて!鈍感系主人公のようだと言いなさりますか!?」


「……鈍感系主人公って、恋愛意外には割と敏感だと思うんだけどなぁ。あのね、どりりんは前世の記憶を思い出しちゃったでしょ?」


「そうでありますな。しかも、魔法の使い方まで思い出して実践されてしまいました!なんと羨ましい!」


「そこは問題じゃありません。だから……その……深刻な問題があるでしょう!」


「はて……!まさか、兄様への愛情が梓姉様を上回っていると!?家庭内でドロドロした愛憎劇は後免なのです!」


「恋愛以外って言ったよね?ドロドロなんてしないよ!そうなったら複数プレイでネチョネチョして皆で幸せをシェアするだけだから!寧ろウェルカムだよ!って違ーう!……さっちゃん、わざとボケてる?それとも天然?」


「梓姉様は天然エロスですよね?処女なボクには、梓姉様との会話は刺激が強いのです」


「……オーケー。ニブチンなさっちゃんに、言葉を濁した私が悪かった。じゃあ……ストレートに言うけどね?ごくごく普通の女子中学生が、実は人殺しな記憶を思い出しました……どうよ?」


「そんなの、自分の記憶の方を疑っ……!?」


「あれだけの事があって、今更夢やら催眠で捏造された記憶だなんて思える?多分、私だったら無理。しかも、どりりん自身が「思い出した」って認識している記憶だもの。どりりんは……人殺しを禁忌としている現代社会で、その記憶を背負って生きなきゃいけない。相当、ストレスになるでしょうね……だから、つばぞみの存在が救いになると思ったのよ」


翼と希も、前世で少なくない殺人経験を有している。その上で、平然と日常生活を送っている。


「つばぞみとどりりんじゃあ事情は違うのだけれど……前世での〝殺人〟経験者である事は確かだもの。自分だけじゃないって思えることで、少しは気が楽になれば……ってね。私じゃ、殺人の苦しみなんて解らないし、分かりたくもないし……」


「……梓姉様が、こんなに思慮深い方だと、学友様は誰も思われないでありましょうなぁ……」


「どーせ普段は、恋愛脳のゆるふわ系ですよーだ」


「いいのでありませぬか?……実鳥たまも、優しい梓姉様に人殺しをさせたくはないと思いますぞ。……その、梓姉様は平気なのですか?その……姉妹に、人殺しがいて……」


「平気……ってより、仕方ないかなって感じ?そりゃま、快楽目的だったり、本能的殺人衝動者だったりしたら怖いけどね。それに……さっちゃんは知ってたんでしょ?だったら今更気にする事じゃないじゃない」


「ボクは……そこまで深く考えていなかったからなのですが……」


「私だって深くは考えていないわよ。ただ……一日とはいえ、人の命が軽い世界を体験しちゃったからね……そして、実際にけんちゃんが人を殺したのを見ちゃった訳だし……こっちが命を奪われそうだったんだし、まぁ仕方ないと思うしか……」


「クソ野郎の命を尊重して、自分が死んでやる道理は有りませぬからな!」


「そゆことね。ま、しばらくは夢見が悪いかもしれないけれど。それに、これで家庭内が不和になったら悔しいじゃない!今思い出しても……憎たらしい顔をしていたジジイの所為で、どりりんの人生に汚点を付けられてたまるかってんだ!」


「その通りなのです!この夏休み……嫌な事を全て吹っ飛ばす為に最大限遊び倒すのであります!」


夏休み初っ端にケチを付けてくれたジジイ(ネウグル)への怒りを再燃させ、ウガー!とヒートアップする梓と桜。


「……何だか、盛り上がってるみたいね……」


カチャ、と開いたドアの向こうには、余所行きのレモン色ワンピースを着た燕と、お揃い色のマタニティドレス姿の光が立っていた。


「あれ?おねーちゃんと燕はお出掛け?」


「あい!ゆーえんち!」


「これから燕を連れて、明良くんとデートなの~。夜は彼の家に泊まってくるから、晩御飯は適当にしてね~」


「……そ、そうなのですか。ま、平和と日常を満喫してくると良いのですよ……」


既に、夏をエンジョイしている長女と末っ子のメンタルの強さに、桜は……若干引いたのであった。


「それじゃ、行ってくるけど……小町の様子、気にしておいてくれる?さっき部屋を覗いて来たのだけど……あんなことの後だからか、とても無気力になってて……」


「こまたんが?……そっか、あの娘には厳しい現実だったもんね~。うん了解、こまたんは私達に任せて、心置無く楽しんできてね~」


この後、小町のやさぐれ度合いの深度に、右往左往するとは思いもしていなかった梓であった……


それからまた、少々時間が経過し……


「どりりん……初めてが外(屋上)でとか、ハイレベル!」


「前世からの縁が結ばれ……これぞ王道なのであります!」


「……そ~ゆ~ボケ、お腹一杯ですから!」




「……こ……これは、破壊力が……お姉ちゃん、、可愛すぐる……」


剣をソファーに寝かせた後、翼から生ネコミミの生えたハルにゃんのスクショを見せられた実鳥は、その愛くるしさに身悶えたのであった。


「それでみどりん、これはどーゆー現象?」


「魔法の専門家としての、意見求む」


「え、えっとですね……身体強化の部類に入る……半獣変化魔法だと思います。主に、正人と他種族の混血でありながら、正人としての外見で生まれた者が使える魔法なんですけど……純血で使える人は、とても稀です。多分ですけど、急いでバイトの支度をしないと~……とか考えてて、無意識的に魔法を発現させちゃったんじゃないかと……」


魔力を身体に巡らせ、魔力による擬似的筋肉・骨格・体毛を形成して肉体を()()させているので、魔力が不足するだけで自然に元に戻る……実鳥からそう説明されて、翼と希は安心して……遥への連絡を放置した!


「魔力がコントロール出来れば、直ぐにでも元に戻せるんですけど……耳と尻尾を生やせちゃうなんて……かなりの高等魔法の筈なんだけどな……」


「ねぇどりりん、私、裁縫が元々特技ではあったんだけど……」


ミシンよりも速く、規則正しい縫い目の手縫いを披露する梓。


「職人系のスキルには詳しくなくて……」


冷や汗ダラダラになる実鳥。勇者すら、異常と感じる技能レベルであるらしい。


「私達、どんなスキルなのかな~?」


「自動発動型だと困る。早く調べないと」


「ボクにもついに、特殊能力が!ふふふ……眠れる能力が、目覚めを待っているのであります!」


付与された能力に興奮を隠せずに沸き立つ姉妹達。


そんな中、唯一人、蚊帳の外にいるのは……


「……スキルスロット、オール空っぽ……いいよね皆、むのーじゃなくって……あは……あはははは……」


桜の能力よりも先に、小町のやさぐれが目を覚まし、乾いた笑いを響かせたのであった。








解説。

異世界編最終話と、ここまでの三話は同時進行している部分があります。なので、時間軸的に前後していたりしてます。だから何だって話なんですが……

次回の話もそうなりますので、メインキャラは長女と末っ子です。多分。

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